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荷物運びで疲れた体を引きずった僕たちは、姫の家へと戻るため、村の中央広場のそばをゆっくりと歩いていた。
その広場の中心には大きな一本の樹が立っていて、それがこの広場のシンボルのようになっている。
「あら? なにか騒がしいわね。どうしたのかしら」
ふと見ると、その樹の下で数人の村人が集まってなにやら話しているようだった。
そんな人垣の前で大きな身振りで声を張り上げている小太りなおばさんが、こちらに気づいて声をかけてくる。
「ワサビちゃん、キヌサヤちゃん、大変なんだよ!」
「あっ、オクラ! どうしたの?」
呼ばれた姫が真っ先に駆けつける。それに続いて僕たちもその群集に加わった。
近づくまでのあいだに、オクラという女性は村長の畑――今では村の共有物扱いになっている畑を任されている、監視者兼責任者という役割を担っている人だと、キヌサヤが小声で教えてくれた。
「まぁまぁ聞いてよ、それがねぇ、大変なのよホント!」
いや、もう大変なのはわかったから……。
オクラさんは他の数人と一緒に畑仕事をして、夕方になったため収穫物の運搬を他の人に託して畑周辺の調査をしていたそうだ。
ヒルの件もそうだけど、今は畑を荒らす動物なんかも増えているから、その侵入を防ぐための仕掛けなども設置されていて、それらのチェックも毎日必要なのだという。
そういったチェックも、責任者としてのオクラさんの務めとなっているらしい。
オクラさんの話は無駄なお喋りや回りくどい表現をまじえて長々と続いたのだけど、その後の話を要約すると、だいたい以下のような感じだった。
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私が畑の周辺の、村とは反対方面に設置してある仕掛けのチェックをしていると、少々物音が聞こえてきた。微かに話し声もする。
私は息を殺して、迷わず森の中へと入っていった。
まともな道なんてない森だけど、近場ならば歩き慣れているので迷うこともなかった。
ある程度森の内部に入ったところで、私は数人の人影を発見した。
なにかの革で作られた上着には所々に金属で補強がしてあり、腰には剣のようなものを差している。
四人の若い男性のようだ。
一瞬もしかしたら、と思ったけど、助けを求めに出ていった村の男性ではなかった。
「隊長。この辺りに奴らの仲間もいるんじゃないですか? なにかが通ったような跡も、結構見かけられるようになりましたよ?」
一番身なりのしっかりした長身の男に向かって、ひとりがそう言った。
奴らの仲間?
この人たちは村の男性が派遣してくれた先発隊で、村を探しているところなのだろうか?
もしそうならば、今出ていってこの人たちを村に招けば、あとから多くの救助隊が来てくれることになる。
でもその場合、村の男性が先導して来ていなければおかしい。
そうでないと、この深い森では迷ってしまうことは容易に想像できるからだ。
だけど見る限り、彼らの中に村の男性の姿はない。
……とすると、この男たちはいったい何者なのか……。
ここはしばらく様子を見てみよう。
「いっそのこと、この辺り全体を焼き払ってしまえばいいんじゃないですか?」
別の男が言う。
焼き払う?
害を成しているヒルなどを焼き払って退治してしまおうとでも考えているのだろうか?
仮にそうだとしても、そんなやり方では他の多くの動物たちにも犠牲が出てしまうだろう。
「まぁ待て。単に動物が通った道だということもありえるだろう。足跡までしっかり見えるわけではないしな」
制止の声をかけた男性は、長身に似合わず澄んだ綺麗な声をしていた。
私が年甲斐もなく、うっとりしてしまうほどに。
「それに、森を無闇に焼き払うのは問題がある。生態系を壊すと、崩れた部分から外部へと影響を及ぼす事態にもなりかねない。ここは慎重に奴らの仲間を見つけ出し、可能な限り他への被害を出さないように奴らを壊滅させる。それが我々の使命だ」
壊滅だって!?
もしかして村の男性が森の外で捕まって、なんらかの理由で危険と判断されて、村自体を壊滅させるために来たということなのだろうか?
私は思わず声を出してしまいそうになるのを、どうにか押しとどめる。
そして息を殺し、彼らが離れていくのを待ってから村へと駆け戻った。
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「彼らは村とは反対方面に歩いていったけど、いつ村が見つかってしまうかはわからないだろう? だから早急にどうにかしないと、村が危ないんだよ!」
必死に訴えかけるオクラさん。
「そう……。その話だと、確かに危険そうね。本当に村を壊滅させたり焼き払ったり、というつもりなのかまではわからないけど、村が見つかってしまうのは避けたほうがよさそう……。姫、彼らをどうにかして追い払うってことで、いいかしら?」
キヌサヤは姫に問いかけていた。
最終的な判断は、村長の娘であるワサビ姫に委ねられるということか。
「うん、そうだね。そうしよう。どうやって追い払うかはキヌサヤに任せるよ」
「わかりました、姫」
こうして僕たちは、村に近づく男たちを追い払う作戦を練り始めたのだった。




