第十五話「透明糸の家」
こんにちは、オロボ46です。
前回、謎の見えない糸によって縛られたユウとサカノさんですが......
それでは、どうぞ。
クモの怪物は、くわえていた男の人の首を投げ飛ばすと、こちらに向かってゆっくりと近づいてきた。
「......思い出した。この怪物は鈍足である代わりに肉眼では見えない糸を吐く。その糸を建物中に巡らせ、入ってきた旅人を糸で巻き付け、ゆっくりと食う怪物じゃ」
サカノさんはバックパックに手を回そうと必死だったが、縛られた手ではバックパックに届くことすらできなかった。この透明な糸は自然に伸びて、食料を包み込んでしまうのだろうか。
すぐにこの怪物を撃退しなければ。しかし、自分の腕はすでに糸で縛られているから武器を取り出すこともできない。あの能力なら......怪物を燃やすあの能力なら、撃退できる。しかし、もしもこの糸が燃えたとした時を考えると......その糸に縛られている自分はとても使う気にはならなかった。
クモの化け物がまた一歩近づいてきた。その後ろの窓に、人影が写った。
......アオヒコさんだ!!
窓から逃げ出せたと思われるアオヒコさんは、窓から中の様子を伺っていた。
「アオヒコくん!! ここじゃ!! 助けてくれえ!!」
サカノさんは大声で叫んだ。しかし、雨の音でかき消されたのか、まったく気づいてくれない。
「仕方ない。ユウちゃん、アオヒコくんに助けを求めてくれんかのう」
ちょうどそうするつもりでいた自分は、アオヒコさんに助けてくれるように伝えた。初めてであるアオヒコさんはパニックになっていたが、動けないことを付け加えてもう一度伝えるとこちらに向かって頷いてくれた。
ギイッ......
やがて、後ろから扉の開く音が聞こえた。その扉の方を見ると、アオヒコさんが扉を開けて入ってきてくれた。しかし、横からはクモの怪物のゆっくりとした足音が聞こえる。
「ユウ......じいさん......助けにきたぜ......」
アオヒコさんはポソリと呟きながら歩み寄る。
「アオヒコくん、ナイフは持っているのかのう?」
「ああ......こいつだろ?」
「よし、わしらは見えない糸で縛られておる。肉を切らないように......ッ!! アオヒコくん!! 後ろじゃ!!」
「は!?」
アオヒコさんは後ろを振り向いた。
そこには二匹のネズミの怪物が着いてきていた。
「うわあああ!?」
ネズミの怪物が飛びかかってくるのに合わせて、アオヒコさんは間一髪横に倒れてかわした。
その音を聞いたクモの怪物はネズミの怪物の方をゆっくりとしたスピードで向いた。ネズミの怪物たちは動きの遅さを馬鹿にするように威嚇している。
ビシュッ!!
クモの怪物の口から、その鈍足に似合わない速さで何かが飛び出してきた。するとネズミの怪物たちは何かに絡まったようにもがき始めた。その様子を見たアオヒコさんは何が起きているのかわからず、固まっていた。
「アオヒコくん!! 固まってはならん!! その見えない糸は動かないものに対して反応し、ゆっくりと絡めていくんじゃ!!」
サカノさんの言葉を聞いたアオヒコさんは素早く立ち上がった。見えない糸が早くもアオヒコさんの体に触れていたのか、少しぎこちない動きだった。
「......!!」
クモの怪物はサカノさんの目の前までやって来ていた。怪物の口から唾が流れ落ちる音がすぐそばで聞こえる。
「じいさん、いま糸を切るから!!」
アオヒコさんはサカノさんの後ろまで来ており、ナイフを手にしている。
「は.....早くしてくれ......ッ!!」
クモの怪物は大きな口を開けて、そこにサカノさんの顔を入れようとしていた。
ガブッ
クモの怪物は力を込めて噛みついた。
自分の出した透明な壁に。
「ふう、助かったわい......」
サカノさんは冷や汗を出しながらこちらを見た。しかし、まだ安心は出来ない。ヘビの怪物はそのまま見えない壁を噛みきろうとしていた。
「ッ!! じいさん!! 切れた感じがしたぜ!!」
アオヒコさんの言葉を聞いてサカノさんはすぐに警棒を手にした。
「ユウちゃん! 一旦能力を消してくれ!!」
サカノさんの言葉に合わせて自分は見えない壁を消した。
ギャビイイイ!!
それに合わせて、サカノさんは警棒を怪物の目に突っ込んだ。八個もある目の中の一つしか刺さらなかったが、悲鳴を上げさせるのには十分だった。
「よしっ!! ユウも切れたぜ!!」
両手が自由になった自分は、すぐにナイフを取りだして身体中の見えない糸を手探りで切った。
「すぐに玄関から脱出するんじゃ!!」
すでに糸を切り終えたサカノさんが叫ぶと、アオヒコさんは真っ先に扉へと走る。
「!! ノブが動かねえ!!」
恐らく、そのノブにも見えない糸が絡み付いているのだろう。
自分が周りを見渡すと、座っていたソファーの後ろの壁に窓があった。それをサカノさんは警棒で割った。
自分たちはログハウスから脱出し、ひたすら走った。息を切らして立ち止まると、もう森の中を抜けて平原に立っていることがわかった。雨はもう止んでいた。
「ぜえ......ぜえ......」
「な......なんとか助かったんだよな......イテテテ!!」
アオヒコさんは踞った。その肘からは血が出ている。
「窓ガラスの破片で切ったようじゃな。ユウちゃん、頼めるかのう?」
自分は頷いて、アオヒコさんの傷に手を触れようとした。
「......? 何しているんだ?」
「ユウちゃん、もう君の能力は見せたじゃろ? 出し惜しみしなくてもいいんじゃ」
自分は、傷を癒す力を使わなかった。力を知られていることを恐れているのではなく、頭痛で力が使えないのでもなかった。その理由を二人に伝える。
「うわ!! また声が頭に......え? トイレ!?」
「は、早く行ってく......」
自分は二人の言葉を聞く前に走り去り、ログハウスで身体を縛られる前から感じていた欲求を満たす方法を草むらで実行しようとした。
「おーい!! 結局俺の傷はどうするんだよおおおお!!?」
いかがでしたか?
どうやらユウは、緊張でトイレのことを忘れていたみたいですね。
次回もお楽しみに!