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鳥籠のような屋敷で私は・・・

作者: 風魅 瑠鈴

季節は春。

山は桜により、薄紅色(うすべにいろ)に彩られ、地面には桜の花びらが積もっている。

屋敷の庭も花びらにより、彩られ、その花びらはそよ風に吹かれ、舞い踊っていた。

少女は縁側に座り、ジッとその様子を見つめていた。

そんな少女の隣に一羽の(からす)が羽を休めるためか縁側に飛び降りてきた。

少女は動かすことのなかった身体を烏の方へとゆっくりとむける。

烏も少女の動きに合わせて近づく。

少女はそんな烏に興味を示す。

近づく烏に手を近づけ、頭に触れる。

触れてわかる、烏のふかふかとした触り心地に少女は初めて感動していた。

烏も少女の手が心地よかったのか。

少女の成すがままになっていた。

撫でるのをやめると同時に烏が少女の肩へと上り、腰を落とした。

今日、このとき初めて少女の表情に笑みが零れた。

烏はそんな少女を気にも止めず、庭を見つめ始める。

少女もまた烏に合わせてか、庭を見つめ始めた。

この静かで穏やかな時間が永遠に続けばいい。

そんなことを思い続けながら。

花びらの舞踏会を見つめ続けた。



やがて、風が止むと自然に花びらの舞踏会も幕を閉じた。

最後の花びらが地に落ちると烏は肩から降りる。

別れの時間が訪れた。

空はすでに太陽を落としかけ、星の地図を映し出す準備をしていた。

少女は寂しそうな顔をするが、烏はそれを励ますように鳴く。

それでも少女の表情は変わることはない。

そうすると、自身の頭を少女の前に突き出す。

その姿はまるで(こうべ)を垂れているよう。

少女はその行動を理解することができなかった。

だが、自分の心情が変わらない限り、烏は帰ることができない。

それだけは分かっていた。

だけど、烏を困らせることは嫌だ、それでも別れることも嫌だ。

二つの感情が少女の中で渦巻く。

決められない少女に烏は(こうべ)を上げ、少女の着物を引っ張った。

少女が烏の方を見ると、烏は自身の羽を一本むしり、差し出す。

少女は羽を受け取る。

そうすると、烏は美しい黒い翼を雄々(おお)しく広げ、屋敷の外へと羽ばたいていった。

少女はそんな烏の姿を空へ溶けていくまで見つめていた。

渡された黒い羽を握りしめて。

「また来てね。待ってるから・・・」

と小さな声でつぶやいた。




烏が去った後、季節は移り変わり、夏へと変わった。

少女は変わることない姿でまた縁側(えんがわ)に座り、庭の景色を見ていた。

少女と違い、庭の景色は春とはまた違う景色へと変わっていた。

桜が舞い踊っていた庭にはいつの間にか池ができており、そこには赤の文様が美しい鯉が四匹、優雅に泳いでいた。

少女は庭の変化に驚きもせず、ただいつものように静かに見つめ始める。

鯉は自身が見られているとは知らず、冷たい池の中でのんびりとしていた。

だが、庭の光景は少女からしたら、代り映えのしない景色。

ただ、時が過ぎていくだけ。

少女は烏と別れた後、以前と同じ生活を続けていた。

空の彼方へと飛び去っていた烏を待ち続けて。


時は悠々と進み、いつの間にか天満月(あまみつき)が優しく地上を照らしだす時間を迎えていた。

少女は細く溜息を吐いた。

それは烏に会えなかったという思いか。

はたまた別の思いか。

少女は縁側を離れ、屋敷の奥へ戻ろうと立ち上がった時。

一羽の小さな(ふくろう)が少女の隣へと舞い降りてきた。

少女は突然の来訪者に驚き、その場に固まってしまう。

小さき梟は少女の着物の袖を力いっぱい自身の(くちばし)で引っ張った。

少女は上げかけた腰を下ろし、また縁側に腰を落ち着ける。

すると、小さき梟は少女の肩に飛び乗り、腰を落ち着けた。

(からす)と似たような行動をとる梟に少女は不思議だった。

久しく感じることのなかった感覚。

この梟がいるだけで心が和らいでいる。

気が付けば少女は梟のことを見つめていた。

だが、梟はそんな少女を置いて庭を見続けていた。

