日常が変わった日
初投稿です。温かい眼差しで見ていただけたら幸いです。
思いつくままに書いてますので誤字脱字があるかもしれません…。先に謝っておきます。ごめんなさい。
周りに男達が囲むように少しずつ音を立てずにじり寄ってくる。ゆっくり、じっくり。
ざりっと背後から足音が聞こえ、顔だけで、振り向く。左前にいた奴が顔目掛けて殴りかかってきた。と同時に自分の右の脛を狙ったローキック。咄嗟に頭を庇うように左腕で庇い、右足の位置を軽く動かす。左の重心を右に移動させて庇っていた左腕でキックをしてきた奴の顔面に拳を叩き込む。
「ウァアアアアッ!!!!」
後ろにいた奴が叫びながら突っ込んでくる。身を返してタックルを受け止める。脇腹をホールドされて体が後ろへと押される。ざざざっと足が地面を滑る。ぐっと脚に力を入れて、右の肘を背中に打ち下ろす。腕が離れた瞬間に膝蹴りを顔に喰らわす。べしゃっと地面に前からダイブし呻いている。
「クソがぁあ!!!!」
走り込んでこちらに向かってくる。拳を振り上げたところを思い切り腹に前蹴りを入れる。うっと小さくこぼすと地面に蹲る。
ふーっと息を吐いて、寝っ転がっている奴らを見下ろしてから前を見上げた。
「カット!」
パンパンッと二回目手を叩く音が響いた。ざわざわと人の話し声が始まる。ハンディカメラとスマホで撮った先程の現代殺陣を皆で確認する。違うな、と監督が呟く。アングルなのか、殺陣の手なのか。荒々しい喧嘩だが、見ていてハラハラする。思わずぐっと力を入れてしまう。面白いアクションでなければ客に見せられない。実際に殴ってるわけではなく殴るフリや軽く当てる。フラれた人や当てられた人はその部位にダメージを負ったように演技をする。生半可な演技ではない、本気で殴り蹴るフリをし、本気で痛がっているように見せる。そして客にリアルだと思ってもらえなければならない。これは舞台、映像どちらにも言えることだ。殺陣はある程度監督が考え、元からスタッフに呼ばれていたスタントマン達が集まり実際にアクションをし撮ってみるのだ。アングルはもちろん、カット割もここで確認する。たまに撮影地の都合で変わったりもするがここは臨機応変に対応するしかない。
「とりあえず13時まで一旦休憩」
「え、もうお昼!?まだ10時ぐらいかと」
「どうりでお腹空いてたわけか〜」
「コンビニ行ってきます」
「うぇー、外クソ暑いんすけど!代わりに買ってきて〜」
「あ、自分行きますよ」
「1000円渡すから俺のもよろしく。余った金でご飯買ってね」
「煙草ってどこで吸えるっけ?」
「出てすぐ横っすよ」
皆が話している間にささっと外用の靴を履き、更衣室から財布、帽子、スマホを取り出す。練習場所であるアクションジムから出れば蝉の鳴き声のシャワーと太陽の日差しが容赦なく地面を照らしていた。道路に卵を叩きつけたら、そこで目玉焼きができそうなくらいだ。ジムから歩いて2分程にコンビニがある。コンビニへの道のりが灼熱地獄だ。汗が止まらない。コンビニが正面に見えたが、目の前の横断歩道の信号機は赤に変わった。横断歩道の横には歩道橋がある。じりじりと日差しに射されて待つより、日陰になっている歩道橋を渡るか。
カンカンカン。硬いコンクリートを踏みしめる足音が蝉の鳴き声に混ざる。何となしに階段を見ながら上っていた。上り切り、反対側の階段へと顔を向けた。
ふらふらと小さく左右に揺れながら階段を上がってくる女性がいた。背中まである艶のある黒髪。透明感のある白い肌。ノースリーブでスクエア・アームホールにフリルが着いた白いブラウス。ベージュのフレア丈のシャイニースカート。ストラップ部分がクリアのアンクルストラップサンダル。ファッションに詳しかったら服や靴の名前が分かったかもしれないが生憎彼は疎かったため夏に見かける女性のファッション程度に思った。
「八百原さーん!!」
遠くから呼ばれて、女性からそちらへ向く。こんな暑い中、歩道橋へ元気に走ってくる後輩が見えた。
「大きな声で名前を呼ぶなよ……」
呆れながらもその場で待つことにした。八百原は男の苗字である。下の名前は光秀。両親が戦国武将やら歴史人物が大好きな歴史オタクで明智光秀から取った名前だそうだ。子供の頃に三日天下とか揶揄われ、揶揄った奴をぶちのめした思い出がある。
トンッと小さな揺れを感じ、女性の方を見る。どうやらつまづいたようだった。転ばないように立ち止まり、またゆっくり歩き出す。健康な人が歩くそれとは違く、体調が悪いのかもしれない。
「おい、あんた」
階段を降りる時に踏み外して転がり落ちるかもしれない。光秀のようなスタントマンで階段落ちをやったことがあるならなんとかなるかもしれないが。アクションやスタントとは無縁そうな女性だ。声をかけて歩み寄る。
ちょうど歩道橋の真ん中で彼女は止まり、光秀は女性の元に着いた。さらさらな黒髪が肩を流れた。
「大丈夫か?」
もう一度声をかけると俯いていた顔がゆっくり上がる。可愛らしく整った顔だと思った。が、その顔に汗は一粒もなかった。日本人特有の黒い瞳は虚だった。掴めばポキリと折れそうな細く白い二つの腕は手すりを掴んだ。小さく桃色のふっくらとした唇が震える。
「よんでる」
「は?」
ぐらりと彼女が揺れ落ちる。手すりがあった場所には何もなかった。光秀は咄嗟に彼女の腰を掴み引き寄せた。引き寄せたままそこから一、二歩下がった。これで落ちないはずだった。しかし、ずるずると二人は引きずられる。まるで見えないなにかに引っ張られているかのようだ。
ずっ……ずず…
「クソッ!」
後輩はまだ来ないのかと光秀は焦った。光秀は180cm、80Kgという巨体と150cm代で45Kgぐらいの女性の二人が引き摺られている。しかも見えない何かにだ。女性を掴む手にぐっと力を込める。
「八百原さん!?」
「遅ぇッ!!」
ようやく後輩が階段を駆け上がってきた。異変に気づき驚きながらもこちらを助けようと走ってきた。
突然、眩い光が三人を襲った。余りの眩しさに光秀は目を瞑り。後輩は走るのをやめてしまった。女性は虚な眼差しで光の先を見ていた。
ずずずずっ…!!
思い切り引っ張られ、足が地面から離れてしまった。ぐんっと落ちる感覚に目を開け、彼女を軸にして横に回り、彼女の下に。女性を下敷きにはできない。光秀だったら女性よりかは下敷きなっても生きるかもしれない。そう思った。
体感的にはもう道路か車に激突しているはずなのに、一向に衝撃はこない。怪談話か何かか?と思考が動き始めた時に再び眩い光が二人を包んだ。
お読みいただきありがとうございます。
主人公とヒロインちゃんの名前は歴史上の人物から借りました。
アクションやスタント、技の説明はチームや監督によって少しずつ違ったり、そもそもその技やらないとか、この技がチームの味だ!っていうのがあったりしますよね。格闘技やスポーツは選手によって正解が違うそうですね。奥が深い…。
ゆるーい目で見てください。