最終話 初恋とレ〇プの狭間に
自室にいる新魔王は腕を組み、苛立ちを紛らわすように足を動かしている。
「おい、ダーキルはいるか!」
声をかけて間もなく、部屋の扉が静かに開いて、メイド服のダーキルが現れた。
「お呼びでございますか、新魔王様」
「その……なんだ、新しいハーレム要員はまだ見つからないのか」
「申し訳ありません。捜索中でございますが、新魔王様にご満足頂けそうな美少女は、見つかっておりません」
「そうか……まあ、急いでいる訳ではないのだが」
「御用件は以上でしょうか」
「あ、ええと……今日はパソコンを使うか?」
「いえ、結構です。それでは失礼いたします」
ダーキルは素っ気なく頭を下げる。
「ちょっと待て! 突然だがしりとりをするぞ! 晴れ!」
「れい……レイク」
「食い倒れ!」
「れい……レインコート」
「トマトピューレ!」
「れい……冷凍みかん」
「『ん』がついたぞ! お前の負けだ! はっはっは」
「おめでとうございます」
ダーキルは丁寧なお辞儀をして扉を閉めた。新魔王はぽつんと取り残される。
「ぐぬぬ……あいつ、いつまで続けるつもりなんだ?」
シンコちゃんの一件から、ダーキルはずっとこの調子だった。新魔王は閉められた扉を睨み付けながら、親指の爪を嚙んだ。
ダーキルに「押してダメなら引いてみたら」とアドバイスをしたのは、性反転の指輪でシンコへと変身していた新魔王自身だ。初めこそ大人しくになったダーキルに、これで平穏な毎日を送れるなと余裕を見せていた新魔王だったが、だんだんと調子が狂ってきた。
新魔王が呼ばない間は、向こうから姿を見せることはない。パソコンを使うこともないし、コーラをねだってくることもなければ、レ〇プという単語すら言わなくなっていた。おねしょをすることもなくなり、追加のオムツを頼んでくることもない。
使用人としては理想的な仕事ぶりなのだが、新魔王はどうにもそれが面白くなかった。どうして面白くないのか、それがわからないこと自体が面白くない。
思案を続けながら魔王城を歩く新魔王は、目の前にあった大きな影――ドロシーに気付かなかった。ぶつかった衝撃で尻もちをついたのは、新魔王の方だった。
「新魔王様、大丈夫っちゃか?」
「ああ、すまない。余所見をしていた」
「服に洗剤が付いてしまったとよ。洗濯をしておくから、脱いでくださいっちゃ」
「いや、この程度であれば問題ない」
ドロシーは、服についた洗剤を払う新魔王を見て、心配そうに言った。
「新魔王様、まだダーキルさんと喧嘩をしているっちゃ? みんな心配しているとよ。お二人に元気がないと、魔王城の雰囲気も暗くなってしまうっちゃ」
「け、喧嘩などしていない! そもそも魔王城の雰囲気なんて、だいたい暗いものだろう」
「何があったか知らないっちゃけど、こういう時は男の子の方から謝らないとダメっちゃよ」
「なぜ俺が謝るのだ! あいつが勝手に――」
「まあ、お二人のことだから、心配はしていないとよ。仲良しさんほど喧嘩をするって言うっちゃね」
ドロシーはにっこり笑うと、掃除道具を手に歩いていった。
「まったくドロシーめ、好き勝手なことを」
たしかに事情を知らない者からみれば、喧嘩をしているように見えるのかもしれない。しかしダーキルがやっていることが、自分の気を引くための演技であることを新魔王は知っている。だからこそ、ダーキルの方から「参りました」と言わせたい。浅はかな計略など通用しないことを、どうすれば思い知らせてやれるのか。
そこへゼッカが通りがかった。普段であればこっそり身を隠すところだが、ダーキルを懲らしめてやるために、新魔王はゼッカの力を借りることを思いついた。
「ダーキルに勝つ方法? どういうことよ」
「口喧嘩世界一のお前なら、ダーキルをコテンパンにするセリフが思いつくはずだ! それを俺に教えてくれ!」
「はあ……まだ喧嘩をしているの。さっさと謝って楽になっちゃいなさいよ」
「だから俺は悪くない、何もしていないんだって!」
