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それからの僕は、キヌサヤがいないときを見計らって、レタスとともに行動するようになった。
キヌサヤは用事で出かけることが多くなっていた。
なにやら怪しい気もするけど、状況としては好都合だった。
僕たちはまず、様々な事態に対応できるようにとの理由で、四枚のお札を多くの建物の四隅に貼った。
なるべく建物の内側に貼るのが効果的らしいのだけど、それが可能だったのはキヌサヤの家と村の倉庫、他にはいくつかの小さな物置だけだった。
それ以外にも、ワサビ姫の家やクレソン医師の診療所などに赴き、外側のなるべく目立たない部分を見つけて貼りつけていった。
村にいくつかある物置のうちの一ヶ所には、レタス以外の男性でも易々と通れる地下室までの抜け道があった。
そのためか、荷物もびっしりと詰め込まれ出入り口は閉じられており、念の入ったことに通路自体も完全に崩されていた。
シシトウたちを閉じ込めた村の女性が、逃亡を警戒して、そういった処置もしていたに違いない。
通路部分は今、密かに地下室側から掘り進めているらしい。
僕とレタスは物置に入り、出入り口を塞いでいる荷物を少しずつ移動させていった。
動かした荷物は置く場所もなかったため、仕方なく森まで運んだ。
この物置小屋はワサビ姫の家から目と鼻の先だった。
そのせいで、人目につかないようにするのが大変だったけど、夕方や暗くなってからの時間を選んで作業を進めた。
もちろんそのあいだも、なるべくキヌサヤに不審に思われないように、指示された村人の手伝いなんかをこなし、夜は部屋で休むようにしていた。
朝起きると、いつも必ずキヌサヤが僕の部屋にいた。
僕は本当に血を吸われているのだろうか。
その瞬間に目が覚めれば決定的だと思うのだけど、いろいろと行動しているためか、ぐっすりと眠ってしまい確認するまでには至っていない。
また、共有倉庫の地下室にもたびたび顔を出した。レタスとともに状況を報告するためだ。
シシトウは僕を下がらせたあともレタスと小声で話している。
おそらくレタスは、僕を監視する役目でもあるのだろう。
「ごめんなさいね。でもあなたのことを悪く言ったりはしてないよ。僕は信じてるし」
そう言って微笑むレタス。
監視役として考えたら、それではダメじゃないかとは思ったけど。
「ねぇ、エルダーヴァンパイアって知ってる?」
不意にレタスが訊いてきた。
一瞬、はっとする。なんだろう、この感じは?
「普通の吸血鬼とは違う、上位の吸血鬼のことだよ。凄まじい力を持っているという伝承があってね。それを僕たちは恐れているんだ。もし、すべての元凶となっているのがエルダーヴァンパイアだったら、僕たちの力ではどうしようもないだろうって」
怯えた声をしぼり出し、レタスは目を伏せる。
男の子なのに、長いまつげがバサリと音を立てそうなくらいだった。
「伝承によると、人や動物を操れたりとか、人の考えてることがわかったりとか」
「ふむ……」
「手を触れずに物を動かしたりとか、空を飛んだりとか、死のくちづけで人を殺したりとか」
「え?」
「大きな岩を素手で砕いたり、口から炎を吐いたり、目からレーザー撃ったり……!」
「いやいやいや、それはないから! というか、そこまでいったら、すでに吸血鬼じゃないよね!?」
どんどん怪しいイメージになってきて、思わずツッコミを入れてしまった。
ともあれ、伝承なんて知らないうちに尾ひれがついてしまうものなのかもしれないけど。
「あ……やっぱりそうなのかな? でも本当にいたら怖いよ……」
さっきのイメージみたいなのがいたら、そりゃあ怖いだろう。
それにしても、エルダーヴァンパイアか……。
なんとなく聞いたことがあったような気もする。
自分の名前すら思い出せていない僕の記憶なのだから、当然ながら定かではないのだけど。
「……うん、そっか。そうだよね、そんなのいるわけないよね。あくまでも、お話の上での存在だよね、そんなの!」
自分に言い聞かせるように、レタスは笑顔を浮かべてその暗い考えを振り払った。
「まぁ、そうだね」
僕も笑顔を作って答える。
今はしっかり前を見て進まなければならないときだ。
レタスの言った大げさなイメージはともかく、火のないところに煙は立たないとも言うし、それに、なにか僕の心の中にもやもやと渦巻くような感じがして、妙に気になってはいたのだけど。
それがなんなのか、このときにはまだ、僕はまったく気づいていなかった。




