お姉さんそういうの大好き
ダンジョンにて金品を入手したミカはそれを換金するために自由国家『ガドラン』へと向かう事にする。
治安があまり良くない国であるためにスロウだけを連れて行こうとしたが、待っているのは退屈だとテルが言いだし、一人だけおいて行くのもなんだと四人で行くこととなる。
「うわー、なんだかすごく活気のある所ですね」
「色々と自由だからな。ただ、その分治安が悪い。表通りはそれほどでもないが、間違ってスラムにでも入ったら身ぐるみ全部はがされるだろうな」
「ところで、金を全てスロウに預けんでよかったのか? まさか余がスられるという事は万が一にも無いじゃろうが、そこの女顔はドン臭そうじゃからな」
「それでもある程度は持ってた方がいいよ。強盗は金があれば金を取っていくけど、金が無いと命を取っていくからね」
「理不尽ですね…………」
「悪いヤツに道理を求めるのが間違いだろ。道理じゃないから悪いヤツなんだから」
「しかしスロウは遅いのう。換金してくるとは言ったが一体どこで道草を食ってることやら」
「何か事件にでも巻き込まれたのでしょうか」
「ハニートラップにかかってる可能性はあるな。えろす大王だから。まあ、あいつから金を巻き上げられるようなヤツはいないから心配してないけどな」
「でも、いくらスロウさんでも武器が無ければ…………」
「どうかな? あいつ、寝室でプロレスしてる時に武装した三人の騎士に襲われたけど、傷一つ負わずに全員惨殺してるからな。それで返り血をシャワーで流して何事もなかったかのように帰っていったらしいぜ」
「ふぅー、世の中恐ろしいヤツも居たもんじゃの。悪ここに極まれりと言ったところかの」
「ちょっとテルさん、スロウさんにそれを聞かれたりしたら…………」
「なにを盛り上がっておりますの?」
「あ、スロウ」
「ひぃ」
戻ってきたスロウは怯えた様子のマーシュを見て不思議そうに首を傾げると、成果を報告し始めた。
「今回は金の需要が高くなっておりましたので、高いレートで取引ができましたわ。これで今まで騙し騙し使っていた携帯寝具などを買い替えられますわね」
「そりゃ僥倖。しかし、金の需要が高いってことは戦争が近いってことか」
「どうして金の需要が高いと戦争が近いんですか?」
「マジックアイテムは金をふんだんに使用して作るからだよ。そんな物を大量に必要としているとしたら、まあそういう事だ」
「ふむ。分かっておったが、早めに手を打たなければな。しかし、どうこうしようにもツテがない。最悪この身を売る事になろうかの」
慌てたようにマーシュは言う。
「だ、駄目ですよ、そんなの! 女の子なんですからもっと自分を大切にしてください!」
「なにを勘違いしているのか知らんが、立場の話じゃぞ。国を攻めるのにも理由がいるじゃろうて。この助べえが」
「ううっ…………」
「やーい、マーシュのすけべー、スキモノー」
「み、ミカさんのせいじゃないですか! さっきまであんな話をしていたら勘違いしちゃいますよ!」
「えー? なんのことー? お姉さん分かんなーい」
「くっ、この人は…………!」
マーシュをなだめるようにスロウは語る。
「まともに相手をするだけ損ですわよ、マーシュ様。それより買う物は纏まりましたか? 何分、所帯が増えましたのでしっかり計画を練らなければ時間と予算をオーバーしてしまいますわ」
「ああ、それなのだがの。こいつが余の提案をことごとく却下するのでお前からもなんとか言ってやっとくれ」
呆れたようにミカは言う。
「あのなぁ、ジャーピンの“セントーキモノ”なんて高級品を買えるわけないだろ。これだから王族ってやつぁ…………」
「うむむむ…………では刀じゃ。余は童子切を所望する。先ほど通った武器屋にこれ見よがしに飾ってあったヤツじゃ」
