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城門から大通りに出て、目的地である冒険者ギルドに向かう。騒ぎにはならないものの、見目麗しい勇者ルトと、その後ろに控えるダーキルは、大勢の注目を集めていた。
「俺に向けられる視線が、なんだかとても痛いのだが」
「そこは新魔王様、ドヤ顔でお返しすれば良いのですよ。ダーキルとルトさんの腰に手を回しながら『こいつらは俺のモノだ、羨ましいだろう』と」
「そんなことをしたら、一斉攻撃を喰らいかねない雰囲気だぞ」
冒険者ギルドに関するルールや知識は、新魔王とダーキルがライトノベルの世界で知ったものと大差はなかった。
まずは適正試験を受けて、どの職業につくかを決定する。正式に冒険者となったらギルドからの依頼を受けて、依頼を達成したら報酬を受け取る。実績によってランク分けがされていて、上位ランクほど危険で高収入な依頼を受けることができるのだ。
「見てください、シンマ様。あそこにいるのが冒険者ギルドの看板娘ですよ。にこにこ笑顔を振りまきながら、安い報酬で純粋な冒険者たちを死地に追いやっているに違いありません。いつかレ◯プして懲らしめてやりましょう」
「そういう仕事なんだから仕方ないだろう。ルトも冒険者登録をしているのか?」
「いいえ、ボクはしていないです。勇者は王国が身元を保証してくれているので」
「へえ、さすがに勇者様は特別なんだな」
冒険者ギルドの建物内は、大勢の冒険者がいるものの、しんと静まり返っていた。筋骨隆々の戦士、古めかしいローブに身を包んだ魔法使いなど、どの冒険者も只者ではな誘うな気配だ。
そこに、緊張感のない声が響く。
「やっほー、ルトくん。久しぶりー! 元気そうでよかったー!」
カウンターに座っている冒険者ギルドの受付嬢が、ひらひらと手を振っている。
「アンジェラさん、お久しぶりです。……この雰囲気、何かあったんですか?」
「そりゃもちろん、ルトくんがグルノーヴァに戻ってきたもんだから、自分たちにもチャンスがあるんじゃないかって思うでしょ?」
勇者ルトといえど、一人で長旅をするわけにはいかない。最低でも3人、多く見積もれば8人くらいのチームを組むことになる。ルトの帰国を知った冒険者たちが、慌ててギルドに戻ってきたということらしい。ルトのお供に選ばれたとなれば実績に箔が付く。
そうこう話している間にも冒険者たちが駆け込んできて、満席の椅子に座ることができず、壁際に並び始めている。
「実は、こちらのお二人の冒険者登録をしたいのです。それで、適正試験をお願いしたくて」
「登録ってことは、お連れさんはまったくの初心者さんなの? そちらの男の子はともかく、女の子の方は相当の手練れに見えるのだけど」
「ともかくとはなんだ、ともかくとは!」
「落ち着いてください、シンマ様。たかが受付嬢の戯れ言です」
カウンターをでたアンジェラは、建物奥の扉にルトたちを案内した。
薄暗い部屋の中央には、巨大な魔法陣が描かれていた。生き物の特性を調べる魔法を改良して、冒険者の能力や最適な職業などを調査するために使用しているという。
まずはダーキルが魔法陣の中央に立った。アンジェラは魔法を調整しながら、丁寧にメモを取っていく。
「……すごい、信じられないほどの魔法適正だわ! こんなの初めてです!」
「えっへん」
ドヤ顔で魔法陣をでたダーキルは、アンジェラからメモを受け取った。3人でメモを見ると、最高評価の『S』がずらりと並んでいる。
「さすがはルトくんのお供さんね! 第一印象から只者でないと感じていたの!」
アンジェラは興奮気味に説明を続けた。世界最高学府であるノールロジカ魔法学校であっても、無条件で特待生入学が出来るほどの適正値だという。
「安定した生活を送るためなら、学校に行った方がいいと思いますけれど」
「いいえ、ダーキルは冒険者になります。魔法使いでお願いします」
ダーキルの冒険者登録が終わると、次は新魔王が魔法陣の中央に立った。おかしな結果にならないように、今はチート能力をすべてオフにしている。
新魔王の調査が終わって、アンジェラから受け取ったメモを見ると、最低評価である『E』の記号がずらりと並んでいた。
「えっと……とても言いにくいんだけれど、シンマさんは冒険者に向いていないわ。悪いことは言いませんので、他の安全なお仕事に就くことをオススメします」
「ああ、自分でもわかっていたさ! チート能力がなければ、平均以下の運動神経しかないんだからな!」
とは言いながらも、内心どこかで「いい数値が出るといいな」と考えていた新魔王は、普通にショックを受けていた。
「あ、でも見てください師匠! ここに一つだけ『B』評価がありますよ! 一つでもCランク以上があれば、冒険者として認められるはずですよね、アンジェラさん!」
唯一のB評価が出た適正職業は『魔物使役士』、平たくいえば魔物つかいだ。動物や魔物に好かれやすいという適性を活かして、魔物を使役するという職業である。
しかしアンジェラは、新魔王の冒険者登録を薦めずに、民間のペットブリーダーの会社に就職するべきだと言った。危険な動物をペットにしたいという客には需要があるので、そこで働ければ高給も望める。
そもそも、適正項目として存在はするものの、魔物使役士として活動している冒険者はいない。ギルドの依頼が魔物退治が中心のため、まったく需要がないのだ。
「いかがいたしましょう、シンマ様」
ダーキルの問いに、新魔王は機嫌良さそうに頷いた。
「無論、魔物使役士として登録をする! ギルド唯一の魔物つかいという称号も気に入った。なんたって俺は、新魔王だかーー」
ルトに口を塞がれて、新魔王は咳払いをして誤魔化した。
アンジェラは最後まで心配をしていたが、ルトがフォローするからと説得したことで、新魔王の冒険者登録書にサインをする。
こうしてダーキルは魔法つかい、新魔王は魔物つかいとして、正式な冒険者になったのだった。