月の明かりが一人と一羽を照らし、長いようで短い夜が始まった。


静かな夜。草木や池の鯉たち、そして風すらも眠りについたかの様な静寂に包まれていた。

梟と少女はお互い目を合わせることなく、庭を見つめ続ける。

優雅に佇む天満月。

舞い散る木の葉。

池に広がる波紋。

そして一人と一羽を楽しませるように姿を変え続ける、木々の陰。

それはまるで月が指揮を執る、静かで優雅なコンサート。

少女は今まで目にしたことのなかった夜の庭に見とれていた。

それに比べ、梟はつまらないと思ったのか少女の髪で遊び始める。

その姿は、まるでやんちゃな子供の様。

だが、楽しい夜は長くは続かなかった。

月が厚い雲の中へ隠れてしまい、少女と梟の視界は暗闇に飲み込まれてしまう。

指揮がいなくなったコンサートは唐突に閉演。

あまりにも早すぎた終わりに少女は落ち込んでしまう。

梟はそんな彼女を気にしてか、少女の頬に己の身体を摺り寄せる。

少女は「暖かい・・・」と一言だけ言葉を発した。

しばらくの間、梟は少女に寄り添い続けた。



・・・次の日。

少女は縁側で目を覚ます。

昨日、梟の柔らかい羽と温もりの心地よさにそのまま眠ってしまったようだ。

少女は重たい身体を起こすと、頭上から何かが落ちてきた。

落ちてきたのは白く小さい蕾がたくさん生えた茎。

見たこともない蕾。

このような蕾は庭に咲いたこともない。

屋敷にある本にも記載されていないものだった。

なぜこのようなものがここにあるのか、少女には一つだけ思い当たる節があった。

それは夜更けを共にしたあの小さな梟。

少女は梟が去り際に置いてきたのではないかと思った。

この蕾が何を意味するのかは、今の少女にはまだわからない。

ただ、梟の粋な計らいに少女はくすっと笑みをこぼす。

そして、空を見上げた。

今度は烏も交え、一人と二羽でまた夜の公演庭を見ることができたらいいなぁと少女は静かに願った。

少女は立ち上がり、うれしさと寂しい、という感情を胸の奥底に秘め、屋敷の奥へと姿を消した。




烏、そして梟が来ないまま季節は移り替わる。

美しい紅葉が舞い落ちる季節へと・・・。


少女は変わりなく、縁側にて庭を見つめ、烏たちが来ることを今か今かと待ち焦がれていた。

変化があったと言えば少女が庭の変化を楽しむようになったこと。

あれから庭は少女を楽しませるように姿を変えていた。

(こい)が住んでいた池は夏より小さくなり、数も2匹へと減っていた。

その代わりか、紅葉の木がいくつか生え、美しいオレンジ色の葉を散らしている。

少女はおもむろに立ち上がり、紅葉を一枚手に取る。

おもむろに空を見上げる。

散りゆく紅葉。


「儚い・・・」


この時少女は何を思い、呟いたのか。

短い命についてか。

あるいは自信と重ね合わせてか。

それは少女にしかわからない。

その後、少女は縁側へ上がり、屋敷の奥へと戻っていった。



屋敷の奥にある小さな一室。

そこで少女は塀の外側のことが記述されている本を読んでいた。

物音ひとつしないこの屋敷に本のページが捲られる音だけが響く。

少女は時間を忘れ、本を読むことに没頭していた。



読み始めてからどれほど時間が経ったのだろう。

どれだけ外の世界のことについて知ったとしても、少女にとっては意味をなさない。

そんなことを思いながらも考えないように頭を振り、腰を上げ、部屋を後にする。



庭と屋敷を隔てる扉の前。

少女は違和感を覚えた。

目の前の扉から音が聞こえてくるのである。

何かがつつくような音が。

(からす)(ふくろう)が扉をつついているのではないのか。

そう思い、少女は期待を胸に閉ざされた扉をゆっくりと開けるこにいたのは烏または梟でもなく。

凛々しい顔つきが特徴的な(たか)だった。

音の正体に少女は少しがっかりした。

そんな少女に興味を示すことなく、鷹は屋敷の中へと入っていった。

少女も空を見た後、鷹に続くように屋敷の中へと戻っていった。


部屋へ戻ってくると、そこには先ほど屋敷に入っていった鷹が本の上で羽を休めていた。