「じゃあ、何もしていないのが原因なんじゃないの。別れるカップルって、みんな同じことを言うのよね。たまにはダーキルに感謝の気持ちを伝えたり、プレゼントのひとつでも渡したりしてる?」
「そ、それは……」
「まあいいわ。それでもダーキルに勝ちたいと言うのなら、力を貸してあげる」
「おお、教えてくれ!」
「そうね、こんなセリフはどう? 『他に好きな女の子が出来たから、もうお前に興味はないんだ』って」
「な、なんだそれはっ!」
「あははは、冗談よ。せいぜい頑張ってね」
からかうように笑いながら、ゼッカは歩き去って行く。
「くっ……やはりゼッカを頼ったのは間違いだった!」
敗北感に打ちひしがれながら廊下の角を曲がると、血みどろのバラバラ死体が転がっている。
「ぎゃあああぁぁぁぁーーっ!」
新魔王は悲鳴を上げて、壁の柱に抱きついた。バラバラ死体はみるみる一つに繋がっていく。
「またお前か、ノーラ!」
「いやー、すいません。タイミング悪く、壁にぶつかったはずみで体が分解されてしまいまして」
満足そうに謝るノーラをみて、新魔王は「絶対にわざとだ!」と抗議した。
「それにしても新魔王様のリアクションは最高ですね。もっと怖がらせたくなってしまいます」
「道に死体が転がっていたら、誰だって驚くに決まっているだろう」
そう言いながら、新魔王はとあるアイデアを思いついた。どんなに冷静に努めていようが、無視を決め込んでいようが、人間は突然の出来事に反応せざるを得ない。
「ククク……ダーキルを懲らしめる秘策を思いついたぞ! でかしたノーラ!」
「なんのことだかわかりませんが、お役に立てて良かったです」
早足で自室に戻った新魔王は、さっそくダーキルを呼びつけた。
「お呼びでございますか、新魔王様」
人形のように動かない表情のまま、ダーキルが部屋に入ってくる。
「こっちへ来い」
「はい」
「もっとだ。近くに寄れ」
新魔王はダーキルの手首を引っ張ると、ベッドの上に放り投げた。馬乗りの体勢になって、仰向けに倒れたダーキルを抑え込む。
新魔王は勝利を確信していた。レ〇プをされたがっていたダーキルが、この状況で冷静でいられるはずがない。ダーキルが演技を続けられなくなったところで「バカめ、騙されたな!」と勝利宣言をすればいいだけだ。
しかしダーキルは、機械のような表情のまま、微動だにしなかった。ただ興味のないものを見つめるように、その瞳は完全に冷めきっている。
「ば……バカな……」
ここまでして反応が無いなんて、とても信じられなかった。新魔王はベッドから降りると、ふらふらと歩いて部屋を出ていった。
まさか演技なのではなく、本当にダーキルに嫌われてしまったのではないか。ゼッカに言われたように、自分でも知らないうちに嫌われるようなことをしてしまったのかもしれない。燃やしたオムツに映し出された、涙を流すダーキルの顔が浮かんで、新魔王の胸がズキリと痛んだ。
さまようように中庭に出ると、ミラーナが孤児院から戻ってきたところだった。ミラーナは新魔王を見ると、優しい微笑みを浮かべた。
「ご機嫌いかがですか、新魔王様」
「あ、ああ……孤児院は順調なのか」
「はい、おかげ様で」
ミラーナなら、どんな相談しても優しく応えてくれるだろう。新魔王はミラーナにすべてをさらけ出して、甘えてしまいたくなる衝動に駆られた。しかし、こんな情けない相談をすることもプライドが許さない。
無造作にポケットに手を突っ込むと、指の先に触れたのは性別反転の指輪だった。二度と使わないと決めていたが、これを使えばダーキルの真意を確かめることができる。
「急用ができた」と踵を返す新魔王の背中に、ミラーナは「頑張ってくださいね」と声をかけた。
ダーキルに長時間の外出を伝えた新魔王は、ダーキルが中庭に出る頃合いを見計らって、シンコに変身をした。
魔王城の入口でウロウロしていると、向こうからダーキルが歩いてくるのが見えた。シンコの姿を見つけたダーキルは、次第に早歩きに、かけ足に、そして全力ダッシュになって、勢いそのままに飛び付いてきた。
