第九話 『烈風の勇者』ルト
☆
朝、新魔王が城の庭を通りがかると、両手いっぱいに枝を抱えたダーキルを見つけた。
「おはおーございます、新魔王様」
「何してんだ、お前」
「これから焚き火をするのです」
「焚き火?」
「こほん。……出でよ、イフリート的な何か!」
「イフリートじゃねえのかよ」
「この際、火が付けば何だって構いません」
ダーキルが手を掲げると、庭の中央に積まれた枝が、パチパチと音を立てて燃え上がった。
「イモでも焼くのか」
「おイモも焼きますが、目的はコレの焼却処分です」
「……なんだ、この白い布切れの山は」
「ダーキルの使用済みオムツです」
「どんだけ溜め込んでんだよ! ちゃんと毎日捨てろよ!」
「それが、どうにも愛着が湧いてしまいまして」
「使用済みオムツに愛着とか、意味が分からん! どこに置いていたんだよ、これだけの量」
「もちろん、ダーキルのお部屋です」
「うわ、臭そう」
「臭くないです。ダーキルのおしっこは、ほんのり甘くて無臭です」
「甘いって、確かめたのか?」
「新魔王様はご存じないと思いますが、この魔界においては、淑女が自らの尿を嗜むことは常識なのです」
「マジで?」
「はい、嘘です」
「……」
「あいた! かなり強めに叩かれました!」
「しょうもない嘘をつくからだ!」
涙目で頭を押さえたダーキルは、オムツの山から一つを手に取った。
その表面を愛おしげに撫でながら、切なそうに溜息をつく。
「忘れもいたしません。このオムツは、初めて新魔王様からプレゼントされたオムツ。ダーキルの大切な思い出です」
「頬ずりをするなよ、ばっちい!」
「ばっちくないです。まだサラサラしていますし、もう一回くらいなら使えるかも」
「使うな! さっさと処分しろ!」
「名残惜しいですが、仕方ありません……えーいっ」
炎の中に放り込まれたオムツは、きらきらと虹色の光を放ちながら燃え上がった。
「無駄にエフェクトが綺麗でイラつくんだが?」
「見て下さい、新魔王様! あれを――」
「な、なんだ!? 空中に城内の映像が出ているぞ!?」
「間違いありません! あれは初めてオムツを使った時に、ダーキルが見ていた景色です! オムツに刻まれた記憶が、燃え尽きる最期に映し出されているのです!」
「どんなイリュージョンだよ! オムツにそんな機能はねーよ!」
「映像が切り替わりました。どうやら、ダーキルが放尿していた時間だけ再生されるようですね。面白いので、どんどんオムツを投げ込みましょう」
「たしかここは……ハイなんとかって奴の屋敷だな」
「最強最悪の吸血鬼でしたが、新魔王様が空気を読まずに瞬殺してしまいましたね」
「その場面を見ながら放尿しているお前もどうかと思うぞ?」
「今度は、食事をしている最中のようです」
「食べながら出してんじゃねえよ!」
「新魔王様に無理やり納豆を食べさせられているところですね」
「ああ、あの時のお前は傑作だったな! あっはっは!」
「むー……」
「今度は、見覚えのない場所が出て来たぞ」
「ノールロジカの口喧嘩大会に出場していた時ですね。準々決勝の舞台です」
「よくもこんな状況で、放尿しようと思えるな」
「ゼッカさんが出て来ましたね。わざわざ制服を着るのを待ってから、誘拐したのですよ」
「その判断は褒めてやりたいところだが、今となっては悔やまれる問題だ」
「ゼッカさんは怖いですからね。さすがのダーキルも緊張して、この時ばかりは素でお漏らしをしてしまいました」
「まずは素じゃないお漏らしをやめような?」
「ここはオーベストークのお城ですね。新魔王様の攻撃で、大賢者エリオストの首が転がった瞬間です」
「お前の放尿のタイミングがまったく理解できない……」
「お次は、布団の中です。割合的には、やはり一番多いですね。そろそろ、お布団の濡れた感触が恋しくなってきました」
