表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

黄昏とも言えぬ夕べ

作者: 奈月遥

 空が焼けている。

 黄昏の色。

 世界の終わりをペーパームーンが眺めていて、人々にこの星の終わりを告げた明星は空を緋色に焼いている。

 人は誰もいないひっそりとした川の畔で、一匹の犬がそのか細い月明かりと眩いまでの星明かりに照らされていた。その淋しい色に、取り残された犬の美しいまでに白い毛も染まっている。彼が身につける崩れそうなまでに年季が入った首輪の脆さが、世界の物悲しさをより一層引き立てている。

 その犬は、ただひたすらに天を仰いでいた。彼を置いていった者達はとうの昔に見えなくなったというのに。

 今はもう、郷愁の曲を流す緩やかな川と、憤慨を辺りに当たり散らす風しか、彼のそばにいない。確実に石竃へと近づいている気温に草木もほとんどが挫けてしまった。

 そんな世界に取り残された一匹の犬を、遥か遠くの月が優しく、そしてこの星に終わりを告げた明星が嘲りながら、眺めているのだ。この小さく取るに足らない存在を。全くの差別もせず、そして欠片の想いも寄せずに、眺めているのだ。




 地球はもうすぐ滅びる。

 宇宙から迫りくる、巨大な隕石によって。

 いや、それを隕石というのは役不足だ。それは太陽ほどの大きさと質量、そして熱量を誇っているのだから。

 人間はその脅威を逸早く発見し、逃げた。自分達を滅ぼそうとするそれが降ってくる、その無限に広がる宇宙へと、逃げた。




 そして、取り残された犬の美しいまでに白い毛は、哀しいまでの緋色に染まっている。

 彼は世界の黄昏にあった。

 誰そ彼――暗くなり、人の顔が判別出来なくなるからこその、その呼び名。しかし、暗闇を迎えつつあるその時間に、その犬の名前を呼ぶ者はいない。

 もっとも、誰かがいても全くの無意味だった。

 白いに覆われた、崩れそうなまでに年季が入った首輪のネームプレートは、もう文字が霞んで見えなくなっていたのだから。



None comes by dog.


 秋というテーマで書いた作品です。

 秋の切なさ、懐かしさ、焦燥感、終わっていく様子――そんな秋のイメージを集めて沈ませていくイメージで書きました。秋を思い出していただけたら、うれしいです。



 では、あなたの秋が懐かしいものであることを願って。

 ちなみに、わたしは秋は美味しいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