第十話 ついているとかいないとか
早朝、ベッドから起き上がった新魔王は、いつものようにパソコンを起動させて、お気に入りのエロ画像サイトを巡回していく。
この異世界へ来てからしばらくが経った。鬼畜凌辱ハーレム計画は、まったく進展していないわけではない。しかし、思っていた以上に考えるべき問題が多いことを、新魔王は痛感していた。
当然のことながら、美少女を集めてくればハイ完成、というわけにはいかない。二次元の世界とは違って、現実に少女たちは生きている。食事をすればトイレにも行くし、体調だって崩す。風呂に入らなければ汚れるし、着ているものだって洗濯をしなければならない。その面倒を見るのは、支配者である自分の責任なのだ。
朝食の時間になり、あくびをしながら調理室に向かった新魔王は、異世界ポケットに手を突っ込んで材料を取り出した。出来上がった朝食を台車に乗せ、美味しそうな匂いと湯気を立ち上らせながら、ガラガラと魔王城の廊下を進んで行く。いつもならダーキルが挨拶にくるのだが、ダーキルは昨日に貧血で倒れて、そのまま眠っているようだ。
魔王城の入口へ行くと、ノールロジカ魔法学校の制服を来たゼッカが腕組みをしながら待っている。
「遅いんだけど。私、今日は委員会の集まりがあるって言ったよね。どれだけ物覚えが悪いのよ。神様にお願いして、チートの記憶力でも貰ってきなさい。その命と引き換えにね」
ゼッカは新魔王からお弁当を受け取ると、ワープホールへ足早に向かって行った。その後ろ姿を見ながら、今日のゼッカは機嫌が良かったみたいだと、新魔王は額の汗を拭う。
それぞれの部屋に食事を配ったあとで、新魔王は106号室にやってきた。手にはオーベストーク王からもらった性別反転の指輪が握り締められている。いつもと違ってダーキルはいないが、男を相手にした凌辱の練習なので、撮影をする必要もない。むしろ一人の方が練習しやすいかもしれないと、新魔王は106号室の扉を開けた。
「ご機嫌はいかがかな、勇者ルトよ」
ルトが怯えた表情で新魔王を見上げて、逃れるように体を小さくした。まさに新魔王が望んだ通りのリアクションだ。男を相手にしているからか、不思議とルト相手にはスラスラと鬼畜なセリフが浮かんでくる。
これでルトの性別を反転させて、それでも変わらずに責められるのであれば、新魔王は自分の成長を信じることが出来るだろう。たっぷりとルトを怖がらせ、ウォーミングアップを済ませたところで、新魔王は性別転換の指輪を取り出した。
ルトの手を取ると、本当に男なのかと疑ってしまうほどに小さくてプニプニしている。その指に指輪をはめてみたが、特に変わった様子はなかった。顔立ちはもともと可愛らしいし、体つきも小柄で少女のようだった。
「おいルト、体に変わったことはないか。胸が大きくなったとか、ち○こがなくなったとか」
新魔王の言葉を、ルトは挑発だと受け取ったらしい。
「そんなにバカにするなら見せてやる! ボクが男の子だっていう証拠を!」
ルトはそう言って、下着ごとズボンを引きずり下ろした。
「見ろ! これでボクが男だと……あ、あれ? な、ない!」
それがあるはずだった部分を、ルトは必死にまさぐった。
新魔王は無言の悲鳴を上げて、石化してしまった。混乱しているルトは上着を脱いで、わずかに膨らんでいる胸元に悲鳴をあげる。
「ボクの体が女の子に……まさか、さっきの指輪が……」
ルトは指輪を外そうとするが、自力で外すことができないことがわかると、胸元と股間を抑えたまま涙目で体を震わせていた。ようやく新魔王も意識を取り戻し、額に浮いた汗を拭った。とんでもないものを見てしまった気がするが、記憶があいまいで、はっきりと思い出すことは出来ない。
「まさか本当に効果があるとは……さて、これで貴様は正真正銘の女になったわけだ。その身に何が起こるか、せいぜい怯えるがいい」