「会いたかったです、シンコちゃん! やっぱり来てくれたのですね!」
「わわっ」
「聞いてください。つい先ほど、新魔王様にレ〇プされそうになったんです」
ダーキルは新魔王の両手を握って、ブンブンと上下に振った。
「これもすべて、シンコちゃんのアドバイスのお陰です。押してダメなら引いてみよう作戦、大成功です」
ダーキルの言葉を聞いて、新魔王は全身から力が抜けていくのを感じた。やはりすべてはダーキルの演技だったのだ。
「ですが情けないことに、押し倒されたダーキルは頭の中が真っ白になってしまいまして、何も反応することが出来ませんでした。新魔王様をがっかりさせてしまったかと思いますと、後悔してもしきれません。もしかしたら、愛想を尽かされてしまったかも……ダーキル、一生の不覚です」
ダーキルはため息をつきながら言った。
「シンコちゃん、またダーキルの相談に乗って頂けませんか」
「う、うん、いいけど」
「ありがとうございます! さあどうぞ、こちらへ」
新魔王を自分の部屋に連れてきたダーキルは、いかに自分が耐え忍んできたかを語った。オムツを捨て、おねしょをすることもなく、新魔王との食事も辞退し、中毒になりかけていたパソコンにも触らず、何より新魔王との雑談を意識的に避けてきた。
「す、すごいね。我慢強いというか、なんというか」
「ダーキル、シンコちゃんのアドバイスを無駄にしてなるものかと、血尿のにじむ思いで耐え続けました。その甲斐あって、新魔王様の方からダーキルに話しかけてくれる機会が増えてきたのです。……でも最近、毎日があまり面白くなくて」
新魔王の気を引くためとはいえ、コミュニケーションを避け続けることは辛いのだと、ダーキルは悩ましげに俯いた。新魔王にレ〇プされたいという気持ちは変わらないが、以前と同じように、新魔王と楽しく話をしたいとも思っているのだという。
「それなら、あまり無理をしない方がいいんじゃないかな? 私がアドバイスをしておいてなんだけど、ストレスを溜めるのは良くないし、もう少し長い目で見て……」
新魔王には、ダーキルがここまで思い詰めて実践していた理由がわからなかった。おやつを我慢することも、パソコンを我慢することも、今のダーキルにとってはかなり辛いことのはずだ。
「でもダーキル、不安なのです。もし新魔王様が何かの弾みで、ダーキル以外の女の子を先にレ〇プしてしまったらと思うと、嫉妬のあまりに夜も眠れません。ここだけの話ですが、新魔王様は童貞でいらっしゃるのです」
「ど、どどど……」
「新魔王様が童貞だと分かった以上、新魔王様には童貞のまま、ダーキルをレ〇プしてもらわなければなりません」
「童貞って、そこ重要な要素なのかな!」
「もちろんです。童貞も処女も一生のうちに一度きり、最高のレ〇プを求めるダーキルに妥協は許されません。なので、強引にでも新魔王様の気を引こうと思っていたのですが……ダーキル、間違ったことをしているのでしょうか」
しゅんとうなだれるダーキルに、新魔王はフォローの言葉を探した。自分が童貞だと思われていた(事実ではあるが)ことにはショックを受けたが、今はそこを無視しなければならない。
「たぶん新魔王様は、これからも本当のレ〇プなんてしないんじゃないかな」
「どうしてそう思われるのですか」
「だって、わざわざ異世界から来てまで『凌辱される寸前の表情が見たい』なんて言っている変態さんだもの。破壊神だって簡単に倒すことが出来て、その気になれば世界の全てを手に入れることが出来るのに、そうはしないってことはね」
あくまで私の想像だけど、と新魔王は言葉を続けた。新魔王にとってのレ〇プは、ケーキのてっぺんに乗ったイチゴなのだ。それは、そこにあるからこそ価値を想像させるもので、実際に食べてしまえば、途端に憧れを失ってしまうものでもある。本当のレ〇プをしないからこそ、童貞のままだからこそ感じられるドキドキを、新魔王は楽しんでいるのではないだろうか。
それを聞いたダーキルは、興奮を隠し切れない様子でコクコクと頷いた。
