第六十三話「あの子」
こんにちは、オロボ46です。
今回はシャンハイに向かう途中から始まります。
それでは、どうぞ。
少女を車に乗せ、車はシャンハイに向かっている。自分の隣で少女はまだなき続ける。
「ねえ、お嬢ちゃん、お菓子でも食べんかえ?」
リェンさんがお菓子のような小さな袋を取り出し、少女に渡す。少女はそれを受けとり口に入れるが、食べ終えるとまた泣き始めてしまった。
「かわいそうに......あんなに傷だらけになっていて......」
ソヨンさんがポソりと呟く。
「......ソヨン、あの時の傷......どんな怪物だと思う?」
少女に聞こえない程の小声でリェンさんは尋ねた。
「いえ......想像がつきません......この辺りの怪物でこのような傷を与える怪物など......」
そこまで言って、ソヨンさんは何かに気づいたように声を出さずに口を開けた。
「......心辺りがないこともないです。この辺りで出現する怪物で、目に見えない速さで爪を振り回す怪物の噂を聞いたことがあります。もっとも、その怪物に襲われた人間は肉の塊にしか見えないほど切り裂かれると言われていますから、それが本当ならこの子が生きているのが奇跡ということになりますが......」
「......お父さん!?」
突然、少女がガラスに移る外を見て叫んだ。
ソヨンさんに車を止めてもらってから自分が外に出てみると、虎のような生き物が草むらに頭を入れて何かをつついていた。
「ソヨン、あいつかい?」
「噂では虎に似ている怪物と聞きました。恐らくあいつですが......本当にやるんですか? 街についてから別の旅人に依頼した方が......」
ソヨンさんに聞き返されて、リェンさんは少女の様子を見た。
もう涙は止まっていた。しかし、今にも飛び出しそうにシートベルトをつかんでいる。
「このまま通り過ぎると、窓を割ってでも車を降りようとするかもしれん......」
そう言いながらリェンさんは少女の方を見て、
「お嬢ちゃん、今からお父さんを助けに行くからねえ、あのお姉ちゃんとおとなしくいるんだよ? いいね?」
と言い残して車を降りた。
虎の怪物はこちらに気づき、顔を上げた。その口元は赤く染まっており、赤い液体が口からこぼれ落ちている。
自分は燃やすのは最後の手段に取っておいた方がいいと感じた。草が燃え広がり、草むらにいる何かまで燃えてしまう恐れがあるからだ。
「ユウさん、前で囮を頼めるかえ?」
そう言いながらリェンさんは物干根に付いているスイッチを押す。物干根の先端が飛び出し、リェンさんの身長ほどに伸びた。
自分は頷きながら怪物に向かって走り始めると、虎の怪物はこちらに目掛けて飛びかかる。それを見えない壁で受け止める。
「そりゃっ!」
リェンさんは横から物干根を突き出す。しかし、体に刺さる前に怪物が払いのける。
こちらに攻撃するのが無意味だと判断したのか、虎の怪物はリェンに向かって行く。
「まずいまずいまずい!!」
怪物に追われてリェンさんは距離を置こうと走り始めた。
虎の怪物は尻をこちらに向けた。自分は手に持つ金属バットをそれに向けて投げる。
金属バットは狙い通りに命中し、怪物は怯んだ。それを見逃さずにリェンさんは物干根を怪物に向けて突き出す。先端に付いている刃物が怪物の肩に深く刺さった。
グアアアアア!!
虎の怪物は悲鳴を上げながら暴れるのを、リェンさんは物干根を離さず押さえ続ける。
「ユウさん!! 止めを!!」
自分は落ちている金属バットを手に取り、怪物の顔の前に立つ。そして、降り下ろすためにバットを握る手に力を入れて......
ハヤク......ラクニシテクレ......
......!!? 怪物の動かす口から、声が出た。
「こ......この怪物......!? 喋ったあ!?」
「ハヤク......イヤ......ヤハリシニタクナイ......!!」
突然、自分の喉から血が吹き出した。虎の怪物の爪によって引き裂かれたからだ。
「ぎゃっ!!」
リェンさんは両方の足首を切られ、その場に倒れこんだ。
「アノコニ......アノコニアイタイ......!!」
虎の怪物は自力で物干根を抜き、ソヨンさんと少女が乗る車に向かって走り始めた。車は動き出したが、怪物の爪がタイヤに向けて降り下ろされ、すぐに動きを止めた。
「はあはあ......ソヨオオオン!! 車から出るんじゃなああい!!」
リェンさんが足首を押さえながら叫ぶ。
ソヨンさんの話によると、虎の怪物に襲われ人間は肉の塊になるほど切り裂かれていたと言う。
しかし、あの少女は傷をつけられただけで済んでいる。それに、自分の喉やリェンさんの足首......そこだけを狙ったのは、ソヨンさんの話と矛盾する。言語を話し、自力で刃物を抜くなど......自分はある結論に達した。
"サキコと共に旅をしていた時じゃ。この洞穴で奇妙な怪物の死体を発見した。怪物の背中に、大きな穴が空いていたんじゃ。それにサキコが手を伸ばした時......サキコは穴に吸い込まれ、やがて怪物と一体化してしもうた......知能は低下して......ほとんど食事と闘争本能で動くようになった......しかし、意識まで消えることはなかったんじゃ......"
この怪物は......あの子の父親だ!!
いかがでしたか?
次回もお楽しみに!!




