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第一話 運命の出会い

 どこが人生の分岐点となったか?


 と問われたらならば、間違いなく彼女を……いや。


 ーー天羽 叶芽(あもう かなめ)と初めて出会った時


 そう答えるだろう。

 それほどまでに彼女との出会いは鮮烈であった。

 そして俺のこれからの人生を大きく左右させたのだ。



 季節は夏。

 その辺の木に止まっている蝉どもがやかましく鳴きわめく中、重い足取りでダラダラと一人歩いていた。

 身体からジワジワと溢れる汗のせいで、着ている制服もヌメッてきて不快感を一層募らせていく。

 こんな無駄に暑い思いをしてまで何処へ向かっているのかというと、来年の2月に受験する学校ーー国立アイオリア学園である。


 アイオリア学園とは、優秀な冒険者を数多く輩出しているという確かな実績がある世界的にも有名な冒険者育成機関だ。


 今現在、世界最強と名高い実力を誇る冒険者ーーロゼ・アレントスや、日本国内ダンジョンの最高制覇数を誇る攻略部隊パーティーー『土竜もぐらの友』のリーダーである土門 竜之(どもん たつゆき)、常にダンジョンを単独で攻略し、なおかつ単独制覇をしたこともある独歩 楓(どっぽ かえで)等の超大物を筆頭に、他にも名だたる冒険者たちの多くがこの学園を卒業している。


 いわば、この学園は冒険者を志す者にとっての一種の憧れであり、ステータスにもなるわけだ。

 事実、この学園を卒業さえできれば、これからの冒険者人生に箔もつくし、なにより何処どこの冒険者団体からも引っ張りになることが多い。


 そんなブランド力も実績も無駄にある学園なので、毎年競争倍率も高く、なんと驚異の100倍超え。

 毎年世界各国から約2万人以上の者たちが受験し、合格するのは、その僅か1パーセント以下である200人という圧倒的狭き門。


 追い討ちをかけるようだが、入試の内容も世界最難関クラスということも付け加えよう。

 そのため受験した多くの者が涙を飲む結果をもたらすのは言うまでもない。


 だからこそ、学園の質の高さは折り紙つきだ。


 それゆえ日本国内以外にも、世界各国から未来を背負って立つような優秀な人材(金の雛鳥)が多く集結するんだとか。

 さっきから俺と同い年くらいの外国人を見かけるのもそれが理由だろう。

 歩いている方向が俺と同じだし、今日行われる予定のアイオリア学園の学園説明会が目的だと推測できる。


 説明会では教師や在学中の先輩たちから校風や授業内容についての話を直接聞ける貴重な機会であり、一度どんな感じの学校なのかも直接自分の目で見たくて、わざわざ地元から遠く離れた東京までやってきたわけだ。

 まあ、夏休み入りたてでめちゃくちゃ暇だったのも大きな理由だけど。


 地元の空港から羽田空港へ飛ぶ。

 空港最寄りの駅から電車を乗り継いで、学園最寄りの駅で降りる。

 そこから20分ほど歩いてようやく到着した。


 厳格な佇まいをした校門を抜けると、まず視界に入るのは巨大な銅像。

 この銅像のモデルは故人ではあるが、過去現在未来においても並ぶ者はいないと、今なお謳われ続けている最強の冒険者ーーアイオリア・ロマンドフューである。


 の者は、最強の冒険者という称号と同時に、この学園の創設者であり、アイオリア学園初代学園長でもあった。

 アイオリア学園が誇る数々の輝かしい功績は、この人物なしでは確実に成し遂げられなかったとされるほど偉大な指導者でもあったらしい。

 その優秀さは、歴史に名を残す傑物を幾人も排出することで証明されており、亡くなってなおも現代に多大なる功績を挙げ続けている人物とされる。


 そんな学園のルーツであり、象徴でもあるアイオリア像をぼんやりと眺めながらしばらく歩いていると、校舎入口前に大きな人集りが目に入った。


 俺と同い年くらいの者たちに学園のパンフレットを配布したり、説明会の会場へ誘導している。

 それを見る限り、この猛暑の中、不幸にも案内役に駆り出さた教師や在学中の先輩たちなのだろう。

 皆、案内役が手際よく誘導して続々と会場となる校舎の中に入っていく。

 その流れに乗って、俺も目つきが悪い、如何にもヤンキー上がりといった強面こわもての案内役からオドオドとしながらもどうにかパンフレットを受け取ったので会場へと足を踏み入れようとしたのだが……。


