四√壱話 報われたかもしれない人生
happy end がいい人はこちらを
校門の近くに咲いている躑躅【ツツジ】がそよ風に搖れる。
そこには黒く夕日を反射させる、長髪を抑えた凪子さんの姿があった。冷静になってた僕は、無駄な期待は(していなかったと言ったら嘘になるが)持っていなかった。おそらく、忘れ物か伝言の類だろう。いや、むしろ凪子さん経由での告白か?
と自問自答していると潤った唇が動いた。
「これ、落としたでしょ」
手には、僕の定期があった。その時の僕は「うっひょー!凪子さんに触ってもらった定期ぃ!一生大事にしなきゃ!!」てな感じだったので、彼女の二発目の発声に気がつけなかった。なので
「え、何かいった?」
問うと凪子さんは
「私たち、家が近いのにこれまでそんなに話したことなかったよね?」
と、定型文がとんできた。そう、こういう相手には話題が無くなったらこれが一番いいのである。これは男女関係なく使えるぞ!
「そ、そうだね。まあ、凪子さん有名だから僕は知ってたけど」
よし、吃らずに言えた。すると
「けど、君も私の中では有名だったよ?」
一瞬頭が思考停止した。その後、その文に何が込められているのかを問おうとした時、彼女の唇が僕の–––
という想像をしてしまう僕が怖い。
現実は、普通に定期を渡して、そのまま彼女は去っていった。これが普通。
自慢じゃないが、定期にメッセージカードが挟まっていたことに気がついたのは、それから2週間も後のことになる。