第六話 『緋毒の百合』ゼッカ
☆
「や、やめてください、新魔王様! 無理矢理なんて、ダーキルはイヤです!」
「コレに興味があると言ったのはお前の方だろう。さあ、口を開けろ!」
「ううっ……臭くてネバついたモノが、ダーキルの口に入ってきます……!」
「ククク、ゆっくり味わえよ? お前が欲しがるから、特別に用意してやったのだ」
新魔王の手にあるのは、『元祖大粒水戸納豆』。
念入りに400回掻き混ぜられたそれは、箸で持ち上げれば小鉢ごと引き上げてしまう程の粘り気だ。
「く、臭いです……ネバネバします……外に出してもいいですか?」
「駄目だ。きちんと飲み込め」
「うえぇ……」
ダーキルは涙目になりながらも、口に含んだそれを嚥下する。
「ちゃんと飲み込んだか?」
「ふぁい……」
「口を開けて見せてみろ」
「あーん」
ダーキルが口を開けると、上唇と舌の間に、いくつかの白い糸が引いて切れた。
★
「酷い目に遭いました。ダーキルは納豆が嫌いです」
「いい気味だ。何でも欲しがるからそうなるのだ」
「だって新魔王様が、あんなに美味しそうに食べていたので……」
「ああ、美味いぞ? 俺の居た世界では定番の朝食メニューだ。この梅干しもな」
「うめぼし? 赤くて綺麗です。苺みたいですね」
「食べてみるか」
「はい」
「ほら」
「あーん」
「ククク……」
「もぐもぐ……――――っ!?」
「あっはっはっは!」
「酷いです! またダーキルを騙したのですね!」
「騙した訳ではない。一気に食べるからそうなるのだ。食い意地が張っている罰が当たったのだ」
「お、覚えていてくださいね! いつかダーキルも、この世界の料理で新魔王様を驚かせてあげます!」
「お前が料理? 一人遊びしか脳のない、箱入り娘のお前に料理が出来るとは思えんがな」
「それは、これから練習するのです! いいから覚えておくのです!」
「ククク……まあ、楽しみにしておこう」
「……その白い飲み物は何ですか?」
「ヨーグルトだ。飲んでみるか」
「そうやって、またダーキルをハメるつもりですね! ハメるのはレイプだけにしてください!」
「やかましい。飲むのか、飲まないのか」
「飲みます、飲みます。……こくこく」
「まあ普通に美味いだろう、これは」
「………………ぶはっ!」
「ちょ!? なぜ吹き出す!」
「……ダーキルの顔が、真っ白でドロドロした液体まみれになってしまいました」
「……」
「見て下さい、おっぱいの谷間にも、トロリとした白い液体が流れていきます」
「お前、わざとやっただろ」
「はて、なんのことでしょう」
「食べ物を粗末にする奴には厳罰だ。今日のパソコンはお預けとする」
「そ、そんな、あんまりです!」
★
「やってきました103号室。リアクションを楽しみたいという魔王様のご要望に応えるべく、新しいハーレム要員を連れて参りました」
「うむ、ご苦労。レイプたるものリアクションが必要不可欠――いや、リアクションこそが全てと言っても過言ではない。恐怖に怯えながらも、精一杯の強がりを吐く美少女……これこそ至高のエロスだろう!」
「新魔王様の言う通り、抵抗が大きければ大きいほど、ねじ伏せた時の興奮も大きいというもの……ダーキルが自信を持ってオススメする、世界一のリアクション美少女です」
「ほう、これは期待できそうだ。どんな美少女なのだ?」
「では早速、ダーキルのハーレムレポートです。今回からビデオカメラが使えるようになりましたので、動画付きでのご報告になります。それでは、はじまりはじまり~」
「ここは……学校か?」
「名門中の名門と呼ばれる『王立ノールロジカ魔法学校』です。この人だかりの中央に立っている長髪の少女が『ゼッカ・スカーレット』。貴族の家柄の生まれで、眉目秀麗、成績優秀、二年生ながら栄誉ある生徒会長の職を任されています」
「魔法学校の生徒会長……なんと素晴らしい響きだ! 落ち着きのあるクールな外見が、まさに生徒会長というイメージだな!」
「彼女に付けられたあだ名は、パーフェクト・スカーレット。将来は弁護士になって、社会的立場の弱い人の味方になり、世の中の不正と戦いたいということです。まさに完璧、非の打ちどころがないと評判のゼッカさんですが、実は一つ大きな欠点がありまして――」
「ほう」
「大の男嫌いなのです」
「いいね!」
「ゼッカさんは生徒会長に就任すると、新たに校舎を建設して、女子生徒を移動させてしまいました。ノールロジカは共学校でしたが、現在は男子校と女子校が完全に分けられています」
「それほどまでに嫌っている男に襲われるとなれば、見事なリアクションが見られることだろうな!」
