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第二話 はじめてのりょうじょく

 新魔王を名乗ることになった少年の異世界初日は、魔王城の掃除で終わった。

 この世界についてダーキルに色々と聞くつもりだったが、好みの女の子の話をしてすぐに出て行ってしまったので、仕方なくモップと雑巾を手に、城の内部を見て回ることにした。


 まずは快適な住環境を整えることが第一だった。

 電気も水道もエアコンもない、カビ臭い湿気に満ちた空間では、現代人の自分はとても耐えられそうにない。


 新魔王は無敵のチート能力の他に、前世の世界と繫がるインターネット能力と、ドラ○もんの四次元ポケットのように何でも取りよせられる能力を持っている。

 前魔王が使っていたらしい部屋の家具を処分すると、ベッドとパソコンと机だけを用意して、前世でお気に入りだったニュースサイトに接続をしてみた。

 ウェブサイトの日付を見れば、自分が死んだ日の翌日となっている。


 この異世界で、新たな人生を謳歌するつもりでいたが、こうして前の世界の情報に触れていると、どうしても前の人生のことが思い出されてしまった。

 かと言って、便利なインターネットを使わないというつもりもない。

 そのうちになれるだろうと気持ちを切り替えて、日課だったエロ画像収集を続けていると、いつの間にか魔界は朝を迎えていた。


 自室を出て魔王の間へと向かう。

 足音が石造りの薄暗い城内に響き、今にも何かが襲い掛かっているような不気味さがあるが、自分の他に生き物の気配はない。

 ふと新魔王は、ダーキルが昨晩のうちに逃げ出したかもしれないと思った。

 というより、どうしてそのように思っていなかったのかが、不思議でならなかった。


 魔王の玉座に座ると、昨日のダーキルとのやり取りを思い出される。

 妙にノリが良くて、すっかり自分もペースに乗せられてしまった気がするが、今思えば自分を油断させるための演技だったのかもしれない。


「別に、どうでもいいけどな」


 言葉とは裏腹に、そわそわと落ち着かない気持ちになる。

 静寂に耐えかねて立ち上がり、窓辺に立った。

 中庭を見てみると、寝間着姿のダーキルが布団を干しているのが見えた。


「……普通にいるのかよ。バカなのかあいつは」


 うっかり安堵してしまった自分に苛立ちを感じながら、新魔王は石造りの壁に手を当てた。


「今日から俺は魔王だ。好きなように生きてやる。そのための力をもって、この異世界に転生したんだからな。エロいことでも残酷なことでも、なんだって俺の好きなようにやっていいのだ」


 新魔王は決意を込めた目で、魔王の間の扉を押し開いた。


「はーっはっはっは! 何人たりとも、俺の野望を打ち砕くことはできぬ! 目指すは、恐怖と恥辱の悲鳴が鳴り響く、鬼畜凌辱ハーレム城! 異世界中の美少女を集め、凌辱される寸前の表情をコレクションするのだ!」



 

「おはおーございます、新魔王様」


 新魔王の姿を見つけたダーキルは、寝間着姿でぺこりと頭を下げた。

 柔らかな日差しを浴びている白い布団の真ん中には、どこの世界の物とも知れない、見事な世界地図が出来ている。


「おねしょ占いです。新魔王様の今日の運勢を占っておりました」

「……結果は?」

「最高の結果が出ましたよ。マジでキチと出ております」

「マジキチなのはお前だよ」

「これまで布団干しは世話係に任せていたのですが、今やこの魔王城はダーキルと新魔王様の二人きり。そこでダーキルも自立をいたしまして、自分のことは自分でやらなければならないと思ったのです」


 ダーキルは無表情のまま、えっへんと胸を突き出した。


「言っていることは立派だが、やっていることはおねしょの布団干しだからな。いい年をして恥ずかしくないのかよ」

「それが、なかなか止められなくてですね。温かなおしっこが素肌から下着へ、下着からお布団へとじんわり広がっていく感じって、癖になりませんか」

「ならねーよ。薄々気づいてはいたが、さては変態だなお前」

「お言葉ですが、新魔王様。たしかに新魔王様がいた世界の基準では、わざとおねしょをする行為は変態なのかもしれません。しかし、この世界では誰でも当たり前にしていることなのです。ダーキル、そう言った先入観や決めつけは良くないと思いますよ。新魔王様も異世界の文化を受け入れて、おねしょをしてみるべきなのです」

