幼なじみ
家が近く、親同士の気が合い、その上子どもたちの年齢も同じとあっては、子ども同士も仲良くなり自然と一緒に遊ぶようになる。
それは分かる。至って普通のことだろう。
野宮慎は振り返った瀬田めぐみを見て考える。
しかし、高校生にもなって毎日一緒に学校に行く。そんな幼なじみがいるだろうか。
そんなものは漫画やテレビの世界のものだと野宮はずっと思っていた。
「シンちゃん。いまなに考えてたか、あてたげよーか」
めぐみが自分のことを憎からず思ってくれていることは、野宮も知っていた。
彼女は人目を引く美人だったから、野宮も今の関係を甘んじて受け入れている。
もしも醜い容姿であったなら、とうに話しすらしなくなっていただろう。
そんな自分は薄情かと、ふと誰かに聞いてみたくなった。
「亡くなったお姉さんのこと。ちがう?」
まったく苛々する。
めぐみは明るく顔もいいが、人の気持ちをまるで考えない。
天真爛漫と言えば聞こえはいいが、長く付き合っている野宮には自分勝手としか映らなかった。
野宮はめぐみに分かるように、大きく溜息をつく。
「別にシンちゃんのせいじゃないじゃない、ね?」
野宮の胸に黒い記憶が甦ってくる。姉を殺した、その時の記憶。
それは今もなお、ノックをすればすぐ開くドアのように、言葉一つで簡単に取り出すことができた。
二年前――野宮は中学三年生だった。
きっかけは自分の勉強法に姉が口を出したことに端を発する。
受験のストレス、姉に対する嫉妬、的を射た指摘。
それらは殺意となって、野宮に姉を殺すよう命じた。
野宮自身は「いためつける」という言葉が最も適切だと思っているが、実際に姉は死んだのだから、やはり殺意というのかもしれなかった。
その日、姉が浴室に入る前、野宮は入口そばの床にボディソープを大量に撒いた。
野宮は姉の叫ぶ声を聞くため、覗きのように近くに待機していたからすぐに異変に気付いた。
ドアは開けっ放しで、姉の上半身が洗面所に、下半身は浴室に投げ出されていた。
打ちどころが悪く、即死だった。事の重大さに、しばらく野宮の体は動かなかった。
どれくらいそうしていたのか。恐らくほんの数秒のはずだが、野宮には随分と長く感じた。
床をシャワーで洗い流し、そのまま部屋に戻った。体の震えが止まらなかった。
やがて母の、叫びが……。
「おふろで滑っちゃったんだから。そうでしょ?」
野宮は耳を疑った。風呂で滑って死んだ、など近所にはみっともなくて言っていない。
階段から転んだ、ということにしたはずだ。それは親しかっためぐみの家とて例外ではない。
「なんでって顔してる。幼なじみなんだからシンちゃんちのことならなんでも知ってるよ」
笑顔に裏がありそうな気がして、野宮はめぐみの目を正面から見られなかった。