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荷物持ちのお荷物だったおっさん、その荷物はチートでした。  作者: 忍絵 奉公


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第1章 転送の旅路 1話~3話


第1話 荷物持ちのおっさん

クレスタは重さ三百キロを超える荷物の束を背負いながら、ダンジョンの通路を歩いていた。

背中には巨大な登山用の背負子。

そこに食料、水袋、予備武器、予備防具、薬草、回復薬、寝袋、テント、調理器具、携帯かまど、木炭、ロープ、毛布などが山ほど積み込まれている。

普通の人間なら立つことすらできない重量だ。

しかしクレスタは平然としていた。

額に汗一つない。

「おーい、クレスタ。遅れるなよ」

前を歩く剣士のガルドが振り返る。

「はいよ」

クレスタは笑顔で答えた。

彼は三十八歳。

冒険者歴二十年。

だが戦闘職ではない。

荷物持ちである。

魔法も使えない。

剣術も平凡。

特別なスキルもない。

ただひたすら力が強く、体力があるだけだった。

そのためA級パーティ『銀狼の牙』に雇われていた。

便利だからだ。

荷物を全部持ってくれる。

文句も言わない。

給料も安い。

最高の雑用係だった。

もっともクレスタ本人はあまり気にしていなかった。

戦えなくても飯は食える。

生きていける。

それで十分だと思っていた。

「しかし深いな」

前方で魔法使いのリリアが呟く。

「まだ最深部じゃないんだろ?」

「ええ。この先が未踏破区域よ」

全員の表情が引き締まる。

未踏破区域。

つまり何があるかわからない。

宝かもしれない。

死かもしれない。

しばらく進むと、先頭の斥候が足を止めた。

「待て」

全員が止まる。

クレスタも荷物を揺らしながら停止した。

斥候のレオンが床を指差す。

「魔法陣だ」

床一面に青白い光が広がっている。

複雑な紋様。

古代文字。

見ただけで危険そうだった。

「罠か?」

「わからん」

「爆発系?」

「召喚?」

「呪いかもしれない」

パーティ全員が顔を見合わせる。

誰も踏みたくない。

当然だ。

A級冒険者でも未知の罠は怖い。

そこでガルドが振り返った。

その視線の先にはクレスタ。

クレスタは嫌な予感がした。

「クレスタ」

「なんでしょう」

「お前、先に行ってみろ」

「え?」

「もし罠だったら俺たちが対処する」

対処って。

先に被害を受けるのは俺なんだが。

クレスタは思った。

だが口には出さない。

雇われの身だ。

逆らえば仕事がなくなる。

「わかった・・」

重い荷物を揺らしながら前へ出る。

床が見えない。

胸元まで積み上がった荷物のせいで足元はほとんど見えなかった。

クレスタは一歩踏み出した。

その瞬間。

魔法陣が激しく輝いた。

「うおっ!?」

光。

閃光。

浮遊感。

全身が引き裂かれるような感覚。

次の瞬間。

クレスタの姿は消えた。

静寂。

全員が固まる。

「転送……か?」

「そのようね」

「クレスタ!」

誰も返事を期待していない声を出す。

当然返事はない。

リリアが目を閉じる。

魔力探知。

数秒。

数十秒。

やがて顔色を変えた。

「見つからない」

「何?」

「魔力反応が完全に消えてる」

「そんな馬鹿な」

「少なくとも同じ大陸にはいないレベルよ」

全員の顔が青ざめた。

だが次の瞬間。

別の問題に気づく。

「待て」

「どうした」

「荷物は?」

全員が沈黙した。

荷物。

全部なくなった。

食料。

水。

予備装備。

テント。

椅子。

バーベキューセット。

鍋。

木炭。

予備武器。

毛布。

全部。

クレスタと一緒に消えた。

「やばいぞ」

「帰れないじゃない」

「どうするんだ」

「まず魔法陣を消す」

「そうだな」

三十分後。

魔法陣は解除された。

しかしクレスタは戻らない。

ガルドがため息をつく。

「撤退だ」

「助けに行かないの?」

「どこにいるかわからんし、生きてるかどうかもわからん」

「それはそうだけど」

「俺たちまで遭難するわけにはいかない」

結局。

銀狼の牙は帰還した。

クレスタを置き去りにして。


一方その頃。

クレスタは呆然としていた。

「ここどこだ……」

見渡す限りの雲海。

青空。

吹き抜ける冷たい風。

遠くに連なる山脈。

どう見ても高山だった。

「転送されたのか?」

周囲に人影はない。

仲間もいない。

魔物もいない。

あるのは背負った荷物だけ。

「参ったな」

とりあえず歩く。

だがどちらへ行けばいいのかわからない。

山を下るべきか。

尾根を進むべきか。

そもそも人里があるのか。

何も見えないし、わからない。

一時間ほど歩いた。

すると前方に小さな建物が見えた。

「ん?」

岩場の先。

山頂らしき場所。

そこに古びた祠が建っている。

