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第七話  『博愛の姫君』ドロシー②


 新魔王は、101号室に住むオークの姫・ドロシーを呼び出した。


「喜べ、貴様をオーベストークへ帰してやる」

「ほ、本当だっちゃか!?」

「まあ、元々が間違いのようなものだ。折を見て帰そうとは思っていたのだがな」

「新魔王様、ダーキル様、お世話になったっちゃ! 美味しい物をたくさん食べさせてくれて、毎日が楽しかったとよ!」

「……ですが、喜んでばかりもいられません。オーベストークと隣国オーマイナークが、戦争のために兵を集めているとの情報が入っているのです」

「ど、どういうことだっちゃ!?」


「オーベストークはドロシーさんを、オーマイナークはジョシュアさんを失いました。それが相手方の陰謀に由るものだとの噂が広がり、国民感情に火が付いたようです」

「そんな……戦争なんて、絶対にダメだっちゃよ!」

「オーク同士が争おうが、俺には関係のないことだ。しかし戦争が始まってしまえば、貴様を返すタイミングを失ってしまう。さっさと送り届けてやるから、後は自分で何とかしろ」

「わかったっちゃ! オデが何とかするとよ! 戦争なんて起こさせないっちゃ!」


 新魔王が指を鳴らした次の瞬間、三人はオーベストークの王の間に転位をしていた。



 突然に現れたドロシーに、周囲にいたオーク兵たちは歓喜の雄叫びを上げる。しかし隣にいた正体不明の二人に気がつくと、油断なく武器を身構えた。


「みんな、武器を下げるっちゃ! この方たちは悪い人ではないとよ!」

「どうぞ、新魔王様。台本です」

「うむ……『貴様がオーベストークの王か』」

「な、何者ぞな!」

「『我が名は新魔王。博愛の姫君と謳われるドロシー姫を引き渡しに来た。安心するがいい、その体には傷一つ付けていない』」

「本当だっちゃよ、お父様! 新魔王様はドロシーに優しくしてくれたっちゃ!」

「余計なことを言うな、ドロシー。……こほん、『ただし、只で返すわけにはいかぬ! オーク族の秘宝、知恵の宝玉と引き換えだ!』」

「ち、知恵の宝玉だと……一体なにが目的ぞな!」


「……おいダーキル、なんだ、知恵の宝玉ってのは」

「持つ者に大いなる知恵を与えるという伝説の秘宝です。とある大賢者が数百年前、この地に住んでいたオークに与えたという言い伝えがありました。事の真偽までは分かりませんが、戦利品として要求するには丁度良いかと思いまして」

「ふむ、たしかにドロシーを返すだけでは面白くないな。食わせてやった飯の分くらいは回収したいものだ」

「だ、ダメだっちゃよ! あれだけは失う訳にはいかないっちゃ!」

「その反応を見るに、宝玉は実在するようだな。さあオークの王よ、さっさと知恵の宝玉とやらを持ってくるのだ。大切な姫がどうなっても良いのか?」

「ま、待ってくれぞな! オイラたちの話を聞いて欲しいぞな!」

「とにかく、知恵の宝玉とやらを持ってこい。話はそれからだ」


 オークの王は、銀色の台座に置かれた赤い宝石、知恵の宝玉を新魔王に差し出した。


「……知恵の宝玉と言う割には、禍々しい光を放っているな。手にしているだけで、憎悪や殺意に近い感情が流れ込んでくる。『ゼッカの宝玉』とでも改名した方が良いのではないか?」

「たしかに、ゼッカさんに似合いそうな赤い宝石ですね」

「おかしいっちゃ。知恵の宝玉は、綺麗に輝く銀色の宝石だったとよ」

「……異変が起きたのは、先日のことぞな。知恵の宝玉が赤く輝きだしたかと思うと、オークの民が途端に苦しみだし、盗みや暴行などの事件が多発するようになったぞな。同じことが隣国・オーマイナークでも起こっているらしいぞな」

「知恵の宝玉は、二つあるということですか?」


「その通りだぞな。知恵の宝玉は、我々のご先祖様が大賢者エリオスト様から授かったんだぞな。かつて、暴れることしか脳のなかったオーク族は、文明の力を手に入れた人間たちによって滅ぼされる寸前だったぞな。しかし知恵の宝玉のお陰で、オーク族は社会的な動物として生まれ変わり、人間たちと共存出来るだけの知恵を身に付けることが出来たんだぞな」

