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とまとま  作者: 沙φ亜竜
5.そのとき、僕は
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-1-

 まぶしい。

 そう感じて、僕は目を覚ました。


「おやぁ~、気がついたかねぇ~?」


 ぼやけたままの僕の脳を襲う、このおとぼけ口調。

 僕はどうやらクレソン医師の診療所に運び込まれて、ベッドに寝かされていたようだ。


「大丈夫?」


 ワサビ姫が心配そうに顔をのぞかせる。

 そのそばには、シシトウ、レタスとキャベツの兄弟、ブロッコリーとパセリもいた。


「……うん……。少しは落ち着いたよ……」

「私、なにも覚えてないんだけど……。ごめんなさい」

「ワサビ姫が謝ることじゃないでしょ」


 ワサビ姫の頭を優しく撫でる。

 ついつい子供っぽい扱いをしてしまったけど、考えてみたら、ほとんど僕と変わらない歳なんだよね。

 そのとき、ふとパセリと目が合った。


「ご苦労だったな。村を陥れる闇は完全に消え去った。……尊い犠牲のもとに、ではあるが……」


 そう言って目を伏せる。

 隣に並んでいるブロッコリーが、またパセリがおかしい、というような顔で見ていた。

 だけど、おかしいわけではないだろう。

 パセリは少女の姿を借りた別の意識を持っている。それはおそらく間違いない。


 いったい何者なのか、そんなことはとくに気にする必要もない。

 これが、パセリなのだ。

 パセリの目も、なにも答えるつもりはないぞと語っているようだった。


「キヌサヤは……?」


 僕はクレソン医師に向き直り、尋ねる。


「キヌサヤちゃんは、隣の部屋に寝かせているよ。一時的にね。このあと……埋葬する。放置しておくわけにもいかないからね。綺麗なまま、見送ってあげよう」


 さすがに医師モードの真面目な口調で答えるクレソン先生。

 そうか……やっぱり、助かるなんてことはないんだ。

 本当に諦めきれたのかと聞かれたら、言うまでもなく諦められるわけはないのだけど、素直に医師の言葉に従うしかないことは理解していた。


 キヌサヤは村のみんなに見送られ、森の中にある埋葬用の墓地に埋められた。

 代々、村人のなきがらはここに埋葬され、森を守るための力になる。そう言われているのだという。

 僕は村の人たちとともに手を合わせ、キヌサヤに最後の別れを告げた――。



 ☆☆☆☆☆



 村に帰り着いた僕たちは、中央広場に集まっていた。

 ワサビ姫が、村人たちの前に歩み出る。


「自らの身を呈して村を守ってくれたキヌサヤ……。彼女のためにも、村のみんなは末永く健康に、楽しく暮らしていかないといけません」


 年齢は低いとはいえ、今では村の長の立場ということになるワサビ姫。

 幼いイメージだったけど、今回の件で少しは長らしくなったのかもしれない。


「だから……今日は宴会よ!」


 えっ?


 パチンと指を鳴らすと、やれやれ、という表情をしたキュウリ夫人とモロヘイヤじーじがすでに料理を準備していた。


 ……どうやら、前言撤回したほうがよさそうだ。


 というか、さっきまで暗かった部分がスポットライトを浴びたように明るくなったのは……。

 視線を巡らせてみると、料理が並べられたテーブルの横に立ち、なにか変なステッキのようなものを頭上に掲げているパセリの姿を見つけた。

 やっぱりお前の仕業か。


「驚いたかもしれないけど」


 ワサビ姫がいつの間にか、僕のすぐそばにいた。


「これがこの村のしきたりなんだよ。いつまでも泣いていたって前には進めないから、笑って送り出そう。ずっと昔からそうやってきたんだ」


 だからって、宴会ってのはどうかと思うけど……。

 確かにキヌサヤもそのほうが喜ぶのかもしれない。

 いつまでも悲しんでいたって、心配させるだけでしかないのだから。


 宴会は、夜中まで続いた。

 キヌサヤがいなくなってしまったのに、こんなことをしていていいのかな、と思わなくもない。

 それでも、村人の輝くような笑顔を見ていると、これでよかったのだと思えてくる。


「私はいつもあなたのそばにいるわ」


 キヌサヤが最後に紡いだ言葉。それがふと、心に浮かんだ。

 あれは単なる幻だったのかもしれない。

 でも、僕の心の中のキヌサヤは今、目の前の光景を僕のそばで一緒に見てくれている。そんな気がしてならなかった。


「ねぇねぇ、今日はさ、うちに泊まらない?」


 今日は僕も少しだけお酒をいただいたせいか、ちょっとトロンとした目をしながらも、反射的に声のしたほうへと顔を向ける。

 隣にいたのはレタスだった。


「キヌサヤさんの家は壊れちゃったし、寝るとこもないでしょ?」


 レタスはそう言って僕の腕に抱きついてきた。

 どうでもいいけどこの子、どうして今でもワンピースのままなのだろう。

 ちょっとドキっとしてしまうじゃないか……。というか、お兄さんが睨んでるし……。


 とはいえ、寝る場所がないのは確かだったし、お言葉に甘えてレタスとキャベツの家に泊めてもらうことにした。


「汚い家だけど、ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」


 ご両親にお礼を言い、僕はレタスとキャベツの部屋に入る。

 もっともこのふたりにしたって、ずっと地下室暮らしだったのだから、こうやって家に帰ってくるのは、随分と久しぶりのはずだけど。


「ベッドが足りないから、アスパラさんは僕と一緒に寝ようね!」


 レタスが僕の腕を取って微笑む。


「……アスパラはお客様なんだから、俺とレタスが同じベッドで寝たほうがいいんじゃないか?」


 と進言するキャベツに、


「え~~? お兄ちゃん寝相悪いからヤダ」


 と一蹴するレタス。

 キャベツ兄さん、いじけて部屋の隅っこで「の」の字を書いてるけど……。


 ともかく、僕はレタスと一緒のベッドに入った。


 レタスのほうを向いて寝ていると、女の子みたいに可愛らしい寝顔が視界いっぱいに映り込む。

 寝息の音もすぐそばから聞こえる上に、なにやらほのかに甘い匂いまで漂ってくる。

 相手は男だというのに、これはなんだか妙に恥ずかしい。


 僕は思わず反対側に向き直る。

 すると、その視線の先では、お兄さんが凄まじい目つきで睨んでいた。


 う~ん、眠りにくい……。

 そうは思ったけど、疲れていた僕はすぐに眠りの池の底へと沈んでいった。


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