ルトが女になったことは確かなようだが、見た目がさほど変わらないために、新魔王は今まで通りの手ごたえを感じていた。
しかしルトの表情に、新魔王はふと疑問を感じる。それは凌辱されることを恐れているものではなく、激しい自己嫌悪と悲しみを感じさせる表情だった。
「……やっぱりボクには、勇者なんて無理だったんだな。こんな見た目のせいで、一緒に旅をしていた仲間に襲われて、魔王にまで辱めを受けるだなんて」
「仲間に襲われた? どういうことだ」
新魔王の問いに、ルトは自嘲気味に話し始める。
選ばれし勇者であることが判明する14歳までの間、ルトは女の子として育てられ、劇場の踊り子として働いていた。母親は有名な女優で、自分の美しさを引き継いだルトを、どうしても女として育てたがったのだ。
勇者として魔王を倒しに行くことになったとき、ルトは困惑しながらも、これで男の子として生きていけると喜んだ。しかしルトが勇者らしく、男らしく振る舞おうとするほどに、それが返ってルトの可愛らしさを際立たせてしまった。
旅先では王族や貴族に夜伽を迫られ、信頼していた仲間たちからは痺れ薬を盛られ、レ〇プをされかけたという。それがトラウマとなり、以降は一人で旅を続けていた。
「世界を平和にするために必死で戦い続けてきたのに、そういう対象にしか見られなかったなんて、情けないよね。なんだかもう、どうでもよくなってきちゃった」
「…………」
新魔王は言葉を返すことが出来なかった。母親の勝手で女の子として育てられ、それでも勇者として勇敢に戦ってきたルトに対して、人間たちが行った仕打ちはあまりに残酷なものである。その憤りが、同じことをしていた自分自身へと向かった。
新魔王はルトの側にしゃがみこむと、性別反転の指輪を外した。
「悪かった、ほんの冗談のつもりだったんだ」
新魔王が謝罪すると、ルトはきょとんと目を丸くする。さらに新魔王は、自分が魔王ムシュトワルでないことを明らかにした。
「し、新魔王ってまさか、破壊神キルドライノスを倒した救世主様!」
やはり噂は大きく広まっているらしい。これは早急に対応しなければならないと、新魔王はこめかみに手を当てる。
新魔王はルトを解放してやることにしたが、ルトは魔王ムシュトワルが倒されてしまったことで、旅の目的を失ってしまったという。生まれ故郷に戻って、また女の子として生きていくのはイヤだと首を振った。
「あの、新魔王『様』。ボクを新魔王様の弟子にしていただけませんでしょうか」
「……は?」
「ボク、新魔王様みたいに強くてカッコいい男の人になりたいんです! 新魔王様って、その……ボクの理想の男性というか、怖いところも意地悪なところも、すごく男らしかったですし、憧れるなーなんて……」
ルトは赤面しながら言った。
「お願いします、ボクを男にしてください! そうでなければ、ボクはここで自分の命を断ちます!」
ルトの目は真剣そのものだった。事情を知らなかったとはいえ、いじめすぎてしまった引け目もある新魔王は、少しぐらいならと要望を聞いてやることにした。
それに考えてみれば、この異世界には同性の友だちがいなかった。いつも側にいるダーキルも、やはり女の子なので、気を使っていないと言えば噓になる。男同士で気軽にエロ話が出来たら、それはそれで面白いかもしれない。
「ではルトよ。この俺が直々に、お前を真の男へと育て上げてやる。俺の修行はとても厳しいが、付いてこられるかな」
「よろしくお願いします、師匠! まずは何をすればいいですか? 素振りですか、走り込みですか?」
「馬鹿を言え。そんなものでは、男らしさの欠けらも手に入れられないぞ」
新魔王はルトの拘束を解くと、自分の部屋へと案内した。
お昼近くになって、ダーキルが新魔王の部屋にやってきた。
「ご心配をおかけいたしました、ダーキル復活です。それでは新魔王様、今日もルトさんの所へ……って、あれ?」
パソコンの前では、新魔王とルトが並んで座っている。
