第五十話「耳鳴り」
こんにちは、オロボ46です。
今回はヘリコプターの中から始まります。
それでは、どうぞ。
「まったく......最近の若者は......」
ヘリコプターの中で、老婆はぶつぶつ呟きながら窓の外を見ていた。自分の隣には男性が座っている。
自分は老婆の言葉が解ることを伝えたかったが、その方法が解らなかった。口に出さずに言葉を伝えることもできるが、自分の能力を悟られたくなかったのと、そもそも通じるかどうかの不安で出来なかったからだ。
「あの......どうしましたか?」
隣に座っていた男性が老婆に向かって話しかけてきた。
「あんたはあまり顔はよくないけど、この際だから仕方ないねえ。ちょっと聞いてくれよ、あの人、あたしが話しかけても無視を続けるんだよ」
老婆は男性に向かって語りかけると、男性は納得したように頷いた。
「おばあさん、きっと言葉が通じないと思いますが......」
「......」
老婆の耳がピクピクと動いた。
「......あんた、今さっきなんていった?」
「え? 言葉が通じないと言いましたが......おばあさん、大丈夫ですか?」
「......ちょっとこっち来てみ」
男性が首を傾げながら老婆のそばへ近づくと、老婆の右の手のひらが男性の左頬に直撃した。男性は倒れる......と思いきや、素早く右の手の甲で男性の右頬に当てる。反対方向へ落ちかける男性を待つのは老婆の手のひら......
右、左、右、左......ペチペチという音がリズムを刻んでいく......
「す......すみませんでした......まさか四十歳のお......姉さんだったとは......」
男性は真っ赤に腫れている頬を擦りながら言った。
「まったく......髪が白くて老け顔だけで年齢を判断して......ところで」
老......女性はこちらを見て、なぜか色っぽい目付きをした。
「勘違いしてごめんねえ......話しかけても答えなかったのは、うちがあまりにも美人すぎて緊張しすぎて声が出なかったのねえ......」
いや、生まれてから声を出したことはない。
「もう緊張しなくてもいいのよ?」
......危うく声を出さずに伝えようとしていた。
その時、自分は思い出して、青いリュックサックからメモ張を取り出した。カゴシマの街から立ち去る前に買っておいたものだ。
"自分は生まれてから声を出すことができない"と、メモ用紙に書いて二人に見せる。
「? いきなりラブレターとは、以外と積極的ねえ......」
「いや、違うと思いますが......ちょっと見せてください......」
メモ張を男性に渡すと、男性はじっくりと見た後、こちらを見た。
「わかりました。わたしはにほんごをべんきょうしているので、よめます」
男性の片言な言い方に、自分はこの現象の正体を理解した。
おそらく、あの耳鳴りが起きてから、知らない言語が自分の知っている言語に聞こえるようになったのだろう。なぜ耳鳴りが起きたのかは不明だが......
メモ張と男性の通訳を通じて、女性に自分の意思を伝えることができた。
「そうなのかい......あんた......ユウさんはペキン付近の遺跡に向かっているんだねえ」
「あなたはぺきんのいせきにむかっているんですね、といっています」
言葉はわかっているのに、それを翻訳する男性。
「よし! この"リェン"姉さんがそこまで連れて行ってあげようかねえ!」
女性......リェンさんは笑顔でこちらを見た。自分はメモ張に文字を書く。
「本当にいいのか、と書きましたが......」
「遠慮しなさんな! うちはペキン出身の薬剤師でね、薬の素材を取って帰るところだったんだよ! それに......」
再び色っぽい目付きを見せた。
「あんたみたいな色男、ほおっておけるわけがないじゃないか」
「......」
......
「なんだい!? その嫌そうな顔は!! だいたいあんたは誘ってないんだけどねえ!!」
「いや、そういう意味では......」
リェンさんは、なぜか男性にだけ怒っているようだ。
やがて、ヘリコプターはブザンのヘリポートに着いた。
「それでは、わたしはこのまちに、しばらくたいざいします。ありがとうございました」
男性は片言で言ったあと、こちらに向かってお辞儀した。そしてすぐにリェンさんに向かってはっきりした言葉を使った。
「リェンさんも、気をつけてくださいね。もう年で......」
「......」
「い、いえ、年をとってもその美貌を拝めることを心から楽しみにしています!」
そう言い残して、男性は去っていった。
「さて、早く出発しようとしようかねえ」
言葉の違いを無視して話すリェンさんに、自分はまた言葉を伝えかけようとした。
しかし、通訳してくれた男性がいなくなってしまったが、耳鳴りの現象もあって、言葉が通じなくてもなんとかいけそうな気がする......
「あんたも男なんだから、しっかりしているだろ? 早く行かんかえ?」
......男性がいた内に、自分の性別を書いておいたほうが良かったのかもしれない。
いかがでしたか?
リェンば......姉さん......また個性的な同行者ですね......
次回もお楽しみに!