慌てて少女は鷹に本の上からどくように意思表示するが。

鷹は少女を無視する。

それならばと、本を無理やり引き抜こうとすると。

鷹は少女に威嚇をする。

初めて向けられる敵意という感情に少女はどうしたらいいのかわからず、鷹の周りをうろちょろし始める。

鷹はそんな少女を気にも留めず、本の上に居座り続ける。

鷹の意地悪さに少女は戸惑うばかり。

どうしたらいいのかわからないまま時間だけが進んでいった。


「ねぇ」


長い時間、本の上に居座り続ける鷹に対し、少女は固く閉ざしていた口を開いた。

それでも鷹はそっぽを向き続ける。

そんな鷹の態度に少女も意地になり無理やり話し続ける。


「貴方は何故そんな意地悪をするの?」


その一言に鷹は初めて少女に顔を向けた。

少女は言葉を続ける。


「ここは私の屋敷で、その本は私が大切にしているものなの。

だからお願い。

そこを退いて貰えないかしら?」


生まれる沈黙。


『・・・その本は貴女(あなた)のものではない。

そして、ここは貴女の屋敷でもない』


突如、頭の中に声が流れてくる。

少女は困惑してしまう。

目の前にいる鷹をみつめるが。

鷹は変わらず、そっぽを向いたままである。

だけど、ここには少女と鷹しかいない。

状況を考えれば考えるほど、困惑の渦の中へと飲み込まれる。

それでも言葉は止むことはない。


『貴女は勘違いをしている。

この屋敷の存在を。

今まで訪問してきた者たちのことも。

そして、貴女は自身が何者なのか。

何故屋敷(ここ)にいるのか知らずに過ごしている。

本来はそれを自分で知ることがここのルールなのだが。

まぁ、いい・・・。

近いうち、己が何者か思い出すだろう・・・』


言葉が途切れたと同時に本の上にいた鷹の姿は消えていた。

あの言葉は鷹が発していたのかは今となってはわからない。

しかし、言葉が止んでも、少女は未だに困惑の渦の中にいた。


私は何者なの・・・・。


私は誰なの・・・・。


私は・・・・。


わたしは・・・・。



渦の中、少女は己を見失いそうになる。

自問自答が続いた後、自己防衛が働いたのかは、わからないが。

少女の意識は暗闇の中へと消えていった。



その後、少女は己を見失ってからというもの、縁側に出てくることはなくなった。




月日とは恨めしいことに人の感情とは無関係に進み続ける。

季節は移り替わる。

どの季節よりも静寂に満ち溢れた冬へと。


少女は屋敷の一室で布団にくるまり横になっていた。

あの日から少女は布団から出ることはなく、天井を見つめる毎日を送っていた。

あの声が呪詛のように脳内に何度も流れてくる。


「私は何者なの・・・」


また、自問自答が始まり、

そして最後には助けを求め始める。


「誰か・・・。誰か・・・」


今にも消えそうな弱弱しい少女の声。

だが、少女以外存在しないこの屋敷の中では意味がなかった。

この時、少女が思い出すのは烏、梟、そして元凶かもしれない鷹。



烏は、桜の花びらの舞踏を共に鑑賞した思い出。

烏の身体は春の陽光のように暖かく、心を落ち着かせてくれた。



梟は私に夜の楽しさ、そして寂しいさ、うれしさという感情を教えてくれた。

やんちゃな面もあったが、優しくもあった。



鷹はこの状況を作り出した張本人かもしれない。

だけど・・・・。

今は・・・・。



少女はそのまま眠りへと落ちた。





・・・・・・。


暗い・・・。


少女は闇の中にいた。

どこへ進んでも、続くのは飲み込まれそうな漆黒の闇。

足を前へ踏み出さないと二度と戻れないと感じた少女は足を動かす。


感覚がない・・・。


何も見えない・・・。


ただ、ひたすらに歩き続ける。


出口が無いとしても前へ進む。




・・・・・。

どれだけ歩き続けただろう。

永遠と続く暗闇に少女の精神は悲鳴を上げる。

限界・・・。


誰でもいい・・・。


ここから私を開放して・・・。


少女の瞳から雫が一滴、また一滴と零れ落ちる。

虚空に手を伸ばす。