「何を偉そうに。噓だったらどうしてくれる」

「噓ではありません。ダーキルの処女を賭けてもいいです」

「その言葉で噓だとわかった」

「さすがは新魔王様、ダーキルの噓をあっさり見抜いてしまうとは! 約束通りダーキルの処女をあげますので、さっそくレ〇プを始めましょう。ちょうどお布団ならありますので、ささ、どうぞこちらへ」

「おねしょ布団を広げるな、ばっちい」

「ばっちくないです。その証拠に見て下さい、ダーキルのおしっこの甘い香りにつられて、蝶たちが布団に集まってきましたよ。ダーキルのおしっこは甘露なのです。ほら、ダーキルの股間にも集まってきました。まさに大自然のモザイクですね」

「やかましい! 糖尿病の検査でもした方が良いのではないか」


 さっきから妙に良い匂いがすると思っていた新魔王は、その原因を知ってショックを受けた。

 ダーキルは「そんなことよりもご報告があります」と新魔王に詰め寄った。

 昨晩、新魔王が気に入りそうな美少女を探し回って、さっそくひとりを捕らえて来たのだと言う。


「本当か、仕事が速いな!」

「えっへん、こんなの朝ション前です」

「朝ションはトイレで頼むな。それで、捕まえた美少女はどこに?」

「地下室に捕らえていますので、朝ごはんを食べたら一緒に見に行きましょう」

「いいや、今すぐに見に行くぞ! 案内しろ、ダーキル!」

「ああ、欲望に燃える新魔王様のお顔……ダーキル、ドキドキです。いつかその矛先が、ダーキルに向けられることを想像いたしますと……♡」

「ククク……これが俺の夢、鬼畜凌辱ハーレム城への第一歩なのだ!」




 新魔王とダーキルは、魔王城の地下室へと降りてきた。

 昨日、新魔王が一生懸命に掃除をしたおかげで、どの部屋も清潔に保たれている。


「お掃除ご苦労様でした。しかしダーキルの部屋だけは、そのままだったのですが」

「甘えるな、自分で片付けろ。それで獲物はこの101号室にいるんだな」

「はい、オーべストークという国のお姫様をさらって参りました」

「おお! 監禁凌辱といえば、やはり高貴な身分が相応しい! 囚われの姫君とは、俺がもっとも好きなシチュエーションのひとつだ!」

「あのー、ダーキルもお姫様ですけど? 小国のお姫様なんて比較にならないくらい、圧倒的に格上なんですけど?」


 ぷくーっとほっぺたを膨らますダーキルにわき目も振らず、新魔王は軽やかに歩みを進めた。


「他になにか情報はあるのか。名前とか性格とか」

「名前はドロシーと言います。年齢は15歳、お姫様でありながら、誰に対しても分け隔てなく接することから、 オーベストークならびに周辺国では『博愛の姫君』と呼ばれているそうです。隣国の王子との結婚が決まっておりまして、その式の最中にダーキルに連れ去られてしまいました。オーベストークでは行方不明になったドロシー姫を救出しようと、隣国の王子をはじめ、国民たちが総出で捜しまわっています」

「結婚式の途中でさらわれたお姫様とは……実に素晴らしいシチュエーションだ」

「隣国の王子とは幼馴染みで、小さい頃に結婚の約束をしていたようです。両国民から盛大な祝福を受けて、今まさにハッピーエンドを迎える直前の出来事でした。愛する姫を失った王子様の心境たるや、どれほどのものでしょう。ああ、もう少しでエッチができたというのに」

「なんという悲劇であろうか! くっくっく……お主も悪よのう、ダーキル」

「ふふふ……新魔王様ほどではありませぬ」


 新魔王は101号室の扉に手をかけると、ドロシー姫の恐怖心を煽るように、ゆっくりと開けた。

 暗闇の中から、張りつめた恐怖と緊張感が伝わってくる。

 新魔王が魔法の火を飛ばすと、純白のパーティードレスに身を包んだ、囚われの姫君の姿が露わになった。


「これはこれは、何とも美しい姫君だ。金細工のようなまつ毛にサファイアの瞳……男を知らぬ滑らかな肌は、嶺の処女雪を思わせる」


 新魔王はその姿を、ねめつけるように観察する。


「ククク……良い眼をしているな、ドロシー姫よ。巷では『博愛の姫君』と呼ばれているそうだが、邪悪には決して屈しないという強い意志を感じる。そのハートマークをひっくり返したかのような大きな鼻に、鍛え上げられた巨大な体躯は、守られる立場に甘んじることなく、自らの力で民を守ろうという高潔な魂を感じずにはいられない……って、こいつオークじゃねえかーっ!」


