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1、BAD END回避のアレコレ

コメディか恋愛か、カテゴリに毎度悩みます。

途中で変えるかも……しれません。

******


――それはよく晴れた秋の日だった。


「……何と言ったのかしら?アレク。良く聞こえなかったわ。もう一度言ってちょうだい」


私は外で午後のお茶会をひとり楽しんでいた。


そんな時に、後ろで控えていた彼からその言葉を聞いたのだ。


主人に振り向かれ名前を呼ばれたアレクはといえば。

その秋空より澄み切ったブルーの瞳を細めて、「僭越ながら……」と。


「ローラお嬢様、あなたは転生者です。しかも……悪役令嬢の」


――ここはゲームの世界なんです、と。


こいつ……ワーカーホリックでとうとう頭おかしくなったな、と思いつつカップに口をつける。

さて、何て言ってあげたらいいのかしら?と思案していると。


「お嬢様、今、『こいつ頭イカレたな』と思いましたでしょ?」


「……思ってないわよ」


「『色々イカレてるけど顔はとびきりイケメンだし、イイ身体してそうだし。あっちも上手そうだから夫にしてやってもいいカナ☆』と思いましたでしょ?お目が高いです、お嬢様」


「思って、いやマジでそれは思ってな……っ!」


「ハイ喜んでー」


「大衆酒場かっ!!てか思ってないって言ってるでしょ!」


テーブルをだん、と叩き黙らせる。

この執事は調子に乗らせてはいけない。


「……で。えーと私がナンダッテ?悪役令嬢??ですって??」


んでもってここがゲームの世界??


アレクは「ええ……」と大きく頷く。

その動作に彼の金髪が日を照り返し、白金プラチナのようにきらりと輝く。


私の赤茶けたかろうじて金髪と呼べる代物とは違う、混じりけなしの綺麗な金。

青い空のような、静かな湖面のようなブルーの瞳。ご婦人やご令嬢方が努力しても中々手に入らないつるりとした陶器のような肌。


憂いを湛えた表情は、先ほどの彼の言ではないが……美丈夫といって差し支えない。つまりイケメンだ。

腹立たしいが、自分で自分のことを顔が良いと言うだけある。


「ここはゲームの世界です。実はひょんなことから僕は前世の記憶を思い出したんですよ」


「ほぉぉ……?」


前世ねぇ……と胡乱気にカップの中に広がるお茶の波紋を見つめる。

お行儀が悪いが頬杖をつきながら。彼以外誰も見ていないから気にならない。


「なんでまた。そんなものを思い出したのかしら?」


「さあ?屋敷の階段を上がったところで。『何で2階に来たんだっけ?』と用事を思い出そうとしたら、前世を思い出してしまいまして」


「『しまいまして』って!前世ってそんなお手軽に思い出せるものなの?!」


「……しかし。ついに2階へ上った用事は思い出せず仕舞いでした……」


そのエピソードにより。今年21の彼がちょっとボケてきているんじゃないかと心配になった。

前世云々の話もそうだ。あたまおかしい。


何というか……


「やっぱりあなた、ちょっと休んだ方がいいわ。働き過ぎよ。何なら伯爵家に帰ったらどう?」


私は彼の肩にぽんと手を置いて大きく頷く。

軽い発言のつもりだったが、言ってからこれは良いアイディアだと思い直した。

それくらいには彼のことを心配している。


アレクはうちと親交がある伯爵家の次男坊だ。つまり父の友人の息子。

この家には単に行儀見習いとして働いているだけで。


いわば、生活に困って働いているわけではないのだから。

明日から働かなくとも生きていけないどころか、実家に帰った方がここより余程か良い生活が送れるだろう。同じ伯爵家といっても家格は彼の家の方が上なのだ。


本来ならいくら行儀見習いとはいえ。

私に頭を垂れ、かしずくような人ではない。


真面目なのか不真面目なのか良く分からない態度の彼だったが、仕事ぶりはそれはそれは大変よろしくて。両親にも気に入られていたり。

私の身の回りの世話なんかも嬉々としてやってくれている。(正直それは行儀見習いの範疇外だと思うのだが)