誰も取ってくれない。

分かっている。

けれど、やらずにはいられなかった。

そうしないと、自分が消えてしまう。

そう思ったから。


突如、少女の手が何かに引っ張られる。

さらには、景色も様変わりする。

暗闇から、木々が生い茂る神秘的な森の風景へと。

少女は何が起こったか一瞬、理解することができなかった。

だが、もっと理解しがたいものが少女の目の前にいた。


『やっと、ここに来てくれましたね』


少女の目の前にいるのは少女と瓜二つの淑女だった。

しかし、様相は全く違う。


金色の髪。


翡翠の瞳。


豊満な胸そして艶のある白い脚。


その身体をより際立てる白いローブ。


「あ、あなたは・・・」


少女は自分と全く違う織女の雰囲気に困惑してしまう。


これは幻なのか?

そう思い込んでしまうほど、目の前の淑女は美しかった。


『はじめまして、でしょうか?』


私の様子を窺いながら、目の前の淑女は聖母のような微笑みで語り掛けてきた。

私は無言で首を縦に振る。


『そうですか・・・』


淑女は一瞬、悲しそうな顔をしたが、表情を戻し、語り掛けてきた。


『なら、自己紹介からですね。

私は貴女自身です。

と言っても、あなたの過去の姿。

その一つですけど』


「過去の私・・・?」


過去というにはあまりにも違い過ぎる自分の姿に少女は自然と首をかしげてしまう。

その様子に過去の私は笑っていた。


『フフフ、そうなるのも仕方ないですよね。

なにしろ、貴女には記憶がない(・・・・・)のですから。

心当たりはありますよね?』


心当たり・・・。

記憶が・・・ない。

私が最近悩んでいること。

自分が何者であるのかもわからず、この屋敷にいる時のことしか記憶にない事。

それが不思議でたまらなかった。

目の前の彼女が私の過去の姿であるならば。

何故?

今この瞬間、彼女は私の目の前にいるのだろう?


『私が何故あなたの前に現れたか気になりますか?』


そう。


何故、過去の私が私の前に・・・。


と、声を出そうとした瞬間。

過去の私に手で口を塞がれる。


「・・・⁉」


『しーっ。

・・・目覚めれば、分かりますよ。

私のこと、そして・・・・』

その後の言葉を聞き取れないまま、私は意識を失った。




目を開けると、そこは見慣れた木の天井。

布団から飛び起き、手鏡で自分の姿を確認する。

自分の姿は何も変わっていない。

いつも通りであった。

あの夢の中に出てきた自分の姿は何だったのか。

意識が消える際に見た自分の姿は目の前の彼女と同じ姿になっていた。

だが今は違う。


過去。


この一つの言葉が少女の中で渦を巻き始めた時。

閉ざしていた部屋の戸が突如開かれる。

風が部屋の中に入ってくる。

部屋の外に見えるのは見慣れた庭。

そして小さな三羽の訪問者。

異様な光景だった。

庭は少女をどこかへ誘うような夜。

そしてその真ん中に不動の月。

脇には不思議に揺らぐ木々たち。

何より三羽の訪問者は少女の顔見知りで合ったが姿が彼女の記憶と違っていたのだ。


烏。

烏は闇を払われたかのような純白の羽を纏っており、そして目の前には丸い鏡が置いている。


梟。

梟は少女と会った時よりも大きくなり、そして目の前にはが長槍が置かれている。


鷹。

鷹は自身の頭に小さな王冠をつけ、目の前には美しい首飾りが置かれている。


三羽は自身の目の前に置いてあるものを少女に取れと言っているのだろうか。

その真偽はわからない。


少女は前回とは雰囲気が違う3羽に対して少なからず恐怖を覚えていた。


これを手に取ってしまったら、自分の存在はなくなってしまうのではないか。

そんな恐怖が少女の決断を鈍らせていた。

時間が経つにつれ、息が荒くなる。

暗示をかけようにも、頭が働かない。

混乱する中、また意識が飛びそうになる。

そんな時だった。


『 大丈夫·····』


声が聞こえた。

夢の中で聞いた声。


『 迷うことは無いわ。

あなたは既に知っているもの』


知っている?