「……おい、見覚えのあるエロ動画が再生されているぞ?」
「ということは、パソコンの前ですね。さすがのダーキルも、新魔王様の側で一人遊びをすることは出来ません。せいぜい放尿するのが限界です」
「せいぜいじゃねえよ! 俺の椅子で放尿するなっての!」
「……こ、これはいけません! 新魔王様、見ないでください!」
「見ないでって……俺の寝顔じゃねえか!」
「これはその……オムツが勝手に……」
「そんなワケあるか! いつの間に忍びこんだんだ!?」
「あいた! これは迂闊でした……」
「よし、他のオムツもどんどん燃やすぞ! お前の悪行を暴いてやる!」
「や、やめてください、これ以上は……」
「観念しろ! オムツは全てを見ていたのだ!」
「ああっ、オムツのせいでダーキルのプライバシーが漏洩しちゃいます! お漏らしだけに!」
「やかましいわ!」
「さて、これが最後の一枚だな」
「あんなにあったオムツが……なんだか切ないですね」
「切なくねーよ。ほら、さっさと燃やせ」
「はーい。それっ」
「……風呂上がりの俺が映っているな」
「覗きなんて、いけないオムツちゃんです!」
「お前だよ!」
「あいた! うう……叩かれ過ぎて、ダーキルの頭がたんこぶだらけになってしまいました」
「自業自得だ!」
「……しかし、こうして見ると、短い間に色々なことがありましたね」
「最終回っぽい雰囲気を出してんじゃねーよ。オムツを炎に放り投げてのエンドロールなんて、最悪にも程があるわ。つーか、ただの放尿ハイライトだからな、これ」
「イフリート的な何かさん、お疲れ様でした。もう帰っていいですよ~」
「イフリート的な何かさんも良い迷惑だろう。召喚されたと思ったら、大量のオムツを焼かされたのだからな」
「でも、喜んでいますよ? 見て下さい、去りゆくイフリート的な何かさんの炎の形を――」
「めっちゃ笑顔だ! 満面の笑みだよ! 変態的な何かさんじゃねーか!」
「無理もありません。全魔界で一番人気、比類なき闇の宝石と謳われるダーキル姫の使用済みオムツですからね。天上の神々も、オムツを燃やした煙に群がっていることと思います」
「そんな神々、すぐに滅ぼしてやる!」
「さて、ダーキルの使用済みオムツは無くなってしまいましたが、これは新たな始まりでもあるのです」
「良い話みたいに〆るなよ」
「そして今、ダーキルは新たな一歩を踏み出しました」
「さっそく放尿してんじゃねえよ!」
「またオムツが溜まったら、新魔王様と並んで焼却処分をしたいですね」
「頼むから、毎日処分してくれ……」
「おイモも美味しく焼き上がりました。新魔王様もいかがです?」
「使用済みオムツで焼いたイモなど食えるか!」
「もぐもぐ……甘くて美味しいです! 新魔王様、冷え冷えのミルクをください」
「はいはい……」
★
「お呼びでしょうか、新魔王様」
「……ダーキルよ。この世で最も強く、最も鬼畜で外道な存在とは誰のことだ」
「はい、それは新魔王様です」
「その通りだ。しかし俺は、ミラーナを陵辱することが出来なかった。何故だと思う」
「それは単に、新魔王様の気分が乗らなかっただけのことかと……」
「無論、それもある。しかし俺は、ある一つの事実を認めないわけにはいかないのだ」
「と、いいますと?」
「あろうことか……ああ、あろうことか! 鬼畜ハーレム道を極めんとする俺にも、ほんの一握り……いや、一つまみ分だけ、人間としての心が残っていたのだ! それが僅かな情けとなり、あの時、陵辱を続けることが出来なかったのだ!」
「まさか、そんな! 新魔王様に人間の心が残っていたなんて!」
「驚いたのは俺も同じだ。しかし真の強者は、己の非や過ちを認めることが出来る。俺は俺の中にある甘さを認め、これを改める決意をした!」
