第八話 『神眼の聖女』ミラーナ
☆
新魔王が窓の外を見ると、制服を着たゼッカが魔王城を出て行くところだった。
数メートル先に作ったワープホールは、ノールロジカ魔法学校の正門に繋がっている。
「ククク……泳がされているとも知らずに、呑気に登校しておるわ!」
「魔王城に幽閉していては、ゼッカさんの弱味を握ることが出来ませんからね。あえて自由に行動させることで、隙を作る……新魔王様の恐るべき智略です!」
「うむ! 決してゼッカに『学校へ行かせないと精神的に殺す』と脅されたからではないし、『いっそこのまま戻って来なければいいのに』なんて思っていないからな!」
「あ、ゼッカさんがこっちを見ましたよ」
「まずい、隠れろ!」
「……やれやれと溜息をついて、ワープホールに入っていきました。新魔王様が持たせたお弁当も、忘れずに持っているようです」
「ククク……馬鹿め! あの弁当は、ただの弁当ではない!」
「と、申されますと?」
「わざわざ俺が、好き嫌いの分かれそうな食材を選んで作ったのだ! おかずを残して戻ってくれば、それをネタに奴を追い詰めることが出来る!」
「なんて恐ろしい……昼食という、誰もが気を許してしまう時間に周到な罠を仕掛けるなんて、想像を絶する外道です。ダーキルは尿意で震えが止まりません」
「はーっはっはっは! 鬼畜的発想において、この新魔王様の右に出る者はおらぬ!」
「ええ、本当に……ふぅ」
「……お前、いま放尿してただろ!」
「気付かれてしまいましたか……何を隠そう、新魔王様が気付かれないタイミングでオムションすることが、最近のダーキルの楽しみなのです」
「最悪だよ! こっそりオカズにされている美少女の気分だよ!」
「いつもお世話になっております」
「AV女優にお礼を言うファンみたいなこと言うなよ!」
「新魔王様と他愛のない世間話をしている時や、就寝前のご挨拶をしている時など、何気ない日常の中にこそ背徳感があることを、ダーキルは発見いたしました」
「寝る前くらいは気持ち良く挨拶しようよ! 日常くらいは何気なく過ごそうよ!」
「もちろん、不意に新魔王様との距離が近づいた瞬間や、パソコンでエッチな動画を見ている最中の放尿には、格別のエクスタシーがあります。どれも違ってどれも良い、奥が深いですね」
「言っておくが、お前の性癖を深めるためにオムツをやったのではないからな!? そんな使い方をするから、オムツをいくら追加しても足りないのだ! お前には羞恥心というものがないのか!」
「ありますよ。だから気持ち良いのです」
「ぐぬぬ……論破されてしまった」
「ですが、オムツを止めてしまいますと、元のおねしょダーキルに戻ってしまいますよ? お布団と濡れたパジャマの感触も恋しくなってきた頃なので、ダーキルとしては一向に問題ありませんが」
「……いっそのこと、お前の尿道にもワープホールを作ってやろうか」
「いいですね。膀胱まで繋げてください」
「それでは無限ループだろうが!」
★
「もういい! そんなことより、次のハーレム要員についてだが……」
「分かっております、新魔王様。リアクションが強ければ良いというものではない。適度に女の子らしいリアクションをする美少女を連れて来い、ということですよね」
「ほう、察しが良いな。いざ陵辱を楽しもうという時に、ゼッカのようなガチ説教や罵詈雑言を吐かれては、興が殺がれるというものだ」
「お任せください。ダーキルは新魔王様が喜ばれるようなリアクションを研究するべく、新魔王様のお気に入り動画フォルダを片っ端から閲覧いたしました。対策はバッチリです」
「おお、これは心強い……って、勝手に俺のフォルダを見てんじゃねえよ! パスワードはどうやって――」
「適当にレイプと三回打ったら解除されました」
「勘の良い奴め!」
「驚きました。まさか、ダーキルのフォルダと同じパスワードだったとは」
「…………」
「どうされました、新魔王様? 無言で机に伏せられて……」