人の手で作られたものだ。

クレスタは急いで近づいた。

祠は驚くほど綺麗だった。

まるで最近まで誰かが管理していたように。

そして中央に台座がある。

そこに一つの鞄が置かれていた。

黒い革製。

何の変哲もない収納バッグ。

だが近づいた瞬間。

頭の中に声が響いた。

『適合者確認』

「へ?」

『第五文明遺産』

『時止め収納神器』

『継承開始』

眩い光が祠を包み込んだ。

クレスタは思わず目を閉じる。

そして気づかなかった。

自分の人生が。

今まさに大きく変わろうとしていることに。


第2話 最終地点

翌朝。

A級パーティ『銀狼の牙』は再びダンジョンへ潜っていた。

昨日と同じ道を進む。

ただし今日は全員の機嫌が悪かった。

荷物がない。

食料は最低限。

予備装備も少ない。

椅子もない。

寝袋もない。

何よりクレスタがいない。

今まで当たり前だった存在が消えたことで、想像以上に不便になっていた。

「重い……」

斥候のレオンが背中をさする。

いつもならクレスタが持っていた荷物だ。

今日は自分で背負っている。

「こんなに大変だったのか」

「今さら気づいたの?」

魔法使いリリアが呆れる。

彼女も杖以外の荷物を抱えていた。

非常に歩きづらい。

「クレスタは文句一つ言わなかったな」

神官ミレアがぽつりと言う。

誰も返事をしなかった。

妙な空気になる。

そして数時間後。

問題の場所へ到着した。

昨日まで魔法陣があった場所。

現在は綺麗な石床だけが残っている。

「行くぞ」

ガルドが先頭を歩く。

全員が続く。

慎重に。

罠を警戒しながら。

未踏破区域だった場所へ。

だが。

十歩。

二十歩。

三十歩。

「あれ?」

レオンが首をかしげた。

さらに進む。

百歩ほど歩いたところで。

全員が立ち止まった。

「終わり……だと?」

目の前には岩壁。

完全な行き止まり。

横も上も下もない。

ただの壁。

レオンが叩く。

ゴンゴン。

普通の岩だ。

隠し扉でもない。

リリアが探査魔法を使う。

反応なし。

神官ミレアも祈りを捧げる。

異常なし。

全員が沈黙した。

「終わり?」

「終わりね」

「嘘だろ」

「ここまで?」

ガルドが額を押さえる。

昨日の命懸けの探索。

未踏破区域。

伝説級の発見。

そんな期待は全部消えた。

まるであの転送陣そのものが最終地点だったかのようだった。

「クレスタだけ飛ばされたってことか」

「そうなるわね」

「なんだったんだよ……」

誰も答えられない。

結局。

それ以上の発見は何もなく。

銀狼の牙は肩を落として引き返した。

一方その頃。

クレスタは快晴の山頂にいた。

「さてと」

朝日を浴びながら伸びをする。

昨日手に入れた黒い収納バッグ。

神器。

時止め収納神器クロノス・チェスト

最初は信じられなかった。

だが昨夜、何度も試した。

本物だった。

容量は無限。

重さ増加なし。

出し入れ自由。

しかも収納した瞬間に時間が停止する。

驚くべき代物だった。

「すげえよなあ」

クレスタは感心しながら荷物を取り出す。

予備装備。

予備武器。

革鎧。

鉄の胸当て。

短剣。

片手剣。

水袋。

保存食。

次々と出現する。

そして装備を整える。

今までは荷物持ち。

戦闘など考えていなかった。

しかし今は違う。

どこにいるかもわからないのだ。

身を守る準備は必要だった。

「よし」

装備完了。

続いて巨大な荷物の山を見つめる。

食料。

テント。

椅子。

鍋。

毛布。

予備武器。

木炭。

ロープ。

調理器具。

全部収納する。

次々と吸い込まれていく。

あっという間だった。

最後に背負子も収納。

すると。

身体が異常なほど軽くなった。

「おお……」

感動した。

何年ぶりだろう。

背中に何もない感覚。

肩が軽い。

腰が軽い。

自由だ。

思わずその場でジャンプする。

「軽っ!」

二メートル近く飛び上がった。

今までどれだけ重荷を背負っていたのか実感する。

「クレスタ、自由の身になる」

誰もいないので自分で言った。

少し寂しかった。

「さて、どうするかな」

山頂から景色を見る。

どこまでも続く山脈。

雲海。

青空。

方向感覚はほぼない。

だが太陽はある。

クレスタは腕を組んだ。

「うーん」

深く考える。

三秒ほど。

「南でいいか」

結論が出た。

「なんか暖かそうだし」

実に雑だった。

理由になっていない。

だがクレスタは昔からそうだった。

細かいことは気にしない。

だから二十年も荷物持ちを続けられたのである。

「よし。南へ行こう」

決定。

クレスタは山を下り始めた。

風が吹く。

空は青い。

鳥が鳴く。

久しぶりに気分が良かった。

もう誰かの荷物を運ぶ必要もない。

怒鳴られることもない。

雑用を押し付けられることもない。

不思議と心が軽かった。

そして。

本人はまだ知らない。

この山が人類未踏の神域であることを。

