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グルノーヴァ城下町より通用門を抜けると、数台の馬車と屈強な男たちが集まっていた。
「お待ちしておりました、勇者ルト様」
リーダーらしき金色の鎧を着た男がルトの前に跪いて、ギルド『砂漠の狼』のメンバーであることを告げた。
「知り合いなのか?」
新魔王に聞かれて、ルトは首を横に振る。
「噂には聞いたことがあります。世界各地の戦場で活躍している、名うての傭兵団だとか」
「おお、ルト様のお耳にまで届いているとは光栄です! 我らが『砂漠の狼』、ルト様に御帯同させて頂きたく、馳せ参じました」
リーダーの合図で、他の男たちも膝をついた。給金はいらず、むしろ馬車や食料を無償で提供するので、新魔王討伐の旅に同行させてもらいたいと訴える。
しかし新魔王たちは、夕方になれば魔王城にワープして帰るので、馬車も食料も仲間も必要がない。かと言って、その理由を説明するわけにもいかない。
「気持ちは嬉しいんですけど、ボクたちは3人だけで旅をしたいので……」
ルトの言葉に、それまで媚びへつらっていた男の表情が、にわかに強張った。
「いくら伝説の勇者ルト様であっても、そのような準備と人数では、長旅が務まるわけもありません。それともそのお二方は、我ら『砂漠の狼』を捨てても余りあるほどの力を持っているのですかい」
男たちの鋭い視線が、ルトの傍らにいる新魔王に集まった。メンバーの一人である、潰れたカエルのような顔をした男が、侮蔑な笑みを浮かべる。
「そこの色男さんは、魔物つかいで登録しているらしいな。ペットのお守役に何ができるっつーんだ?」
「やめろ、そちらの御仁に失礼だろう。ルト様のことだから、何かお考えがあるに違いない」
仲間の暴言を制しはしたものの、リーダーの男もまた口の端を歪めている。それに気を良くしたのか、カエル男がさらに言葉を続けた。
「そんなひ弱な出来損ないの男より、俺らの方が男としてよっぽど遊び甲斐があるぜ? ご命令とあれば従順なペットにでもなって、夜のご奉仕もたっぷりさせて頂きますぜ」
下卑た笑いをあげる男たちを、ルトが睨みつけた。さすがに男たちも失言であったことに気づき、途端に黙り込む。
ルトが新魔王を見ると、さっきまでのハイテンションは何処へやら、新魔王はずーんと沈み込んでレ◯プ目になっていた。
「出来損ないの男……そうだよな。俺はち◯こも勃たなければ、チートなしに何もできない能無しの役立たずだよな……」
「し、師匠! しっかりしてくださーい! どうしましょう、ダーキル様!」
ルトがダーキルを見ると、ダーキルは興奮しながらビデオカメラを構えている。
「シンマ様の貴重なレ◯プ目です! これを利用すれば、レ◯プ目なシンマ様によるダーキルレ◯プ、名付けて『ダブルレ◯プ目レ◯プ』の実現も可能になってきました!」
「んもう、なにを言っているんですかー!」
ダーキルに頼っても無駄だと察したルトは、男たちに向かい合った。
「わかりました、それではテストをしましょう。ボクに少しでも触れることができれば、みなさんを連れていくことをお約束します。ただし触れなかった場合は、二度とボクたちに関わらないでくださいね。制限時間は30秒です」
男たちは勝利を確信した笑みを浮かべて、ルトを取り囲んだ。ルトが疾風の勇者という異名をもち、その神速の剣の太刀筋を見切れるものはいないと言われていることを、男たちも十分に知っている。
しかしこれは戦いではなく、触れればいいだけだ。大人数で囲んでしまえば、走って逃げ出すこともできず、空中に逃れてくれれば、それこそ触れないわけはない。
男たちは互いに目配せをすると、呼吸を合わせて一気に間合いを詰めた。一人一人の実力ではルトに遠く及ばないが、男たちはチームを組むことによって、自分たちよりはるかに強大な相手を倒してきた自信がある。
ルトを囲む円が小さくなると、円の隙間を空けないままに、数人が上空に飛び上がった。さらに数人は後方に下がって、低い姿勢で男たちの股下のフォローに入る。事前の打ち合わせも必要としない、体に染み付いた必殺の動きだ。
しかしルトは小さく息を吸うと、ドーム状になって襲いかかってくる男たちに向けて小さく手のひらを向けた。
「合気掌!」
空気が爆発するような振動音と同時に、男たちは後方数十メートルまで吹っ飛んでいった。砂埃が収まっても、誰一人としてピクリとも動かない。
「お見事です、ルトさん。バッチリ撮影いたしましたよ」
ダーキルの賛辞にルトが照れ笑いをする。しかしレ◯プ目のままの新魔王に気づくと、慌てて駆け寄った。
「しっかりしてください、師匠! 師匠!」
「いいんだ、ルト。あいつらの言った通りだ。俺は男として出来損ないなんだ。勃たないち◯こに意味はないんだ」
「おち◯ちんが勃たないのは、ボクだって同じです! それでも師匠は、ボクでも真の男になれると言ってくれたじゃないですか! おちんちんが勃たなくたって、師匠は師匠です! 優しくてかっこよくて、ボクのす……尊敬する、新魔王様です!」
「ルト……」
「一緒に頑張りましょう! 師匠がボクを励ましてくれたように、ボクも師匠を助けたいんです! きっと必ず、おち◯ちんを勃たせる方法が見つかるはずです!」
ルトのひたむきな瞳に見つめられて、新魔王の目にも光が戻ってきた。
「……そうだな。ち◯こが勃たなくなってメソメソしているようでは、それこそ男の名折れだ。ち◯こに恥じない、男らしい生き方が出来なければ、ち◯こも応えてくれないだろう。ありがとうな、ルト。おかげで目が覚めたよ」
「そ、そんな、お礼を言われるようなことでは……ボクはただ、師匠が……」
赤面してうつむくルトに、ダーキルがビデオカメラを向ける。
「男の子の友情って素晴らしいですね。ダーキル、魔王城に戻って動画を編集するのが楽しみです」