★
「さて、104号室です! ビックリドッキリ、新しいハーレム要員の登場ですよ!」
「うむ、ご苦労。今度はどんな美少女なのだ?」
「期待してください。アルテナ神教を信仰する、敬虔なシスターさんです」
「おお! シスターと言えば、女騎士と並ぶ被陵辱の鉄板職業! 神へ捧げられた清らかな身体を力づくで陵辱する背徳感は、まさに神からの寝取りプレイ!」
「くふふ……好きモノですなあ、新魔王様も」
「ふひひ……さすがに良いツボを突いてくるのう、ダーキル」
「それでは早速、ダーキルのレポートをお送りいたします。こちらの動画をご覧くださ~い」
★
「ここは……教会のようだな。かなり寂れているが」
「『ペスパ』という田舎町にある教会です。隣接する孤児院には、各地から身よりのない子どもたちが集まって来ます」
「たしかに、ボロ布を着た子どもが大勢いるな」
「今、画面に入ってきた修道服の女性が『シスター・ミラーナ』さんです。17歳の割には大人びた雰囲気をしていますが、見ての通り――――」
「胸がでかい!」
「はい、悪魔に魂を売ったとしか思えない巨乳ちゃんです。ダーキルも着やせするタイプですが、ミラーナさんには敵いませんね」
「見た感じ、癒し系お姉さんタイプか! いいね!」
「歩くたびに、胸がたゆんたゆんしています。実にけしからんおっぱいです」
「……それより、子どもたちに配っているパンが、ほとんどカビだらけなのだが」
「ペスパ孤児院は、深刻な財政難にあるようですね。食事はカビたパンと、塩を一つまみ入れただけのスープです」
「食えるのかよ、あんなもの……」
「死ぬよりはマシでしょう。この一帯では重税に加えて凶作が続いており、餓えて死ぬ人間も珍しくはありません」
「むう……」
「もともとミラーナさんは裕福な生まれで、アルテナ神国で最も格の高い『アルテナ神団』に所属していました。しかしある時、ミラーナさんは裕福な生活の裏側で、多くの人々が貧困に苦しんでいるという事実を知ったのです。ミラーナさんは約束された地位と身分を捨てて、各地の孤児院を支援して回るようになりました」
「なるほど、たしかにミラーナの物腰には品の良さを感じるな」
「ミラーナさんは『神眼の聖女』と呼ばれていました。彼女には特別な力があまして、その眼に映る者は、魂の善悪を見抜かれてしまうそうです。そのせいで、神団の一部の人間からは煙たく思われていたようですね」
「宗教をやっているからといって、善人だとは限らないからな。神を後ろ盾にして、好き勝手にやろうという不遜の輩も大勢いるだろう。それを暴かれてしまっては、たまったものではない」
ミラーナは、ナイフでパンのカビを削り、柔らかい部分を子どもたちに与えていた。
カビの多く残る硬い部分を、子どもたちに気付かれないように、そっと自分の口に運んでいる。
「……裕福な生活を捨ててまで、貧困に苦しむ子供たちを助けようとは見上げたものだ。寄付くらいなら誰にでも出来ることだが、それは生活に影響の出ない範囲でのことだからな」
「既にミラーナさんは、ご自身の財産を使い果たしてしまいました。見て下さい、いかにも柄の悪い男たちが、ミラーナさんに集まって来ます」
「金銭のトラブルか?」
「お察しの通り、『貸した金を返せ、さもなくばお前の体で払ってもらう』といった内容ですね。悪徳の高利貸しですが、裏で糸を引いているのは、アルテナ神団でミラーナさんに目を付けていた幹部の男だったりします」
「……定番の展開だな。神に仕える者とは、聞いて呆れる」
「そこへ偶然、一人の勇者様が通りがかりました。名前はルトさんと言います。見目麗しい、男装の令嬢といった出で立ちですね」
「おお、勇者か!」
「高利貸しの男たちと小競り合いになりますが、そこはさすがの勇者様――」
「男たちをあっさりと片付けたぞ」
「それもそのはず、勇者ルトさんは西方の大国グラン=ウェスタリアの武芸大会で、優勝するほどの腕前です。このような小物では、相手にもなりませんね」