「道理で今日の新魔王様は、朝から悪のオーラが半端ないと思っていたのです!」
「ふはははは! そうだろう、そうだろう! 鬼畜エロゲを夜通しでプレイし、入念なシミュレートを繰り返した俺に隙はない! もはや俺は、感情を失くした悲しき陵辱マシーンなのだ!」
「感情を失くした悲しき陵辱マシーン! ダーキルは恐ろしさの余りに、笑いが……じゃなかった、震えが止まりません!」
「はーっはっはっは! 今日の俺はこれまでの俺ではない! 新魔王を超えた新魔王、超新魔王様なのだ! さあ、覚悟しろよ、美少女ども!」
★
「というわけで、やってきました201号室です。ついに新魔王様のハーレムも、新たな階層に来ましたね」
「うむ。この勢いで、天界まで続く鬼畜ハーレムの城を築いてみせよう」
「この201号室には、そんな新魔王様の新たな門出に相応しいハーレム要員を捕らえております。『烈風の勇者』として武勲誉れ高い、勇者ルトさんですね」
「やはり、魔王と来れば勇者が定番だな。真の力に目覚めた俺の、最初の生贄に相応しい存在と言えよう」
「その強さばかりでなく、端正な顔立ちから『可愛すぎる勇者様』として世界各地で人気を集めています」
「ボーイッシュな子も良いものだ」
「勇者ルトさんですが、魔王ムシュトワールを征伐するべく、遥か東の大国『エルハンス』より旅を続けていました。ペスパの村でミラーナさんを助けた後、次の町へ向かう途中で、ダーキルにさらわれてしまいます」
「ほう……魔王ムシュトワールとは、お前の父親のことだったな」
「……そうでしたっけ?」
「お前が忘れてどうすんだよ!」
「ダーキルは、興味のないことは忘れてしまうのです」
「父親だろ!? さすがの俺も同情するわ!」
「それで、魔王マッシュルームの配下である――」
「もう名前忘れてるよ! マッシュルームじゃなくてムシュトワールだよ!」
「はい、その魔王ムシュトワール配下の四天王が一人、『炎獄のフランなんとか』が、勇者ルトさんによって倒されています」
「四天王の名前くらいは覚えてあげようぜ!? お前も一応は姫だったんだろ!? せっかく四天王まで上り詰めたんだからさあ!!」
「さて、そんな勇者ルトさんですが、出生は――」
「いや、詳しい報告は不要だ」
「よろしいのですか? 日頃から新魔王様は、陵辱されるまでのストーリーが大事だと仰っていましたのに」
「魔王を倒しに来た女勇者、今はそれだけ分かれば十分だ。後は本人の口から直接に聞く」
「ですが、ルトさんは――」
「ああそうだ、201号室に入ったら、俺のことは新魔王と呼ばないようにな」
「どうしてです?」
「ミラーナの話を聞いていなかったのか。今や新魔王は、人間界で英雄と呼ばれているのだぞ」
「なるほど、そうでした。ルトさんも新魔王様のご活躍を知っているかもしれませんね」
「英雄などと勘違いされては、陵辱の雰囲気がぶち壊されてしまう。よって俺は、奴が倒そうと追っていた『ムシュトワール』を名乗ることにする」
「ムシュトワール……たしか、四天王が一人――」
「魔王だよ! お前の父親だよ!」
「あ、そうでした」
「酷過ぎるだろお前……まあいい、行くぞ!」
「はい、マッシュルーム様」
「だから違うって!」
★
新魔王は気を取り直し、鬼畜エネルギーを十分に高めてから、201号室の扉を開ける。
両手両足を呪印に囚われた勇者ルトは、部屋に入って来た新魔王を見ると、強い敵意を込めて睨みつけた。
「ほほう……これは美しい勇者様だ。その双眸に浮かぶは、選ばれし者のみが持つ破邪の輝きよ!」
「お、お前は……!」
「ククク……ようこそ、魔王城へ! 我が名は魔王ムシュトワールなり!」
「ムシュトワール……! まさか、そんな……!」
「ふはははは! 勇者ルトよ、貴様の旅もここで終焉を迎えるのだ!」
「くっ……殺すなら、さっさと殺せ!」
