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第三話 覚悟と選択

セリフが無駄に多くなる病気が発症しまし。許してくださ。

 エキシビションーーそれは真剣勝負というよりも勝敗も付かなければ、公式記録にも残らない模範試合のこと。

 または公開演技とも言われる。

 まあ身も蓋もないことを言ってしまえば、ちょっとした見世物のことだ。

 それが一般的な解釈。

 俺はそう思っているし、この認識で間違っていないと思う。

 なのに……。


『大怪我を負わせるかもしれないし、今後一切戦えないレベルのトラウマを植えるかもしれない。はたまた、運悪く急所に攻撃が当たって死ぬかもしれない。

 ーー今から行うのはそういうリスクをともなエキシビション(模範試合)だ』


 それ、どう考えてもエキシビションじゃねえよ‼︎

 と、声を大にして言いたい。

 これは新手の詐欺か何かなのだろうか。

 エキシビション(実は命がけで戦うよ)詐欺って言うのかな。

 酷すぎて、これっぽっちも笑えない。


 俺は勿論のこと、他の者たちも、いつの間にやらエキシビション(模範試合)とは名ばかりの命がけの戦いになっていたことに動揺を隠せないでいた。

 これでは、もはや『死合い(しあい)』だ。

 文字通り、命のやり取りではないか。


 そんな批判めいたことを心の中で延々と愚痴ていた中、先輩は話を続ける。


「だからこそ俺と戦うリスクをよく考えろ。考えた上で戦うという選択肢を取るというのなら覚悟を持って立候補しろ‼︎ 自分の選択肢をその場の軽いノリで選ぶような奴はそう遠くない未来で後悔することになるぞ」


 先輩の言葉はもっともだ。

 人生をてきとうに生きている奴の末路はいつだって碌でもない。

 それが常に命の危険を伴う冒険者を目指す者なら尚更のことだ。

 さっき軽い気持ちで手を挙げた者たちは、先輩の言葉に苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 そんな連中に向けて、更に追い討ちをかけるように言った。


「……俺は今からかなり厳しいことを言うが、よく聞いておけ。おまえらが目指す冒険者って職業は常に命がけだ。ダンジョンにはイカれた強さの化物もいる。即死級の罠も満載。半端な覚悟でやっていけるほど甘くない世界だ。ときに、『生きる』か『死ぬ』かという究極の選択肢と直面することもあるだろう。その時に、今のおまえらのように何も考えず、てきとうに選択をするのか? いや、しないだろ? するわけがないよな。当然だ。その選択肢を誤ったとき……」


 ーー死ぬんだからな


 不敵な笑みを浮かべ、親指で自らの首を横一閃になぞるような動きをしながらそう言った。


 先輩の重みのある言葉に皆、ゴクリと息を飲んだ。

 この場には500人以上もの人がいるのに、人数を感じさせないほど静寂に満ちていた。

 思わず、張り詰められた重苦しい空気に気が滅入りそうになってしまう。


「別にそれで死ぬのが自分だけならまだいい。だがパーティを組んでいた仲間を巻き込んだとしたらどうする? ゾッとするだろ? 一応言っておくが、別に直感で選択することを否定しているわけじゃない。最後に頼るのは結局のところ直感だしな。だが選択肢に考える余地があるにもかかわらず、何も考えず、どうにかなるだろうと安易に行動するのだけはやめておけと言っているんだ。何度もしつこく言うが、いつか必ず後悔する時がくる。

 ーー自分がてきとうに決めた選択肢で大事な仲間を失いたくはないだろう?」


 ぐうの音も出なかった。

 先輩は過去に自身の選択肢で仲間を……いや、後悔をしているのかもしれない。

 おまえらは俺のようになるな。

 先輩の言葉には、そう言わんばかりの後悔の念のようなものを感じさせていた。


 先輩が言っている通り、自身の選択肢が仲間を殺しただなんてことがあったら到底立ち上がることはできないだろう。

 俺もその場の勢いで行くときが結構ある。

 先輩のこの言葉は、俺にとっても深く突き刺さった。


 その後も先輩は考えることの重要性を説いた。

 つい先ほどの軽い気持ちで立候補していた時とは違い、先輩の話に真剣に耳を傾けている。

 いや、さっきも真剣には聞いていたが、今の方が必死さがあり、真剣味がまるで違う。


 冒険者とは常に命の危険と隣り合わせだ。

 だからこそ常に『考えろ』と。

 そして考えた中で最善の選択肢を『覚悟』を持って選べと。

 最後に。


 ーーそれができない奴は冒険者になる資格なんてない


 そう言い放ったうえで、再び問われた。


「とまあ長々とご高説を垂れたが、いい加減話を戻そう。今、おまえたちの前には2つの選択肢がある。


 ーーおれと戦闘を『する』か『しない』かの二択。


 先に言っておくが、戦略的撤退(戦いの回避)は冒険者としての必須スキルのひとつだ。何一つ恥じることはない。というか、そもそもの話、圧倒的力量差のある相手に挑むなんて自殺行為だからな? できるのなら(・・・・・・)回避するに越したことない。まあそれを選ぶのは俺じゃない、おまえらだ。ってことで、さあ選べ‼︎ おまえたちはどちらの選択肢を取る?」


