第五十八話「薬屋のネギおやき」
こんにちは、オロボ46です。
今回はペキンから始まります。
それでは、どうぞ。
ペキンに入り、一軒の家の前で車が止まった。
「ここがうちの薬屋なんよ」
車の扉を開けながらリェンさんは言った。
「ユウさんが遺跡に行くのは明日よねえ? もしよかったらうちに泊まっていかんかえ?」
旅費のことを考えて、自分は頷きながら車を降りる。
「そのほうがええと思うよ。それじゃあ中に入ろうかねえ」
リェンさんは扉に飾られている札を取る。と同時に、まだ車に残っているソヨンさんの顔を覗きこんだ。
ソヨンさんは先ほどから考え事をしているように眉を潜めている。深刻そうな表情ではないので、恐らく昨日のこととは無関係のはずだが......
リェンさんの薬屋の中に入り、奥の部屋へ案内された。
「今から"ツォンヨゥピン"を作るから、ちょっと待っててねえ」
そう言ってリェンさんはキッチンの方に向かっていた。
テーブルの上には、先ほど扉に飾られていた札が置いてあった。文字は読むことができなかったが、ハートが異常に多いのはわかる。ソヨンさんに文字の意味を聞いてみる。
「しばらく留守になります......と書かれているの。お義母さんはよく留守にするからね......それにしても、やっぱりハートマークが多いなあ......」
そう言いながらソヨンさんは札を手に取ったが、すぐにこちらの目を見つめた。
「ねえユウ......個人的なことを聞きたがっているみたいに聞こえるかも知れないけど......また質問させてもいいかな?」
自分は問題ないと答えかけて、少し考えた。そして、質問の内容によっては答えてもいいと伝えることにした。
「あなたが遺跡に向かう理由って......その遺跡の書物に書かれていた民族に......何か......あなたと共通点があったから......?」
自分は頷いた。
「そうだと思った......あなたに遺跡の話をした時から気づいたけど、口を使わずに言葉を伝える民族と、生まれつき声を持たない代わりに言葉を伝える能力を持つあなたと、重ね合わせちゃったから......やっぱり......あなたは......」
「ユウさん! ソヨン! 出来たよ!!」
リェンさんの言葉でソヨンさんとの会話は中断されてしまった。
テーブルの上にツォンヨゥピンと呼ばれる料理が置かれた。
「"葱油餅"は日本語では"ネギおやき"とも言われているらしいんよ。ピザみたいな感じだけど、うちはこっちがすきだねえ」
そう言いながらリェンさんはツォンヨゥピン......ネギおやきを手に取った。ソヨンさんも手を伸ばした後、自分も手に取って口に入れる。
「ところでユウさん、あんたは遺跡の方に行った後はどうするんだい?」
リェンさんがネギおやきを口に頬張りながら聞いてきた。まだ決まってはいないが、学者が研究している書物に興味があると答える。
「思ったんだけど、遺跡に行かなくてもその書物を見に行けばいいんじゃないかと思うんだけど......」
「お義母さん、何言っているんですか......まだ解読途中なんですよ? 読めるはずがないでしょう......」
一瞬リェンさんの意見に納得しかけたが、呆れているソヨンさんの言葉を聞いて確かにそうだと思った。
「残念だけど、私たちは書物がどこにあるのかはわからないわ。発見したのはペキンの学者だけど、別の学者に渡してあるのかもしれないし......」
ペキンの学者......?
「うん、確か......その人は双子で......名前は"ブォエン"と"ルイ"......だったっけ......」
......!!
自分はリェンさんに、ソウルで出会った双子の学者の話をした。
「......ああ!! 思い出したよ!! 確かユウさんがソウルの公園で出会った男たちだろ? そんな名前だったとは......しかし......本当にいい男だったねえ......」
「その人たちは今どこにいるかわかる?」
うっとりとした目付きのリェンさんを無視して、ソヨンさんはこちらに質問した。ソウルでの彼らの会話からすると、今はもうペキンに戻っているはずだ。
「ペキンに戻って来ているんだね......それなら......」
「ユウさんが遺跡に行っている間に、うちがその二人と話をつけるとするかねえ。うちも二人と面識があるんだし、この美貌で快く会えるはずだよ!!」
......
「大丈夫かなあ......」
その日、自分はリェンさんの薬屋に泊まらせてもらった。翌日、出かける準備をしていると、ソヨンさんが申し訳なさそうな表情で話しかけてくる。
「ごめんユウ!! 昨日言うべきだったのに言い忘れてた!! あそこ......最近は怪物が現れるようになっているって噂を聞いたの......ちゃんと準備したほうかいいと思うよ」
自分は怪物に遭遇することを想定して準備をしていたので、問題はなかった。しかし、用心することに越したことはない。自分はその言葉をしっかり覚えた。
「それじゃあユウ、気を付けてね!」
「昨日も言った通り、双子のことはうちに任せて、ユウさんはしっかりと自分の目的を果たすんだよ! いいね?」
ここまで一緒に同行したリェンさんとソヨンさんに別れを告げ、自分は薬屋の玄関の扉を開けた。
いかがでしたか?
次回はいよいよ目的地である遺跡に向かいます。
次回もお楽しみに!




