-5-
「キヌサヤ!!」
僕はまだ火の残る家の残骸の中へ、シシトウの腕を振り払って飛び込んだ。
爆発直後の燃え盛る家の中へでも飛び込んでいって、キヌサヤをこの赤い渦の中から連れ出したかった。
それを力づくで止めたのがシシトウだった。
状況をしっかりと判断できる冷静さは、今の僕にはなかった。
パチパチと音がはじける燃え落ちた柱の中、僕は歩みを進める。
崩れ落ちたキヌサヤの姿を、僕は見つけた。
キヌサヤは、もちろんすすけた感じではあったものの、あんな爆発の渦中にいたというのに異常なほど綺麗なままだった。
「キヌサヤッ!!」
自分でも信じられないくらいの大声で叫び、呼びかける。
返事は、ない。
まだ炎がくすぶり、ススで焼け焦げた床に膝をつき、キヌサヤの肩をおそるおそる揺する。
そのすぐ傍らの床には、赤黒い跡が丸く残っているのが見えた。
とまとまの、成れの果てだろう。
「起きなよ、キヌサヤ……。とまとまは消えたんだ。もういいんだよ。また、村で普通に暮らしていけるんだよ……だから、目を開けてよ……」
反応のないキヌサヤに語りかける僕の視界は、いつの間にか溢れ出した涙ですっかりぼやけていた。
僕のすぐ横に来た誰かが、そっと腰を屈める。
「不思議なほど、やけどの痕も見られないな。少々焦げついているのは、服が燃えたせいだろう。だが……」
クレソン医師だった。
キヌサヤの額にそっと手を当てながら、目を閉じた医師は言葉を続ける。
「どうにも、ならないようだ」
「どうしてだよ! こんなに綺麗なんだよ!? あんた医者だろ!? どうにかしてよ! キヌサヤを助けてよ!!」
僕はクレソン医師につかみかかっていた。
周りに立ちつくしてキヌサヤの様子を見ていたシシトウや他の誰も、そしてクレソン医師本人さえも、それを止めようとはしなかった。
僕は、つかみかかった手を離せないまま、その場に崩れ落ちた。
「キヌサヤちゃんは、あの赤い悪魔を道づれにすることを選んだんだ。その決意の強さが、自らの命の火を止めてまで、ヤツを逃さなかったのだろう。焼けただれることなく燃え残ったのは、キヌサヤちゃんの中に流れるエルダーヴァンパイアの血のおかげだったのかもしれないな」
震える声でそうつぶやく医師の声は、微かに僕の耳に届いただけだった。
そんな中、僕の意識は、途切れた。
キヌサヤのなきがらの上に、僕は彼女を包み込むように――彼女をそっと抱きしめるように、倒れた。
☆☆☆☆☆
「……アスパラ……ありがとう」
キヌサヤ……? 生きていたの?
「ふふ。あなたが来てくれてから、本当に楽しかったわ。いろいろあったけど、思い残すことは……」
キヌサヤ……?
「……ないわけじゃないけど、村のみんなのためだもの。私はこの村が大好き」
うん。よくわかってるよ。
村の人たちもみんな、キヌサヤのことが好きなんだよ。
この村でしばらく生活して、そう感じたんだ。
「ふふ。ありがとう。アスパラ……ずっと騙していてごめんなさい。……私はあなたのことも、大好きよ」
僕も、キヌサヤが好きだよ……だから、戻ってきてよ……。
「私はいつもあなたのそばにいるわ」
そう言ったキヌサヤの笑顔が、すーっと光の中に溶け込み、消えた――。