 急に後ろの方が騒つき始めた。


「ん? なんかあったんかな?」


 説明会開始までまだ時間にだいぶ余裕があったこともあり、気になって後ろを振り向いた。

 振り向いた視線の先には、無駄に豪華なリムジンが止まったのが見える。


「どこぞの金持ち(ボンボン)かあ。どんな奴なんだろう?」


 と何気なく眺めていると運転席から壮年の男性が降りて、後部座席のドアを恭しく開ける。


 すると、そこからは1人の可憐な少女が降りてきた。


「ッ‼︎⁉︎……」


 そんな彼女を一目見た瞬間。



 ーー視界から彼女以外の色が消え、もはや彼女だけしか見えなくなっていた


 

 ネコ科を思わせるような、やや吊り上がった切れ長の碧い瞳。

 その眼差しからは冷たい印象を感じさせる。

 スラリと伸びた肢体に柔らかそうな白い肌。

 背丈は150センチくらいと平均的な一般女性とそう変わらないくらいだけど、強く抱きしめると壊れそうなほど華奢な体型をしている。

 黒よりもさらに純度の濃い漆黒の髪を後ろでまとめ上げて、瞳と同じ色の碧いパレッタで留めているようだ。


 小学生並みの感想ではあるが、それが凄まじく似合っていると思った。


 そんな彼女が優雅に歩く姿は、これ以上ないほどの気品に満ちあふれ、ある種のカリスマさえ感じさせるほどだ。


 あ、でも胸はかなり小さーーハッ⁉︎ な、なんだ⁉︎ 一瞬命の危機を感じたような……いや、気のせい、なのか……⁇

 まあとにかく。


 芸術の神様が造形したと言われても即信じてしまうほど神秘的な美しさ、そして溢れる可憐さを放っている彼女。

 俺は、そんな彼女が視線の先を通り過ぎるのを呆然と立ち尽くす他なかった。

 それは彼女が視界から離れるまで続くのであった。



 彼女が俺とは少し離れた校舎側の入口から会場へ入った後。

 呼吸の仕方を思い出したかのように大きく息を吸った。

 と、同時にどうにか心を落ち着つかせようとする。

 そして今の現象について、目を深く閉じて思考を巡らせることに。


「おい、そこの後輩くん。おまえさんは何を立ち止まっているんだ? もしかして会場がわかんねえのか。会場はそこの突き当たりを右行ったところに階段あるから上がってすぐ手前にあるぞ。おい? 聞こえてないのか?」


 なんだろう、この荒波のような激しく揺さぶられる感情は?

 なんだろう、この身体の内側から燃え滾るような熱い感情は?

 なんだろう、このフワフワとして掴めないような不思議な感情は?


 一体これは……なんなのだろうか?


 このいまだかつて感じたことのない感情に冷静さを取り戻せないながらも思考を巡らせる。

 考えろ、俺。

 この現象は彼女を見た瞬間に起きた出来事だ。

 となれば、その原因は間違いなく彼女にあるはず。

 

「おい。おいってば。……なんでこの至近距離で俺の声聞こえねえんだよ。コイツの耳は飾りか何かか? おい、おーい、いい加減話聞いてくんねえかなー」


 原因は彼女にあるのはわかるが、その理由に行き着かない。

 なんせ、俺は彼女に初めて会ったわけだし。

 接点はかけらもないのに何故あんなことが?


 もう一度思い起こそう。

 彼女を見た瞬間に起きた出来事はーー 


 初めて会った彼女が美しくて、可愛いすぎて仕方がなくて、心臓が張り裂けるくらいドキドキ音を立てて、今みたいに彼女のことしか考えられないーーん⁉︎


 そこで、ふと思い出したことがある。


 これって、確か孤児院にいた時に施設長のお婆ちゃんが何度か読み聞かせてくれた物語ーー『恋い焦がれた冒険者』ってやつでこんな展開を聞いた気がする。

 うーんと、確かあれって夢も希望もなく、無気力に生きているだけの主人公がとある女の子に……一目惚れ、して……こ、恋に、お、落ちた……ことで彼女の横に立ちたいがために足掻く青春ラブコメってジャンルの物語だったはず……うん、自分で言ってて途中から気がついたわ……。

 ってことは、つまり……そういうこと、なのか⁉︎

 いや、待て、まだ慌てる時じゃない‼︎

 冷静になって判断を下すべきだ。


 今一度、彼女のことを思い出して胸に手を当てる。


「なんなんだコイツは? 急に胸に手を当てたと思ったら顔真っ赤にして……。情緒不安定にもほどがあるだろうよ。なあ、いい加減俺の声を聞けよ。話しかけてる俺が馬鹿みたいだろ? 俺、ここの在学生だぞ? つまりは先輩だぞ? 先輩の話はちゃんと聞くもんだろ? ああわかった、もういい。もう聞かなくてもいいから、早く会場へ行ってくれ。頼むからさ。ほら周りにいる奴等がアイツら何やってんだ? って顔で見てるだろ? な? な? ……く、くそ、こいつマジで言うこと聞かねえな……」