「しかし、そればかりではありません。ゼッカさんのリアクション世界一たる所以が――……新魔王様、ダーキルの説明はまだ終わっていませんが?」
「ここまで分かれば十分だ。細かい報告は後で聞こう。今はとにかく、ゼッカとやらの顔を見てみたい」
「新魔王様が、いつになく嗜虐心に満ち溢れた表情をされています!」
「これまでオークだのレイプ目だのと、お預けを食っていたからな! ようやく真っ当な美少女を陵辱できるとなれば、心が躍りあがるというものよ! しかも男嫌いのお嬢様生徒会長という、鉄板の設定が来たものだ!」
「新魔王様にお喜び頂けると、ダーキルも嬉しく思います。それでは、例の件――」
「いいだろう、ヨーグルトの件は帳消しにしてやる。今日も一時間、パソコンを使っていいぞ」
「ははー、ありがたき幸せ」
103号室の扉を開けると、ノールロジカ魔法学校の制服を着たゼッカが、石の壁に寄り掛かって立っていた。
新魔王は殊更に足音を響かせながら、ゆっくりとゼッカの元へ近づいていく。
顔を上げたゼッカが新魔王を睨みつけると、新魔王は満足気な笑みを浮かべて、口を開いた。
「クックック……ようこそ、我が――」
「喋らないで、息が臭い」
「……っ!?」
「下水の匂いがする。無自覚なら悲惨なものね。どれだけ多くの人に迷惑を掛けてきたのか、油田が出るまで地面に額を擦りつけて反省するといいわ」
「な、何を言う! この新魔王様に向かって――」
「魔王? 馬鹿を言わないで、下水のモンスターの間違いでしょう? 下水に身を投げたコミュ障の童貞が、最後に残った良心と引き換えに更なる悪臭を得た結果があなたよ。お願いだから口を開かないでくれる? これ以上の悪臭には耐えられそうにないわ」
「……」
「突っ立ってないで、さっさと下水道に戻りなさい。汚泥とカビとネズミの死骸が、愛しいあなたの帰りを待っているわよ」
新魔王は無言で103号室を出ると、静かに扉を閉めた。
「どうされました、新魔王様」
「なんかあいつ、俺を泣かそうとしてくるんだけど? 初対面なのに、息が臭いとかコミュ障童貞とか言われたんだけど? 意味が分からないんだけど?」
「泣かないでください新魔王様、ダーキルがいい子いい子してあげます」
「……俺、息が臭いの?」
「はい、臭いですよ」
「マジか……気付かなかった……」
「今朝は納豆を食べられましたからね。その臭いが残っています」
「ああそうか、納豆か!」
「ですが、そんな臭いも新魔王様の中から出て来たものだと思えば、ダーキルは鼻腔を犯されているようで気持ち良くなってきます。はぁはぁ……」
「うん、すぐに歯磨きしてくるわ!」
「そんなことより、ゼッカさんのリアクションはいかがでしたか」
「リアクションというか、一方的に暴言を吐かれただけなのだが……」
「レイプは抵抗をされ、暴言を吐かれるほど燃えると新魔王様は仰っていました」
「そのはず……なんだけどな? 期待していたのと何かが違うような……うーん……」
「リアクションにおいては、ゼッカさんの右に出る者はいませんよ。何せ、世界一ですからね」
「なんだよ、世界一って。ランク付け出来るものでもないだろう」
「ゼッカさんはノールロジカで毎年行われている『口喧嘩世界一決定戦』で3連覇を果たしているのです」
「……口喧嘩?」
「こちらの映像をご覧ください。ダーキルがノールロジカを訪れたとき、ちょうど大会が始まるところでした。大きなトロフィーの横に座っているのが、チャンピオンのゼッカさんです」
「口喧嘩の大会って、そんなものがあるのか……しかし、凄い人の数だな」
「世界中から人が集まっています。その目当ては勿論、ゼッカさんの戦いぶりですね。容赦なく相手を叩きのめす圧倒的な立ち回りで、再起不能になった選手は相当数に上るようです。大会はトーナメント形式で争われるのですが、ゼッカさんと対戦する人は多くが棄権していました。ゼッカさんにトラウマを作られるのを恐れているようです」
「この白衣の集団はなんだよ」
「精神科医やカウンセラーです。戦いで傷ついた選手たちのケアに当たっているようですね」
「ガチすぎるだろ!」
「ダーキルはベスト8まで進みました」
「出場したのかよ!」
「これが景品の盾と賞状です」
「……ベスト8って、かなり凄いじゃないか。お前、口喧嘩が強かったのか」
「いえ、ダーキルは黙って立っていただけです。ただその美しさに、対戦相手の皆さんは悪口の一つも言えませんでした。それでダーキルが、不戦勝で勝ち進んでいったのです」
「なんかムカつくな……で、誰に負けたんだよ」
「6歳の女の子でした。『お姉ちゃん、おばあちゃんと同じ匂いがする』と言われて、傷ついたダーキルは白旗を上げました」
