第2話
「えー……1618年、当時の神聖ローマ帝国を舞台として……えー……とにかく1648年までやってたのが三十年戦争な。それから『ヒトナゼイッチャウスペインへ』で1070……じゃない1701年のスペイン戦争。ストラテジー? 条約とラシュタット条約だったか。いや、ストラテジーじゃないのはわかってるんだけどなー」
独り言がどこにも跳ね返らないで虚空のカナタに消えていく。耳を塞いで喋ったときだとか、録音した声だとかが普段と違う風に聞こえるというのはよくある話だけど、何も無い空間に向かって喋るのも、やっぱり普段と違う風に聞こえるのかもしれない。
「……」
ところでストラテジーってなんだっけ? ゲームのジャンルでリアルタイムストラテジーとか聞いたことがあるような気はするけど、あまりゲームしないからなぁ。
「……」
それからええと、えー、同年にプロイセン戦争が……じゃない、プロイセン王国が成立して、ヒトナゴムマモナク……
「あ、いや、1756年七年戦争開始……まぁこれは七年後に終わったんだろうな。そしてイーナナローゼドクリツコク。7月4日。インデペンデンスデイ。あの映画好きだったなー」
……。
「……」
あー。
「じゃない、あー」
……。
「……あー」
っじゃな……くないな。うん、声は出てる。じゃなくて。
「じゃなくて、声は出てるから問題ない」
……だめだ。間が持たない。
時計は無い。太陽も星も月も無い。そもそも空が無い、というか景色が無い。自分の身体が見えるから光まで無い訳じゃないだろうけど、自分自身以外何も見えない時間が体感で丸一日以上続いている。まぁ体感時間なんて暇なら暇な程長く感じるし、当てにならないけど……それでもなんだかなぁ……そう、来たときは、ええと、地球……いや、なんだ? 故郷から召還されたときはもっとシュバッと移動して終わりだった気がする。なにぶん10年くらい前のことだからはっきりとしたことはわからないけど、目がくらんで次の瞬間には剣を握って立ってたはずだ。
なのに今回は、魔王の顔面に風穴開けてからどう考えても一時間は待たされてるぞ。サーシスの話だと瞬間的に送り還されるって感じだったのに……いや、来たときと同じくらいの速さで、だったかな? ってあ、ヤバい。服が、制服で召還されたのに向こうに置いてきちまった。替え、家にあるかなぁ。
「って言うか本当にもとの時代に帰れるのか? 少なくとも十年こっちで過ごしたのに、サーシスのせいで年取れなかったんだぞ? 青春の十年がなくなるのは寂しいけど、浦島太郎は本気でごめんだ!!」
……。
「ごめんだ!!!!」
……だめか。
しかしあれだな。まだまだ時間があるみたいだし、ちょっと思い出を振り返りながら問題点を洗い出すか。制服のこととかあるし。