貴殿、男か?
心ゆくまで飲み食いをした一同は汗と共に一日の疲れを洗い流すために温泉へと向かう。
この時間ではすでに混浴となっているがテルが少年とはいえ男に裸体を晒すのを恥ずかしがったために、マーシュは外で響いてくる声を聞く狼になるのだった。
服を脱ぎながらミカは呟く。
「混浴なんだからそこまで気にする必要もないと思うけどね」
「男女七歳にして席同じくせずという。結婚もしていないというのに男に肌を晒すなぞ破廉恥極まりない!」
「お堅いねぇ。花の命は短いんだから綺麗な内に見せつけなくちゃさ。ちびっ子の貧相なボディじゃ一生そんな時は来ないかもしれないけどね、おほほほほ」
「なんとな!?」
ぐさりと心に突き刺さるものを感じながらテルは言い返す。
「ふ、ふん、余は貴様ほど年をとっていないからな。それほど必死になる必要はないのじゃ。そんな過激な思想では男共に逃げられるのが関の山じゃ。その品の無さが全てを物語っておるわ!」
「なんだとー!?」
醜くいがみ合う二人、その様子を見たスロウはため息をつく。
「お止めください御二方。ここは争いの場ではありませんわ。仲良くしませんと風呂上りの牛乳は無しですわよ」
すがるような調子でミカは言う。
「ひぃー! 後生だぜ、スロウ! そんな事されたら死んじゃうよぉ!」
「ならば、仲良くしてくださいな。………よっと」
するりとショーツを脱いだスロウは体にタオルを巻いていく。
特に起伏の無い体付きではあるが元来持つ気質のためか妙に艶めかしい。
何気なしにそれを眺めていたテルは知らず知らずの内にその艶姿に見惚れていたが、途中あるはずもない物を見たような錯覚に襲われ、正気に戻る。
「まさか今のは………いやそんなはずは…………」
テルは恐る恐る口を開く。
「………一つ問いたいのだがな、スロウ」
「はい、なんでしょう」
頭を押さえたテルは苦労しながら言葉を紡ぐ。
「いや、おそらく気のせいだ。無礼だとも思う。しかし、しかしだ。どうしても聞きたいという衝動を抑えきれない。余は愚か者じゃ。それを承知で聞いてくれんか?」
緊張のあまりごくりと唾を飲み込み、テルは言う。
「貴殿……………男か?」
「…………………」
少しの沈黙の後に微笑んだスロウ。
それによって少しほっとしたようにテルは息を吐くが、次の瞬間にスロウの纏っていたヴェールがゆっくりと剥がされ、その下にある巨塔を惜しげも無くさらけ出した。
「う、あ、あ、」
「見ての通りでございますわ」
動揺のあまり言葉も出ないテルはすぅと息を吸い込むと全てを吹き飛ばすかのような悲鳴をあげた。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
「どうしましたか!?」
深刻な表情で踏み込んできたマーシュにテルは近くにあった石鹸を投げつける。
「見るなバカ者!」
「あぅっ!」
体にタオルを巻きなおしたスロウは平然とした様子で言う。
「テル様、そんなに興奮なさると体に毒ですわ」
「一体誰のせいでこうなったと思っておる! というかこっち見るな! 余は一糸まとわぬ姿なのだぞ!」
その場にしゃがみこみ必死に体を隠すテルにスロウは諭すように言う。
「人間生まれた時は皆等しく裸なのですから、何の問題もありませんわ。しかし恥ずかしいとおっしゃるのであれば私のこのタオルをお使いに……………」
「やめい! それ以上タオルをはだけたら余は泣くぞ! 周りの人間がドン引きするくらい泣いて、ある事ない事言いふらすぞ!?」
「それはまずいですわね…………」
どうしたものかという顔でスロウはミカに助けを求める。それに応じたミカは面倒臭そうに頭を掻きながら口を開く。
「あー………ちびっ子。スロウは女には興味ない、だから大丈夫だ」
「そういう問題では無かろう! むしろ女装趣味のホモなどなおタチが悪いわ!」
やれやれ、とため息をついたミカは真面目な表情で語る。
「あんまり悪く言うなよ。スロウだって色々あるんだ。理由も知らずに否定するのは良くない事だと思うぜ」
「むっ、むぅ…………確かにそうじゃが……………」
「スロウの体は男でも心は乙女さ。こいつはただ親睦を深めたかっただけなんだ。事前に説明しておかなかったのは悪かったな。本当に嫌なら追い出すけど………どうする?」
「……………」
ちらりとスロウの表情を窺ったテルはそこに恐れに似た困惑を読み取ると大きくため息をつくとゆっくりと立ち上がった。
「構わん。確かにこやつは普通の男とは異なるようじゃ。………失礼したな、スロウ。余ともあろうものが少し取り乱してしまったようじゃ」
「ありがとうございます、テル様」
「ふん、たかが棒一つに振りまわされるのが滑稽に思えただけよ。礼など言われるまでもないわ」
そう言うとすたすたと風呂へと歩いていくテル。ぴしゃりと扉が閉められると共にミカは呆れたように大きく息を吐いた。
「…………あのなぁ、そういう悪戯は止めろよな」
「なんの事ですの?」
くすくすと楽しげに笑うスロウにミカは頭が痛いという顔をする。
「お前ってヤツはその場の気分次第で男も女も関係無しなんだから。上手く場が収まらなかったらちびっ子の事食う気だったろ?」
「テル様のお姿には少し嗜虐心をそそられましたので。………気丈な顔を見るとどろどろにして歪ませたいと思いますでしょう?」
「相変わらずドSな事で。それと発情した犬は後でお仕置きだ」
「ンククク……お手柔らかに」
男とは思えない妖艶な色気を発するスロウに囚われる事もなく、ミカはいつも通りの表情でそれを眺める。
特に普段と変わる事のない表情が普通とは言えないこの状況においてはとても不自然で、まるで人間ではないかのようであった。
「うーん………星が綺麗だぁ」
割りを食ったマーシュは気にかけられることもなくしばらくその場に倒れていた。




