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第六話  『緋毒の百合』ゼッカ


「や、やめてください、新魔王様! 無理矢理なんて、ダーキルはイヤです!」

「コレに興味があると言ったのはお前の方だろう。さあ、口を開けろ!」

「ううっ……臭くてネバついたモノが、ダーキルの口に入ってきます……!」

「ククク、ゆっくり味わえよ? お前が欲しがるから、特別に用意してやったのだ」


 新魔王の手にあるのは、『元祖大粒水戸納豆』。

 念入りに400回掻き混ぜられたそれは、箸で持ち上げれば小鉢ごと引き上げてしまう程の粘り気だ。


「く、臭いです……ネバネバします……外に出してもいいですか?」

「駄目だ。きちんと飲み込め」

「うえぇ……」


 ダーキルは涙目になりながらも、口に含んだそれを嚥下する。


「ちゃんと飲み込んだか?」

「ふぁい……」

「口を開けて見せてみろ」

「あーん」


 ダーキルが口を開けると、上唇と舌の間に、いくつかの白い糸が引いて切れた。



「酷い目に遭いました。ダーキルは納豆が嫌いです」

「いい気味だ。何でも欲しがるからそうなるのだ」

「だって新魔王様が、あんなに美味しそうに食べていたので……」

「ああ、美味いぞ? 俺の居た世界では定番の朝食メニューだ。この梅干しもな」

「うめぼし? 赤くて綺麗です。苺みたいですね」

「食べてみるか」

「はい」

「ほら」

「あーん」

「ククク……」

「もぐもぐ……――――っ!?」

「あっはっはっは!」


「酷いです! またダーキルを騙したのですね!」

「騙した訳ではない。一気に食べるからそうなるのだ。食い意地が張っている罰が当たったのだ」

「お、覚えていてくださいね! いつかダーキルも、この世界の料理で新魔王様を驚かせてあげます!」

「お前が料理? 一人遊びしか脳のない、箱入り娘のお前に料理が出来るとは思えんがな」

「それは、これから練習するのです! いいから覚えておくのです!」

「ククク……まあ、楽しみにしておこう」


「……その白い飲み物は何ですか?」

「ヨーグルトだ。飲んでみるか」

「そうやって、またダーキルをハメるつもりですね! ハメるのはレイプだけにしてください!」

「やかましい。飲むのか、飲まないのか」

「飲みます、飲みます。……こくこく」

「まあ普通に美味いだろう、これは」

「………………ぶはっ!」

「ちょ!? なぜ吹き出す!」

「……ダーキルの顔が、真っ白でドロドロした液体まみれになってしまいました」

「……」

「見て下さい、おっぱいの谷間にも、トロリとした白い液体が流れていきます」

「お前、わざとやっただろ」

「はて、なんのことでしょう」

「食べ物を粗末にする奴には厳罰だ。今日のパソコンはお預けとする」

「そ、そんな、あんまりです!」



「やってきました103号室。リアクションを楽しみたいという魔王様のご要望に応えるべく、新しいハーレム要員を連れて参りました」

「うむ、ご苦労。レイプたるものリアクションが必要不可欠――いや、リアクションこそが全てと言っても過言ではない。恐怖に怯えながらも、精一杯の強がりを吐く美少女……これこそ至高のエロスだろう!」

「新魔王様の言う通り、抵抗が大きければ大きいほど、ねじ伏せた時の興奮も大きいというもの……ダーキルが自信を持ってオススメする、世界一のリアクション美少女です」

「ほう、これは期待できそうだ。どんな美少女なのだ?」

「では早速、ダーキルのハーレムレポートです。今回からビデオカメラが使えるようになりましたので、動画付きでのご報告になります。それでは、はじまりはじまり~」



「ここは……学校か?」

「名門中の名門と呼ばれる『王立ノールロジカ魔法学校』です。この人だかりの中央に立っている長髪の少女が『ゼッカ・スカーレット』。貴族の家柄の生まれで、眉目秀麗、成績優秀、二年生ながら栄誉ある生徒会長の職を任されています」

「魔法学校の生徒会長……なんと素晴らしい響きだ! 落ち着きのあるクールな外見が、まさに生徒会長というイメージだな!」

「彼女に付けられたあだ名は、パーフェクト・スカーレット。将来は弁護士になって、社会的立場の弱い人の味方になり、世の中の不正と戦いたいということです。まさに完璧、非の打ちどころがないと評判のゼッカさんですが、実は一つ大きな欠点がありまして――」

「ほう」


「大の男嫌いなのです」

「いいね!」

「ゼッカさんは生徒会長に就任すると、新たに校舎を建設して、女子生徒を移動させてしまいました。ノールロジカは共学校でしたが、現在は男子校と女子校が完全に分けられています」