「知恵の宝玉は、効果の範囲に限界があるとよ。宝玉から離れれば離れるほど、オーク本来の野蛮な本能が目覚めてくるっちゃ。普通のオークは、この国から出ることも出来ないっちゃよ」

「なるほど、だからドロシーさんを助けに来たのが、勇者と呼ばれたジョシュアさんだけだったのですね。他のオークでは、魔王城に辿り着くことも出来なかったと……」

「ジョシュアか。単なる畜生だと思っていたが見直したぞ。これは俺からの餞別だ」


 新魔王が指を鳴らすと、後方に一体のオークが現れた。


「ジョシュア!」

「ど、ドロシー! オラ、一体なにを……!」

「さて、これで良いだろう。何やら揉めていたようだが、俺には関係のないことだ。あとは勝手に、話し合いでもして解決すればいい」

「戦争の火種だったドロシーさんとジョシュアさんが無事であれば、問題は解決ですよね」


「それが、そうもいかないんだぞな……」

「どういうことだ」

「どうやら、知恵の宝玉に限界が来ているようだぞな。現に宝玉の色は銀色から赤色へと変わり、影響を受けた一部のオークたちが暴れ出しているぞな。このままではオイラたちは、元の野蛮なオークに戻り、友好関係にあった人間たちを襲う事態になってしまうぞな。そうならないように、オイラはオーマイナークの王に連絡を取り、戦争を起こしてオーク族を滅亡させることに決めたんだぞな」

「そんな、お父様……」

「分かってくれぞな、ドロシー……オイラたちに少しでも理性があるうちに、何とかしないといけないぞな。情けない父上を許して欲しいぞな」

「情けなくなんてないっちゃよ! お父様は立派な王だとよ!」


 ――その時だった。

 新魔王が手にしていた宝玉が宙に浮いたかと思うと、強烈な赤い光を放ち始める。

 光が収まると、その場に赤いローブを着た老人が立っていた。


「ククク……愚かなオーク共よ。その下劣なる精神が、邪神への供物として利用されているとも知らずに……!」

「何者ぞな! 何処から入ってきたぞな!」

「我こそは暁の大賢者エリオストなり! 下賎の王如きが、我に口を利こうなど百万年早いわ!」


 エリオストが手を掲げると、オーク王の首が見えない何かによって締め付けられた。


「醜き精神エネルギーを限界まで増幅させた、この二つの宝玉が合わさるとき――大いなる破壊神が目覚めるのだ! 世界は炎の海に包まれ、一日と経たずにあらゆる生命が死滅することだろう!」

「ぐ、ぐるじいぞな……!! 」

「お、お父様―――っっ!!」

「愚かなるオーク族よ! 貴様らの役目は終わった! 死ねいっ!!」

「お前が死ね」


 新魔王が呟いた次の瞬間、大賢者エリオストの首が地面に転がっていた。

 滅びの神に見初められし狂気の大賢者は、勝ち誇った笑みを浮かべたまま、死んだことにすら気付いていなかった。


「出ました、新魔王様の得意技、ストーリー展開無視の瞬殺劇場です!」

「暁の大賢者とか破壊神とか、聞いているだけで恥ずかしいわ!」

「げほっ、げほっ! 苦しかったぞな~」

「新魔王、何と言う強さだ……このジョシュアが手も足も出ないはずだ!」

「しっかり下半身は出していたけどな! さて、後はこの宝玉をどうするかだが――」

「大賢者エリオストは、二つの宝玉が合わさると破壊神が蘇ると言っていました。宝玉の中に入っているエネルギーを利用するのだと思います」

「それなら、一度破壊神を復活させて倒してしまえば、元の空っぽの宝玉になるのではないか?」

「そ、そんなこと出来るわけがないぞな! 大賢者エリオストが言っていた破壊神とは、恐らく『キルドライノス』のことを言っているぞな! キルドライノスというのは、数千年前――――」

