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本当に食べてしまわれたのですね?

 家に戻ると共に疲れがどっと出たのかマーシュは着替えもせずに眠りこんでしまう。


 それを微笑ましく眺めたスロウは風呂桶一式を持つと苺をほおばりながら何かの資料を眺めているミカに呼びかける。


「私は汗を流すためにこれから温泉に向かいますわ。あなたもご一緒にどうでしょう?」

「いや、調べ物を済ませてからにするよ。あいつらの顔、確かどこかで見たような気がするんだ。手配書だったか、それとも何か他の……………。うーん」


 難しい顔をするミカの邪魔をしないようにスロウは静かに出ていった。


「どうか根を詰めすぎませんように。私は失礼させてもらいますの」


 そうしてスロウが温泉へと行った後も考え続けていたミカはその内根負けしたのか「だめだぁ」と言いながらばたんとその場に倒れ込んだ。


スロウが帰ってくると共に後片付けを任せて入れ替わりで温泉へと向かう。


「家にも温泉があればなぁ………。いや、それはさすがに贅沢か」


 もう夜遅く人気の無い温泉で独りごちながらミカは鏡の前でタオル一枚の自分の姿を見つめる。モデルのようにいくつものポージングを披露し、満足げに頷く。


「やっぱり今日も私は可愛いな………。しかし、この胸のどこが無駄だって言うんだあのガギは。今度会ったら大人の色気というものをたっぷり味わわせてやるぜ」


 少々頭の悪いセリフを吐いたミカは誰も見てないのをいいことに湯船に浸かると「うぃぃぃ………」とオヤジ臭いため息を漏らした。


 腕を伸ばし、軽く肩を揉む。どうやら胸の重さが肩にきているようだ。


「あー、疲れた。しっかし、今日は王子様を連れてって良かったよ。私とスロウだけだと食糧がある限りダンジョンに潜る事になるもんな。髪も肌もひどいもんだ。冒険者ってのはつくづく女には向かない職業だね」


 はぁ、と息を吐いたミカは力を抜いてしばらくお湯に身を任せていたが、誰かが入ってくる気配に気づくと慌てて姿勢を直した。


「こんな遅くに誰だ? てっきり貸し切りだと思っていたんだけどな…………」


 木の扉が開くと共にそこから見覚えのある顔が姿を現す。


「み、ミカさん!?」

「おっ、マーシュか」


 顔を真っ赤にしたマーシュは慌てて扉を閉じる。


「す、すいません。間違えました!」

「いや間違えてないよ。ここ、夜遅くは混浴だからさ」


 初々しい反応を面白がったミカは湯船をあがり、扉を開くと慌てふためくマーシュを無理矢理中に引きづり込む。


「こ、こういうのはいけないと思います! 不純です!」

「なにうぶな事言ってんだ。一部立派にしやがって」


 にやにやとするミカに泣きそうな声でマーシュは言う。


「不可抗力ですよぉ………!」

「別に変な事するわけじゃないんだ。肩の力抜けよ。ほら、背中洗ってやるから」

「ううう……………」


 今にも倒れそうなほど混乱した様子のマーシュは恥ずかしさのあまり顔を手で覆う。


 ミカは言葉通り特に変な事をするわけでもなく普通に体を洗ってやる。


 ちょっかいを出してやろうという気もないではなかったが、何もしないでも十分な程に反応を愉しむ事ができたので特に手を出すこともなかった。


 湯船に浸かったミカはマーシュを背中から抱くようにして密着する。胸が当たっている事でマーシュは気が気でない事を知りながらも、知らん顔でミカは話をする。


「いやぁ、今日は疲れたなぁ」

「そ、そうですね」

「しっかし、あの生意気なヤツ。どこかで見たことがあるんだけどなぁ、思い出せないんだよね。一体どこで見たのか……………」


 それは答えを求めない問いであったが、意外な所から答えは返ってきた。


「もしかしたら東にある国『ジャーピン』の姫かもしれません。気のせいかもしれませんが一度親善パーティーで見た彼女と面影が似ているような気がします」

「『ジャーピン』か………。うーん……………」


 しばらく考え込んだミカは何かがかちりと噛み合ったかのように急に立ちあがった。


「そうだよ、『ジャーピン』だよ! たまたま城下町に来ている所を見たんだ。あの時も不機嫌そうな顔してると思ったが、言われてみればそっくりだ。けど、姫がなんであんな所に? なぁ、マーシュどうおも…………って、おい!」

「ぶくぶく……………」


 流石に刺激が強すぎたのかマーシュは目を回して倒れてしまった。


 慌てたミカは急いで風呂から引き上げると軽く服を着させて脱衣所で涼ませる事にする。


「初心なヤツって反応が面白いからついやりすぎちゃうんだよな。これじゃ私もスロウの事を言えないぜ」


 マーシュに冷たい水を飲ませながら、今の状況に苦笑する。


「お互いに薄着で男の方が倒れているなんてスロウが見たら絶対誤解するよな、これ。そうならないようにさっさと服を着て………」


 その時、何かが落ちたような乾いた音がした。


「わ、我が悪魔、帰りが遅いので様子を見にきたのですけど……………」

「え?」


 ミカが声の方を見るとそこには顔面蒼白となったスロウが立っていた。驚きのあまり歯をがたがたと鳴らしながら、スロウは恐る恐る問いかける。


「本当に食べてしまわれたのですね?」

「いやいやいやいや。待て、誤解だ」

「本当は食べてしまわれたのですね?」

「なんか微妙に質問が変わってる!? その恨めしそうな目止めろ! 怖い、怖いから!」


 怒りのままにスロウは叫ぶ。

「我が悪魔の鬼! 悪魔! デーモン! どうして私に黙って食べてしまわれてのですか!? ああ! 残念過ぎて殿方に相手にされないために我が悪魔がショタコンになってしまわれるのは別に構いませんが、私の獲物を取るのは絶対に許しませんわよ!」

「残念言うな! ショタコン言うな! 張り倒すぞ!」


 悔しさのあまりスロウは大声で泣き出す。

「おーいおいおい! 我が悪魔の色情魔! スカポンタン!」

「色情魔はお前だ! ………くっ、年中脳内ピンクのヤツを説き伏せるのは無理か。こうなったら…………!」


 一瞬でスロウの背後を取ったミカはその首筋めがけ鋭いチョップを繰り出す。


「当て身」

「はぅっ!」


 気を失ったスロウをそっと抱きかかえるミカ。


 周りにユリの華が咲き乱れるそうなその光景をちょうど見ていたマーシュはショックを受けた様に言う。


「そんな………ミカさんがそっちのケがある人だったなんて、僕との関係は遊びだったんですか!?」

「関係も何もやってないから! まだ混乱してるなコイツ!?」

「ひどいや、認知してくださいよ! 子どもだって居るのに!」

「誰の子だよ! 生んだ覚えないよ!」


 混濁した意識を正常に戻すためにミカはすばやくマーシュの後ろに回り込み、そして、


「当て身」

「はぅっ!」


 一仕事を終え、静けさを取り戻した空間でミカはふぅと額の汗を拭う。


「これでよし」


 ゆっくりと服を着替えてから二人を肩に乗せて何事も無かったかのように家路につく。


 遠くに輝く星空を遠い目で眺めながら。


「星が綺麗だナー……………」


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