「それほどまでに嫌っている男に襲われるとなれば、見事なリアクションが見られることだろうな!」

「しかし、そればかりではありません。ゼッカさんのリアクション世界一たる所以が――……新魔王様、ダーキルの説明はまだ終わっていませんが?」


「ここまで分かれば十分だ。細かい報告は後で聞こう。今はとにかく、ゼッカとやらの顔を見てみたい」

「新魔王様が、いつになく嗜虐心に満ち溢れた表情をされています!」

「これまでオークだのレイプ目だのと、お預けを食っていたからな! ようやく真っ当な美少女を陵辱できるとなれば、心が躍りあがるというものよ! しかも男嫌いのお嬢様生徒会長という、鉄板の設定が来たものだ!」

「新魔王様にお喜び頂けると、ダーキルも嬉しく思います。それでは、例の件――」

「いいだろう、ヨーグルトの件は帳消しにしてやる。今日も一時間、パソコンを使っていいぞ」

「ははー、ありがたき幸せ」


 103号室の扉を開けると、ノールロジカ魔法学校の制服を着たゼッカが、石の壁に寄り掛かって立っていた。

 新魔王は殊更に足音を響かせながら、ゆっくりとゼッカの元へ近づいていく。

 顔を上げたゼッカが新魔王を睨みつけると、新魔王は満足気な笑みを浮かべて、口を開いた。


「クックック……ようこそ、我が――」

「喋らないで、息が臭い」

「……っ!?」

「下水の匂いがする。無自覚なら悲惨なものね。どれだけ多くの人に迷惑を掛けてきたのか、油田が出るまで地面に額を擦りつけて反省するといいわ」

「な、何を言う! この新魔王様に向かって――」

「魔王? 馬鹿を言わないで、下水のモンスターの間違いでしょう? 下水に身を投げたコミュ障の童貞が、最後に残った良心と引き換えに更なる悪臭を得た結果があなたよ。お願いだから口を開かないでくれる? これ以上の悪臭には耐えられそうにないわ」

「……」

「突っ立ってないで、さっさと下水道に戻りなさい。汚泥とカビとネズミの死骸が、愛しいあなたの帰りを待っているわよ」


 新魔王は無言で103号室を出ると、静かに扉を閉めた。


「どうされました、新魔王様」

「なんかあいつ、俺を泣かそうとしてくるんだけど? 初対面なのに、息が臭いとかコミュ障童貞とか言われたんだけど? 意味が分からないんだけど?」

「泣かないでください新魔王様、ダーキルがいい子いい子してあげます」

「……俺、息が臭いの?」

「はい、臭いですよ」

「マジか……気付かなかった……」

「今朝は納豆を食べられましたからね。その臭いが残っています」

「ああそうか、納豆か!」

「ですが、そんな臭いも新魔王様の中から出て来たものだと思えば、ダーキルは鼻腔を犯されているようで気持ち良くなってきます。はぁはぁ……」

「うん、すぐに歯磨きしてくるわ!」


「そんなことより、ゼッカさんのリアクションはいかがでしたか」

「リアクションというか、一方的に暴言を吐かれただけなのだが……」

「レイプは抵抗をされ、暴言を吐かれるほど燃えると新魔王様は仰っていました」

「そのはず……なんだけどな? 期待していたのと何かが違うような……うーん……」

「リアクションにおいては、ゼッカさんの右に出る者はいませんよ。何せ、世界一ですからね」

「なんだよ、世界一って。ランク付け出来るものでもないだろう」

「ゼッカさんはノールロジカで毎年行われている『口喧嘩世界一決定戦』で3連覇を果たしているのです」

「……口喧嘩?」


「こちらの映像をご覧ください。ダーキルがノールロジカを訪れたとき、ちょうど大会が始まるところでした。大きなトロフィーの横に座っているのが、チャンピオンのゼッカさんです」

「口喧嘩の大会って、そんなものがあるのか……しかし、凄い人の数だな」

「世界中から人が集まっています。その目当ては勿論、ゼッカさんの戦いぶりですね。容赦なく相手を叩きのめす圧倒的な立ち回りで、再起不能になった選手は相当数に上るようです。大会はトーナメント形式で争われるのですが、ゼッカさんと対戦する人は多くが棄権していました。ゼッカさんにトラウマを作られるのを恐れているようです」