「小柄だが、大した技とスピードだ」
「さて、ミラーナさんの相談を受けた勇者ルトさんは、ミラーナさんと一緒に、北の洞窟に眠っていると噂の宝物を取りに向かいます。その辺りのシーンは、長いのでカットいたしますね。もし興味がございましたら、『だあきるのふおるだ』をご覧ください」
「うむ、サクサク行こう」
「洞窟の魔物を倒したお二人は、孤児院に宝物を持ち帰りました。これで明日から、子どもたちに柔らかいパンと、お肉の入ったスープを食べさせてあげることが出来ます」
「先ほどから、勇者ルトの姿が見えないようだが」
「いつの間にか、ルトさんは姿を消していました。きっと次の目的地へ向かったのでしょう」
「勇者らしくてカッコいいな。ちょっとときめいたぞ」
「さて、ミラーナさんの周りに、笑顔の子どもたちが集まってきました。このままハッピーエンドと行きたいところですが、空から現れたダーキルが、無情にもミラーナさんを連れ去ってしまいました。雲一つない青空に、子どもたちの泣き声が響いています」
「相変わらず空気が読めないな、お前は!」
「それから勇者ルトさんですが、201号室に入れておきました」
「って、勇者も捕まえたのかよ! カッコよく去って行ったのに、なんだか残念な感じだなオイ!」
「ですが、ミラーナさんとは違いまして、勇者ルトさんには胸がありません。とりあえず動画を見て頂いてから、新魔王様のご判断を仰ごうかと思いまして……」
「いや、胸の有る無しは大した問題ではない。劣情を掻き立てる表情で、俺を興奮させることが出来るかどうかが大事なのだ。勇者ルト、あのボーイッシュな感じも実に良い。邪悪に屈してなるものかという、極上のリアクションを見せてくれることだろう」
「それは何よりです。では、どちらの部屋から入りますか?」
「ふーむ……まずはシスターかな?」
「おっぱいちゃんですね。もちろん、処女であることはダーキルが確認済みです」
「……前から気になっていたのだが、『確認』ってのは、実際に見ているわけ……だよな?」
「そうですよ。皆さんに眠りの魔法を掛けて、その隙に脱がしてしまうのです。ミラーナさんもゼッカさんも、ドロシーさんもエルフちゃんも、同じようにしてダーキルが確認いたしました」
「ど、ドロシーもか……あまり想像したくはないが」
「ただ、アンデット少女のノーラさんだけは、処女膜が確認出来ませんでした」
「……まあ、ノーラはハイなんとかの屋敷で人体実験をされていたからな。処女であると考える方がおかしいだろう」
「処女膜どころか、横隔膜まで破れていましたからね」
「Oh……」
「処女厨、横隔厨の皆様には残念なお知らせでした」
「横隔厨なんて存在しねえよ! ……そんなことより、しっかり撮影するんだぞ。新魔王様による恐怖の鬼畜ハーレム伝説は、ここから始まるのだからな!」
「はい、録画はバッチリです。思う存分に陵辱を楽しんでください」
「よし、行くぞ!」
新魔王は頬を叩いて気合いを入れ、104号室の扉に手を掛けた。
暗闇に炎の玉を飛ばすと、鎖で繋がれたシスター・ミラーナの姿が浮かび上がる。
★
「こ……ここは……」
「ようこそ、魔王城へ! ここは神の加護も届かぬ、果てしなき闇の深淵なり! もはや逃げることは叶わぬ! 貴様に与えられるのは、恐怖と絶望に彩られた、終わりなき恥辱の日々よ!」
「魔王城……!?」
「はーっはっはっは! 怖いか? 怖いだろう! 神に仕える純潔の身と言えど、己に振りかかる災難くらいは理解することが出来るはずだ! さあ、泣くがいい、喚くがいい! この俺に許しを乞うのだ! そうすれば、一日くらいは陵辱を延期してやっても――――」
「…………」
「おい、どうした。何をじーっと見ている」
「……ふふっ」
「なぜ笑う!」
「あなたが魔王だなんて、そんなはずがありません」
「な、なんだと!?」
「あなたは良い人です。酷いことなんて絶対にしません。私には分かります」