「いいかルト、男らしさの源は性欲だ。女に欲情することで男性ホルモンが活発になり、より男らしくなっていく。こうやってエロ画像を見ることが、何よりの訓練になるのだ」
「うう、師匠……ボク、恥ずかしくて見ていられません」
「逃げるな! 真の男になりたいと言ったのは嘘だったのか?」
「いいえ、決してそんなことは……ボク、頑張ります!」
「よし、その意気だ。では次のエロ画像に行くぞ」
「はい、師匠」
事情を察したダーキルは、少し残念そうにしながらも、ビデオカメラを構える。
「かわいい男の子にエッチな画像を見せる新魔王様……これはこれで、とっても良いものです! ダーキル、いけない妄想がはかどります!」
異世界で初めての男友だちが出来た新魔王は、ルトに恥ずかしくない鬼畜凌辱魔王にならなければならないと決意を新たにした。魔王城の工事はまもなく完了する。全室にエアコンが完備され、照明設備も整った。工事さえ終われば、今はダーキルに任せきりの美少女探しも自ら動くことができる。
しかし本格的な鬼畜凌辱ハーレム活動をスタートさせる前に、新魔王はいくつかの問題を解決しなければならなかった。その一つとして、新魔王が人間界で救世主扱いをされているという事実がある。
それではせっかく美少女を連れて来ても、新魔王が名乗った瞬間に安心されてしまうだろう。かつてその残虐性から、最強最悪の吸血鬼と恐れられたハイエンダール伯爵のように、その名前だけで人々を震わせるような悪名が必要だ。そして新魔王は、鬼畜の極みと自賛するアイデアを思い付き、それを実行に移すためにミラーナを呼び出した。
敬虔なシスターであるミラーナは、世界中の恵まれない子供たちを助けたいと考えている。新魔王はミラーナに、その願いを叶えてやろうと言った。
「ただし! 孤児たちが生活をするのは人間界ではなく、この魔界だ。そして子供たちには、この新魔王様のために働いてもらう」
新魔王は悪名を広めるために、子どもたちを忠実な工作員を育て上げ、人間界で有ること無いこと吹聴してもらうのが効果的だと考えた。そして都合の良いことに、人間界には身よりのない貧しい子どもたちが大勢いるという。
「これを利用しない手はない。無知な子どもたちを洗脳し、新魔王様の鬼畜凌辱ハーレムの礎としてやるのだ。あれを見るがいい」
新魔王が指した窓の向こうには、巨大な学校が建てられていた。整地されたグラウンドには、遊具などの設備までもが揃えられている。
新魔王の異世界ポケットは、元いた世界にある物を取り寄せることが出来るが、そのサイズは関係ない。ちょうど廃校になる予定の校舎が見つかったので、この異世界で活用させてもらうことにしたのだ。
「優秀な工作員を育てるには、良好な教育環境が不可欠だ。無論、健康な体もな。学校の周辺に生活用の施設も用意しておいた。足りないものがあれば何でも言うがいい。鬼畜凌辱ハーレムの実現のためには、いっさいの投資は惜しまない」
「ダーキルは驚愕しています! あまりに鬼畜、あまりに残酷! 餓えて死にそうな孤児を集め、食べ物を与えて懐柔するばかりか、無理やりに教育の機会を与えて洗脳するなんて……天上の神々が、大挙して押し寄せかねない悪行です!」
「はーっはっはっは! この新魔王、目的のためには手段を選ばぬ」
「ご覧下さい、新魔王様。洗脳施設を見つめているミラーナさんが、絶望と恐怖の余りに泣きだしてしまいました」
「俺の鬼畜っぷりが理解できたようだな。ミラーナよ、お前には孤児の教育と管理を一任する。新魔王様の悪名を広めるために、優秀な工作員を育て上げるのだ」
「はいっ……本当に……ありがとうございます……」
泣きじゃくるミラーナに近づいた新魔王は、その胸元に掛けられていたネックレスを引きちぎり、床に落とした。それはミラーナが信仰しているアルテナ神教のシンボルで、修道女であるミラーナにとっては、魂の支えとも言うべき絶対のものである。
