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2、集団面接で雇用主の苦労を知る

*******


――彼の前世云々、肉便器云々ENDの話なんてものは実を言うとそれ程信じていなかったものの。


アレクの告白を受けて数日後。


果たして――確かに彼の言う通り。私は求婚を受けていた。それも複数名から。


「ああ、ローラ嬢っ!やはりあなたはお美しい!!まるで妖精、マイエンジェル!!」


「俺の妻になってください、ローラ嬢!」


「貴様っ何を抜け駆けしようとしているのだ、そうはさせぬぞ!ローラ様、ぜひこのわたしめの妻に」


「何をぅ!!」


「何だとぉ~!!」


「ぬああ~!ローラタソ、ローラタソ、(*´Д`)ハァハァ きゃわわわわ」


……。


何か最後の奴、キモかったわね。

誰かしら。


男性たちを前にして、意識を失うのを辛うじて堪えながらこめかみを揉む。


どうしてこんなことに……。


醜い罵り合いから始まったこの現状。一触即発という言葉がぴったり当てはまる。

今にも男達の取っ組み合いの喧嘩が勃発しそうだ。


目の前で繰り広げられている地獄絵図に。私がやっぱり気を遠くしていると。


アレクがパンパンと手を叩いて、場の鎮圧を図った。


「はいはい、野郎ども静粛に静粛に~。きゃわわなローラタソのハートをくちゅくちゅする為に今日は頑張ってくださいねぇ~」


「……」


私は椅子に座りながら、ジト目で彼を見上げる。

何その司会進行。……キモチワルイ。


目が合ったアレクは何を勘違いしたのか。バチコーンとウインクを返す。


「分かってますよ、お嬢様。あなたのお気持ちは」


いや、別にアイコンタクト取ったわけじゃ……。


「この目の前にいる飢えた獣より、僕の方が顔も体も頭脳も良い男だってことを再認識していただけたんでしょう?良い遺伝子を残せると思いますよ、保証します」


……その中に「性格」は含まれないのね。何故か感心してしまう。


「だからそんな熱の込もった目で見つめないで下さい。まだ外は明るいのに……もう、仕方がないお人だ」


彼は「ふふっ」と喉を鳴らして私の頭を手袋越しに撫でる。


……こいつは一体私の何を分かったつもりでいるのか。

勘違いも甚だしい。


今日も今日とてイケメンのこの執事は。ゲスの極みド変態野郎である。通常運転もすぎる。


「……アレク。これは一体何なのかしら。何がどうなって、今のこの事態に?」


とりあえず彼のボケはさらりと流して。頭の上に置かれた手も振りほどき。

私は説明を求めた。現状把握に努めたいところだ。


「お嬢様が並み居る求婚者をおフリになるご覚悟をめでたく決めたということで。どうせならいっぺんに済ませちゃぉ☆っと思った次第でございます。故に焚き付けて一堂に会して頂きました」


「えええ~~!?」


「僕の半年に及ぶ妨害、嫌がらせ等々をものともせずに選び抜かれた――浴室の黒カビなんて目じゃないしつこさと粘り強さ。そんな野郎共の精鋭部隊ですよ、お嬢様。情けは無用です。心しておフリになって下さいまし」


「ひいぃぁぁ」


恐れおののいた。

この自他ともに認める変態執事が舌を巻く程の、人間的にちょっと欠損しているアレな精鋭部隊。

何ともありがたくない話だ。


だ、大丈夫かしら、私。上手くやれるかな……。


顔を真っ青にして俯いていると。


アレクが視線を合わせるようにして私の前にかがみこみ、その手を取る。


「ローラお嬢様。心配しないで下さい。この僕がついておりますよ」


「アレク……」


「あなたを絶対、この前向きなド変態共から守ってみせますから」


痛ましげに気遣うような彼の表情と、言葉の端々に籠る熱に一瞬浮かされそうになる。

ぎゅっと握り締められた手の力強さが何だろう、とても頼もしい――……


でも。


「いや、これ全部あなたの所為よね。この状況」


曰はく、『前向きなド変態』をかき集めたのはどこのどいつだ。


恋愛経験皆無である私が。当たり前だけど今までの人生経験のおいて男性を振るだなんてこと。そんなハイレベルな事はしたことがない。


にも関わらず。今回1人振るどころか集団で来たこの人達を……?

何という悪い冗談だ。初心者相手にレベル高すぎぃ!どころか雑すぎる対応だ。


彼が本当に有能なのかすら怪しく思えて来た。


私の責めの視線から逃れるように、彼は「……ふっ」と自嘲気味に笑い立ち上がる。

目をギラつかせている男性陣の前にゆっくり歩み出て、「それでは審査を始めます!」と。


こ、こいつ……!何もなかったかのように振る舞い始めた!!