「ダーキル、理解しました! 新魔王様が求められているのは、寸止めという自虐プレイ! 満たされない渇望こそに、真の快楽があるとお考えだったのですね!」
「そ、そうなのかな。ちょっと大袈裟だと思うけど」
「やっぱり新魔王様は、ダーキルなど理解の及ばない偉大なお方です。そんな新魔王様を疑って、女の子に慣れるために童貞を捨ててしまうかもしれないと焦ったダーキルは、なんと浅ましく矮小な存在だったことでしょう」
ダーキルはシンコに力一杯抱きついた。
「思えばダーキルも、なんでも手に入る人生に退屈をしていました。だからこそ新魔王様の望みを自分が叶えたいと思いましたが、願いが叶わないからこその快楽というものもあるのですね。ダーキル、これからは無理してレ〇プされようとせずに、レ〇プしてもらえないもどかしさに快楽を見出そうかと思います」
「あ、あはは……これでよかった……のかなぁ」
ダーキルの悩み相談を終えて外に出ると、空は夕暮れになっていた。
「ありがとうございました、シンコちゃん。本当になんとお礼を言ったらいいのか」
迷いの晴れたスッキリとした表情で、ダーキルは新魔王の手を握る。
「シンコちゃんとなら、新魔王様と一緒にレ〇プされてもいいくらい……はっ! 3Pレ〇プという発想はありませんでした。新魔王様に捕らえられたダーキルとシンコちゃんが、お互いに庇い合いながら……というシチュエーションはどうでしょう」
「ノーセンキューだよ! 遠慮しておくよ!」
「その気になったらいつでも言ってくださいね。シンコちゃんはダーキルの恩人で、一番の親友です。もしシンコちゃんに困ったことがありましたら、今度はダーキルがシンコちゃんのお役に立ってみせます。だから……また会いに来てくださいね」
ワープホールの前で、新魔王はダーキルを振り返る。夕陽に照らされたダーキルの微笑みに、新魔王はしばしの間、見惚れてしまった。
ノールロジカに着いた新魔王は、物陰に隠れて変身を解いた。これでダーキルの態度も元に戻ることだろう。その安堵が油断となっていたのか、新魔王はすぐ側にいた人物の姿に気づかなかった。
「あのー、新魔王くん?」
呼ばれて振り返ると、そこにはノールロジカ魔法学校の制服を着たゼッカ・スカーレットが立っている。
「ゼッカ! い、いつからそこに」
「最初からよ。あなたに女装……いえ、女体化の趣味があったなんてね」
「ち、違うんだ! これは趣味などではなく、ダーキルが……」
思わずダーキルの名前を出してしまった新魔王は、慌てて口をつぐんだ。
「ふーん。じゃあダーキルに事情を聞くことにする」
「ちょ、ちょっと待った! それだけは勘弁してくれ!」
シンコに変身していたことがダーキルにバレてしまったら、マズイなんてものではない。
「どんな望みでも叶えてやる! 金か力か、永遠の命か? それとも世界の半分か」
「……哀れなほどに必死ね。事情を話してくれれば、秘密は守ってあげるけど」
抗うことのできない新魔王は、ゼッカにこれまでの経緯をすべて説明した上で、ダーキルには秘密にして欲しいと頼みこんだ。ゼッカは大きなため息をついて「本当にバカね」とこめかみに手を当てる。
「これがあなたの『一番知られたくない秘密』ってわけ? こんなに情けないのは初めてだわ」
「知られたくない秘密? どういう意味だ」
ゼッカは昔から、『その人間の一番知られたくない秘密を知ってしまう能力』を持っているのだと説明した。学校で不自然なまでに慕われているのも、口喧嘩で世界一となるような強さを得たのも、人間の裏の顔を見続けてきた結果に他ならない。
「なんだよそれ、えげつねえ! 最強じゃないか!」
誰だって知られたくない秘密を握られてしまったら、逆らえなくなってしまうに決まっている。生徒たちのゼッカへの態度も納得だった。
「だからあなたは単純だっていうの。知りたくもない秘密が、勝手に集まってくる方の身にもなってみなさいよ。まあ、私のことなんていいから、早く魔王城に帰ってあげなさい。ダーキルが待っているんじゃないかしら」