何を?


『貴女があゆむべき道。

彼らの目の前には置いてあるものは、

その道を閉ざしている扉を開けるための鍵 』


私の道·····。

それを開けるための鍵·····。


『 ここまで言えば、答えが見えてきたんじゃないかしら?

貴女がどう生きるか。

私は楽しみにしてるわ』


ここで言葉途絶えた。

だが、少女から不安や迷いは消えた。

先程とは違い、表情から緊張が取れ、凛とした顔立ちへと戻っていた。

少女は静かに目を閉じる。

何も見えない暗闇の中。

一つだけ、光を放つものがあった。

少女は1歩、足を前に出す。

また1歩。

また1歩とゆっくり光の元へと進んで行く。

そして目を開ける。

目の前には鏡が置いてあり、そして烏が頭を垂れていた。

静かに、膝をつく。

そして鏡を振れる。

その瞬間、誰かの記憶が流れてきた。


海や山の景色。

光り輝く建造物。

崇め、奉る人々。


どれも見たことがないはずなのに、どこか懐かしい。

少女はこの時、夢の中の自分が言っていた言葉の意味が理解出来た。


この記憶に映るもの全てが私自身が体感したものだ。

涙が零れ落ちる。

なぜ忘れていたのだろう。

家族と見た美しき景色を。

私を崇め、奉る子供たちを。

私を姉と呼ぶ兄弟を。

悔やんでも悔やみきれない。

感情を抑えられない。


少女は泣き続けた。

烏は少女の傍から離れることは無かった。




少女が泣き止むと、いつの間にか梟と鷹の姿はなかった。

そして塀であった場所は門へと変容する。

それを目にした少女はゆっくりと立ち上がる。

烏もそれに合わせるように少女の肩に乗る。

鏡を持ち、庭をゆっくりと歩き始める。

門の前で立ち止まる。

少女は屋敷の方へと顔を向ける。

そして・・・。


「さようなら・・・」


屋敷に別れを告げた。

少女は外の世界へと繋がる門を静かに通る。

すると。

少女の姿が変貌する。


着物は巫女服ような姿へと。

胸元は谷間が見え、袖も糸でくっついているだけ。

袴も従来ものとは違い、外側の部分が完全に裂けている。

頭には銀細工の冠。


背丈は一尺伸び、豊かな胸、服から覗かせる白い肌。


夜空のような髪は漆黒の黒へと。


幼子のような顔立ちは凛とした大人の顔へと。


手足から指先まで大人の姿へと。


そして、瞳は黄金色の眼へ。


その神々しく、美麗な姿は女神と言われても否定ができない。

否。

少女は女神へと戻ったのである。


女神天照大神へと。


烏はその瞬間が待ち遠しかったのか。

肩から離れ、歓喜の鳴き声を上げる。


その姿に天照は微笑む。


『待たせてしまって、すまぬな』


空を見上げる。

鳥かごのような屋敷から届くまいと思っていた空。

今なら・・・。


天照は宙に浮き、烏の隣へ。


『帰ろう。私たちの居場所に!』


その言葉を最後に烏と天照の姿は空の彼方へと消えていった。



これはあの屋敷についての余談である。

あの屋敷は死んだ神が転生する場所。

ただ転生した神には前世の記憶がない。

そのため、前世の眷属が主を迎えに来る。

ただ稀なことが一つある。

眷属が複数で迎えに来ることがある。

眷属の数、その神は違う前世を歩んできたと言える。

天照大神へと転生したあの少女ももしかしたら・・・。

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