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物事は単純である方がいい

 朝になり、軽く朝食を取って仕度を済ませるとミカにより三人はある場所へと案内される。


 厳重な警備の先の部屋に入るとそこは明かりとしての燭台以外にはこれといったものも無い辺鄙な場所だった。


「おい、面白い物を見せてやるとか言っておったがここには何もないではないか」

「我が悪魔、そろそろ『アレ』とやらの正体を教えてくださいませんの? 聞かれても「見れば分かる」の一点張りではありませんの」


 にやにやとした表情でミカは言った。


「お前らはもう面白い物を見てるんだぜ? ただ気づいてないだけだ」

「気づいてない? …………うわっ!」


 マーシュが何かに驚いて飛び退くとスロウは不思議そうに聞いた。


「どうしましたの?」

「い、いま、地面が動いて!」

「地面が…………?」


 確かめるようにスロウが敷いてある絨毯に触れると一瞬閃光が走ったかのようにその手の甲が輝き、驚いた表情へと変化した。


「この絨毯、生きていますわね」

「絨毯が生きておるじゃと? 何を馬鹿な…………」


 疑うような表情をするテルにスロウは証明するように絨毯を宙に浮かび上がらせた。


「おおう!?」

「なるほど、これなら快適に敵の根城まで行けそうですわね」


 ミカは語る。


「前にこの国には独自の補給ルートがあるって言っただろ? これがそうさ。まあ、あまり数は無いからこういう緊急事態でもなければ借りられるようなもんじゃないけどね」

「どうやって操縦するんですか? かなり扱いが難しそうですけど」

「やった事はありませんけど(わたくし)ならば行えそうですわ。無機物と武具はどんな物でも強化して支配できますもの」


「便利な能力じゃな。どういう仕組みなのか一度調べてみたくもある」

「まあ、それは無事に帰ってからという事で。我が悪魔、いつでも行けますわ」

「ああ」


 こくりと頷いたミカは壁に備え付けられているハンドルを回した。


 すると天井が開き、まだ少し暗い空が姿を現した。


 全員が乗った所でスロウが絨毯の高度を上げた。


 通常ならば高度による気圧の変化などの影響をもろに受ける吹きっさらしの搭乗席だが、魔法で結界でも張られているのか環境の影響も無く快適な乗り心地だった。


「ミカさん、あれ!」


 進路を北の国へと向けて進みだしてしばらくすると下の方に悪魔の集団が見えた。


 この様子では空が完全に明るくなる頃には襲撃があるだろう。


 今から戻って知らせるにしても、往復の時間を考えれば見張りが発見するのとほぼ変わらない。


 ここは割り切ってミカ達は自分の役目を果たすことにする。


 眼下に流れていく風景を眺めながら、しみじみとテルは語った。


「思えば随分と遠いところまで来た物じゃ。あそこなど、我らが入っていったダンジョンの入り口じゃ」

「あれは密偵カフェがある街ですね。あの森はミカさんの住んでいる所でしょうか」


 旅人にとっては行く先々の風景など取り立てて騒ぐような価値のあるものではない。


 それがこの世の物とは思えないほどに素晴らしい物だったとしても、ずっとそこに居られるわけではないと知っているからだ。


 だが、二人は立場からろくに外へと出る事も出来ない人生を今まで送ってきたのだろう。


 その瞳はこの旅がいかに素晴らしく代えがたい物だったかという事を物語っていた。


 そして、それは同時にこれから先、例えどんな事があったとしてもこの思い出を糧に戦っていく事を誓うかのようでもあった。


 段々と空気が変わり、ひんやりとしてくる。


 草がまばらになり無骨な地表が露出を始めた頃に北の国が見えて来た。


 索敵を警戒したスロウは絨毯の高度を下げ、近くの森の中に着陸する。


「なんとか無事に来られましたわね。これからどのように致しましょう?」

「悪魔相手だ、上手く潜入できてもいずれば見つかるだろう。なら、せっかくこうやって不意を突ける形になってるんだ、相手をさらにかき乱してその隙に事を済ませる方向で行く」