 ん? 何か雑音が聞こえた気がしたが気のせいか。


 脳裏に彼女の姿が鮮明に浮かぶ。

 が、彼女を思い浮かべた瞬間。

 心臓が再び内側から飛び出さんばかりに飛び跳ねているのが伝わってきた。

 同時に顔が熱くなり、酷く動悸もしてきて呼吸すらもままならない。

 本当にどうにかなってしまいそうだ。

 

 や、やはりこれは……だろうな。


 随分長く悩んだが、ようやく自覚できた。


 ああそうか、この感情こそが。



 ーー『恋』



 それも初恋だ‼︎

 残り一枚のパズルの欠けらがカチッとハマったかのようにそう思えた。

 一息吐いて、新たに誓いを立てる。


「……ふぅ。よし‼︎」


「いや、『よし‼︎』じゃねえよ!⁉︎ おまえいつまでここで突っ立っているつもりだ⁉︎ ああん、コラッ‼︎⁉︎ こちとら生徒会の仕事だからって仕方なく、こんなクソ面倒くせえ案内役やってんだぞ‼︎ なのにおまえときたらよおおお‼︎ まだ聞こえねえのか⁉︎ 反応なしかよ……よしわかった。今から3秒数えて無反応だったらぶっ飛ばすからな⁉︎ 本当だからな⁉︎」


 担任から「貴方の成績なら合格の可能性はありますよ」とか「あそこは世界有数の育成機関。そこで卒業したとなれば引く手数多なので就職には何も困りませんよ」とか言われたから運良く受かったらいいなあと、軽い気持ちで受験申し込みをしたが、そんな浅はかな気持ちで受験することはもう止めだ‼︎

 俺は本気で、それこそ “ 死ぬほど本気 ” でアイオリア学園入りを目指すぞ‼︎‼︎

 そして彼女にお近づきになって……。


 ーー恋人という関係になりたい‼︎ いや、なってみせる‼︎‼︎


 決意を新たなにした後、ようやく冷静さを取り戻した。

 のだが……。


「はい、さーん、にぃ、いーちいーー」


 何故か意味不明にカウントを数えている男の人が俺をめがけて腕を振りかぶっていた。


 えっ、何の状況⁉︎

 なんでこの人初対面の俺に殺気を向けてるの⁉︎

 意味不明すぎない⁉︎

 

「……あ、あの、な、何か悪いことしましたか? いや、多分なにかしたんですよね⁉︎ なんかよくわからないですけど、すいません‼︎」


 よくわからんけどブチ切れそうな雰囲気がヒシヒシと感じたから、とりあえず謝ることに。


「クッ‼︎ コイツ、ギリギリで反応しやがった。チクショー殴れねえ……‼︎ めちゃくちゃ殴りてえけど殴れねえじゃねえか‼︎ どうやってこの苛立ちを抑えればいいんだよ……‼︎」


 やはり、この人は俺をぶん殴ろうとしてたのか⁉︎

 怖っ‼︎

 まあでも、なんか殴れねえ殴れねえとか言いながら悶々としているようだから、その間にコッソリ会場にとんずらしよう。


 と思ったけど、怖い顔でギロリと睨みを効かせているから動けない。

 てか、逃げたら追ってきそうな気すらするし。

 もう説明会始まるんだけどなあ……と足踏み状況に頭を抱えていると。


「てめえ、いつまでぼさっと突っ立っていやがる‼︎ もういいから早く会場へ行けクソボケナスが‼︎」


「は、はい、なんかすいません‼︎ 直ちに行きます‼︎」


 あ、なるほど、いつまでも入口で突っ立ている俺に痺れを切らして怒ってたのか。

 ちょっと申し訳ないことしたかも。

 本当にすいません。


 まあでもあの時は彼女以外、全て無色透明の絵の具みたいなもんとしか思えなかったし、認識できなくても仕方ないと思う。

 ん? 今、地味に酷いこと言った気がするけど、まあいいか。

 ま、とりあえず行ってよしのお許しを得たので気が変わらない内にそそくさと会場へと向うことに。


 その間、とある人物から背後から冷や汗が流れるほど、えぐい睨みを効かせてくるもんだから超怖かったけど、敢えて気がつかないフリをした。

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