第八話 おっぱいが大きいのに聖女という矛盾
新魔王の朝は早い。夜の明けきらないうちに布団を出ると、魔王城の周りを散歩しながら、朝ごはんの献立を考える。
最近はゼッカにお弁当を作るようになったため、起床時間が1時間ほど早まった。ゼッカの弱点を見つけようと、好き嫌いの分かれそうな食材を選んで作ったお弁当だったが、「ごちそうさま、美味しかったわ」とあっさり完食されてしまった。
毒舌だけに舌も強いのだろうか。一般人の嫌いなものを出しても、あるいは逆効果なのかもしれない。いっそ舌がとろけるような美味いものを入れてやろうか。
そんなことを考えながら厨房に入り、会心のお弁当をゼッカに手渡したあとで、自分とダーキル、ドロシーとエルフ少女の食事を用意する。ノーラは何も食べないでも生きていけるらしく、なぜか食事の代わりに漫画1冊を渡すことになっていた。
「新魔王様とダーキルしかいなかった魔王城も、賑やかになってきましたね」
朝食の卵焼きを食べながら、ダーキルが言った。
「俺がイメージしている鬼畜凌辱ハーレム城にはほど遠いけどな」
分厚いハムにレタスとチーズをはさんだパンを、新魔王が不機嫌そうに頬張る。
「それで、次の美少女の目星はついているのか」
「はい、この後で捕まえに行ってくる予定です。リアクションが強ければ良いというものではないということで、女の子らしい優しさと分別を持った美少女を厳選しております。きっとご満足して頂けると思いますよ」
「おお、それは楽しみだ。帰りは昼過ぎくらいか」
「夕方くらいになってしまうかもしれません。何かついでの買い物でもありますか」
「いや別に。遅くなりそうなら、お前も弁当を持っていくか」
「わーい、嬉しいです。コーラもつけてくださいね」
ダーキルは新魔王に用意してもらったお弁当を大事そうに抱えながら、魔界の空へと飛び立って行った。
夕刻、予定通り美少女を捕まえてきたというダーキルは、新魔王を地下室の105号室まで連れてきた。
「ご苦労だったな。弁当はちゃんと食べられたのか」
「はい、とっても美味しかったです。おかげさまでダーキル、いつになく良いお仕事ができました」
「そうか、じゃあ今後も弁当を作ってやろう。1つ作っても2つ作っても手間は変わらないからな」
「ぜひお願いいたします。でも納豆は入れないでくださいね」
「さすがに弁当に納豆は入れないな。それで、今回はどんな美少女なのだ」
新魔王の問いに、ダーキルは自信満々に答えた。
「人間界で最大勢力のアルテナ神教を信仰する、敬虔なシスターさんです」
「おお! シスターと言えば、女騎士・エルフと並ぶレ〇プ被害の鉄板職業! 神へ捧げられた清らかな身体を力ずくで奪う背徳感は、まさに神からの寝取りプレイ!」
「シスターさんであれば、ゼッカさんのように酷いことは言いませんからね」
「安心安全の凌辱プレイを楽しむことができるな。素晴らしい配慮だぞ、ダーキル」
「えっへん。それでは撮影してきた動画にて、ダーキルのレポートをお送りいたします」
ダーキルはそう言って、ビデオカメラの再生ボタンを押した。新魔王が小さな液晶画面を覗き込むと、今にも崩れそうな古い教会が映し出された。粗末な服を着た子供たちが楽しそうに辺りを駆け回っている。
「今、画面に入ってきた修道服の女性が『シスター・ミラーナ』さんです。17歳の割には大人びた雰囲気をしていますが、見ての通り――」
「胸がでかい!」
「悪魔に魂を売ったとしか思えない巨乳ちゃんです。ダーキルも着やせするタイプですが、ミラーナさんには敵いませんね。歩くたびに、胸がたゆんたゆんしています。実にけしからんおっぱいです」
「ううむ、エロすぎる。こんなシスターがエロアニメ以外で実在するとは驚きだ」
「ところで新魔王様、以前に好みの女の子のタイプをお伺いしたとき、おっぱいの大きさは関係ないと仰っていましたよね」
「言ったけど、なに睨んでいるんだよ」
「いえ、別に。では次のシーンへ行きましょう」
画面は切り替わって、孤児院での食事風景になった。木のテーブルに置かれたパンはカビだらけで、具材のほとんど入っていないスープが置かれている。