しっしと手を振るゼッカに、新魔王は戸惑いと不安の混じった視線を向ける。
「そんな目をしなくても、ダーキルには秘密にしておくから安心しなさい。もっとも、今後の『キミ』の態度次第だけれど」
「かしこまりました、ゼッカ様……!」
「ふふ、よろしい。みんなの前では今まで通りでいいからね」
ドSな微笑みを浮かべるゼッカに、新魔王は完全なる屈服を認めざるを得なかった。
魔王城に戻ってきた新魔王に、ダーキルは思惑を打ち明けて謝罪をした。
「申し訳ございませんでした。ダーキル、どんな罰でも受ける覚悟です」
「罰を与えたところで喜ぶだけだろう。お前には罰を与えないのが一番の罰だ」
「そこまで見抜かれているとは! ダーキルは畏怖と尊敬のあまりに、数日ぶりに膀胱がうずいてきました」
「出すなよ? 絶対に出すなよ?」
「それはいわゆる、コントの前フリと受け取ってよろしいですね」
「前フリではない!」
「ご安心ください、ちゃんとオムツは付けて……あっ」
新魔王が床を見ると、ダーキルの足元に小さな水たまりが出来ていた。ほのかに甘い香りを漂わせるそれは、みるみる面積を広げていく。
「オムツを外していたのを、すっかり忘れていました。ダーキル、うっかり♡」
「うっかりじゃねえよ! 止めろ、止めろ!」
「もはや手遅れです。こうなってしまっては、もはやダーキルにも止めることは出来ません」
「ゲームの山場みたいに言うなよ! 股間に力を入れるんだ!」
「股間に力を……こうですか?」
「勢い増してんじゃねえか!」
異世界ポケットからオムツを取り出した新魔王は、吸水面を下にして、ダーキルの回りに出来た水たまりの上に被せていく。
「ああもう、なんで俺がこんなことをしなくちゃならんのだ!」
「あの、新魔王様。一つお願いがあるのですが……」
「なんだよ、こんなタイミングで!」
おしっこ処理の対応をしている新魔王に、ダーキルは真剣な表情で言った。
「新魔王様がこの先、本当にレ〇プをされる時は、どうかダーキルを初めての相手にお選びください。そのようにお約束して頂けましたら、ダーキルはこれからも安心して、新魔王様にお仕えすることが出来ると思うのです……」
「いいけど、それいま言うことかよ!」
「はい、どさくさに紛れてOKを頂いてしまおうかと」
そう答えながら、ダーキルはパッと顔を輝かせる。
「新魔王様! いま、どさくさに紛れて『いいけど』と仰いましたよね! ダーキル、聞き逃しませんでした!」
「いいから小便を止めろ! どれだけ出てくるんだ!」
「うれしょんは別膀胱なのです! ああ、今日はなんて素晴らしい日なのでしょう! シンコちゃん、ダーキルはやりましたよ!」
「踊るな、小便が跳ねる! 顔についたではないか!」
「ダーキル、いつか新魔王様が本当にレ〇プをしたくなっちゃうような、最高に魅力的な女の子になってみせます! それまで新魔王様、ふつつか者のダーキルをよろしくお願いいたしますね!」
「ふつつか者にも限度があるだろう、この変態姫がーっ!」
★
――新魔王の鬼畜凌辱ハーレムメモ――
【101号室 ドロシー(オークの姫)】
先日、一人で出かけたドロシーが、夜になっても戻ってこないという出来事があった。気配を追ってみれば、ドロシーは洞窟の奥で、怪物に襲われかけている。間一髪、俺が間に合ったから良かったものの、一歩間違えれば命を落としていただろう。なぜそんな無茶をしたのかと問い詰めれば、ドロシーはあらゆる生物を人間へと変化させるという『人化の秘宝』を手に入れたかったのだと言う。
なんでもドロシーは最近、好きな人が出来たらしい。相手の気を引くために、人間に変身したいということだが、まったく馬鹿げていると説教をしてやった。
「人間の姿になったくらいでお前になびくほど、お前が惚れた人間というのは愚か者なのか? その程度の人間に、お前に惚れられる資格などない!」
「新魔王様の仰る通りだとよ……ありのままのオデを好きになってもらえるよう、頑張るっちゃ!」
【102号室 エル(エルフの少女)】