ミラーナは新魔王を真っすぐに見つめると、天使のように柔らかな笑顔を浮かべた。
戸惑った新魔王は、撮影を続けるダーキルの手を引っ張って、部屋の隅にしゃがみ込む。
「おい、どういうことだ! あいつ、俺を良い人だなんて言っているぞ?」
「『神眼の聖女』と呼ばれる能力のせいでしょう。ミラーナさんは、その人間が善であるか悪であるかを見抜くことが出来ます」
「俺が善人だっていうのか!?」
「いいえ、恐らくは新魔王様のチート能力のせいで、ミラーナさんの神眼に狂いが生じているのでしょう。それでミラーナさんは、最強最悪の鬼畜である新魔王様を、善人だと勘違いしているのです」
「おお、それなら合点が行く! しかしこうなると、実際に俺がどれだけ邪悪かを示す必要があるな。いったいどうすれば……」
「それでしたら、ダーキルに良い考えがあります」
「ほう」
ダーキルの助言を受けた新魔王は、104号室を出ると、102号室にいるエルフの娘を抱きかかえて、再び104号室へと戻ってきた。
「さあ、見るがいい! 度重なる陵辱の果てに、瞳の光を失ったエルフの娘だ! この無残な姿を見ても、俺を良い人だと言えるのか!?」
「……たしかに、その少女は魂の殆どを失っているようです。心が砕けてしまうくらいに、辛いことがあったのでしょう」
「そうだろう、そうだろう! 全て俺の仕業なのだ! さあ、恐怖するがいい! 貴様の目も、すぐにこの娘と同じように――!」
「しかし、解せません。そのエルフの少女は、あなたに懐いています。抱っこをされて、心の底から安心しきっているように見るのです」
「そんなわけがあるか! 見ろ、この絶望しきったレイプ目を!」
「でもほら、気持ち良さそうに、ウトウトして――」
「…………すぅ……」
「眠ってしまいましたよ?」
「眠ったのではない! 恐怖のあまりに気絶をしたのだ! おい、起きろ!」
「……ぱ」
「むっ!? おいダーキル、いまこいつ、声を出さなかったか!?」
「ダーキルは気が付きませんでしたが」
「いや、聞き間違いではないぞ! たしかに今、声を……」
新魔王がエルフの娘の体を揺らすと、今まで動いたことのなかった白い手が、弱々しくも新魔王の指を握った。
「手が動いた! 俺の指を握っているぞ! 見ろ、ダーキル!」
「本当ですね。エルフちゃん、何か言いたそうにしているようです」
「何だ、どうした? 何でも言ってみろ」
「……パパ」
「おお、喋ったぞ! そうだ、パパだぞー! よしよーし……って、パパじゃねえよ!」
「はーい、こっちはママですよ~」
「……ママ」
「なんでお前がママなんだよ! さてはダーキル、パパなどと余計なことを吹き込んだのはお前だな!」
「はて、何のことでしょう」
新魔王はそこで、ミラーナの微笑ましげな視線に気が付いた。
エルフの娘が喋ったことに夢中で、ついミラーナの存在を忘れていたのだ。
「こ、これはだな! パパと呼ばせた上で陵辱をするという、鬼畜計画の一環であり――」
「ぱーぱ」
「その為に、一時的に世話をしているだけであって――」
「パパ、すき」
「陵辱を――」
「だいすき」
「陵辱が――」
「パパ、だっこ」
「……ちょ、ちょっと待っていろ! こいつを部屋に戻してくるからな! ダーキル、お前も来い!」
「はいはーい」
102号室に戻った新魔王は、エルフの娘にミルクを飲ませて寝かしつけた。
「くそっ、まさかこのタイミングで目覚めるとは……ますます良い人だと勘違いされているのではないか!?」
「ミラーナさんの目の前で、子煩悩っぷりを炸裂させてしまいましたからね……残念ながら、好感度は花丸急上昇中だと思います」
「何とか挽回しなければ、せっかくの巨乳シスターを怖がらせることが出来ないぞ!」
「ダーキルに妙案がございます」
「ほう」
ダーキルの次なる提案を受けて、新魔王は107号室へと向かった。
新魔王が声を掛けると、半死半生のアンデット少女、ノーラが体を起こす。