「だから高級思考から離れろっての。鉄の剣買ってやるからそれで我慢しろ」
「いやじゃ! 余は刀がいいのじゃ! ズパっと切断せんと殺した気がせんのじゃ!」
「物騒な方ですわね。戦闘など私達に任せてくださればよろしいのでは?」
「普段ならそうするが、この女が癪に障るからじゃ。後ろで守られてでもみろ。いちいち小馬鹿にしたような顔でちらちら見てくるのが簡単に予想できる。そんなの恥じゃ! 屈辱じゃ! 故に余が活躍するために使い慣れた武具が必要なのじゃ」
ため息をついてスロウはミカに視線を送る。
「だ、そうですわよ。我が悪魔」
「なんだよ、お姉さんのせいかよ」
「仕方ありませんわね。予定にはありませんが何か『クエスト』でも探してみましょうか」
「『クエスト』?」
「冒険者が受ける依頼の事だ。密偵カフェで受けられる。居なくなったペットの捜索からドラゴン退治まで様々さ。その成り立ちは密偵達の集うカフェで互いの利益の為に依頼し合う事から始まったとされる。何よりも信用が重視され、いくら実力があろうとも不誠実なヤツは仕事を受けるどころか、どういうクエストがあるのかすら知る事はままならない」
「ふむ、そんな所があるのかの」
「もしかしたらお前の欲しがってる物が報酬で出てるかもしれないから行くだけいってみるか…………」
密偵カフェを目指して歩き始めたミカはふと思い出したようにテルに聞く。
「ああ、そうだ。ジャーピンの代表的な花ってなに?」
「んー、桜か菊かの?」
「サクラは無理だな…………キクは一年中だから問題ないけど」
「何の話をしておる?」
「密偵は花を目印として使用していたんだ。今でも依頼を受けるには最低条件として花を持ってなくちゃいけない。カタナやキモノが欲しいならジャーピンの花を持っていかなくちゃな」
「面倒臭いのう」
「それだけ秘匿性が高いってことさ。花は誰が持っていても不自然じゃないし、組み合わせは無限にあるからな」
花屋で菊を買ったミカはその隣にある密偵カフェへと踏み込んだ。
「隣、なんですね」
「うっかり花を忘れちゃった時とかに買いやすくていいだろ?」
「なんというか商いじゃのう…………」
「それより注文をしてくれ。お前の国の一般的な飲み物は?」
「緑茶じゃな」
「じゃあ、グリーンティー4つ」
コップを磨いていたマスターがどこからともなく急須を取り出すと慣れた手つきで陶器に注いで差しだした。
目の前にある緑色の液体を見て、マーシュは戸惑いを隠せない。
「あの、すごく毒っぽいんですが、これ飲んでも大丈夫ですか?」
「これは平気なヤツだよ。同じく緑色のヤツはセンノリキューが淹れてくれたラテ以外苦くて飲めんけど」
「抹茶が飲めないとは子どもじゃのう。んー、しかし中々良い茶葉を使っておる。まあ、玉露とまではいかんが贅沢は言うまい。それにしても和菓子でもあれば最高なんじゃがなぁ」
するとマスターはこれまた無言で懐紙と共に和菓子を差しだした。
「分かっておるではないか。これじゃこれ。んー、餡がたまらんのう」
至福の表情をするテルの隣でスロウは口元を押さえたまま小声でささやく。
「我が悪魔……この菓子の懐紙の二枚目。何か書かれておりますわね」
「依頼書だな。誰が見てるか分からん。口を拭く振りをして懐に入れろ」
「了解しましたわ」
「このお茶、渋いなぁ…………」
ひとしきりお茶と和菓子を堪能した一行は密偵カフェを後にすると依頼書の中身を見た。
そこにはテルを心配する言葉と共に装備を受け渡す旨が記載されていた。
それを見たテルは上機嫌でにこにことした。
「気が利くのう! 余の装備を持ってきてくれるとは! これでお前にでかい顔はもうさせんぞ。その無駄にデカイ乳は変わらんじゃろうがな、はっはっは!」