「おいおい、食えるのかよあんなもの。ちょっと酷すぎるんじゃないのか」
「死ぬよりはマシでしょう。この一帯では重税に加えて凶作が続いており、餓えて死ぬ人間も珍しくはありません」
それを聞いて、ビデオを覗き込んでいた新魔王が顔をしかめる。
「もともとミラーナさんは裕福な生まれで、アルテナ神国で最も格の高いアルテナ神団に所属していました。しかしある時、ミラーナさんは裕福な生活の裏側で、多くの人々が貧困に苦しんでいるという事実を知ったのです。ミラーナさんは約束された地位と身分を捨てて、各地の孤児院を支援して回るようになりました」
ミラーナはナイフでパンのカビを削り、柔らかい部分を子どもたちに与えていた。カビの多く残る硬い部分を、子どもたちに気付かれないように、そっと自分の口に運んでいる。
「すごいな、本物の聖女ではないか」
「そんなミラーナさんには不思議な力がありまして、彼女の眼に映る者は、心の善悪を見抜かれてしまうそうです。そのため彼女は『神眼の聖女』と呼ばれていましたが、神団の一部の人間からは煙たく思われていたようですね」
「宗教家だからって、善人ばかりだとは限らないからな。上手く立ち回って私腹を肥やそうという不届き者もいるだろう」
「おっしゃる通りです。アルテナ神殿を出たミラーナさんは、すぐに自身の財産を使い果たしてしまいました。寄付を募ろうにも、神団を出たことで嫌がらせを受けており、満足に活動することもできません。こちらをご覧ください」
孤児院にはガラの悪い男たちが集まっている。悪徳の高利貸しで、これも裏で糸を引いているのはアルテナ神団の幹部だとダーキルがいった。
「黒幕の男はミラーナさんに目をつけていまして、子どもたちを助けたかったら、自分の愛人になれと迫っているようです」
「クソだな。神に仕える者が、聞いて呆れる」
新魔王は苛立ちながら、つま先で地面をとんとんと踏みつけている。
「そこへ偶然、一人の勇者様が通りがかりました。名前はルトさんと言います。見目麗しい、男装の令嬢といった出で立ちですね」
「おお、女勇者か! すごく可愛いじゃないか」
高利貸しの男たちと小競り合いになるも、ルトは見事な剣さばきで撃退する。
「さすが勇者様だ。スカッとしたぜ」
「その後、ミラーナさんの相談を受けた勇者ルトさんは、北の洞窟に眠っていると噂の宝物を取りに向かいます。その辺りのシーンは長いのでカットいたしますね。もし興味がございましたら、『だあきるのふおるだ』をご覧ください」
「うむ、サクサク行こう」
洞窟の魔物を倒したルトは、孤児院に宝物を持ち帰った。これで明日からは、子どもたちに満足のいく食事を与えられると、ミラーナはルトにお礼を言った。
「めでたしめでたしか。やはり勇者はカッコいいな。子どもたちも嬉しそうだ」
「このままハッピーエンドと行きたいところですが、空から現れたダーキルが、無情にもミラーナさんを連れ去ってしまいました。雲一つない青空に、子どもたちの泣き声が響いています」
「このタイミングでとか、空気が読めなさすぎる。勇者はどうしたんだ」
「しつこく追いかけてきましたので、眠らせて106号室に入れておきました。見たところおっぱいがありませんでしたから、少し迷ったのですが、新魔王様はおっぱいの大きさは関係ないと仰っていましたので」
「勇者も捕まえたのかよ。まあたしかに可愛かったけどな」
ビデオカメラのスイッチを切ったダーキルは、「どちらの部屋から行きましょう」と新魔王に尋ねた。新魔王は少し悩んで、シスターのいる部屋を選択する。
「かしこまりました、おっぱいシスターさんですね。もちろん、処女であることはダーキルが確認済みですので、ご安心ください」
「前から気になっていたのだが、その確認ってのは、実際に見ているわけだよな」
「はい。皆さんに眠りの魔法を掛けて、その隙に脱がしてしまうのです。ミラーナさんもゼッカさんも、ドロシーさんもエルフちゃんも、同じようにしてダーキルが確認いたしました。しかしノーラさんだけは、処女膜が確認出来ませんでした」
「ノーラはハイなんとかの屋敷で人体実験をされていたからな。処女であると考える方がおかしいだろう」