「殺すだと? 笑わせるな! 魔王ムシュトワール様に刃向かった者には、死よりも重い罪――――永遠に続く恥辱の苦しみが与えられるのだ!」
「……ぼ、ボクに何をする気だ!」
「貴様とてガキではない。自分がどんな目に遭うのか、想像くらいは出来るだろう?」
空中に現れた真空の刃が、勇者ルトの衣服を少しずつ切り裂いていく。
太ももや二の腕、お腹などの白い肌が露わになると、ルトは羞恥に身を震わせ、逃れようと必死に体を動かした。
しかし、その手足に施された呪印の鎖は、びくともしない。
「や、やめろ!」
「女だてらに戦ってきたことは褒めてやる。しかし、相手を間違えたようだな」
「……っ!? ぼ、ボクは女じゃない! 男だ!」
「逃れるための抗弁にしては無理があるな! 見苦しいぞ、勇者ルト!」
「う、嘘じゃない! ボクは伝説の勇者リューガの息子、ルト・エランブルムだ! 誇り高き勇者の末裔なんだ!」
「戯言を言うな! 貴様のような可愛い子が、男の子のワケがないだろう!」
「うう……魔王ムシュトワールにまで、女の子扱いをされるなんて……ぐすっ……ひっく……」
突然、泣きだしたルトに、新魔王は困惑する。
撮影を続けているダーキルの手を引っ張ると、部屋の隅にしゃがみ込んだ。
「おい、なんかあいつ、普通に泣きだしたぞ」
「ダーキルの情報によりますと、ルトさんは女の子扱いをされることがトラウマになっているようです」
「女の子扱いって、別に泣くほどのことか?」
「人のトラウマは、どこにあるか分からないものですよ」
「それはそうだが――……ってお前、いま何て言った?」
「はあ……ルトさんは、女の子扱いをされるのがトラウマになっているようだと申し上げましたが、それが何か?」
「それが何か、じゃねえよ! 『女の子扱い』って、まさかあいつ……男なのか!?」
「ええ、そうですよ」
「……」
「……」
「馬! 鹿! か! お! ま! え! は!」
「そんなに怖い顔を近づけないでください、興奮してしまいます」
「なんで男を連れて来るんだよ! 俺にはそんな趣味はねえよ!」
「ダーキルも驚きました。てっきり女の子だと思っていたのですが、確認いたしましたところ、処女膜がないのです。代わりに、小さなソーセージがありました」
「どうして俺に報告しないんだ!」
「報告は要らないと仰ったのは、新魔王様ではありませんか」
「そ、それはそうだが……」
「別に、男の子でも問題ないではありませんか。新魔王様は先日、『胸の有る無しは大した問題ではない。劣情を掻き立てる表情で、俺を興奮させることが出来るかどうかが大事なのだ』と仰っていましたし」
「胸はともかく、ソーセージの有る無しは大問題だろうが! 普通に考えて分からないのか!」
「ですが先日、パソコンで見た動画投稿サイトでは、ランキング上位に男性同士の絡みネタがありましたので……新魔王様がいた世界では、それが一般的なのかと」
「一般的じゃねーよ! あれは一部のホモと予備群が大声ではしゃいでいるだけだっての!」
「『男の娘』というのも流行っているようですし」
「どんなに可愛くたって、男は男! 俺にそんな趣味はない!」
「そうですか……しかし、ルトさんをご覧下さい。絶望と悲しみ、屈辱に満ちたあの表情は、陵辱される寸前の表情コレクターである新魔王を、十分に満足させるものですよね」
「まあ……顔だけ見ればな」
「では、顔だけ見ていれば良いではないですか」
「……はい?」
「そもそも、誰がルトさんを男の子だと決めたのです?」
「さっき自分で言っただろうが」
「たしかに、ダーキルはルトさんが男の子だと言いました。ルトさんも自分が男の子だと主張しています。しかし、新魔王様が直接に確認したわけではありませんよね? 二人が嘘をついている可能性だってあります。もしかしたらルトさんは、胸が無いだけの女の子かもしれませんよ?」