「踏みつけろ。お前の信じる神を捨て、この新魔王様に忠誠を誓うのだ」
無言でネックレスを見つめていたミラーナは、やがて小さく頷いた。
「私は新魔王様に忠誠を誓います。すべては新魔王様の、夢の実現のために」
ネックレスを踏みつけたミラーナは、微笑みながら目もとの涙を拭った。
それから数日後。ミラーナが各地から集めて来た孤児たちが、新魔王の洗脳施設に次々と到着していた。
新魔王が庭で散歩をしていると、空からフラフラと、疲労困憊といった表情のダーキルが落ちて来る。新魔王に命じられて、子どもたちの護衛や移送といったミラーナのサポートをしているのだ。
「た、ただいま戻りました、新魔王様……」
「ご苦労だったな。褒美にコーラをやろう」
わーいと喜んでコーラを受け取るダーキルだったが、ペットボトルを自力で開けることが出来ない。新魔王に開けてもらって、んくんくと一気に飲み干した。
「それにしても、ミラーナさんはチートですね。あれだけ子どもに囲まれても、ずっとニコニコしているのですから、ダーキルにはとても理解できません。あちこち引っ張られて、飛び付かれて、レ〇プされた気分ですよ」
「それなら良かったじゃないか」
「よくないです! ダーキルをレ〇プしていいのは新魔王様だけです!」
ダーキルがコーラのおかわりをねだったので、新魔王は追加で渡してやった。
ミラーナは世界各地から貧しい孤児たちを集めている。もちろん一人で面倒を見ることはできないので、人間の善悪を見抜く『神眼』の能力を使い、各地の教会などから魔界で働いてくれる人間を集めていた。しかし環境が整うまでは、ダーキルたち魔王城の面々にも助けを借りている。
そこへちょうど、ワープホールから制服姿のゼッカが帰って来た。新魔王とダーキルは反射的に身構える。
「ただいま」
「お、おう」
新魔王は震え声で応えた。
「まさか、魔界に学校を作っちゃうなんてね」
ゼッカが振り返った先には、新魔王が用意した学校が建っている。距離にして徒歩15分くらいといったところだ。付近には魔物もいないので、安心して出歩くことができる。
「面白そうだし、私もあっちに転校しようかな」
「ぜ、絶対にダメだ! お前が行ったら洗脳どころの騒ぎではない。最強のメンタルキラー養成学校になってしまう」
「誰がメンタルキラーですって」
「はーっはっはっは! 逃げるぞ、ダーキル!」
「はい、新魔王様!」
全力ダッシュで走り去る新魔王とダーキルの背中を見ながら、ゼッカはため息をついた。
★
――新魔王の鬼畜凌辱ハーレムメモ――
【101号室 ドロシー(オークの姫)】
ミラーナの学校作りを積極的に手伝ってくれている。子どもたちからすれば、自分の何倍も大きいオークなのだが、怖がられるどころか大勢に懐かれているようだ。
【102号室 エル(エルフの少女)】
いつかエルも学校に通わせたほうが良いだろうか。可愛い子ほどいじめられやすいから心配だ。しかしランドセル姿は見てみたい。
【103号室 ノーラ(ゾンビ少女)】
自分も学校へ行きたいと言い出した。周りの子どもを怖がらせたくないと相談されたので、試しに化粧道具を取り寄せて渡しておいた。
【104号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】
よくよく考えてみると、ゼッカを連れてきたあの日からは、あまり酷いことを言われていない。こちらが挑発しなければ自分からは攻撃しないということだろうか。
【105号室 ミラーナ(神眼の聖女)】
子どもたちを集めてくるだけでなく、教育のカリキュラムも作っている。そういえば、もとは良い育ちのお嬢様だったな。そう考えるとあの巨乳も納得できる。
【106号室 ルト(男の娘勇者)】
師匠、師匠と慕われるのは実に気分が良いものだ。最近ではよく笑うようにもなって、ますます可愛さに磨きがかかってきた。この調子で真の男を目指していこう。