娘を育てる親の気持ちとは、こういうものなのだろうか。日々成長していくエルを見守っている時間は、殺伐とした毎日を送る俺の清涼剤となっている。
だが、少しずつ言葉を覚えているものの、記憶はまだ戻っていない。俺の力で、殺されたエルフたちを生き返らせてみてはどうだろうかと、考えなかったわけではない。しかし、それをどうするべきかは、エルが自分を取り戻してから、この子の判断に任せようと思っている。
「パーパ、大好き!」
「そうか~」
「パパはエルのこと好き?」
「好きだぞ~」
「ママとエル、どっちが好き?」
「もちろん、エルだぞ~」
「えへへ」
「エルは、パパとママどっちが好きだ?」
「パパー!」
扉の隙間から、ダーキルが恨めしそうな視線を送っているが、気にしないことにする。
【103号室 ノーラ(ゾンビ少女)】
死にたくても死ねないノーラに、俺はいつか殺してやると約束をしていたのだが、「あ、その件はもう大丈夫です」とノーラが言って来た。姉であるミラーナにも会えたし、毎日が充実しているので、今はこの体で生きていきたいのだと言う。
そんなノーラは、ますますホラー映画や漫画にハマっていて、隙あらば俺を驚かせようとしてくる。最近では貸してやった化粧道具を使って、死に顔のバリエーションを増やしてきた。子供たちに怖がられないためのメイクだったはずが、なぜ俺を驚かすための特殊メイクになっているのか……。まったく先が思いやられる。
【104号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】
俺がシンコに変身していたことがバレてからというもの、魔王城における……いや、この世界におけるヒエラルキーの頂点はゼッカになった。
「そんなに私が嫌だったら、殺すなり記憶を奪うなりすればいいじゃない」
俺の後頭部を、ゼッカが空のお弁当箱でポカリと打った。今朝のお弁当は大きなハートマークのちらし寿司にしたのだが、ゼッカにダメージは無かったようだ。
そんなある日、超魔王ゼッカから一枚のプリントを渡される。
≪授業参観&進路相談のお知らせ≫
両親の代わりに俺に来て欲しいのだと言う。もちろん拒否権はない。しかしこれはチャンスだ。俺の負い目を上回るゼッカの秘密を得ることが出来れば、再び俺がこの世界の頂点に返り咲くことが出来る。
いつもより気合いを入れた重箱弁当の仕込みをしながら、俺は人知れず、邪悪な笑みを浮かべるのだった。
「何を企んでいるの? さっきからここにいるんだけど」
「なんでもありません、ゼッカ様!」
【105号室 ミラーナ(巨乳のシスター)】
ミラーナの孤児院へ視察に行くと、新魔王様への忠誠心を示す出し物を用意しているといった。子どもたちは『新魔王様を称えるうた』の後、俺が主役として登場する芝居を披露してくれた。
「どうでしたか、新魔王様。みんな一所懸命に練習してきたんですよ」
ミラーナの後ろで、不安そうな表情をしている子どもたちに、俺は言う。
「クックック……たいへん良く出来ました!」
喜ぶ子どもたちを見て、新魔王の悪名が轟く日もそう遠くはないことを確信するのだった。
その日の夜、自室ではミラーナが祈りを捧げていた。信仰を捨てさせたはずなのに、何を祈っているのかと聞いてみる。
「もちろん、敬愛する新魔王様に祈りを捧げているのです」
「それは殊勝なことだな。どんなことを祈っているんだ」
「明日も新魔王様が話しかけてくれますように、少しでも一緒の時間を過ごせますようにと」
ミラーナの微笑みに、俺は「い、祈りが届くといいな」としか言えなかった。
【106号室 ルト(男の娘勇者)】
男の友情は良いものだ。今日もルトを真の男に育てるための特訓が続いている。そして衝撃の事実が判明してしまった。
「お前、オ○ニーをしたことがないのかよ!」
「う、うん……なんのことだかさっぱり」
小さい頃から女の子として育てられ、勇者として旅をしてきたルトは、まともな性教育を受けてこなかったのだ。たしかにこれは、友達同士でも話しにくい問題かもしれない。しかし俺はルトとの約束を守るために、男としての正しい性知識を教えてやらないわけにはいかない。それこそが真の友情というものだろう。