「この白衣の集団はなんだよ」

「精神科医やカウンセラーです。戦いで傷ついた選手たちのケアに当たっているようですね」

「ガチすぎるだろ!」


「ダーキルはベスト8まで進みました」

「出場したのかよ!」

「これが景品の盾と賞状です」

「……ベスト8って、かなり凄いじゃないか。お前、口喧嘩が強かったのか」

「いえ、ダーキルは黙って立っていただけです。ただその美しさに、対戦相手の皆さんは悪口の一つも言えませんでした。それでダーキルが、不戦勝で勝ち進んでいったのです」

「なんかムカつくな……で、誰に負けたんだよ」

「6歳の女の子でした。『お姉ちゃん、おばあちゃんと同じ匂いがする』と言われて、傷ついたダーキルは白旗を上げました」

「幼女強いな! ざまあみろ!」

「その幼女を、ゼッカさんは準決勝で完膚なきまでに叩き潰しました。幼女の泣き声に、会場は静まり返っていました」

「うわあ……幼女相手に容赦なしかよ……」


「さあ新魔王様、そんな世界一のリアクション美少女・ゼッカさんを、思う存分にレイプしちゃってください」

「リアクションって……まあ、間違ってはいないのだが……」

「なにか御不満でも?」

「……いいや、何でもないぞ! 俺は無敵のチート魔王だ! 泣かない、めげない、落ち込まない! さあ、行くぞ!」

「どうして、ダーキルの背中を押すのですか」

「俺がいかに強くて優れた新魔王であるかを、お前が奴に説明するのだ!」



「――というわけで、新魔王様は偉大なお方なのです」

「クックック……理解したか、小娘! あの有名な吸血鬼のハイなんとかでさえ、俺の前では為す術もなかったのだ! さあ、恐怖に怯えるがいい!」

「……ダサ。笑わせないでくれる?」

「な、なんだと!?」

「チートだか何だか知らないけど、努力もせずに手に入れた力で、よくも偉そうに出来るわね。下水モンスターにも劣るプライドの低さだわ。あなたに羞恥心の欠片でもあるのなら、顔面をやすりで磨いて永遠に赤面していなさい」

「ぐぬぬ……!」

「それにあなた、新魔王とか言っているけど、さっきから私と目を合わせようとしないじゃない。くだらない自慢話も部下の女の子に任せっぱなしで、奥でこそこそ隠れているだけ。何百回と口喧嘩をしてきた私には分かるわ。あなたの顔に浮かんだ、怯えきった負け犬の雰囲気がね」

「お、お前ーっ! この新魔王様がなー! 本気を出せばなー!」

「殺すならさっさと殺しなさいよ。ただ私を殺したら、あなたの心に刻まれた敗北のイメージは永遠に消えることがないでしょうけどね。それとも私を陵辱しようというのかしら? もし私を陵辱しようとするなら、お返しに二度と女が抱けなくなる呪いの言葉を聞かせてあげる。あなたの粗末なモノが、無様に縮みあがる瞬間が楽しみね」

「……」


 新魔王は無言で103号室を出ると、静かに扉を閉めた。


「どうされました、新魔王様」

「間違いない、あいつ、俺を殺す気だわ」

「チートの新魔王様が、殺されるわけがないではありませんか」

「強さはチートでもメンタルはスライムなのだ! なんだよ『二度と女が抱けなくなる呪いの言葉』って! 恐ろし過ぎるんですけど!?」

「まさに最高のリアクションではないですか。ゼッカさんの言葉を圧し返して、強引に襲いかかってしまえばいいのです」

「いいや、無理だね! 俺の本能が無理だと言ってる! 魔王棒が折れるどころか、心とプライトまで圧し折られることは確定的に明らかだ!」

「そうですか……お気に召さないのであれば、処分いたしましょう。いくら新魔王様が望まれたこととはいえ、新魔王様に対する不敬の数々、横で聞いているダーキルは面白くありません」


 ダーキルは空中から、魔槍グングニルを取り出した。


「偉大なる新魔王様に対し、あろうことか童貞などと!」

「お、おう……」

「では殺して来ます」

「ま、まあ待て、殺す程のことではない。少しばかり面喰ってしまったが、冷静に考えてみると奴の暴言は大した内容でもない。三日もすれば俺のメンタルも立ち直ることだろう。それに何より、この無敵の新魔王様が、相手に勝ったと思わせたまま終わらせることなど出来ないのだ。奴の弱点を見つけ出して、そこを徹底的に責める。そうすれば、こちらにも勝機があるはずだ。その時こそ、奴の顔は真の恐怖と恥辱に歪む!」

「さすがは新魔王様、ダーキルでは想像も及ばない大局的な観点での陵辱計画、そのあまりの鬼畜っぷりに、ダーキルはオムツを交換せざるを得ません!」

「クックック……今に見ていろ、ゼッカ・スカーレット! その生意気な減らず口から、絶望の泣き声を響かせてやるからな! はーっはっはっは!」



-----現在のハーレム状況-----

【101号室 ドロシー(オークの姫)】

オーベストークで不審な動きがあるとの情報


【102号室 名前不明(エルフの少女)】

観葉植物を並べて、癒し系BGMを常時流してみる


【103号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】

人気の生徒会長だなんて嘘だった。完全に恐怖支配だった模様。


【107号室 ノーラ(アンデット少女)】

色々な蘇生術を試してみるものの、目立った効果はなし

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