 ……こんなん誰も手を挙げられない(立候補しない)だろ。

 今の話を聞いていたなら尚のこと。


 普通に考えると、最善の選択肢は、先輩との戦闘を回避することだ。

 実力差を考えれば、完敗するのは火を見るよりも明らか。

 今しがた先輩も言っていたが自殺行為でしかないだろう。

 これが実践(命がけ)だと仮定して、自身の安全(生きること)を最優先に考えるのであれば、これ以外の選択肢はありえない。


 考えた結果、俺はそう判断した。


 周りの皆も俺と同じ判断を下したのか、まるで手を挙げる気配を見せない。

 皆、各々が考えたうえで最善の選択肢を取った。


 はずだ。


 だが、先輩はそんな俺たちを何処かつまらなさそうに眺めている。

 何故だ?

 そう疑問を浮かべていると、先輩は良いことを思いついたとばかりにニヤリと笑った。

 その笑みを見た瞬間、背中にヒヤリとしたものが走った気がした。


「まあ誰も手を挙げないわな。ちゃんとリスク管理が出来て何より……だが、このままだとエキシビションができない。それは困る。さあ、どうしたものかなあ。なんか良い方法ないかなあ〜」


 まるで下手な芝居でもしているかのようにそう言い、間髪かんぱつ入れずに、とびきりの爆弾を投げ込んだ。


「誰も手を挙げないんじゃエキシビションができない。それは困る。

 ーーってことで俺が勝手に決めることにするわ‼︎」


 先輩の爆弾発言にあちこちから悲鳴の声が上がる。

 それは俺も同じだ。

 確率は低いが、選ばれたら確実に命がけの戦闘開始ってことだろ⁉︎

 皆、運悪く自分が選ばれるかもしれないと気が気じゃないのか再び顔を真っ青にしていた。


 というか今さっき言ってた二択の選択肢って、アレなんだったんだよ⁉︎

 何が最善の選択だよ⁉︎

 最善選んだのに、運悪いとどのみち戦闘回避できないじゃん‼︎


 悪い意味で急な展開に次ぐ急な展開にアタフタとしている俺たち。

 そんな姿を楽しそうに眺める先輩にイラッとくるが、ここはグッと堪える。

 文句を言って嫌がらせの如く、エキシビション相手に選ばれたら大変だ。

 ボコボコにされるのは必至。

 そんな未来は勘弁したい。


「おまえらの気持ちはわかる。考えたうえで最善の選択肢をしたのに……って」


 皆の心情をわかったうえで言葉を続ける先輩に「そうだよ‼︎ なのにこれかよ⁉︎」と言いたげな視線を向けている。

 ちなみに俺は声を大にして文句言いたい。

 まあこれ以上目をつけられるのは嫌だからスルー決め込むけど。


「そう。この場合の最善は、実力差のある()と戦闘を回避することだ。まあ当然か。これが命がけの戦いだとしたら、誰がそんな無謀をしたがるかって話だもんな。そんなおまえらに一つ先輩としてアドバイスをしてやろう」



 ーー選択肢が最初はなから絶望の一択しかないことなんざよくあることだ



 悪びれもなく、そう吐き捨てた。


『はああああああああああああああ───っ⁉︎⁉︎』


 皆の叫びが多目的ホール全体に響き渡った。


 いや、確かそうなんだろうけど‼︎

 そんなの有りなの⁉︎


「そんなの有りかよ? って思ったろ? 無論、大いに有りだ‼︎ というか、おまえらこの程度のことを理不尽だと思うなよ。冒険者ってのは常に本物の理不尽引っさげて活動してるんだからな」


 そう言われると何も言えない。

 だけど納得もできなくはある。


「そもそもの話だが、『最善の選択肢を取った』からといって思い通りにいくことなんて基本ない。むしろ稀だ。それに冒険者にアクシデントはつきものって言うだろ? そう、おまえらは今、そのアクシデントっていうクソ野郎に巻き込まれたんだ」