「性交の経験は無いということですが、物理的には非処女ということになりますね。処女厨の皆さまには残念なお知らせとなりました」
「物理的に処女かどうかは関係ない。大切なのは精神だ。最近は処女膜も医療で再生できるらしいからな。ヤリまくりのビッチが形ばかりの処女に戻ったとしても、それでは処女と呼べないだろう。逆に事情があって非処女になったとしても、精神的に処女なのであれば、それはまさしく処女であると言えるのだ」
「いつになく早口での解説に、新魔王様のこだわりが感じられます」
雑談をしながら準備を終えた新魔王は、カメラを構えたダーキルとともに105号室の扉を開けた。暗闇に炎の玉を飛ばすと、鎖で繫がれたシスター・ミラーナの姿が浮かび上がる。その体は、胸元を強調するように鎖で縛り上げられていた。
新魔王とダーキルは顔を見合わせて、無言で親指を立てた。
「こ、ここは……あなたは一体……」
「ククク……ここは魔王城。神の加護も届かぬ、果てなき闇の深淵なり。もはや逃げることは叶わぬ。貴様に与えられるのは、恐怖と絶望に彩られた終わりなき恥辱の日々よ」
「魔王城……」
ミラーナの表情が青ざめる。
「はーっはっは、恐ろしいだろう。神に仕える純潔の身とはいえ、己に振りかかる災難くらいは理解できるはずだ。さあ、泣くがいい、喚くがいい! この俺様に許しを乞うのだ! そうすれば、一日くらいは凌辱を延期してやってもいいのだぞ」
ノリノリで責め立てる新魔王は、ミラーナに見つめられていることに気が付いた。
「おい、どうした。恐怖のあまりに声も出ないのか」
ミラーナは「ふふっ」と小さく笑いながら応える。
「あなたが魔王だなんて、そんなはずがありません。あなたは良い人です。私にはわかりますよ」
そう言って、ミラーナは聖女のように柔らかな笑顔を浮かべた。
「良い人だと? バカを言うな。俺は鬼畜凌辱ハーレム城の主にして、無敵のチート能力を持った最強の魔王なのだぞ」
凄んでみせても、精一杯に睨みつけてみても、ミラーナの笑顔は揺るがない。戸惑った新魔王は、撮影を続けるダーキルの手を引っ張って、部屋の隅にしゃがみ込んだ。
「おい、どういうことだ。あいつ、俺を良い人だなんて言っているぞ」
「神眼の聖女と呼ばれる能力のせいでしょう。ミラーナさんは、その人間が善であるか悪であるかを見抜くことが出来るようです」
「まさか、俺が善人だっていうのか。めちゃくちゃエロいこと考えているんだぞ」
「恐らくは新魔王様のチート能力のせいで、ミラーナさんの神眼に狂いが生じているのでしょう。それでミラーナさんは、最強最悪の鬼畜である新魔王様を、善人だと勘違いしているのです。ステータスがカンストして、1に戻ってしまったのです」
「なるほど、それなら納得がいく。しかしこうなると、俺がどれだけ邪悪かをわからせてやる必要があるな」
「お任せください。ダーキルに良い考えがあります」 ダーキルの提案を受けた新魔王は、102号室にいるエルフの少女を抱きかかえて、再び105号室へと戻ってきた。
「さあ、見るがいい。度重なる凌辱の果てに、瞳の光を失ったエルフの娘だ。この無残な姿を見ても、俺を良い人だと言えるのか」
ミラーナは悲痛な面持ちで、レ〇プ目状態の少女を見つめた。
「たしかに、この少女は心の殆どを失っているようです。なにかとても辛いことがあったのでしょうか……」
「すべて俺の仕業なのだ。さあ、恐怖するがいい。貴様の目も、すぐにこの娘と同じようになるのだぞ」
「ですが、その少女はあなたに愛情を抱いています。抱っこをされて、心の底から安心しきっていますね」
「そんなわけがあるか! 見ろ、この絶望しきったレ〇プ目を!」
「でもほら、気持ち良さそうに、ウトウトして――」
「……すぅ」
「眠ってしまいましたよ?」
「眠ったのではない、恐怖のあまりに気絶をしたのだ! おい、起きろ、起きなさーい」
新魔王に体を揺すられて、エルフの少女が目を開く。
「……ぱ」
小さく開かれた口から声が発せられて、新魔王は目を見開いた。
「おいダーキル、いまこいつ、声を出さなかったか?」
「ダーキルは気が付きませんでしたが」