「といいますと?」

「私が正面から入り込んで陽動する。その間に別ルートから入り込んだお前達が儀式の準備を邪魔するんだ」

「しかし、あの悪魔達の力は人間には到底太刀打ちできたものではない。真っ向からやりあえば死ぬぞ」

「別に倒す必要は無いさ。儀式が数日程度じゃ出来ないようにしてくればいい。そうすれば私が街に戻って補給しながら戦えるから最終的には勝てる」


「直接戦わなくていいのなら、少しは楽そうですね」

「そう上手くいけば良いがな…………」


 作戦に一抹の不安はあったが、悠長に考えているような余裕も無かった。


 無人の街を駆け抜け、城の周りで各自持ち場に付いた所でミカは派手に正門をぶち破って中に入っていくと大声で言った。


「おーい、偽物やーい! 出てきて私と勝負しろ!」


 音が城内に響き渡ると二階から何者かが言った。


「誰かと思えば、いつぞやの物の怪か。奴は儀式で忙しい。血を求めるなら、我と死合えい」

「なんだ鎧武者君じゃないか。お留守番はお前達だけか? いくら強かろうと本丸をここまでガラ空きにするのは正気とは思えないな」

「姫はどうした?」

「お留守番だよ。なんだ? こんな危険な所に来るとでも思っていたのか?」

「………………」


 地上に降りて来た骸羅は刀を抜くとまっすぐに構えた。


 対するミカも指輪を剣に変えて構える。


 両者はしばらくそうして睨み合っていたが、不意にミカが斬り込んだ。


「せいっ!」


 矢継ぎ早に突きを繰り出すが、見かけに反した素早い身のこなしで鎧武者は攻撃をいなす。


 そうして攻めあぐねている隙を突いて一撃を返した。


 それを腕で受け止めたミカは蹴り返そうか迷い、やっぱり止めて距離を取った。


「うひぃー、一張羅が台無しだ。後でスロウに縫ってもらわなくちゃな」

「やはり斬れぬ。何故だ?」

「ん? (いわ)く付きか? その刀」


 骸羅は語る。


「この斬魔刀『影解(かげほど)き』に人はおろか斬れぬ妖魔は無いはず。貴様、一体?」

「知らないのか? クサナギモトコだよ」

「隙あらば人を(たばか)ろうとする態度、やはり悪魔にしか見えぬ。しかし、ならば何故斬れぬ? 人でも悪魔でもないと言うのなら、まさか…………」


 ミカは口の端を上げて笑った。


「お前の考えている事は案外当たりかもしれないぜ? ただ、正解かどうかは教えてやんねー、死ぬまで一生考えてな!」


 すでに剣を持っている方の手とは逆の指輪を起動し、禍々しき剣へと変える。


 その感触を楽しむかのようにミカは語る。


「やべぇ、むっちゃ吸われてる。パワーダウンってレベルじゃないぜ」


 己が食われているというのにけらけらと笑うその姿には流石の骸羅も難色を示す。


「まさに狂気。悪魔とはげに恐ろしき存在よ」

「正気ってヤツを誰に教えてもらった? ぜひ私にもご教授願いたい所だな」


 そう言ったミカは先ほどよりも早く斬りこむ。


 力は間違いなく呪いの剣に吸われているというのに段々と速度が上がっていく。


「…………ぬふぅ!」


 たまらず強引に刀を振るって切り返した骸羅は体をねじるように力を溜め、弾丸のように踏み込む。


 その一撃で呪いの剣ごと全身を裂くが、剣は砕けても肉体を斬る事は出来ず、技の隙に裏回ったミカにもう一方の剣を突きつけられる。


「不格好だが、私の勝ちだな。これであの時の借りは返したぜ」

「情けは無用、斬れ」

「やだね。わざわざ介錯してやるほど悪魔はそこまで慈悲深くはないんだ。夜な夜な負けた事を思い出して、悔しさに悶えな」

「………………」


 刀を腰に収めた骸羅は城の奥に向かって歩き出した。


「付いてこい、奴らの所まで案内してやる」


 ミカは困惑したように肩をすくめる。

「一応、上司ってわけじゃないのかい?」

(たわ)けたことを。我はただ己が目的の為に協力してやっているだけよ。悪魔に会えば悪魔を斬り、竜に会えば竜を斬る。強者との死合いのみが我が宿命、今日の所はその役目を貴様に譲ってやろうぞ」

「そりゃ有難(ありがた)い事で」


 城内には人の気配も悪魔の気配も無く、完全に出払っているようだ。


 しかし、肝心のベリとゲシュロトは残っている。儀式が妨害されるのを防ぐためだろう。


 そして、それとは別の悪魔の反応もミカには感じ取れた。


「ありゃ、お前のお仲間、悪魔になったのか」

「仲間? あれを仲間だと思ったことは一度も無い」

「中々ひどい事言うね。まあ、不意打ち上等のアイツとアンタは折り合いが悪いか。それにしても結構やるな。ウチのスロウも人間の中ではトップクラスの強さだと思うんだが、二人を守りつつアロンダイトが解放されていないとはいえ、ここまで苦戦させるとは」


 遠くの戦闘を感じ取れた事に驚きもせず骸羅は問う。


「助けに行かなくて良いのか?」

「あら、心配してくれるの? 見た目に反してお優しい事で。だけど、余計な戦闘をしてると邪竜を止めきれないからな。それこそあいつらの避けたい展開だろう。さらに言うなら、私が急いだら邪竜が復活してくれないだろう?」

「…………貴様、邪竜を復活させて何を企む」

「倒すのさ、アンタが考えていたのと同じようにね」

「奴らと同じように人間を滅ぼす気なのではないか?」


 するとミカは思わず噴き出した。


「ぷっ、はははははは! アンタ意外にユーモアがあるね。そんな事をして私に何のメリットがあるんだ?」

「化生の考えなど我の知った事か」

「まあ、確かにあの悪魔達は人間を滅ぼそうとしている。同じく悪魔を自称する私が違うと言っても信用はされないだろう。しかもアイツと私は同じく『苺の悪魔』だと主張している。疑うのも無理はない」


「やはり貴様は紛い物…………」

「その考えは安直だな。二人の人間が同じ名前を持っていてもどちらも本物であるのとこの問題は同じだ。つまり、同じ名称を持つ別々の事柄を語っているんだ。だから私達のどちらとも本物であり、偽物だ」

「奴は人間を滅ぼそうとせん悪魔、ならば貴様は何を宿命とする?」


「私? 私は簡単だ。美味い物を食べて、可愛い奴と遊んで、好きな時に寝る。それを邪魔する奴は悪魔だろうが、邪竜だろうがぶっ潰す。ただ、それだけだ」

「なるほど、それは至極単純だ」

「物事は単純である方がいい。どうせ段々複雑になっちまうんだからさ」


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