そして五天神器の一つを既に手にしていることを。

さらに。

南へ向かった先で。

二つ目の神器と出会う運命が待っていることを。

クレスタは鼻歌を歌いながら歩いていく。

まるで散歩でもするかのように。

神話の始まりとは思えないほど気楽な足取りで。


第3話 山の雛

クレスタは甘く見ていた。

山を。

そして下山を。

「うわっ!」

足元の砂利が崩れる。

慌てて体勢を立て直す。

だが地面は急斜面だった。

ズルズルと滑る。

「ちょっ!」

身体が流される。

慌てて近くの岩を掴んだ。

ガシッ。

どうにか止まる。

下を見る。

数百メートルはありそうな崖だった。

落ちればまず助からない。

「危ねぇぇぇ……」

心臓が激しく鳴る。

収納神器を手に入れても死ぬ時は死ぬ。

当たり前の話だった。

クレスタは大きく息を吐いた。

「ダンジョンより危ないんじゃないか?」

誰に言うでもなく呟く。

登山道はない。

獣道すらない。

あるのは岩場と急斜面だけ。

木々も全くない。

そのくせ足場は悪い。

軽石に何度も滑る。

何度も転ぶ。

そのたびに岩にしがみつき、どうにか降りていく。

夕方になる頃には全身が泥だらけだった。

「疲れた……」

近くの岩に腰を下ろす。

収納バッグから水袋を取り出した。

便利だ。

本当に便利だ。

飲み終わると再び収納する。

何も持たなくていい。

荷物持ちだった頃の自分が見たら泣くだろう。

そんなことを考えながら立ち上がる。

その時だった。

「ピィ……」

か細い鳴き声。

「ん?」

クレスタは周囲を見回した。

もう一度聞こえる。

「ピィ……」

近い。

岩場の向こうだ。

気になって近づいてみる。

すると。

崖の途中に小さな窪みがあった。

その中で一羽の鳥が震えている。

まだ雛だ。

全身が赤みがかった金色。

鶏ほどの大きさしかない。

片方の羽を痛めているらしい。

飛べないようだった。

「落ちたのか?」

雛がクレスタを見る。

警戒している。

しかし逃げられない。

クレスタは頭をかいた。

「困ったな」

放っておけば死ぬだろう。

だが助けてもどうなるかわからない。

普通の冒険者なら無視したかもしれない。

だがクレスタは昔から動物に弱かった。

子犬。

子猫。

怪我をした鹿。

見つけると放置できない。

「しょうがないな」

収納バッグから干し肉を出す。

細かくちぎる。

「食べるか?」

雛は警戒していた。

だが腹が減っていたらしい。

恐る恐る近づく。

一口。

二口。

三口。

猛烈な勢いで食べ始めた。

「おお」

よほど空腹だったらしい。

あっという間になくなった。

続いて水も与える。

こちらも飲み干した。

「元気になったか?」

雛は小さく鳴く。

少しだけ近寄ってきた。

「はは」

クレスタは笑った。

なんだか懐かれてしまったらしい。

羽を確認する。

折れてはいない。

捻った程度だろう。

数日休めば治りそうだった。

「よし」

クレスタは周囲を見回した。

近くに風を避けられる岩陰がある。

そこへ雛を移動させる。

さらに収納バッグから毛布を出す。

簡易的な寝床も作った。

「これでいいだろ」

雛が首を傾げる。

なんとなく礼を言われている気がした。

「じゃあな」

クレスタは立ち上がる。

いつまでも一緒にはいられない。

先へ進まなければならない。

雛は少し寂しそうに鳴いた。

「ピィ」

「元気になれよ」

手を振る。

そして歩き出した。

雛の姿が見えなくなるまで。

何度も後ろから鳴き声が聞こえていた。

クレスタは知らない。

あの雛が。

普通の鳥ではないことを。

数千年に一度しか生まれない神獣であることを。

そして。

雛もまた知らない。

助けてくれた男が。

後に五天神器の継承者として世界を揺るがす存在になることを。

その夜。

山の上空。

満月の光の下。

小さな雛は崖の上に立っていた。

じっとクレスタが去った方向を見る。

赤い瞳が輝く。

「ピィ」

その身体から一瞬だけ黄金の炎が漏れた。

周囲の空気が震える。

だがすぐ消えた。

まだ幼い。

まだ弱い。

それでも心に刻まれていた。

初めて優しくしてくれた人間。

初めて見返りを求めなかった人間。

その顔を。

その匂いを。

その声を。

決して忘れない。

いつか。

あの人が危険に遭った時。

必ず助ける。

小さな雛はそう決意する。

そして岩陰へ戻り、静かに眠りについた。

まだ誰も知らない。

未来。

クレスタが何度も絶体絶命の危機に陥るたび。

空を裂いて現れる炎の翼を。

世界を焼き尽くすはずの神獣が。

たった一人の荷物持ちのおっさんの味方になることを。


※続きが気になる?気になる人、時間が余ってる人。アルファポリスに続きを掲載中です。

 是非探してみてください。作者名または本題名で検索を


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