「聞き間違いではない。たしかに今、声を……」
新魔王がエルフの少女の体を揺らすと、今まで動いたことのなかった白い手が、弱々しくも新魔王の指を握った。
「手が動いた! 俺の指を握っているぞ。見ろ、ダーキル」
「本当ですね。エルフちゃん、何か言いたそうにしているようです」
「何だ、どうした。何でも言ってみろ」
「……パパ」
「お、俺をパパって呼んだぞ! おー、よしよしよし……はっ!」
新魔王は慌てて振り返った。エルフの少女が喋ったことに夢中で、うっかりミラーナの存在を忘れていたのだ。
「こ、これは違うんだ! パパと呼ばせたうえで凌辱をするという、周到なる鬼畜計画の一環であって」
「ぱーぱ」
「その為に、一時的に世話をしているだけであり」
「パパ、すき」
「凌辱を――」
「だいすき」
「凌辱が――」
「パパ、だっこ」
「ちょ、ちょっと待っていろ、こいつを部屋に戻してくるからな。ダーキル、お前も来い! ドロシー、ドロシー!」
102号室に戻った新魔王は、エルフの少女にミルクを飲ませて寝かしつけた。後の面倒はドロシーに任せて、再び魔王城の廊下へと出てくる。
「くそっ、まさかこのタイミングで……エルフの娘が喋ったのは喜ばしい成果だが、ますます良い人間だと勘違いされたのではないか」
「ミラーナさんの目の前で、子煩悩っぷりを炸裂させてしまいましたからね。残念ながら、好感度は花丸急上昇中だと思います」
「どうにかして汚名を返上しなければ、せっかくの巨乳シスターを怖がらせることが出来ないぞ」
「お任せください、ダーキルに良い考えがございます」
ダーキルの次なる提案を受けて、新魔王は103号室へと向かった。新魔王が声を掛けると、ボロ切れに身を包んだゾンビの少女、ノーラが体を起こす。
「あっ、新魔王様、ダーキル様! こないだ貸してくれたホラー漫画、とても面白かったです! 正義の魔法少女が、ゾンビに嚙まれて不死の力を手に入れたあとで――」
「悪いが、今日は漫画の話をしに来たのではない。お前に頼みたいことがあるのだ」
「新魔王様のお願いであれば、ノーラは心臓でも眼球でも、喜んで差し上げます」
「そんなものはいらん!」
ダーキルが大きめの台車を運んでくると、新魔王はノーラに、台車の上で死体のフリをしていて欲しいと頼んだ。
「かしこまりました、死体のグロテスク度はどれくらいにしましょうか。レベル1から99まで可能ですが」
「レベル1でいい」
「レベル1ですと、ただ寝転がっているだけと変わりませんが」
「それで十分だ。というか、そんなに死体のレパートリーがあるのかよ」
「最近はホラー漫画を読んで、ダーキル様と一緒に色々な死に方の研究をしているのです。新魔王様にもお見せいたしますので、楽しみにしていてくださいね」
「遠慮しておく! というかダーキル、お前はノーラと何をしているんだよ」
「先日のハイエンダールの屋敷では、ノーラちゃんに大変お世話になりましたし、これからもウィンウィンの関係を築いていこうかと思いまして」
ダーキルとノーラは「ねー」と同時に首を傾げた。
「意味がわからん……が、今はそれどころではない。さあ行くぞ」
新魔王は台車にノーラを乗せると、意気揚々とミラーナのもとへ戻ってきた。
「ミラーナよ、これを見るがいい! 俺に逆らう奴はこうなる運命なのだ!」
ボロ切れに包まれた少女の死体を見て、さしものミラーナも青ざめる。
「そんな……私の眼には『すごくエッチだけど根は優しくて、肝心なところでは悪になりきれない優柔不断な男の子』にしか見えなかったのに……」
「はーっはっはっは! 貴様の神眼など、チート魔王である俺には通用せぬのだ!」
満足そうに高笑いをする新魔王の傍で、死体のフリをしていたノーラがぱちくりと目を瞬かせた。
「さっきから、どこかで聞いたことのある声が……あっ、やっぱりミラーナお姉ちゃんだー!」
ノーラは軽やかにジャンプして起き上がると、鎖で繫がれているミラーナに勢いよく飛びついた。ミラーナはノーラの顔を見て、信じられないという表情を浮かべる。
「ノーラ! 本当にノーラなの! あの日、私を庇ってハイエンダールに攫われてしまった、最愛の妹……」
