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 気絶した男たちを自警団に引き渡し、王都グルノーヴァを出立した三人は、温泉町リエドへと向かう道をのんびりと歩いている。

「しかし、わざわざ温泉に行くこともないだろう。風呂ならうちにもあるんだし」

 新魔王の言葉に、ダーキルは冒険のしおりを開きながら答えた。

「リエドには精力増進に効果のある温泉が湧いているのです。この温泉に浸かって、宿に泊まった男女の8割は子どもができてしまい、冒険の中断を余儀なくされるとか」

「8割って多すぎだろ! 王都から旅立ったばかりで冒険終了かよ!」

「実際、冒険する気のない女性冒険者には人気のスポットみたいですよ。適当に露出の多いコスプレをして、狙っている男性のパーティーに入り込み、リエドの宿で子種を仕込んでしまうのです。あとは妊娠判別魔法で認知をさせて、男性を引退させるなり慰謝料と養育費を支払わせるというパターンが多いようですね」

「リアルに怖すぎる!」

「それほど効果のある温泉だからこそ、新魔王様にはゆっくりと浸かって頂いて、男の子の自信を取り戻して頂きたいのです! そして復活と同時に、たぎる性欲をダーキルにぶつけていただけましたら……ああ、湯けむり温泉レ◯プ!」

 ダーキルは身をくねくねとよじらせて、妄想の世界に入り込んでしまう。

 新魔王の隣を歩くルトは苦笑しながらも、「ボクも良いアイデアだと思います」と言った。リエドには世界中から湯治のために人々が集まっている。大賢者モードから抜け出せない新魔王にとっても、温泉に入るだけで問題を解決できるのであれば、それに越したことはない。

 ダーキルなりに気を遣って調べてくれたのだろうと理解はしていても、感謝を伝えようという気になれないのは、ダーキルの日頃の行いのせいだろう。新魔王がそんなことを考えていると、草むらががさりと音を立てて、透き通る青色の球体が姿を現した。

 いつの間にか剣を抜いていたルトが、新魔王を守るように構えている。

「スライムですね。それほど警戒する必要はありませんが」

「ルトさん、ここは新人魔法つかいダーキルにお任せください」

 妄想の世界から返ってきたダーキルが、すっと二人の前に進み出る。

「先ほどのルトさんのように、ダーキルも良いところを見せたいのです。新魔王様に害をなす不届きものは、とっておきの最強魔法でイチコロです」

 ダーキルはそういうと、体の前で印を結び始めた。

「闇の深淵に在りし破壊の女神よ、我が呼びかけに応えるがいい……」

「おお、魔法がすげぇそれっぽいな!」

 中二病な感じの詠唱に、新魔王のテンションが上がる。

「その無慈悲なる指先は破壊の扉を開かんと、熱情に粟立つ柔肌をなぞり、やがて濡れそぼる秘部へといたる……とめどなく押し寄せてくる快楽に、知らず指先の動きは大胆になり、汝は切なげな吐息を漏らすであろう!」

「ちょっと待て! なんか詠唱の内容がおかしい!」

 ダーキルは詠唱を止めて「あっ」と声を上げる。

「すみません、昨晩に読んでいた官能小説とごちゃ混ぜになってしまいました」

「破壊の女神様もとんだ風評被害だよ!」

「申し訳ありません、やり直します」

 ダーキルはこほんと咳払いをして、呪文の詠唱を再開する。

「汝が告げし死と破壊の宣告に、抗うものはなし……抗おうにも両手は縛られ、助けを呼ぶこともかなわない……恥辱の恐怖に怯える我のまなこに映りしは、新魔王様の鬼畜な笑顔……」

「またおかしくなってる!」

「いったいどうしたことでしょう……ダーキル、魔法が使えなくなってしまいました」

「もういい、お前は下がっていろ! 破壊の女神には直接に詫びに行ってこい!」

 新魔王はダーキルを下がらせて、腰に装備している鞭を手にとった。

「ここは新人魔物つかいシンマ様の出番だ。最初に仲間にするモンスターは、スライムと相場が決まっている。ここは俺が直々に、こいつを配下にして見せよう」

 自信満々に鞭を構える新魔王に、ルトが心配そうに声をかける。

「師匠、大丈夫ですか? スライムといえど冒険の初心者には危険なモンスターですよ」

「なーに、心配はいらん。チート能力で守備力はマックスだから、攻撃をされても痛くないし苦しくもない」

 新魔王は鞭を構えて、スライムに近づいた。スライムはゼリー状の体をプルプルと震わせている。威嚇なのか、怖くて震えているのか、風に揺れているだけなのかはよく分からない。

「ふむ……前にやったゲームだと、戦って勝ったら仲間になったが……鞭で叩いて剣で斬ったりしたら、仲間になるどころじゃないよな、常識的に考えて」

 意思疎通が出来ないものかと、新魔王はじーっとスライムを見つめた。ただの半透明なゼリーにしか見えず、どこに目があるのかもさっぱり分からない。

 逃げ出されたら元も子もないので、新魔王はスライムと同じ目線にしゃがみこむと、ゆっくりと近づいた。野良猫と遊ぶのは得意だったので、それをスライムにも応用してみようと考えたのだ。

 鞭の先をゆらゆらと遊ばせて、スライムの気を引く。そのまま少しずつ距離を詰めて、ゆっくりと手を伸ばすと、スライムの表面に触れた。スライムに敵意はないらしく、されるがままになっている。

「師匠、すごいです! 近づくだけで魔物を手懐けてしまうなんて!」

「はっはっは! 魔王でしかも魔物つかいなのだから、これくらい朝飯前よ!」

 気を良くした新魔王は、さらに大胆にスライムを撫でた。つるつる、ひんやりしていて気持ちがいい。青色の球体は、太陽の光や木々の緑を映しこんで輝いている。

「こうしてみると、スライムって綺麗だな。宝石みたいだ」

 新魔王がいうと、スライムの体がほんのり赤くなる。

「おや、照れているようですね」

 ダーキルがひょっこりと顔を出した。

「スライムを口説き落としてしまうだなんて、さすがは新魔王様。美少女と見れば見境のない鬼畜っぷりです」

「いや、そんなつもりで言ったわけではないのだが……って、こいつ女なの?」

 スライムはぴょんとジャンプすると、新魔王の肩に乗って、ほっぺたに体を擦りよせた。

「まあ、性別はどうでもいい。記念すべき俺の仲間モンスター第一号だ。エルの遊び相手も欲しかったところだしな」

 新魔王はしばし考え込んで、スライムに『サファイア』という名前を付けた。サファイアは嬉しそうに、新魔王の肩でぷるぷると体を揺らしている。

「よかったですね、新魔王様。サファイアさんに協力をして頂ければ、服を溶かす凌辱シチュエーションが実現できます!」

「……お前、本当にそのシチュエーションが好きだな」

「だって、スライムって冷たくてヌルヌルしていて、気持ち良さそうじゃないですか」

「それはわからなくもないが、凌辱される側がスライムに快楽を求めてどうする」

「では凌辱の際、新魔王様の股間の部分だけを溶かしてもらって、真の姿があらわになるという演出はいかがでしょう。新魔王様も気持ちが良くて一石二鳥です」

「絵面が間抜けすぎる!」

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