高みの見物
もどかしい二人と愉快な一人のとてつもなく短いお話です。
恋愛ってひとのを見てるのも楽しいのよ。片思いの子の好きな人の話とか、仕事ばかりしてた子の恋愛相談だとか、恋人のこととかを話してるときの皆はとっても可愛いし幸せそうなのよ。だからこの状況は私にとってはすごく面白いのよね。
そう言って彼女はとても愉しそうに笑った。
ここしばらく我が王国軍のリコリッタ・ブロンソン中隊長とダニエル・オブリディア軍師のもどかしい恋愛が密かな話題となっている。
ブロンソン一家は多くの軍人を輩出してきた生粋の軍人一家だ。そこの長女として生まれたリコリッタ中隊長は、三人の弟がいるにもかかわらず中隊長に登りつめたとても優秀な人なのだが、戦略の絡まない感情、特に恋愛事にひどく鈍かった。ダニエル軍師が初恋らしく、まず自覚に時間がかかり、そうして自覚したはいいものの決して素直といえる性格ではないので、ダニエル軍師に皮肉った発言をしてしまい、言った後で自己嫌悪する、というのがもはや恒例化しつつある。最近は物陰で落ち込んだ様子の彼女を見かけることも多い。
彼女がダニエル軍師に惚れていることなど、とてもわかりやすいものだ。
さて、ダニエル軍師のことだが、彼はタイミングが悪いのか、よほどの鈍感かはわからないが、彼女の好意に気付いていない。まぁ、会うたびに皮肉った言い方をされれば嫌われていると思っても仕方がないかもしれないが、少しでも親しくなりたい相手なら気づいてもいいだろう。
軍師という頭脳戦を得意とする彼は好みのタイプは強い女性だというくらい力がないが、見た目だけは貴族ように整った顔をしていた。
黄金色の髪に深い緑の目、ふわりとした笑みは甘い顔立ちを際立たせる。それはもう女性が好みそうな外見に柔らかな物腰ときたら人気がでるというもの。軍師という権力と高給を得た彼に声をかける女性は多かったが、美しい女性と一緒にいたという目撃情報は聞くものの恋人などといった浮ついた話はまるで聞かなかった。
彼ら二人の両片思いという事実は噂としてたちまちのうちに広まった。
彼らの噂の発信源はリコリッタ中隊長の友人であり、ダニエル軍師の義姉、アイリーン・オブリディアである。
軍医である彼女は美しく聡明なだったが、女性らしく他人の恋愛事が大好きであり、二人の恋を応援していないわけではなかったが「一番近くの特等席で見ていたい」と言って積極的に協力しようとせず、噂を嬉嬉として広めた。
それぞれから相談を受けたかもしれない彼女が一言言ってしまえば、もしかしたらすぐ終わったかもしれない二人の恋愛は、彼女の気まぐれと二人のすれ違いで少しばかりの遠回りをする。
きっと今も城内のどこかではリコリッタ中隊長に話しかけるダニエル軍師の姿が見られるだろう。そうしてその後に物陰で落ち込んだ様子のリコリッタ中隊長の姿と愉しげなアイリーン軍医の姿も。
「あーあ、またやっちゃったの?リコちゃん」
「うるさい」
「うーん。どうしたらもっと話せるか…」
今日も今日とて我が王国は平和である。
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(もしかしたら続きがでるかもしれないです…)