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第四話 戦闘開始

説明会

主人公に延々と説明させとこ

戦闘とかようわから

 今、説明会となった会場では只ならぬ雰囲気に満ちていた。

 原因となるのは目の前で向き合っているとある二人だ。


 一人は、純度の濃い漆黒の髪を後ろでまとめ上げている華奢な体躯たいくをした可憐な少女。

 俺が見た瞬間に惚れてしまった少女である。


 もう一人はヤンキーさながらの目付きの悪さをしている意外と筋肉質な金髪の男。

 俺が説明会前に怒らせてしまった先輩である。


 そんな二人は20mない距離からお互いに対峙していた。


 なぜこうなったかと言えば。

 先輩から絶対にエキシビション相手に選ばれてボコボコにされてしまうと思っていたところ、彼女がまさかの立候補。

 そして、あれよあれよと言う間に戦闘が開始されたわけだ。


 正直急速に戦闘が開始されたもんだから、「ここでやるの?」とか「いきなり戦ったら周りの人たち危なくね?」とか思ったが、その心配はすぐに解消されることになった。

 二人が戦闘開始した途端、さっきからずっと傍観者に徹していた他の生徒会役員の一人が動いたからだ。

 その人ーーたしか役職は副会長ーーが戦闘開始を察知して立ち上がると、周りが戦闘に巻き込まれないようにすぐさま魔法で結界を張った。

 その際に副会長がさらっと説明してくれたが、結界はちょっとやそっとの衝撃くらいならビクともしないらしい。

「だから安心して見ていいよ、きっと良い勉強になるからね」と爽やかな表情で言ってた。


 とまあ、そんな理由で結界の外から俺を含めた皆が観戦しているわけだ。


 対峙する二人は、周りからの熟視する視線を一身に浴びているが、全く気にしている様子はない。

 俺たち外野の存在なんて眼中にないのだろう。

 お互いに正面の相手だけに集中しているようだ。


 先輩は拳をギュッと握りしめ、腰を低く落として構えている。

 対して彼女は、そこそこ大きな木彫りの杖を先輩に向けていた。


 さしずめ、先輩が魔力を身体中に這わせて戦う格闘家(前衛)タイプ。

 前に出まくって直接敵をボコボコにする姿が容易に想像できる。

 うん、イメージ通り。

 めちゃくちゃ合ってると思うわ。


 対して彼女は、手に持つ『杖』に自らの魔力を流し、それを放出しながら戦う魔法使い(後衛)タイプ。


 ちなみに杖は『魔法をより精密に制御するため』のサポートアイテムであり、杖に使われている素材や能力によっては『単純な威力向上』や『魔法を使用する際に消費される魔力の軽減』といった様々な効果が付与されたりする。

 一般的には鍛冶屋ーー剣や槍、盾など冒険者が使用する武器や防具の作成や強化、修理等を行う専門職(スペシャリスト)ーーが作成したものを使用することが多いが、稀にダンジョンでモンスターを倒した際に一定の確率で現れるという『ドロップアイテム』で入手することが可能だ。


 と、少し話がそれたが。

 この手のタイプは、強力な魔法を使用するために複雑なプロセスを踏む必要があり、分けると主に二つ。


 一つは『魔力充填』。

 魔法を放つために必要な量の魔力を込めること。

 もう一つは『魔力制御』。

 込めた魔力を魔法へと形成するための精密な魔力コントロール。


 この二つのプロセスを踏むことで魔法を使用できるのだが、当然、高威力広範囲といった強力無比な魔法を使用するとなれば消費される魔力が多くなってしまい魔力充填までに時間がかかる。

 同じく、その魔法を形成する魔力制御の難易度も段違いで上がってしまい時間がかかる。


 魔法発動までにかかる時間ーーそれすなわち、致命的な隙に繋がるというデメリット。

 とはいえ、基本的には前衛が魔法発動まで時間を稼いでくれるので、ある程度マージン(安心)を保って魔法を放つことができる。

 だが今回の場合、その時間を稼いでくる前衛がいない。

 それはつまり、時間稼ぎも含めて全て一人で行わなければならず、強いられる負担は想像以上に大きいだろう。

 

 そう考えると、お互いの戦闘スタイルの相性的に彼女の方が不利だ。


 ん? ちなみに詠唱について?