「うえーん! 会いたかったよ、お姉ちゃーん」
ぽかんと口を開けている新魔王を尻目に、姉妹は再会を喜びあっている。
「ああ、こんな奇跡が起こるだなんて。でもノーラ、その体はいったい……」
ミラーナの問いに、ノーラは笑顔で応える。
「ハイエンダールの人体実験で、死ねない体になっちゃったんだ。でも新魔王様に助けてもらって、今は毎日がとっても楽しいの! 体の痛みもまったくないし、漫画っていう面白い本があってね。新魔王様が……」
「おい、余計なことを言うんじゃない!」
新魔王はノーラを羽交い締めにして、口元を手で塞いだ。
「黙って死体のフリをしていろと言っただろう!」
「あ、ゴメンなさい! つい嬉しくて……ばたり」
「今さら死体に戻っても遅い! くっ、まさかお前たちが姉妹だったとは」
「ちょっと待って、ノーラ。いま、この人のことを『新魔王様』って呼んだ?」
「うん、そうだよ、新魔王様。ハイエンダールなんて、一瞬で灰にしちゃうくらいに強いんだ」
「まさか、オーベストークで大賢者エリオストを倒し、オーマイナークの東の森で破壊神キルドライノスを倒したという、あの……!」
ミラーナの表情に畏怖と驚きの色が浮かぶと、劣勢だった新魔王はチャンスとばかりに声を張り上げた。
「はーっはっはっは! 恐れおののくがいい 俺こそが、この世界の――」
「救世主様!」
「そう、救世主! ……って、誰が救世主だーっ!」
「お目にかかれて光栄です。新魔王様のお陰で世界は救われました。そればかりか、妹のノーラをハイエンダールから助けて頂いたなんて、感謝してもしきれません」
「世界を救ってなどいない! ノーラを助けた訳でもない! 俺はただ、面倒事を片付けようとしただけだ!」
新魔王がいくら脅かしてみせても、尊敬と感謝の言葉を繰り返すミラーナを止めることは出来なかった。新魔王は撮影を続けるダーキルの手を引っ張って、部屋の隅にしゃがみ込む。
「どういうことだ、なぜ俺が救世主になっている。ミラーナの話では、世界中で騒ぎになっているようだぞ」
「オーベストークとオーマイナークから、噂が広がっていったのでしょう。新魔王様にとっては、暇つぶしにもならない些細な出来事でしたが、人間界が滅亡から救われたというのは事実です。客観的にみて、救世主扱いされてしまうのも仕方ないのかなと」
「くっ、冗談ではない! 救世主などと称えられてしまっては、恐怖と絶望の鬼畜凌辱ハーレムが作れなくなってしまうではないか!」
「くじけないでください、新魔王様。ここから一発逆転を狙いましょう」
ダーキルは談笑している姉妹を指差しながら言った。
「見てください、あの安心しきった愚かな姉妹を。好感度が高ければ高いほど、落とした時のダメージは大きくなるというも。油断しているミラーナさんの服を破り、その肌を恥辱の下に晒しましょう。その時こそ愚か者の姉妹は、新魔王様の手の上で転がされていたことに気付き、絶望と恐怖に打ち震えるのです」
「しかし、今はとてもそんな雰囲気では……」
「だからこそです。このフワフワとした緩い雰囲気の中だからこそ、新魔王様による突然の凶行が際立つのです。むしろ今がチャンスなのです」
新魔王は戸惑いの表情を浮かべる。今まで数々のレ〇プ妄想を楽しんできたが、実際に行うことを考えてみると、それはまったくの別物なのだ。
「さあ、新魔王様」
ダーキルは新魔王の背中を押して、ミラーナの前に立たせた。
「まずは健全な少年誌で連載されている、ちょっとエッチなラブコメレベルのサービスシーンを回収いたしましょう。読者の皆さんもそれを望んでいるはずです。鬼畜凌辱ハーレムを実現されようとする新魔王様であれば、容易いことですよね」
「あ、当たり前だ! だが、この修道服はどうやって脱がすのだ」
「びりっと引き裂いてしまえば良いではないですか。たわわなおっぱいが、修道服の胸元から恥ずかしげもなくこぼれる様子を楽しみましょう」
ダーキルに促されて、新魔王は恐る恐るミラーナの胸元に手を伸ばした。圧倒的なおっぱいのプレッシャーを前に、新魔王の手は小刻みに震え、全身からは汗が噴き出してくる。
「せ、セクハラで訴えられたりはしないよな?」