「あっ、新魔王様! こないだ貸してくれた漫画、とても面白かったです! 正義の魔法少女が、吸血鬼に噛まれて不死の力を手に入れたあとで――」
「悪いが、今日は漫画の話をしに来たのではない。ノーラ、お前にちょっとした頼みがあるのだ」
「はい、何でしょう。新魔王様のお願いであれば、心臓でも眼球でも、喜んで差し上げます!」
「……いや、それは間に合っている。実は、いま別室に新しいハーレム要員が来ているのだが――」
★
「ククク……ミラーナよ、これを見ろ!」
「そ、それは……女の子の死体!」
「…………」
「俺に逆らう奴は、こうなる運命なのだ! これは決して脅しではない! 現にこうして犠牲となった者がいるのだ! さあ、恐怖するがいい!」
「そんな……私の神眼では、かなりエッチだけど根は優しくて、肝心なところでは悪になりきれない優柔不断な男の子にしか見えなかったのに……!」
「はーっはっはっは! 貴様の神眼など、チート魔王である俺には通用せぬのだ!」
「なんて酷いことを……せめて私が、この子に祈りを捧げ――――ノーラ!?」
「…………ふぇ?」
「やっぱりノーラだわ! あの日、私を庇ってハイエンダール伯爵に攫われてしまった、最愛の妹……ああ、こんな姿になってしまうなんて!」
「この声……もしかして、ミラーナお姉ちゃん?」
ぽかんと口を開けている新魔王を尻目に、元気よく起き上がった死体少女のノーラは、鎖で繋がれているミラーナに飛び付いた。
「まさか、生きているの!? そんな体で――」
「うん! 生きてはいないけど、死んでもいないの! ハイエンダール伯爵の人体実験で、死ねない体になっちゃったんだ。毎日毎日、早く死にたいって思うくらいに痛い思いをしていたんだけど、新魔王様に助けてもらって……今は毎日が、とっても幸せなの!」
「おい、余計なことを言うんじゃない! 黙って死体のフリをしていろと言っただろうが!」
「あ、ゴメンなさい! ………ばたり」
「今さら倒れても遅いわ! というか、お前ら姉妹だったのかよ!」
ミラーナとノーラは、同時にこくりと頷いた。
「ちょっと待って、ノーラ。いま、あの人のことを『新魔王』って呼んだ?」
「うん、そうだよ、新魔王様。ハイエンダール伯爵なんて、一瞬で灰にしちゃうくらいに強いんだよ」
「ま、まさか、オーベストークで暁の大賢者エリオストを倒し、オーマイナークの東の森で破壊神キルドライノスを倒したという、あの――――」
ミラーナの表情に畏怖と驚きの色が浮かぶと、劣勢だった新魔王はここぞとばかりに声を張り上げた。
「はーっはっはっは! そうだ! 俺こそが、この世界の――」
「救世主様!」
「そう、救世主! ……って、誰が救世主だ!!」
「ああ、新魔王様、お目にかかれて光栄です! あなたのお陰で世界は救われました! そればかりか、妹のノーラをハイエンダールの手から助けてくれただなんて、感謝してもしきれません!」
「はあ!? 知るか、そんなこと! 俺はただ面倒事を片付けようと――――」
新魔王がいくら凄んで見せても、尊敬と感謝の言葉を繰り返すミラーナを止めることは出来なかった。
新魔王は撮影を続けるダーキルの手を引っ張って、部屋の隅にしゃがみ込む。
「どういうことだ、これは! なぜ俺が英雄になっている! ミラーナの話では、世界中で騒ぎになっているようだぞ!?」
「オーベストークとオーマイナークから、噂が広がっていったのでしょう。新魔王様にとっては些細な事柄でしたが、人間界が滅亡から救われたというのは事実です。救世主扱いされてしまうのも当然と言えるでしょう」
「冗談ではない! 英雄などと称えられてしまっては、恐怖と絶望の鬼畜ハーレムが作れなくなってしまうではないか!」
「新魔王様、ここは逆に考えましょう。英雄扱いされてしまってもいいと考えるのです」
「どういうことだ?」