 魔法を唱えるキーとして使用する者も少なからず存在するが、さっき上げた二つのプロセスに加えて、詠唱なんてしていたら時間がかかって仕方ない。

『詠唱した方が威力が上がること』と『なんか謎にカッコイイ』以外のメリットしかなく、無駄に時間がかかるという圧倒的デメリット。

 もはや致命的過ぎて実践では使えない。

 考えたら当然だけど、詠唱中は隙だらけだし、その間、仲間に守ってもらうにしても無駄に負担を強いることになるから前衛にとっては堪ったものではないだろう。

 例外として、大人数でダンジョンのボスクラスの敵を倒す際に決定力が足りないから、とりあえず威力上げてぶっ放せ、って感じで使うことが極々稀にあるくらいか。

 とまあ、何とも言えない理由で魔法発動前における詠唱するというお洒落な文化は廃れているのが現状だ。


 と、またまた話がそれたが、そろそろ二人の戦いに集中しよう。


 戦闘開始からしばらく経つが、いまだ進展はない。


 だが刻々と時間が経過する。

 それにともない否応なしに緊張感が高まっていく。


 まだお互いに相手の出方をうかがっているのか。

 両者の表情をうかがう。


 先輩は挑発的な笑みを浮かべたまま。

 余裕がうかがえる。


 だが彼女の表情はあまり芳しくないように思える。

 おそらくだが、思いのほか隙がない先輩に攻めあぐねているのだろう。


 そう思って見ていると。


 痺れを切らしたのか、はたまたジッとしてても仕方ないと判断したのかはわからないが。


 ーー彼女が仕掛けたッ‼︎


 先制攻撃を行うべく、手に持つ杖を先輩に向けた。


 杖に魔力が込められる。

 さらに、込められた魔力を制御。

 必要なプロセスを踏み、魔法を形成していく。


 そして放つ。


「ーー氷の乱撃フリーザーディシヴァルドッ‼︎」


 杖から放たれた純度の高い氷のつぶてが一斉に発射され、それは全て先輩に牙をむいた。

 だが先輩は避けようとせず、その場で構えたまま動かない。

 どうやら真正面から受け止める気だ。

 迫り来る氷の攻撃に合わせ、雷の魔力を纏わせた右手を突き出した。

 直後、猛烈な氷の乱撃に襲われるが。


「おいおいこの程度(・・・・)か」


 なんと片手だけで全て防ぎきってしまった。


 これには流石に驚かざるを得ない。

 彼女は間違いなく強者の部類だ。

 それは先輩に放った魔法を見れば誰だってわかる。


 仮に俺が戦ったら、間違いなく負ける。

 運が良くても、善戦で精一杯だろう。

 一応、通っている学校では余裕ぶっこいて無双できるくらいの実力がある俺ですらだ。


 今の彼女の攻撃だって先輩だからこそ、無傷だったが俺ならかなりキツ目のダメージを受けたことは必須。

 そんな彼女の攻撃が全く効かないのは予想外過ぎた。


 彼女の攻撃を軽々防ぎきった先輩は、彼女を挑発するように笑みを浮かべる。


「威勢が良かった割には大したことないな。せっかく正面から受けてやったのにな。もしかして、この程度の実力で俺に勝とうとしたのか? そりゃあ流石に甘すぎ甘すぎ激甘だ。こんなじゃあ、ちっとも楽しめねえな」


