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「どうしたんだい? そんな顔をするもんじゃないよ?」
婆ちゃんが、笑顔で僕に語りかけている。
僕は、恐怖を感じているみたいだった。
これは夢だ。それは不思議とよくわかった。
それにしても、今日はいつもよりもはっきりと、婆ちゃんの顔が見えている気がする。
「まだあんたには難しいだろうからね、お婆ちゃんが手伝ってあげるよ」
婆ちゃんは身を屈め、すぐそばに横たわっているふたつのなにかに近づいた。
しばらくそのなにかに顔を近づけていた婆ちゃん。
やがて顔を上げると、僕のほうに笑顔を向ける。
「それじゃあ、あげるからね」
婆ちゃんの顔が僕の首筋に近づく。
ズキン。痛みが走る。
首筋に近づく前の婆ちゃんの顔が、脳裏に焼きついていた。
婆ちゃんの顔には、鋭い牙があった。
その牙からは……真っ赤な血がしたたっていた。
僕は痛みを感じながらも、婆ちゃんの成すがままに立ち尽くしていた。
傍らに横たわっているふたつの物体に視線を落とす。
それは……お父さんとお母さんだった。
僕の首筋から顔を離した婆ちゃんの顔は、僕の正面に――いつもの位置に戻った。
「すべて終わったよ。あんたの中に、血を流し込んだ。これであんたの中にも正式にお父さんお母さんの血が流れることになった。もう一人前になったんだ。それを自覚して、生きていくんだよ……」
弱々しい笑顔で語り終えた婆ちゃんは、そのまま静かに僕の足もとへと崩れ落ちていった――。
☆☆☆☆☆
「きゃーーーーっ!!」
耳をつんざくような悲鳴で、僕は目を覚ました。
レタスたちのお母さんが部屋の入り口で震えながら立ちすくんでいる。
その横に立つ父親も、目を見開いて呆然としていた。
僕は体を起こす。
僕の横には、レタスとキャベツが、それぞれのベッドの上で倒れていた。
ふたりとも……真っ赤に染まっている。
――これは血だ!
徐々にはっきりしてくる思考で、状況を把握しようと部屋を見渡す。
ふたりは血を流している。それは首筋のふたつの傷跡から流れ出していた。
そこで僕は、自分の口にある不自然な異物感と鉄を舐めたような味に気づいた。
異物感は、異常に伸びた二本の歯だった。
そして僕の口の中いっぱいに、血の温もりが残っていた。
僕はパニックに陥っていた。
だけど、そんな焦りまくっている僕の頭で考えても、この状況から導き出される結論はひとつしかなかった。
――僕が、ふたりの血を吸って、殺してしまった……!
「やはり、こうなってしまったか」
クレソン医師が、突然部屋に入ってくるなり、そうつぶやいた。