ん?というか……。


私はアレクの袖をつんと引っ張り、耳打ちした。


「ねえ、ちょっと。お父様もお母様もいないのに勝手に始めちゃっていいの?」


「ああ、いいんですよ。どうせ皆さまお振りになるんですし。今回のこれの全権は僕に委ねられてますから。あ、そうそう。『最後だけちょっと覗いてみるわ~』とはおっしゃってましたよ」


「えー……」


つまり両親は面倒くさくて欠席だというわけですか。これは。

最後覗きに来るかどうかも怪しいところだ。

何という出来レース。


「はい、では皆さん。審査は入室時から始まってますよ。では1番さんから一歩前に出て各々1分間の自己PRをどうぞ」


アレクは手に持っていた紙束――恐らく彼らのプロフィール的な資料を手に取り、ペラペラとめくる。

しかし求婚者たちはアレクの仕切りに不平を漏らす。


その内のひとり、2番のプレートを胸に付けた男性がずいっと前に進み出る。


「1分だけの自己PRだなんてっ!彼女と直接話をさせて貰えないのか!?二人で庭を散策しながらとか!」


「2番、あんたアホですか。この僕が大切なお嬢様とあんた達を2人きりにするわけないでしょう」


「な……っ!」


「協調性というものはないんですかね?郷に入れば郷に従え。ワガママで無茶ぶりも激しいうちのお嬢様とお付き合いしたいのならば。水のようにその性格と対応を変える柔軟性と協調性とが必要なんです。この僕のようにね」


……。


なんか今さりげなく私がディスられて、自分を持ち上げなかった?この野郎。


「2番などと……っ!執事風情が無礼な!!よく聞け、私の家はだな……っ!!」


ぱん、と乾いた音が、興奮し叫ぶ彼の発言を中断させた。

アレクが手に持っていた書類を手で叩いたのだ。


「家柄なんてのはただの飾りで記号だ。そんなもん全て取っ払った状態でも輝ける男が、彼女の夫に相応しい。おうちの威光を借りねば女ひとり落とせぬとは……。2番、喚き散らして見苦しいですよ。恥を知りなさい」


2番の彼は羞恥なのか怒りからくるものなのか。顔を真っ赤にしてブルブルと震えている。

感情の昂ぶりによる生理的なものだろう、目にはうっすら涙が溜まっていた。


さすがに不憫に思えた。胸も痛む。


「ね。ちょっとアレク……」


私はふたりきりで散歩くらいどうってことないわよ……、と提案しようとした。


折角来てくれたのだから。最初からお断りするつもりとはいえ、やはりひとりひとり丁寧に接するべきなのではないかしら。


それなのに。


彼は冷めたような目で2番を一瞥。「はい、あんた不合格ね」とぴしゃり。

取り付く島もない。


「温室育ちの貴族のお坊ちゃんの典型ですねぇ。挫折知らないでしょ?あんた。ちょっとキツイこと言われただけでへこたれて、感情的になる。そんなんじゃお嬢様の罵詈雑言シャワーやDVのオンパレードに耐えることなど出来ませんよ。お嬢様のお相手は、逆境に歯を食いしばり岩にしがみつく位の忍耐が必要なんです。……この僕のようにね」


……。


私がいつあなたに罵詈雑言シャワーを浴びせかけたのだ。しかもDVって。

バイオレンスを働いた覚えも一切ないわよ。そしてまたさりげなく自分を持ち上げたわ。


抗議をしようと口を開きかけたところで。


「この私が……不合格だと?」


2番の彼はどこか茫然とした面持ちでぽつりと呟く。


「ええ。あなたにはこのブラックきぎょ……もといお嬢様の夫が務まるように思えません。お引き取りを」


2番の彼は最後に私の方をチラリと見た。目が合ったのは一瞬で。

すぐに恥じ入るように俯いてしまった。


やがて項垂れて、すごすごと退出の為の扉を開けた。


「最終面接に持ち込むまでもありませんでしたね。全く近頃の若者は骨がない」


彼は何だかひと仕事やり終えたような清々しい顔でその後ろ姿を見送る。


「やはりお嬢様を目の前にしたら、これ以上の醜態を見せられないと思ったのか。あっさり引き下がってくれますねぇ。重畳重畳。幸先が良いことです」


私は気になってアレクの執事服の上着をつんつんと引っ張る。


「ねえあなた、さっき私のことブラックなんつった?」


「ハイ、次の猛者ひと~」


「聞きなさいよ!!」



*************

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