「ご安心ください、この世界では新魔王様こそがルールです。おっぱいを触ろうが下着を覗こうが、新魔王様に逆らえる者は存在いたしません」
「ご近所で悪い評判が広まるとか……」
「むしろ好都合ではないですか。新魔王様の名前を聞いただけで美少女たちが悲鳴をあげる、恐怖の鬼畜凌辱ハーレム城を作ることが目標でいらっしゃいます」
コクコクと頷いた新魔王は、再びミラーナの胸に向きなおった。そんな新魔王を、ミラーナは不思議そうに見つめている。
「あの、何をされるおつもりですか? 顔色が優れないようですが」
「凌辱に決まっているだろう! 貴様は恐怖に震え、恥辱に身を震わせ、この俺に最高の喜びを与えるために連れてこられた生贄なのだ!」
「凌辱……貴方様が、私を?」
「ああ、その通りだ! 俺は救世主でもなんでもない! その証拠を今見せてやるからな!」
威勢良く宣言をしたものの、新魔王の手はミラーナに触れようかというところで微動だにしない。そんな二人の様子を見ていたノーラが、「むー」と人差し指を唇に当てる。
「お姉ちゃんばかり、新魔王様と仲良しでズルい! 私も混ぜて!」
ノーラが後ろから抱きついてきた勢いで、新魔王は二人のおっぱいに挟まれる形となった。顔の前後を包み込む柔らかな感触に、耳まで真っ赤になった新魔王は、二人から逃れるように体を離した。
「きょ、今日はここまでにしておいてやる! しかし次は覚悟しておけよ!」
捨て台詞を吐いて去っていく新魔王の後ろ姿を、ダーキルはいつもの無表情で見送った。新魔王が見えなくなると、ダーキルは小さくガッツポーズをする。
「ダーキル、期待が確信に変わりました。新魔王様は童貞です。ああ、なんという僥倖でしょう」
ダーキルは「あとは、姉妹水入らずでどうぞ」と会釈をすると、スキップをしながら105号室を出て行った。
「ノーラ、あの方たちはいったい何なのかしら」
「よくわからないけど、とっても楽しいよ!」
★
――新魔王の鬼畜凌辱ハーレムメモ――
【101号室 ドロシー(オークの姫)】
オークの世界にもアイドルやモデルがいると聞き、試しにオーベストークからグラビア本を取り寄せてみた。こうして比較するとドロシーがいかに美少女であるかがわかる。おまけにあれだけ性格が良いのだから、世のオークたちは俺のことを死ぬほど羨んでいることだろうな。それはそれで気分がいいものだ。
【102号室 名前不明(エルフの少女)】
パパと呼ばれるのは悪い気分ではないが、ダーキルをママと呼ぶのが気に入らない。これではまるで、俺とダーキルが夫婦みたいではないか。ちなみにドロシーのことは「しぃ」と呼んでいる。最近は姉妹のように一緒にいることが多かったから、ドロシーも嬉しそうだ。ドロシーから「そろそろ名前を決めてあげたほうが良いとよ」と言われたので、検討することにした。
【103号室 ノーラ(ゾンビ少女)】
ミラーナと再会したことで、ますます元気になってきた。元気なゾンビというのもシュールなものだ。姉のミラーナと一緒の部屋がいいかと聞いたら、自分の部屋が欲しいからこのままでいいという。「漫画ばかり読んでいるとお姉ちゃんに怒られそうだし」ということだ。最近は魔王城の外に出て、顔に見える岩とか手足のような植物を集めてきている。自分の部屋をお化け屋敷にでもするつもりなのだろうか。
【104号室 ゼッカ(毒舌の生徒会長)】
学校が終わった後、自宅に寄って着替えなどを持ってきたということで、荷物運びを手伝わされた。自由にさせてやっているのだから、たまには実家に帰ればいいのにと思うのだが、なぜか休日も律儀に魔王城へと戻ってくる。性格はともかく外面は良いので、魔王城にいる他のメンバーと楽しそうに話しているところをよく見かける。お弁当箱を洗って返してくれるのはとても助かる。
【105号室 ミラーナ(神眼の聖女)】
あのおっぱいを前にして、平常心で居られてこその宗教家だろうと俺は思う。それにしても、俺を信用しきった態度が気に入らない。孤児院に残してきた子供たちがどうなってもいいのかと脅かしても「あなたは子供たちに酷いことをしません」と断言してくる。