 その巻き込んだクソ野郎って先輩なんですけどね。


「おまえらの選択肢は『絶望一択』だ。さあ、どうする? もういっそのこと潔く諦めて死ぬか? それとも絶望の選択肢を跳ね返せるように死ぬ気で足掻くか? 俺は後者をオススメするがな。ってことで誰を選ぼうかなあ〜」


 やべぇ。

 すこぶるよろしくない雰囲気だ。

 なんかわからんけど猛烈に嫌な予感がしてきたんだけど……。


 だってほら。

 後方の席に座っているのに、何故か先輩とめっちゃ目が合ってんだもん‼︎

 それはもう凄まじいレベルで目が合ってる。

 完全にあの人を俺を見つめてるよ。

 ほら、今、あいつ俺見てニヤリと笑ったよ⁉︎


 いや、ちょっと待って‼︎

 それ絶対選ばれる奴(ターゲット)、俺だろ⁉︎

 あのど畜生先輩の野郎、俺を公開処刑にするつもつだな。

 だってさっき会場入口で揉めたとき、俺を睨みながらぶん殴りてえとか言ってたし‼︎


 というか、今までの冒険者の覚悟や選択肢云々は、このための布石だったんじゃないだろうな⁉︎

 敢えて誰も立候補させないような状況を作って、ごく自然の流れで俺をエキシビションに引っ張ってくるという……⁉︎

 いや、流石にそれはないか、ないと思いたい。

 いやそれよりも、どうしよう⁉︎

 誰か助けて、誰か俺の代わりにエキシビションに立候補して‼︎

 俺はボコボコにされたくないぞ‼︎‼︎

 いや、100歩譲ってボコボコにされてもいい‼︎

 だけど、彼女の前で無残な姿を晒すのはどうあっても回避したい‼︎


 くそう、だがどうすればいい?

 どうすれば回避できる?

 もうじっくり考えるほど時間はない。

 そんな状況で考えても良い案が浮かぶはずもなく。


 それはつまり、俺に選べる選択肢はない。

 あるのは文字通り。


 ーー絶望一択


「実はな。もう、その相手は決まってるんだ。な、そうだろ?」


 やべえ、めっちゃ俺に問いかけてくるんだけど‼︎

 俺の思い違いでいてほしかったのに、やっぱ俺なのかああああああああああ‼︎‼︎

 思わず心の中で悲鳴を上げた。


 と、そんなときだった。


「ーー私がします」


 誰が選ばれるのかという緊張感が否応なしに高まる中。

 「はい」と手を真っ直ぐ挙げる少女の凛とした声が響いた。

 それは、紛れもなく俺が一目惚れしたあの少女だ。

 一瞬の静寂が訪れ、誰もが彼女がエキシビションの相手に立候補したことに驚きを隠せないでいた。


「ほう? まさか、あれだけ脅したのに立候補してくる奴がいたとは驚きだ。その勇気は素直に褒めよう。パッと見、おまえもかなり戦えそうな雰囲気はあるが、まだまだ俺の方が強いぞ? それに俺は女だからと言って手心を加えることもないし、なんだったら躊躇なくぶっ潰しにいく気持ちでいる。いいのか、おまえのその綺麗な顔が無残なことになっても?」


 まるで物語に登場する、その辺に転がっている悪役のような物言いの先輩。

 だが先輩の言葉は冗談とは思えないほど強く、そして獰猛。

 有言実行してくることは間違いない。

 俺だったら間違いなく、怖くて縮こまってるだろう。

 だが彼女は、そんな物騒な先輩に一切怯むことなく、むしろ力強い眼差しを向けたまま答えた。


「はい。覚悟の上です‼︎」


 その様に先輩は「そうか、ならいい」と彼女を見据える。


「正直、エキシビション相手はもう決まってたんだが、もはやどうでもよくなった。そんなことよりも覚悟のある人間とバチバチ殺ったほうが遥かに有意義だからな」


 そう言うと腰を低くして構え。


「だが早く潰されてくれるなよ? それは萎えるからな」


 そんな先輩の挑発に彼女は薄く笑う。

 そして、手に持っていた大きな杖を先輩に向けて構えながら言い返した。


「いつでもどうぞ? ただ、あまり舐めないほうが賢明ですよ。実力はあるのになんでもない油断からお亡くなりになる冒険者は後を絶たないですからね。ふふっ、田之上先輩もそうならないといいですね」


「なかなか言ってくれるねえ‼︎ なら……‼︎」


 二人が剣呑な雰囲気になり、危機を感じた周りの者たちが一斉に二人から距離を取った。

 それを一瞥いちべつした後。


 ーー戦闘が開始されたッ‼︎

次回、戦闘回ですがどんな感じにすればいいんやろでしょ。

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