「何を言っているんだ、お前は」
「お弁当箱の中にソーセージが入っているかどうかは、お弁当箱を開けるまでは分かりません。実際に開けてみるまでは不確定な状況なのです。ですから新魔王様は、お弁当箱を開けることなく、お弁当箱を眺めて楽しめば良いのです」
「……な、なんだか頭が変になってきたぞ!? 要するに、ついているのか、いないのか、どっちなんだ!?」
「ついているのか、いないのか、それは問題ではありません。新魔王様が、事の真偽を確認しなければ良いだけの話です。それにこれは、新魔王様にとっても良い機会ではありませんか」
「良い機会だと……?」
「はい。新魔王様の心に、一片だけ残った人間としての情け……その最後の良心を消し去る練習相手としては、男の子かもしれないルトさんは最適です。相手が男の子であれば、平気で体を触ることも出来るでしょう。泣かせたって良心は痛みません。なにせ勇者なのですから、痛みや苦しみにも慣れっこのはずです」
「何が言いたいのだ」
「ダーキルからの提案です。ここは一つ、ルトさんを陵辱プレイの練習台として使ってみてはいかがでしょうか。ぶっつけ本番で失敗をしてしまうと、新魔王様のスライムなメンタルに傷がついてしまう恐れがあります。頭の中のシミュレーションだけではなく、実戦を想定しての練習の方が、きっと身になると思います」
「練習台……」
「そうです。ルトさんが男の子だという可能性はありますが、仮に男の子だったとしても、練習であれば問題ありません。ホモ認定や、男の娘マニア認定もされないでしょう」
「そ、そうかなー! 十分に問題があるんじゃないかなー!」
「……お言葉ですが、新魔王様。貴方が目指される鬼畜ハーレム道とは、その程度の物なのですか?」
「な、なんだと!」
「より素晴らしい陵辱プレイの為であれば、どんな犠牲をも厭わない、鬼畜と外道の頂点を極めんとするお方……それが新魔王様であると、ダーキルは思っておりました」
「その通りだ! 俺こそが鬼畜ハーレム界の頂点に立つ男、新魔王様だ!」
「――であれば、新魔王様は陵辱プレイのスキルを高めるために、例え男の娘が相手であろうとも、貪欲に研究をするべきなのではないですか? それなのに、たかだかソーセージ一つで右往左往……正直、ダーキルはがっかりです」
「き、貴様、言わせておけば……! いいだろう! そこまで言うのであれば、この新魔王の真の恐ろしさを見せつけてくれるわ!」
「……ふふ」
「ぐすっ……ひっく……」
「おい! いつまでメソメソ泣いている! 貴様、それでも勇者か!」
「そ、そうだ! ボクは勇者なんだ! それなのに、みんながボクを女の子みたいだって――」
「たしかに、この俺をも欺くほどの可愛さだからな! さぞかし、多くの男たちに言い寄られたのだろう!」
「……っ」
「ククク……案外、まんざらでもなかったのではないか?」
「そ、そんなことはない! ボクは男だ! 男に言い寄られて、嬉しくなんてあるものか!」
「ほう……では貴様、女を抱いたことはあるのか」
ルトは頬を赤らめると、涙の浮いた瞳で新魔王を睨みつけた。
「そんなこと、なんでボクがお前に言わなくちゃいけないんだ!」
「いいのか、そんな態度を取って。この城には、お前が助けたシスター・ミラーナもいるのだぞ?」
「なっ……!」
「返答次第では、ミラーナに良くないことが起こるかもしれんなあ……」
「くっ……」
「さあ、答えるのだ!」
「……な、ない! 女の子を抱いたことなんて……」
「ククク……では、男に抱かれたことはあるのか」
「あ、あるわけないだろう! ボクを侮辱するな!」
「ほう……」
新魔王は下卑た笑みを浮かべながら、ルトに近づいた。
その顎を持ち上げて顔を寄せると、ルトは「ひっ」と小さく息を呑み、瞳を彷徨わせる。