「エルフちゃんにしていることと同じですよ。上げれば上げるほど、落とした時のダメージは大きくなります。見てください、あの安心しきった愚か者の姉妹を」
「ふむ」
「信頼と好意が、裏切りによって絶望の表情へと変わる……その瞬間に喜びがあるのだと、新魔王様は仰っていましたよね」
「その通りだ」
「では、今がチャンスです」
「チャンスだと?」
「油断しているミラーナさんの服を破り、その肌を恥辱の下に晒しましょう。その時こそ、あの愚か者の姉妹は、全て新魔王様の手の上で転がされていたことに気付き、絶望と恐怖に打ち震えることでしょう。このフワフワとした緩い雰囲気の中だからこそ、新魔王様による突然の凶行が際立つのです」
「なるほど……」
「それに、考えても見て下さい。新魔王様は『レイプをされる寸前の少女の表情』をコレクションしたいのですよね」
「当然だ。俺が何のために異世界に来たと思っている」
「『レイプされる直前』とはつまり、新魔王様の魔王棒が挿入される直前ということになります。新魔王様がコレクションされている、二次エロ画像と同じように」
「ま、まあな!」
「では取りあえず、『そこ』まで行きましょう」
「……そこ?」
「ミラーナさんの服を脱がし、その柔らかな胸を、太ももを堪能しつくすのです。無理やりに奉仕をさせるのも良いでしょう。いきり立った新魔王様の魔王棒を、恐怖に怯えるミラーナさんの頬に押し当てるのです。今からこれを、貴様の中へぶち込んでやると……『レイプされる直前』とは、まさに『そこ』まで進むことではないですか」
「た、たしかにそうだが……」
ダーキルは新魔王の背中を押して、ノーラと談笑を続けるミラーナの前に立たせた。
ミラーナは「何でしょう」と、警戒のない微笑みを浮かべている。
「さあ、新魔王様」
「わ、わかっている! だが、この修道服とやらはどうやって脱がすのだ?」
「そんなことは気にせず、びりっと引き裂いてしまえば良いと思います」
「途中で全裸にするコスプレAVなんて邪道だろう!」
「なるほど、それもたしかに。ミラーナさん、その服はどうやって脱ぐのですか?」
「えっ、これですか? 腰の後ろにボタンがありますが……」
「だそうですよ、新魔王様」
「う、うむ……」
新魔王はミラーナに近づくと、腰の後ろに手を回した。
胸が顔に当たるのを避けながら、慎重にボタンを外していく。
「あ、あの、何を……」
「新魔王様、お姉ちゃんと仲良しさんです!」
赤面するミラーナと、呑気に喜んでいる妹のノーラ。
「……くそっ!」
ボタンを半分ほど外したところで、新魔王はミラーナから逃れるように体を離した。
側に控えていたダーキルを付き離し、無言で104号室の出口へと向かう。
「新魔王様、どちらへ?」
「今日は止めだ! 気分ではない!」
歩き去っていく新魔王の後ろ姿を、ダーキルは薄い笑みを浮かべながら見送っていた。
★
-----現在のハーレム状況-----
【101号室 ドロシー(オークの姫)】
「労働の後のコンソメポテチは最高だっちゃ!」とのことだ。
よく働いてくれるので、地味に助かっている。
【102号室 名前不明(エルフの少女)】
夜泣きをするようになった。
俺が寝かし付けないと、眠ってくれない……。
【103号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】
残念なことに、弁当は残さずに食べて来た。
「美味しかった、ごちそうさま」などと余裕綽々なのが気に入らない。
今度はもっと、癖の強い弁当を作ってやろう。
【104号室 ミラーナ(巨乳のシスター)】
このおっぱいを前にして、平常心で居られてこその宗教家だと俺は思う。
【107号室 ノーラ(アンデット少女)】
飯も食わずにボーッとしているだけなので、少し前に漫画を与えてやった。自分もアンデットだからか、アンデットものが好きみたいだ。
【201号室 ルト(人間の勇者)】
大人しくしているようだ。その反応を見る時が楽しみだ。