「この依頼受けないよ」
「は?」
「だからこの依頼は受けないって言ってるの」
テルは困惑したように問う。
「し、嫉妬か? このテルが強くなるとデカ乳が申し訳なくなるからか?」
「違うわ! どうみてもこれが罠だからだよ。考えてもみろ、この地に疎いジャーピンの人間が密偵カフェに依頼なんかできるわけがない。おそらく悪人同士で繋がってるってことなんだろうさ」
「む、むぅ……しかし、余の装備は…………」
「ランクは落ちるがなんとかそれっぽいものを工面してやるから。しかし、結構まずいな。マーシュの件とちびっ子の件の裏が繋がってるとは思ってたが、予想以上に手が早い。どうしたもんか…………」
マーシュは思考の末に口を開く。
「この依頼、受けましょう」
「誘いに乗るのか?」
「おそらくですが、やってくる刺客はジャーピンの者のはずです」
「どうしてそう思う?」
「立場の高い人間には利用価値があります。下手に別の国を通すと利用される可能性がある。できるだけ自国の人間で始末した方がいいはずです」
「なるほど」
「それにミカさんは一度僕の追手を退けている。裏で繋がっているならきっとそれに見合う実力者が送られてくると思います。その実力者がまさか兵卒と同じようなナマクラを使うわけがない。なら、その装備を奪い、こちらの物としましょう」
ミカはにやりと笑った。
「発想が過激だね、マーシュ君。でも嫌いじゃないよ。むしろお姉さんそういうの大好き」
「刺客狩りですか…………。あまり気乗りはしませんわね」
「そうか? お姉さんは悪いヤツ虐めるの大好きだぜ。ついでに悪いヤツから奪うのも大好きさ!」
ミカの悪い顔を見てテルは少し引いた。
「これではどっちが悪か分からんのう…………」
「ははは…………」
悪人を狩るのは賞金稼ぎのやる事ではあるが、元より冒険者というものは荒事を生業としていきているものだ。別段おかしい事でもない。
ただ、無法者の悪人を殺して糧とするのは時に悪人すら越える悪名を意図せずに轟かせてしまう事もある。
無法者が相手だからと言って何をしても良いというわけではないのだ。
スロウは自分達が負ける事などまるで心配していなかったが、悪名が広まりかねないという事だけはどうしても不安だった。
特にこの事に味をしめたミカが悪人専門の盗人になってしまってしまう可能性を考えると、どうにも頭が痛かった。
「我が悪魔、一回だけ、一回だけですからね!」
「なんだ急に、変なヤツ」
とにかく依頼は受ける事となったので、依頼書にミカがサインするとその紙はあっという間に燃えて無くなってしまった。
「み、ミカさん! 大丈夫なんですか? 燃えちゃいましたよ!」
「そりゃ依頼書は自動的に焼却されるもんだろ、密偵なんだし」
「でも、これじゃ依頼を再確認したい時にどうすればいいんですか?」
「そういう時はこの灰を少し取って飲むのですのよ。そうすると依頼書の中身が頭にインプットされますの」
「ほぅ、よく出来とるの」
「昔はメモも無しに記憶力だけで覚えていたっていうんだから凄いよな。まあ、そういう事ができるエリートスパイばっかりだったって言えばそうなんだけど。本屋に行けば、嘘かホントか分からないような事柄が羅列された地球のスパイ名鑑があるかもしれないから見かけたら一度のぞいてみろよ」
「チキュウ? どこだか知らんが中々興味深い。ジャーピン語版はあるのかの?」
「どうだろうなぁ、一応私のジャーマネに聞いてみるけど」
「お前が著者か! 宣伝行為もよい所じゃ!」
「ん? 買ってくれたらサインくらいはしてやるぜ」
「その厚顔無恥な所が逆に凄いですわ。普通ならもっと恥じらいを持つ所ですのに」
「知らん! 恥じらいで飯が食えるか!」
「無茶苦茶な人だなぁ…………」




