黄昏とも言えぬ夕べ
空が焼けている。
黄昏の色。
世界の終わりをペーパームーンが眺めていて、人々にこの星の終わりを告げた明星は空を緋色に焼いている。
人は誰もいないひっそりとした川の畔で、一匹の犬がそのか細い月明かりと眩いまでの星明かりに照らされていた。その淋しい色に、取り残された犬の美しいまでに白い毛も染まっている。彼が身につける崩れそうなまでに年季が入った首輪の脆さが、世界の物悲しさをより一層引き立てている。
その犬は、ただひたすらに天を仰いでいた。彼を置いていった者達はとうの昔に見えなくなったというのに。
今はもう、郷愁の曲を流す緩やかな川と、憤慨を辺りに当たり散らす風しか、彼のそばにいない。確実に石竃へと近づいている気温に草木もほとんどが挫けてしまった。
そんな世界に取り残された一匹の犬を、遥か遠くの月が優しく、そしてこの星に終わりを告げた明星が嘲りながら、眺めているのだ。この小さく取るに足らない存在を。全くの差別もせず、そして欠片の想いも寄せずに、眺めているのだ。
地球はもうすぐ滅びる。
宇宙から迫りくる、巨大な隕石によって。
いや、それを隕石というのは役不足だ。それは太陽ほどの大きさと質量、そして熱量を誇っているのだから。
人間はその脅威を逸早く発見し、逃げた。自分達を滅ぼそうとするそれが降ってくる、その無限に広がる宇宙へと、逃げた。
そして、取り残された犬の美しいまでに白い毛は、哀しいまでの緋色に染まっている。
彼は世界の黄昏にあった。
誰そ彼――暗くなり、人の顔が判別出来なくなるからこその、その呼び名。しかし、暗闇を迎えつつあるその時間に、その犬の名前を呼ぶ者はいない。
もっとも、誰かがいても全くの無意味だった。
白いに覆われた、崩れそうなまでに年季が入った首輪のネームプレートは、もう文字が霞んで見えなくなっていたのだから。
None comes by dog.
秋というテーマで書いた作品です。
秋の切なさ、懐かしさ、焦燥感、終わっていく様子――そんな秋のイメージを集めて沈ませていくイメージで書きました。秋を思い出していただけたら、うれしいです。
では、あなたの秋が懐かしいものであることを願って。
ちなみに、わたしは秋は美味しいと思います。