――この屋敷に来て数年。もう社会勉強なら十分できているのではないだろうか。


アレクは肩に置かれた私の手を取り、ぎゅっと握り締めた。


「僕は大真面目ですよ。真剣にお嬢様の未来を心配しているんです」


「私もよ!私もあなたのことをやや本気で心配し始めているところなのよっ」


「ややって何ですか。そこは全力で心配して欲しい所ですね」


はぁ、つれない人だなぁ。と彼は椅子を引き、私の隣にどっこいせと腰掛ける。

……隣に座ることを許可していないのデスガ。そして何故かまだ手を握られている……。


彼はそっと目を伏せる。遠い過去に想いを馳せるかのように。

金髪の豊かなまつげが影を落とし。一陣の風が彼の前髪をふわりとかき上げた。


「そう僕の前世は、OTK――いわゆる『オタク』と呼ばれる人種でした……」


「……はぁ」


何か語り出した。確かに語り出して良いカンジの雰囲気ではあったが。

しかしこの雰囲気にそぐわない程度には、内容は薄っぺらそうだ。


だがもはや面倒なのでそのままにしておくことに決めた。


彼が訥々と語り出すその内容はツッコミどころ満載だったけれど。

私は黙って最後まで耳を傾けていた。


****



――つまり要約すると、だ。


ここは前世の彼がプレイしていたゲームの世界。いわゆる仮想空間の話で。

良く分からないがシナリオというもので動いている世界らしい。

フラグという選択肢ひとつ選ぶと、訪れる未来が異なって来るそうだ。


「それで私がヒロインではなくて、悪役令嬢役?」


「ええ」


「ふうん。それってヒロインを苛める女の子のことでしょ?」


恋愛小説に置き換えて考えてみる。

そういう意地悪で悪役な女の子は恋愛小説におけるスパイスのひとつだ。


アレクは遠い目をしながら、やがてゆっくりこちらへ向き直る。

握っていた私の手に、指を絡ませて。もう一方の手で挟むように包まれた。


ブルーの瞳に力がこもる。


「お嬢様、良いですか。ここから選択肢をひとつでも間違えるとお嬢様の将来は大変悲惨なことになってしまいます」


「悲惨なこと……」


大概恋愛小説の悪役令嬢もその末路はあまりよろしくない。

ヒロインに意地悪が過ぎて……


「す、好きな男の人と結ばれなかったり……?」


自分が読んできた恋愛小説は大体そんな感じだ。

醜い嫉妬の感情を主人公にぶつけることによって。

ヒーローは遠ざかり、彼女達は永遠に愛を失う。


主人公とヒーローの幸せな姿を見て――

柱の陰からきぃぃーとハンカチを噛み悔しがる……それが私の知る悪役令嬢のお約束END。


しかし私の言に彼は「ぬるい」と首を一つ振る。


「お嬢様の最悪の未来のひとつは……肉便器ENDです」


「に……にく!?」


口をあんぐり開けて、開けて……そのまま閉じることができなかった。驚きで。


「い、一体どこをどうしたら。一応伯爵家の令嬢である私がそんなおかしな未来に辿りつけるのよ!?」


「そこは原作の強制力としか……あ、ちなみにそのゲームって18禁ゲームなんで」


「18禁……!」


眩暈がした。

い、いや。まだ彼の言う事を信じたわけではない。断じて。


彼は神妙な面持ちで指で顎を擦る。

白い手袋に包まれた長い指が妙に色っぽい。しかしまだ一方の手は私の手に絡みついたままだ。

いい加減離してもらえないだろうか。


「お嬢様、よく聞いてくださいまし。ここからがスタートです。お嬢様に降りかかる恋愛フラグを全てクラッシャーしてください」


「れ、れんあいふらぐ……」


「ええ。17でお嬢様が社交界デビューしてからこっち、不届きな輩がボウフラのように沸いて出ている状態なのです」


私は首を傾げた。

ボウフラのように沸いて?全く覚えがないのだが……。


「え。そんなの全然知らないんだけど」


私はその疑問をそのまんま彼に伝えた。


「……お嬢様の肉便器もとい、『イヤなのに感じちゃうビクンビクン』ENDを回避するために、不肖ながらこのわたしめがお嬢様に言い寄ろうとするハエ共を追っ払っておりました」


