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とまとま  作者: 沙φ亜竜
3.地下に在る世界
13/27

-1-

 カタッ。

 翌朝、物音で目を覚ました。


「あら、起こしてしまったかしら」


 体を起こすと、キヌサヤが木で作られた窓を開けているところだった。


「霧は晴れていないけど、いつもよりも明るいみたいだから窓を開けていたの。朝は明るいほうが清々しくていいでしょう?」


 霧を通して降り注ぐ朝の光。

 霧のない空ならこのくらいの光は曇りの日でもありそう、という程度の明るさではあったけど、霧に閉ざされて久しいこの村の住人には明るすぎるくらいに感じられるのだろう。


「……あの……昨日はごめんなさいね。そんなに多く飲んだつもりはなかったのだけど……。全然覚えてなくて……。気がついたらベッドで寝ていて驚いたわ。アスパラが運んでくれたのよね? ありがとう。重かったでしょう?」

「いや、大丈夫。全然重くなんてなかったし。それにほら、力仕事は僕の役目なんでしょ?」

「ふふ。……そうそう、今日は昨日の疲れもあるでしょうから、お昼くらいまで休んでいていいわよ。お昼からは、今度はクレソン先生の家の荷物を倉庫に運んでもらおうと思っているけど」

「うん、了解」


 正直、ありがたかった。昨日の力仕事で少々筋肉痛気味だったからだ。

 う~ん、もう少し体を鍛えないといけないな。そう思いながら、僕は朝食をいただいた。



 ☆☆☆☆☆



 キヌサヤは、朝食の洗い物を終えるとすぐに出かけてしまった。

 ゆっくりしていていいからね、とは言われたけど、睡眠はたっぷり取っていたため、横になってはみたものの眠れるわけではなかった。


 とりあえず、朝の空気を吸いに外に出よう。

 そう考えた僕は、軽く上着を羽織り玄関の戸をくぐった。

 上着はキヌサヤに借りたものだけど、少し大きめのサイズのものを選んでくれたので、僕でも普通に着ることができた。


 ……おや?

 外に出ると、斜め前の建物――物置小屋になっているらしいのだけど、その横にこそこそ隠れてこちらに目を向けている人影を見つけた。

 はっとして、すぐに身を小屋の陰に潜めたようだけど、僕には完全に見つかっていた。

 どうしようかと迷った挙句、その人影に近づいてみることにした。

 見覚えのある顔だったからだ。


「おはよう。キミ、どうしたの?」


 怖がらせないようになるべく優しい声で話しかけてみる。

 そこにいたのは、昨日の宴会後の帰り道で見たあの子だった。

 あまり目立たなそうな顔立ちではあるけど、昨日と同じ服を着ているし、別人と見間違えることもないだろう。


「おはようございます。……あの、キヌサヤさんは……?」

「え? ああ、キヌサヤの知り合いなんだね。今ちょっと出かけてるんだ。うちでなにか温かいものでも飲んで待ってる?」

「いえ。用があるのはあなたのほうです。……ついてきてくれませんか?」


 僕に用? いったいなんだろう。

 それに、この子は何者なんだ?

 怪訝な思いが表情に出てしまっていたのか、その子は言葉をつけ足した。


「えっと。ワサビ姫がお願いしたいことがあると言ってるんです。すみませんが、来てもらえませんか? 頼りになるのは、あなただけだから」


 姫の遣いだったのか。

 お昼までは力仕事のほうも休んでていいと言われているわけだし、姫のところに行っても大丈夫だろう。


「そっか。わかったよ、ちょっと待ってね」


 僕は一応戸締り――といってもカギもないから開けっ放しの窓を閉めただけだけど――と、火もとの確認だけして、家を出た。



 ☆☆☆☆☆



 なにも言わずにすたすた歩いていく後ろ姿を追って、僕も黙ったまま歩いていた。

 やがて村外れの小屋が視界に入る。その扉を開け中へ。

 ここも、キヌサヤの家の前にあった小屋同様、村の共同の物置小屋という感じなのだろう。


 中はホコリっぽく、鍬やら鎌やら農作業に使っていると思われる道具などが乱雑に置かれているようだった。

 なにげなく見回していると、ホコリの積もった床の中に一ヶ所、他と比べると綺麗になっている部分が確認できた。

 その横に座り込み、女の子は床板を横にずらす。床板の下には、空間があった。


「ちょっと狭いけど、ここから入っていきます」


 小声で言うと、僕に先に入るように促す。


「垂直になってるけど、少し下りると横穴になっています。入り口に手をかけていれば足が届くくらいの深さだから、怖がらずに下りてください」


 言われるがまま、僕は中に入った。

 確かにすぐ足が地面を捉える。

 入り口が狭かったため体をひねる感じにはなったけど、どうにかその場で屈んでみると、そこから横穴が伸びているのが見えた。

 その横穴は、四つん這いになれば通っていけるくらいの大きさだった。


「あ……」


 上から声がした。

 屈んだ僕の頭と肩の辺りに、続いて入ってきた女の子の両足が乗っかっていた。


「ごめんなさい! すぐ横穴に移動してください~」


 焦りの声が聞こえてくる。

 もちろん、言われなくてもすぐに移動するつもりだったけど。踏みつけられたままでは、さすがに痛いし。

 横穴に入った僕は、まっすぐに進んでいった。


「真っ暗ですが、この先は一直線だから、そのまま進んでください。突き当たりに木の板が張られているので、横にずらすと外に出られます」


 後ろから声がする。

 僕を先に行かせたのは、丈の短いワンピースだったから気にしたのだろう。

 まぁ、明かりもないのだから、なにも見えはしないのだけど。


 しばらく進んでいくと、さっき言葉どおり木の板が見えてきた。

 それを横にずらすと、その先には空間が広がっているようだった。

 どこかの部屋の床下辺りに穴を開けて作った隠し通路、といった感じなのだろうか。

 ともかく僕は、狭い通路から体を引き抜いた。


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