 地下室の鎖に繫がれていたのは、新魔王の倍はあろうかという体躯のオークだった。

 純白のドレスに身を包み、豪華な装飾品を身につけている。


「お、オデになにをする気だっちゃ……オデは悪に屈しないとよ……」

「声は意外と可愛い! ってダーキル、ちょっとこっちに来い」


 新魔王はダーキルの手をつかむと、101号室の外まで引っ張り出した。


「な・ん・で! オークがここにいるんだよ!」

「オークですが、正真正銘のお姫様ですよ。オーベストークはオークたちの住む国なのです。お気に召しませんでしたか」

「お気に召すわけあるか! お姫さまって貫禄かよ! 正直、初ターンで殴り殺されるかと思ったわ!」

「申し訳ございません、新魔王様の好みは聞いておりましたが、種族までは確認しておりませんでした。ダーキルの手落ちでございます。どのようにお詫びをすればよいか……」


 ダーキルがしゅんとうなだれると、新魔王は「別に責めている訳ではないが……」と頭を振った。

 たしかにダーキルには、種族までは指定していなかった。異世界であれば、美少女の定義が異なるのも当然と言える。非は自分にあり、ダーキルを責めるべきではないだろう。


 しかし期待していた分の反動はあまりにも大きい。

 たしかにドロシーは、オークの中では美少女なのかもしれない。肌も顔のパーツも整っていたし、言われてみれば気品もあるような気がした。

 もしオークしか登場しないマンガやアニメがあって、その中にドロシーが登場したら、彼女がオーク世界の美少女であることに納得できるのだろう。


「でもなーっ! オークに欲情ってのはレベルが高すぎるよなーっ!」

「新魔王様、どうか落ち込まないでください。次回はヒト型の美少女に限定して連れてきますので……おや、どうやら城内に侵入した者がいるようですね。ドロシー姫を救出しにきたのでしょう。オークの鼻は良く利きますからね」




 ダーキルの言葉通り、巨大なオークが101号室にやってきた。

 オスのオークというだけあって、囚われているドロシーよりもはるかに大きい。

 分厚い鉄の鎧を身につけながら、トゲトゲのついた巨大な棍棒を軽々と持ち上げている。


「ドロシー! 無事っちゃか!」

「ああっ、ジョシュア! 助けに来てくれたっちゃか!」

「このジョシュアというオークが、ドロシー姫の結婚相手です。オーベストークの隣国、オーマイナークの王子様で、武勲誉れ高い勇者様です」


 ジョシュアはドロシーを背に庇うと、巨大な棍棒を新魔王に向けた。


「おのれ、新魔王! ドロシーは返してもらうっちゃ!」

「あいつ、なんで俺の名前を知っているんだ」

「ダーキルがドロシーさんを誘拐するときに、『新魔王様への供物とする』と言い残してきたのです」

「なるほどな。それならちょうどいい、こいつにドロシーを引き取ってもらおう」

「お待ちください、新魔王様。そうやすやすと返してしまっては、人間界での新魔王様の評判が落ちてしまいます。ジョシュアさんは新魔王様からお姫様を救った英雄として、世界中で称えられることになるでしょう。それでもいいのですか」

「む、そういわれると面白くないな。だがどうすればいいのだ」

「こんなこともあろうかと、ダーキルが台本を用意しておきました。この通りに進めていただければ問題ございません」

「おお、気が利くな。さて……罠とも知らず、のこのこと現れおったなジョシュア! 私の目的はドロシー姫などではない。猪突猛進、一日一善と名高いオーク族の勇者である貴様を、配下として迎えることが真の目的だったのだ!」

「な、なんだっちゃと!」

「しかしそれには、高潔な貴様の魂を闇に堕とす必要がある。ククク……さあ、ジョシュアよ! この場でドロシー姫を犯すのだ! そうすればドロシーだけは助けてやろう!」

「ど、ドロシーを?」

「ジョシュア……」

「……っておい、なんだこの台本は。オークの絡み合いなど、俺は見たくないぞ」


 新魔王は台本を丸めると、ダーキルの頭をポコリと叩いた。


「大丈夫です、ジョシュアは正義のオークですから、事に及ぶようなことはいたしません。ここは一つ、勇者とお姫様を追い詰める魔王ごっこを楽しみましょう。新魔王様には逆らえないという恐怖を十分に植え付けたあとで、追い返してしまえばいいのです」