「幼女強いな! ざまあみろ!」
「その幼女を、ゼッカさんは準決勝で完膚なきまでに叩き潰しました。幼女の泣き声に、会場は静まり返っていました」
「うわあ……幼女相手に容赦なしかよ……」
「さあ新魔王様、そんな世界一のリアクション美少女・ゼッカさんを、思う存分にレイプしちゃってください」
「リアクションって……まあ、間違ってはいないのだが……」
「なにか御不満でも?」
「……いいや、何でもないぞ! 俺は無敵のチート魔王だ! 泣かない、めげない、落ち込まない! さあ、行くぞ!」
「どうして、ダーキルの背中を押すのですか」
「俺がいかに強くて優れた新魔王であるかを、お前が奴に説明するのだ!」
★
「――というわけで、新魔王様は偉大なお方なのです」
「クックック……理解したか、小娘! あの有名な吸血鬼のハイなんとかでさえ、俺の前では為す術もなかったのだ! さあ、恐怖に怯えるがいい!」
「……ダサ。笑わせないでくれる?」
「な、なんだと!?」
「チートだか何だか知らないけど、努力もせずに手に入れた力で、よくも偉そうに出来るわね。下水モンスターにも劣るプライドの低さだわ。あなたに羞恥心の欠片でもあるのなら、顔面をやすりで磨いて永遠に赤面していなさい」
「ぐぬぬ……!」
「それにあなた、新魔王とか言っているけど、さっきから私と目を合わせようとしないじゃない。くだらない自慢話も部下の女の子に任せっぱなしで、奥でこそこそ隠れているだけ。何百回と口喧嘩をしてきた私には分かるわ。あなたの顔に浮かんだ、怯えきった負け犬の雰囲気がね」
「お、お前ーっ! この新魔王様がなー! 本気を出せばなー!」
「殺すならさっさと殺しなさいよ。ただ私を殺したら、あなたの心に刻まれた敗北のイメージは永遠に消えることがないでしょうけどね。それとも私を陵辱しようというのかしら? もし私を陵辱しようとするなら、お返しに二度と女が抱けなくなる呪いの言葉を聞かせてあげる。あなたの粗末なモノが、無様に縮みあがる瞬間が楽しみね」
「……」
新魔王は無言で103号室を出ると、静かに扉を閉めた。
「どうされました、新魔王様」
「間違いない、あいつ、俺を殺す気だわ」
「チートの新魔王様が、殺されるわけがないではありませんか」
「強さはチートでもメンタルはスライムなのだ! なんだよ『二度と女が抱けなくなる呪いの言葉』って! 恐ろし過ぎるんですけど!?」
「まさに最高のリアクションではないですか。ゼッカさんの言葉を圧し返して、強引に襲いかかってしまえばいいのです」
「いいや、無理だね! 俺の本能が無理だと言ってる! 魔王棒が折れるどころか、心とプライトまで圧し折られることは確定的に明らかだ!」
「そうですか……お気に召さないのであれば、処分いたしましょう。いくら新魔王様が望まれたこととはいえ、新魔王様に対する不敬の数々、横で聞いているダーキルは面白くありません」
ダーキルは空中から、魔槍グングニルを取り出した。
「偉大なる新魔王様に対し、あろうことか童貞などと!」
「お、おう……」
「では殺して来ます」
「ま、まあ待て、殺す程のことではない。少しばかり面喰ってしまったが、冷静に考えてみると奴の暴言は大した内容でもない。三日もすれば俺のメンタルも立ち直ることだろう。それに何より、この無敵の新魔王様が、相手に勝ったと思わせたまま終わらせることなど出来ないのだ。奴の弱点を見つけ出して、そこを徹底的に責める。そうすれば、こちらにも勝機があるはずだ。その時こそ、奴の顔は真の恐怖と恥辱に歪む!」
「さすがは新魔王様、ダーキルでは想像も及ばない大局的な観点での陵辱計画、そのあまりの鬼畜っぷりに、ダーキルはオムツを交換せざるを得ません!」
「クックック……今に見ていろ、ゼッカ・スカーレット! その生意気な減らず口から、絶望の泣き声を響かせてやるからな! はーっはっはっは!」
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-----現在のハーレム状況-----
【101号室 ドロシー(オークの姫)】
オーベストークで不審な動きがあるとの情報
【102号室 名前不明(エルフの少女)】
観葉植物を並べて、癒し系BGMを常時流してみる
【103号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】
人気の生徒会長だなんて嘘だった。完全に恐怖支配だった模様。
【107号室 ノーラ(アンデット少女)】
色々な蘇生術を試してみるものの、目立った効果はなし