「ではこの俺が、貴様の初めての男になるというわけだ」
「は、初めてって……ボクは男だって言ったじゃないか! 男同士でなんて、そんな――」
「お前が男であるか、女であるかは関係ない。その魂が折れるまで、ただ陵辱し続けるだけだ。……さて、どんな快楽を与えてやろうか……クックック……!」
「や、やめろ……ボクは男なんだぞっ……勇者なんだぞっ……!」
ルトが陵辱の恐怖に怯えきったところで、新魔王は至近距離で撮影を続けているダーキルの手を引っ張り、部屋の隅へ行ってしゃがみ込む。
「見たか、この俺の鬼畜陵辱っぷりを!」
「お見事です! 地獄の悪鬼もドン引きする、新魔王様の鬼畜っぷり! ばっちりと撮影させて頂きました! ハァハァ……」
「はーっはっは! 俺が本気を出せば、ざっとこんなものだ!」
「あまりの恐ろしさに、今夜のダーキルは一睡も出来ません! この動画はもう、永久保存版で――」
「……おい、鼻血が出ているぞ」
新魔王は丸めたティッシュをダーキルの鼻に突っ込むと、恐怖に全身を震わせている勇者ルトを一瞥した。
「今日のところは見逃してやる。だが、いつ俺がその気になるかは分からんぞ。俺の足音を聞くたびに、せいぜい震えあがることだな!」
「ま、負けるものか! どんな辱めを受けたって、ボクは勇者なんだ……勇者ルトなんだ!」
「クックック! その目がいつまで続くのか、実に楽しみだ!」
意気揚々と201号室を出た新魔王は、一つ大きな息をつくと、がくりと地面に膝をついた。
「……何をやっているのだ、俺は……男相手に……」
「カッコ良かったですよ、新魔王様。大丈夫、辛いのは最初だけです。二回目、三回目と続けて行くうちに、慣れて来ますよ」
「慣れるものかよ! なにが『この俺が、貴様の初めての男になるというわけだ』だよ! 俺も初めてだよ! 絶対にイヤだよ!」
「落ち着いてください、新魔王様。あくまで練習です、練習」
「はあ、はあ……頭が痛くなってきた……」
「しかし、本当にお見事でした。新魔王様こそ、鬼畜ハーレム界の頂点に立つお方だと、ダーキルは確信いたしました。先程は失礼なことを言って、申し訳ありませんでした」
「まあ……分かってくれれば良いのだ……」
「新魔王様、どちらへ?」
「今日はもう疲れた……寝ることにする……」
「そうですか。ごゆっくり、お休みくださいませ」
とぼとぼと歩いていく新魔王の背中を見送りながら、ダーキルはビデオカメラを天高く突き上げたのだった。
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-----現在のハーレム状況-----
【101号室 ドロシー(オークの姫)】
例えばオークしか出ないアニメがあるとして、ドロシーがその中で一番可愛いキャラであるということは理解できる。
しかしだからといって、欲情出来るわけではない。
【102号室 名前不明(エルフの少女)】
「パパ」と「ママ」以外の言葉は話さない。
自分の名前くらいは思い出してもらいたいものだ。
【103号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】
なんとかして弱点を見つけなければ……
大きなダムも、僅かな傷で崩壊させることが出来るのだ。
【104号室 ミラーナ(巨乳のシスター)】
孤児院の子どもたちについて相談を受けた。
それについては、俺に良い考えがある。ククク……
【107号室 ノーラ(アンデット少女)】
城内を歩いていると、突然に出て来て俺を脅かしてくる。
見た目が見た目だけに洒落にならない。特に夜はヤバい。
【201号室 ルト(男の娘勇者)】
ダーキルの勧めで、今後も練習台として使うことになった。
俺としては、気が進まないのだが……。