「まずはだな、ち○ちんを勃起させるのだ」
「ぼっき?」
秘蔵の画像フォルダを開いて見せるものの、ルトは自分の体に変化を感じないらしい。
「この画像のどれでもいいから、見ていてドキドキするというか、興奮するものを選んでくれ。そこからお前の性嗜好を見つけてやろう」
ルトと並んで、パソコンのモニターを覗き込む。しばらくして、ルトが俺の顔を見ていることに気が付いた。
「おい、なんで俺の顔を見ているんだ。サボるなら特訓はやめにするぞ」
「ご、ごめん! ちゃんと頑張るから、特訓を続けてください!」
【魔王城の塔 ダーキル(魔族のお姫様)】
以前、燃やしたオムツの映像で、ダーキルが涙を流しているシーンが出てきたが、その謎が解けた。
「ダーキルは厳しい特訓の末、いつでも涙を流せるというレ〇プスキルを身につけました。これで迫力のあるレ〇プ未遂シーンがお楽しみいただけます」
涙を流しながら「だめ、近寄らないでください」とベッドに横たわるダーキルを横目に、俺はパソコンの画像整理を続けた。一瞬でもダーキルを傷つけてしまったのではないかと心配した自分が恥ずかしい。そのうち放置されていたダーキルが、俺の枕を相手にエアレ〇プの練習を始めた。いつもの魔王城の日常である。
しかし俺は最近、想像することがあった。
ダーキルと、魔王城の庭で雑談している時。
ダーキルと、おかずを交換しながら食事をしている時。
ダーキルと、パソコンの動画を見ながら笑っている時。
ダーキルと、就寝の挨拶をして別れる時。
もし突然、俺が本気で襲いかかったら、ダーキルはどんな反応をするのだろうか。
「あっ、新魔王様、いまエッチなことを考えていましたね」
ダーキルが布団の隙間から顔を出した。
「ダメですよ、本当にレ〇プなんてしたら。ケーキのてっぺんにあるイチゴは、食べずに取っておくものなのです。だからこそ輝いて見えるものなのです」
完全にシンコちゃんの受け売りだったが、俺も同意をしておいた。
「わかっている。レ〇プをしてしまっては、レ〇プ未遂が楽しめなくなるからな」
「でもでも、レ〇プ未遂でしたらいつでも大歓迎ですからね? ダーキル、いつでも準備は出来ています。いつか本当にレ〇プされてしまう日まで、ずーっと楽しみが続くだなんて、こんなに幸せなことはありません」
期待に満ちたダーキルの視線に頷きながら、俺はどうすればレ〇プ未遂を成功させることができるのだろうかと、再び頭を悩ませることになった。
「新魔王様、焦る必要はありません。ダーキルと新魔王様のレ〇プ物語は、まだ始まったばかりなのですから!」
「打ち切りみたいに言うなよ、縁起が悪い」
「20巻くらいまで連載されれば、本当にレ〇プしてくれているでしょうかね」
「知らねーよ。というか、それまでの19巻でどんなストーリーが展開されるんだ」
「それはもちろん、新魔王様とダーキルが世界中を回って、たくさんの美少女たちと最高のレ〇プシチュエーションを集めてくるのです。きっと楽しいですよ」
「今まではお前に任せきりだったからな。これからが本番と言っても良いだろう」
「実はダーキル、新魔王様にオススメしたい美少女をすでに発見しているのです。なんと新魔王様の大好きな……女騎士です!」
「おお! 女騎士といえば、『くっ、殺せ!』の名言を生み出したレ〇プ界のレジェンド職業! 血と泥に汚れながらも、壊れた装備から見える白い柔肌は、官能を限界まで高めてくれる最高のシチュエーションだ!」
「良かったら明日にでも、ダーキルと一緒にお出かけしませんか?」
「うむ! そうと決まれば、明日の弁当の仕込みをせねばな!」
「ビデオカメラの充電と、空き容量もしっかり確認しておきます」
「はーっはっは! 待っていろ、世界中の美少女たちよ! 新魔王様の鬼畜凌辱ハーレム伝説は、これより幕を開けるのだ!」
「ダーキル、どこまでもお供いたします!」
(おしまい)