「いくぞ、ダーキル」

「はい、新魔王様」



 かくして、破壊神キルドライノスは新魔王によって滅ぼされ、知恵の宝玉は元の輝きを取り戻したのだった。


「新魔王どの、有難うございましたぞな。お陰さまで、オーク一族は救われたぞな」

「勘違いするなよ、俺は貴様らを助けたのではない。オークに暴れられては、俺のハーレム要員になるかもしれない美少女たちに被害が出るかもしれないからな」

「新魔王様、ありがとうだっちゃ」

「その宝玉は、貴様らがそれに頼らずとも生きていけるようになるまで貸しておいてやる。せいぜい努力するがいい。帰るぞ、ダーキル」

「はーい」



「やれやれ、無駄な時間を過ごしたな」

「破壊神キルドライノスが、第二形態に変身する前に倒してしまうとは……さすがは鬼畜チートの新魔王様です。ルール無用の残虐ファイトです」

「変身が終わるまで待っている方が間抜けなのだ。世の中そんなに甘くない。文句があるなら、最初から最終形態で登場すればいいだろう」

「ごもっともです」

「……さて、そろそろ飯の時間だな。ドロシーにはステーキとコンソメスープ、エルフ娘にはミルクと砕いたクッキーを用意して――」

「新魔王様、ドロシーさんはもう居ませんよ?」

「あ、ああ、そうだったな。つい癖で、献立を考えてしまった」

「寂しいですか?」

「そんなわけあるか! デカいのが居なくなって、せいせいするわ!」

「ドロシーさんは立派な女性でしたね。知恵の宝玉の加護のない魔王城にいても、国と民のことを一番に考える、立派なお姫様でした」

「……そうだな。博愛の姫君という二つ名に、偽りは無かった」

「大好物のコンソメポテチには勝てませんでしたけどね」

「あの顔は傑作だったな」



 ――数日後。


「新魔王様、ただいまだっちゃー!」

「おい、なぜ貴様がここにいる!」

「オデ、もう少し新魔王様の所にいるって決めたっちゃ! ジョシュアもお父様も許してくれたとよ! この手紙を読んで欲しいっちゃ!」


≪新魔王へ

 オラは自分の未熟さを痛感してるっちゃ。

 今度こそオラの手でドロシーを助けられるように修行するっちゃ。

 それまでドロシーを預けておくとよ!

 ただし抜け駆けは禁止だっちゃよ?

 ジョシュアより≫


≪新魔王殿≫

 城へ戻ってきたドロシーが、コンソメコンソメと煩いんだぞな。

 オーク族が自らコンソメを生産できるようになるまで、ドロシーを預かって欲しいぞな。

 今後ともよろしく頼むぞな。

 王より≫


 新魔王は二枚の手紙をビリビリに破り捨てた。


「抜け駆けなんてしねーよ! うちはコンソメ工場でもねーよ!」

「オデ、あの味が忘れられないっちゃ……」

「負けてんじゃん! 知恵の宝玉のある場所に戻っても、コンソメの魅力に負けてんじゃん!」

「あらドロシーさん、いらっしゃいませ」

「ダーキル様、またお世話になるっちゃよ!」

「そうですか、歓迎いたします」

「勝手に話を進めるんじゃない! ……って、なんだこれは」


≪追記

 知恵の宝玉の代わりに、オーク族の別の秘宝をお渡しするぞな。

 これは『性反転の指輪』ぞな。

 左手の薬指に付けるだけで、性別が逆になるぞな。

 お楽しみいただけると幸いぞな≫


「……」

「どうされましたか、新魔王様」

「いや、何でもない。ではドロシー、仕方ないから少しの間だけ置いてやる」

「やったっちゃ!」

「その代わり、今後は食う量に見合った分だけ働いてもらうからな!」

「任せるとよ! これからもよろしくお願いしますっちゃ!」



-----現在のハーレム状況-----

【101号室 ドロシー(オークの姫)】

今後は城内の清掃など、雑用に精を出してもらう。


【102号室 名前不明(エルフの少女)】

大量のぬいぐるみを横に置いてみたが反応はない。


【103号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】

昼間は学校へ行きたいと言うので、仕方なく認めてやった。

自由に泳がせた方が、弱点も見つかりやすいだろうからな!


【107号室 ノーラ(アンデット少女)】

ひなたぼっこをしていると虫が寄ってくる。

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