「あ、ああそう……アリガト?」


私が17でデビュタントしたのはもう半年も前のことだ。

彼はそんな前から前世のことを思い出していたのだろうか。

頭の上でクエスチョンマークが浮いている状態の私にお構いもなしに、話を続けられた。


指をひとつ折り、


「まずはアーネスト公爵の次男坊。彼が求婚してくるはず……断ってください」


「公爵……!うちより格上のお相手にどうやってお断ればいいのよ!?」


「そんなもの。好きな相手がいるとか、もうヤル事ヤッチャッテま~す☆(ゝω・)vキャピ でいいでしょうが」


彼が片手でお腹周りを……お腹が膨らんでいる的ジェスチャーをした。


「コレがコレでコレなもんで……っとか」


「~~ッ!あなたってサイテーね!!」


私は彼に握られた手を振りほどき、顔を真っ赤にして叫ぶ。

こいつはさっきから下品でサイテーでとんだセクハラ野郎だ。


しかし、しかしだ。もし彼のその未来予知?が当たっていたとして。

相手は公爵家――私は先ほどの自分の発言を反芻していた。


「お腹の子の父親役は僕が引き受けましょうか?」


……彼が何か提案をしていた気がするけど。

勿論のこと、私は考え事に夢中でそれどころではない。要は聞いていない。


――そう公爵家を相手に……求婚を断る??


断る方が色々と。その後の人生詰んでいる感があるような……


「ち、ちなみに……その公爵家の求婚を受け入れたら……」


「爆死します」


「ばく……っ!?なんでぇ!?」


彼はまたその憂いを込めた瞳で私を見つめる。

心なしか少し怒気を含んでいるような、そんなため息をつきながら。


「結局、正ヒロインに恋した次男坊は婚約者である貴女が邪魔になるんです。それで薬で眠らせたあなたを廃屋解体作業の現場に置きざりにし……ダイナマイトでドカンと」


「ダ、ダイナマイト!」


「あるんです、この世界に。似つかわしくないんですけど。あるったらあるんです!ちょうどつい最近発明されたところだったんですぅ!」


「まだ何も言ってないわよ!」


しかし廃屋解体作業に使われるなんて。

なかなか近代的である。技術の進歩はすごい。計算とか設計とか色々扱いが難しそうなものなのに。


「それは言ってはいけないお約束ですよ。なんせ頭ゆるゆるパーな18禁乙女ゲームの世界です」


「……何も言ってないったら」


勝手に心を読まないで頂きたい。


なんか疲れた。

やはり彼は私のぐったりした様子などお構いもなしに。またひとつ指を折る。


「次にウルリア子爵家の長男。彼からも求婚が来るはずです……断ってください」


「……それは受け入れたらどうなるのかしら?」


「公開処刑ENDですね」


「……」


一体何がどうなって。

私が王都民の前で処刑されねばならんのだ。


彼は3本目の指を折る。


「それからアガル伯爵家の三男。……断ってください」


「それは受け入れたら……」


「お待ちかね!肉便器ENDです」


「ううう……」


風が吹いたら桶屋が儲かるどころの話ではない。

話が飛躍しすぎだ。


「あ、あと。次に、騎士団副長の……」


彼が次なる人物名を唱えようとしたところを遮るように、私は手をかざした。


「よく分かった。難しく考えるのはやめたわ。つまりこれから来る求婚者を片っ端からフっていけってことね」


彼はええ、と心なしか嬉しそうに頷く。


……何でそんな顔をするのか皆目見当もつかないが。


この人のことだ。私がフラグを必死にクラッシャーする様を想像して面白がっているに違いない。それ位の性格の悪さがこいつにはある。私は知っている。


「いいわ。正直あなたの話を完全に信じたわけじゃないけれど。私もまだ結婚とかしたくないし。やってやろうじゃないの」


そう、自分はまだまだ独身気ままなお嬢様ライフを楽しんでいたいのだ。彼の話とその提案はそんな自分の思惑を邪魔するどころか。利害が一致しているともいえる。


――信じたわけじゃないけど。


占いで悪いことを言われてしまったら気になるのと同じように。もののついでだ。回避出来るように行動しようじゃないか。


立ち上がり、意志を固めるようにぐっと拳を握った。


そんな私の決意を。アレクは「お嬢様オットコマエー」と。



――小さな拍手を以てして歓迎したのだった。





短めで終わる予定。


こんな執事イヤだなぁ!?イヤだなぁ!!(実感)

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