 彼女も、相手が自分より実力があるのは理解していたが、まさか片手だけで防がれるのは予想外だったらしい。

 険しい表情で先輩を睨みつけていていたが、すぐさま気持ちを切り替えたのか、再び攻撃に打って出た。


「くっ、流石に強いわね。だったら、これはどうかしら‼︎ ーー氷の一撃(フリーザーショット)ッ‼︎」


 さっきより範囲は狭いが威力が高い攻撃を放つ。


 猛烈な勢いで迫り来る氷の塊。

 だが、先輩は余裕の笑みを崩さないまま、「あらよっと」と素早い動きで楽々と回避した。


「ーーじゃあ、そろそろ行くぜ?」


 回避した勢いを殺さず、そのまま彼女に肉迫する。

 そして、雷を纏わせた右腕を振りかぶり至近距離で振り抜いた。


「ーー雷の一撃(ライトニング)ッ‼︎」


 即座に腕をクロスさせてガードに努める彼女だったが少し遅かった。

 ギリギリ間に合わず、ガードをする前にクリティカルな一撃を浴びせられ。


「ーーうぐっ‼︎」


 その勢いで後方の壁に叩きつけられる。

 彼女は、壁との衝突で強制的に肺の空気が吐き出され、地に伏せた。


 ……くっ、もう勝負ありか‼︎

 そう思ったが、倒れていた彼女がピクリと動く。

 そして痛みに堪えながらも、よろよろと立ち上がった。


「はぁ、はぁ、はぁ……ま、まだ……‼︎」


 全身傷だらけだ。

 とてもではないが、満足に戦えるとは思えない。


 誰の目から見ても先輩の圧勝だ。

 そして彼女の惨敗だ。

 だが、彼女の目はまだ諦めていないように見える。


「ギブアップするなら今のうちだぞ?」


 負けを認めろと促すが、彼女は聞く耳を持たないでいた。


「ああそうかよ。なら、おまえが倒れるまで付き合ってやるから覚悟しろよ‼︎ ーー雷の一撃(ライトニング)ッ‼︎」


 どうにか立ち上がった彼女に先輩は躊躇なく、攻撃を仕掛けた。

 既に立っているのもやっとな状態の彼女に為す術はなかった。

 悲鳴を漏らしながら、再び壁に叩きつけられ、地に伏せる。


 だが彼女は懲りずに立ち上がった。

 先輩はそれを即座に追い討ちをする。

 それでも彼女は何度だって立ち上がる。


 俺から見て、彼女が万が一にも勝てる可能性はない。

 そりゃあそうだ。

 万全の状態でも圧倒されていたんだから。

 こんなズタボロ状態で勝てるはずもない。

 そんなことは誰の目から見ても明らかだ。

 なのに彼女は頑なに立ち上がることをやめない。


 クソッ‼︎ 

 本当ならこの二人の戦いに割って入りたい。

 正直、これ以上は彼女が傷つくだけ、不毛な戦い……いや、戦いですらない。

 ただの蹂躙だ。

 そんな彼女をずっと見ていられるほど俺は冷静じゃない‼︎


 なら、行けよ?

 そう思うだろうが、それはできない。

 無論、俺だって彼女が倒れる度にそう思った‼︎

 だが、それを彼女自身が許してくれないんだ‼︎

 彼女の目には一切の諦めは見えない。

 むしろ逆。

 絶対に負けを認めてやるものかという不屈の闘志は、衰えるばかりか、さっきから増すばかりだ。


 それが乱入しようとする俺をさっきから引き留めてくる。

 誰も邪魔をするなと彼女の目がそう語っているように思えた。


 見ていてわかったが彼女はプライドが人一倍高い。

 そんな彼女が助けてほしいと思っていないのに、助けに入ったらどう思うか?

 仮に俺がこの戦いに割って入れば、先輩はおろか彼女も相当怒る……いや、それだけならまだしも恨まれる可能性すらある。

 この戦いに水を差したと。

 この真剣勝負を汚したと。

 私の覚悟を台無しにしたと。

 先輩になら何を思われようが全く構わないが、彼女だけにはそう思われたくない。


 ーー彼女に嫌われたくなかった


 ……だからこそ俺はこの戦いに乱入しない。


 ーー嫌われないために彼女が傷つく姿をただ指咥えて見ておく。


 そう選択した。

 なのに自問が心の中で響いてくる。


 本当にその選択肢でいいのか?

 その選択肢でおまえ()は後悔しないか?