「なるほど、それは良い余興だな。俺もこういうノリは嫌いではないし、後は台本無しでやってやろう。……さあ、どうするジョシュアよ――って、もう脱いでるーっ!」

「や、やめて、ジョシュア!」

「ハァハァ……ごめん、ドロシー……オラはこうするしか……!」

 

 ジョシュアはブヒブヒと息を荒らげながら、次々と装備を外していった。


「ダメじゃんこいつ! なにが正義のオークだよ! 盛りのついた豚じゃないか!」

「とんだ見込み違いでしたね」


 ダーキルはやれやれと肩をすくめる。


「正気に戻るっちゃ、ジョシュア! あなたは新魔王に操られているとよ!」

「くっ……ダメだ、新魔王の強力な魔力が、オラを……!」

「俺は何もしていないぞ! あいつめ、適当なことを言いやがって」

「操られているフリをして、一発やってしまおうという魂胆ですね。結婚式が無事に終わっていましたら、昨晩が初夜になったわけですから、相当に我慢をしていたのでしょう」

「ぐへへへへ! ドロシー、オラと子作りするっちゃー!」

「きゃー! 助けてけろー!」


 ジョシュアが最後の一枚に手をかけようとしたとき、ドロシーは新魔王に向かって叫んだ。


「いや、俺に助けを求められてもな」

「しかし放っておけば、ドロシーさんはジョシュアにレ〇プされてしまいますよ。それとも、このままご鑑賞になられるのですか」


 冗談じゃない、と新魔王は心底イヤそうな顔をしながら、ジョシュアに向けて右手をかざした。


「オークがオークをレ〇プしようが知ったことではないが、掃除したばかりの部屋をオークの体液で汚されるのは不愉快だ!」


 ジョシュアの体が、ドロシーに飛びかかろうとした姿勢のまま宙に浮いた。

 ジョシュアは下品な顔つきで、何もない空間に向けてへこへこと腰を動かしている。


「目障りだ、消えろ!」


 次の瞬間、ジョシュアの体が闇に飲まれて消えた。新魔王が指を鳴らすと、何処か遠くで、大きな爆発音が響いた。


「ああ、ジョシュア……こんなことって……」


 ジョシュアの死を悟ったドロシーは涙をこぼした。

 その前に立ったダーキルは、空中から赤い槍を取り出して、先端をドロシーの喉元に突き付ける。


「新魔王様、ドロシー姫はどういたしましょう。不要とあれば始末いたしますが」

「お、オデはどうなってもいいっちゃ……国のみんなには、どうか意地悪しないでけろ……お願いだっちゃ……」


 ドロシーは大きな体を震わせながら、必死に懇願した。清廉な心を映し出す瞳の美しさに、新魔王は思わず息を吞む。


「……ドロシーよ。その心意気に免じて命ばかりは助けてやろう。それに最初から、お前たちの国に興味などない。じきに国許へ返してやる」

「ああっ……ありがとうだっちゃ……」

 



 魔王の間に戻ると、新魔王は玉座に頬杖をついて深々と息を吐いた。

 喜び勇んで、初めての獲物に挑んだものの、結果は最悪のデビュー戦だったといえる。

 オークがオークを襲うという絵面が、しばらく脳裏から離れそうになかった。


「ドロシーもショックだろうな。愛していた男の、あんな無様な姿を見せられては」


 隣に控えていたダーキルは、神妙にこくこくと頷いた。


「そうですね。もう少しで愛する人からレ〇プしてもらえるところだったのに、邪魔をされて残念がっていることでしょう」

「いや、その理屈はおかしい」






――新魔王の鬼畜凌辱ハーレムメモ――


【101号室 ドロシー(オークの姫)】

 国の民を守ろうという姿は、さすが博愛の姫君と呼ばれるだけのことはあった。

 しかし最愛の人を色んな意味で失って、大きなショックを受けているようだ。

 思わず殺してしまったジョシュアについては、適当なタイミングで生き返らせようと思っているのだが、ドロシーとの関係の修復は可能なのだろうか。

 ……まあ、俺の知ったことではないが。

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