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「婆ちゃん!」
僕は、温かな微笑みを浮かべる婆ちゃんに連れられて歩いていた。
そういえば、よく一緒に散歩に出かけていたっけ。
「今日もいい天気だねぇ」
「うん!」
夢だからなのか周りはよく見えないけど、明るいもやが景色を広く包み込んでいるようだった。
僕の記憶の中のイメージということだろうか。
「常に一族としての誇りを持って生きていくんだよ。いいね?」
「うん! わかってるよ、婆ちゃん!」
一族?
僕は王家の一族とか、そういった身分の人間なのだろうか?
……だめだ、やっぱり思い出せない。
「さあ、もう戻ろうかねぇ。いつまでもここにいては、見つかってしまうよ」
「見つかったらどうなるの?」
僕の問いかけに、笑顔を向ける婆ちゃん。
でもその笑顔は、少し歪んでいるようにも見えた。
「もし見つかったら、そのときは……」
辺りの明るいもやが、周りの景色だけでなく、僕と婆ちゃんをも真っ白く包み込んだ。
☆☆☆☆☆
気がつくと、目の前にキヌサヤの顔があった。
「あ……おはよう、アスパラ」
慌てて離れるキヌサヤ。
今日は寝起きだというのに、頭もすっきりしている。
ペンダントの効果なのだろうか。
「どうして……いつも僕が起きると、キヌサヤはこの部屋にいるの?」
「えっ?」
キヌサヤは一瞬驚いたような表情を浮かべたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「今日も、うなされているみたいだったから。でも体調は悪くないのよね? 安心したわ」
そう言いながら窓を開けるキヌサヤ。
朝の少し冷たい空気が部屋の中に入ってくる。
「……ねぇ、ちょっと気がついたのだけど、アスパラって首筋の辺りに変なアザがあるわよね。切り傷かなにかだとは思うけど、なにかあったのかしらね?」
話題を変えようと思ったのか、キヌサヤはそんな質問を投げかけてきた。
……変なアザ……?
僕は首筋に触れてみたけど、触ってもよくはわからなかった。とくに痛みもない。
「私の部屋に鏡があるから、見てみる?」
そう促された僕は、キヌサヤの部屋に入って鏡を見た。
確かに右の首筋に二ヶ所、変なアザがある。
それぞれ、二~三センチくらいのサイズで、星形というか、トゲのついた形の青っぽいアザになってるのが確認できた。
これはいったいなんの傷だろう?
やはりなにも思い出せなかった。
ただ、ふと気づいたことがある。
いつも焚いているあのお香の甘い匂い、今朝も僕の部屋には残ってはいたけど、キヌサヤ部屋には漂っていないようだった。
台所で焚いているのだから、キヌサヤの部屋のほうが近いはずだけど……。
レタスの言っていたとおり、頭をぼやけさせる効果があるから、自分には影響が出ないようになんらかの方法で自分の部屋には届かないようにしているのだろうか。
「今日はちょっと忙しくて、すぐに出かけなければならないの。とくに力仕事が必要なこともなさそうだし、アスパラは家でゆっくり休んでいていいわよ」
キヌサヤは朝食を食べながらそう言っていた。
今は台所で洗い物をしている。それが終わればすぐに家を出るはずだ。
今日は、なにをしに行くのだろう。
シシトウやレタスの話を聞いて、不信感を抱いているのが自分でもわかった。
倒れていた僕を助け、自分の家にずっと置いてくれて、食事の世話もしてくれているキヌサヤ。そんな彼女を疑っている自分。
疑うのは悪いと思うけど、このままモヤモヤした気持ちでいるのも嫌だった。
キヌサヤがなにをしているのか、こっそりあとをつけてみようか……。
だけど、意外に鋭い面も持っていそうな気がするし、すぐに見つかってしまうかもしれない。
そうなっても、散歩していたらたまたま通りかかった、という感じでさりげなさを演出すれば、どうにかなるだろうか。
「それじゃあ、行ってきますね」
決めかねているうちに、キヌサヤは玄関を出ていく。
僕は、そっとあとを追うことにした。
キヌサヤに気づかれないように、少し離れた位置を保って歩く。
通りを歩く人影は、まだ朝早いこともあり、まったくない。
離れているとはいえ、いきなり振り向かれたらすぐにでもバレてしまいそうで、緊張感が僕の心を支配していた。
不意に物陰から手招きするレタスの姿が見えた。
……今レタスのほうに行ったら、キヌサヤを見失ってしまうな……。
そうは思ったけど、キヌサヤを尾行していることの罪悪感や不安感でいっぱいだった僕は、その念から逃れるように、レタスのもとへ駆け寄った。
「おはようございます。こんな朝早くに、すみません。シシトウから呼んでくるように言われまして……。一緒に来てください」
キヌサヤのことは気になったけど、僕はレタスに言われるまま抜け道を通り、シシトウたちの待つ地下室へと急いだ。