 そんな心が揺れ動く中でも戦いは続く。


「ったく、しぶといな……」


 流石の先輩も何度も立ち上がる彼女にうんざりしているようだ。


「だったら次の一撃で決めてやるッ‼︎」


 そう言うと先輩がもう何度目になるかわからない攻撃の体勢に入った。


 ーーさっきより魔力を込める溜めるのが長いッ‼︎


 彼女が動けないから、じっくりと魔力を込めているようだ。

 今までの魔力とは比にならない魔力を込めているのがわかる。

 先輩の右手に密度の高い魔力が徐々に収束していく。


 おいおい、こんなの今の彼女が食らったら……‼︎

 怪我じゃ済まなくなる‼︎


 なのに俺は、彼女に『嫌われたくない』がために、この戦いに乱入しないことを決めていた。


 そんなクソくだらない自己中心的な理由でだ‼︎

 最悪だ、最悪すぎる。

 別に嫌われても恨まれてもいいだろ。

 そんなことくらい、平気……ではないが。

 彼女が傷つくことと比べたら何百倍もマシだろうが‼︎


 遅いのは承知だが、まだ今なら怪我程度で済ませることができる。

 なら今動くしかない。

 むしろ今動かないと後悔する。


 ーー俺は彼女を助けたいッ‼︎‼︎‼︎‼︎


 そう思った途端。

 覚悟が決まったかのように身体が動いていた。


 全身にありったけの魔力を込めて、勢いよく飛び出した。

 その瞬間。


「ーー待って‼︎」


「ーーッは⁉︎」


 俺の手を強引に引っ張り戻した。


 俺を引き留めたのは、赤い髪と元気はつらつとした雰囲気が特徴的な少女だった。

 もう時間がないのに引き留められて思わず、その少女を睨んでしまう。

 だが目の前の彼女はそんな睨みを気にせず笑みを浮かべ。


「大丈夫、お嬢はこれくらいでへこたれないから」


 この場では似つかわしくないほど朗らかな表情でそう言い放つ彼女に毒気を抜かれる。

 戦っている彼女を『お嬢』と言ったのが気になったが、今は気にする暇がない。


「でも‼︎」


「でもじゃないよ。それに君のためにも言ってるの。あの二人の戦闘に割り込んだら怪我じゃ済まなくなるよ」


「それくらい別にいい」


「その勇気は認めるけど君の実力では不相応。要は無謀ってことだね。仮に割り込んでも何も出来ずに終わっちゃうし、お嬢が『狙っている』ことの邪魔にもなっちゃう」


 だから駄目だよ、と再度釘打ちをされてしまう。


 俺だって自分の実力不足は理解してーーん? ちょっと待って今何て言った⁉︎


「ーーえっ、狙いって何ッ⁉︎⁉︎」


 聞き捨てならないことを言った彼女に即座に聞き返した。

 だが彼女は「すぐにわかるよ」と笑うだけだ。

 話している間に、もう飛び出しても間に合わないことを悟った俺は、頼むからどうにかなってくれ‼︎ と願い、二人の戦いに視線を戻した。


 立ち上がった彼女に迫る先輩。

 今日何度も見た光景だ。


 だが、今回は少し違った。


「ほら倒れちまえ‼︎ ーー雷の一撃(ライトニング)ッ‼︎」


 魔力を込めた渾身の一撃が彼女を襲った。

 のだが……。


「ーーそれ、もう見切りました‼︎」


「ーーな、なに⁉︎」


 なんと、彼女はそれをギリギリで回避した。

 頬にはかすったがダメージとしては微々たるもの。

 もう何度も受けた先輩の攻撃に慣れたのか、はたまた彼女がこの短い間で急成長をしたのかはわからないが回避に成功した彼女を見て、思わず、「うおおおおおおーーッ‼︎」と声を上げてしまった。


 先輩もまさかボロボロの彼女が回避できるとは思っていなかったのか、目を見開いて驚く。


 ーーほんの一瞬だが、それが初めての付け入る隙となった。


 彼女はこの瞬間を待っていた‼︎ とばかりにニヤリと口角を上げる。

 そして即座に杖を先輩に向けた。


 杖に魔力が込められる。

 さらに、込められた魔力を制御。

 必要なプロセスを踏み、魔法を形成していく。


 ーーん⁉︎ さっきより魔法の発動が段違いで早くないかッ⁉︎


 俺がそう思った時には彼女の魔法は完成していた。


「ーー降雹ヘイルストームッ‼︎」


 彼女のまさかの回避に動揺したときの隙。

 そして、信じられないほどの速度で魔法を発動させたことによる時差。

 この二つにより、流石の先輩も対応できなかったようだ。

 咄嗟にガードをしたが、自身に雷の魔力を纏わせる暇がなかった。

 その結果、ほぼ生身の状態で彼女の魔法を受ける羽目となったのだ。


「く、くそおおおおおおおおッーー‼︎‼︎」


 高火力の魔法が炸裂し、先輩に今日初めてのクリティカルを与えることに成功した。

 だが、彼女はまだ気を緩めない。

 むしろ今が好機‼︎ とばかりに氷魔法を次々と放つ。

 怒涛の魔法ラッシュ。

 モロにダメージを受けたばかりで、今なお膝を地に着けている先輩にもはや防ぐ手立てはなかった。

 その全てをその身に受け。


 完全に地に伏せた。


 荒い息を繰り返しながらも、倒れている先輩を見つめる彼女。

 いつの間にやら、立場が逆転していた。


 だが、先輩は根性で立ち上がり、彼女を見据えた。

 その姿は彼女同様にボロボロだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……最初の魔法はフェイクだったんだな。あれくらいの速度でしか魔法は撃てないと見せかけるための……」


「はい、ご名答です」


 やはりそうか。

 最初、先輩に放った魔法よりも今放った魔法の方が遥かに発動までの時間が早かった。

 最初に魔法発動までの時間を敢えて遅くして、先輩を騙したんだ。

 先輩は、最初の段階で彼女の力量をこの程度だと決めつけた。

 だからこそ、今放った魔法に対応出来ずモロに食らったわけか。


「後は、俺が隙を見せるまでずっと耐えてたってわけか……おまえはもうボロボロだし、まさかあの一撃を避けるなんざ思わなかった。というか、たった一瞬の隙を作るためだけに、よく耐えたな」


「それくらい『覚悟』の上です。そうでないと貴方ほどの者は倒せませんから」


 覚悟か……。

 口ぶりから最初から彼女はボロボロにされるのも織り込み済みだったわけか。

 先輩を油断させ、たった一瞬の隙を作るがためにひたすらぶっ飛ばされ、そしてひたすら立ち上がり続ける。


 俺に同じことができるか?

 いや、出来ない。

 出来るはずがない。

 俺ならすぐに降参していた。

 そんな苦痛な思いをするくらいなら諦める。

 そっちの方が楽だから。


 なのに彼女は最初からボロボロにされても勝つという覚悟を決めて、あの攻撃を耐え、最後には先輩に一泡吹かせた。


 そんな彼女と恋人になりたいだなんて本当に笑わせてくれる……なれっこない、こんな覚悟もない奴がな。

 はぁ、思わず溜め息が溢れた。

 俺には足らない。

 覚悟が。実力が。何もかもが。

 今日はそれを痛感した。


「完全におまえのことを舐めていたよ。散々覚悟云々言ってた俺なんかより、おまえの『覚悟』の方が強かったってわけか……なるほど、悔しいがこの勝負、俺の……。


 ーー負けとか言う訳ねえだろ‼︎


 いいね、おまえ‼︎ ここからだ。ここからが真の勝負だ‼︎ さあ構えろ」


 そこは負け認めとけよ‼︎

 俺だけでなく、周りの連中もそう思ったに違いない。

 全身血まみれになっている先輩は元々の人相の悪い顔をさらに凶悪に染めて彼女に言う。

 そんな先輩の言葉どおりに再び構えた。


「望むところですよ。さあ、第二ラウンドと行きましょうか」


「おまえ最高だあ。今度こそぶっ潰してやるよ‼︎ 全身全霊でな‼︎」


 ひと段落ついたと思った矢先これだ。

 まさかの第二ラウンド開始となった。


 と思われたが。


 ここでとある人物がこの戦いに終止符を打つことに。


「残念ですが、これにて終了にしてください」


 そう言ったのは、二人の戦いのために結界を張ってくれた生徒会役員の副会長だった。

 ここまで来て終了はないだろうと、副会長を睨みつける二人。

 そんな二人の睨みを屁とも思わない副会長は、「もう説明会の終了予定時間が過ぎているからこれ以上はダメだよ」と簡潔に述べた。


 二人は不完全燃焼だとブツブツ文句を言っていたが、最終的に副会長に従った。


「ではこの勝負エキシビションは引き分け。以上持って終了とする」

ありがとうございま‼︎

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