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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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第8話 『溶ける一瞬』

校内選抜・本選当日。

大講堂に設置された特設キッチン。

観客席には在校生、講師陣、そして外部審査員。

緊張で、空気が少し重い。

司会の声が響く。

「テーマは――“二人で作る、ひとつの感情”!」

制限時間、二時間。

「スタート!」

一斉に動き出す。

ルイの手は迷いがない。

温度計を一瞬見ただけで、砂糖を火から外す。

小春はメレンゲを立てながら、呼吸を整える。

(大丈夫。大丈夫)

でも手が少し震える。

「集中しろ」

隣から低い声。

ルイの視線は鍋のまま。

「今は味だけ見ろ」

その一言で、震えが止まる。

「はい」

順調に進んでいた。

ビターガナッシュ、完璧な艶。

焼き上がった土台も理想的。

問題は――最後の温かいオレンジソース。

“再生”を象徴する、溶ける瞬間。

小春が鍋を持ち上げた、その時。

コンロの火が、わずかに強くなる。

「あっ……」

一瞬。

ほんの一瞬で、香りが変わる。

焦げの匂い。

ルイが即座に振り向く。

「火を止めろ!」

小春の指が震える。

ソースの色が、ほんの少しだけ濃い。

「やり直す時間は……」

残り二十五分。

ギリギリ。

「どうする」

ルイの目が問う。

逃げるか。

攻めるか。

小春は、ソースを舐める。

苦味が、わずかに強い。

でも——

「使います」

ルイの眉が動く。

「予定より、少しビター。でも」

深呼吸。

「“再生”には、ちょうどいいかもしれません」

甘さだけじゃない。

失敗も、物語の一部。

ルイは一瞬だけ考え、

「……量を減らす」

と判断する。

「中心だけに落とせ。全体に広げるな」

「はい!」

二人の動きが、ぴたりと噛み合う。

盛り付け。

白と黒のコントラスト。

中央に、温かいソース。

「いくぞ」

ルイが合図する。

小春が、ゆっくりとかける。

とろり。

ビターな層が、溶ける。

白が揺れる。

香りが立ち上る。

観客席から、小さなどよめき。

その瞬間——

小春は、確信する。

(大丈夫)

試食。

審査員が一口。

最初は苦味。

次に、軽やかな甘さ。

そして最後に、温かさ。

「……面白い構成ですね」

「苦味が先に来るのに、不思議と重くない」

「後味が、優しい」

小春の胸が熱くなる。

ルイは無言で聞いている。

結果発表。

三組が並ぶ。

ルナの作品は華やかで完成度が高い。

観客の評価も高い。

沈黙。

「本選突破ペアは――」

鼓動がうるさい。

「ルイ・一ヶ原ペア!」

一瞬、音が消える。

「……え?」

小春が呟く。

拍手。

歓声。

ルナが、悔しそうに唇を噛む。

でもすぐに、顔を上げる。

「次は負けへん」

強い目。

小春はまだ信じられない。

「ルイくん……」

隣を見る。

ルイは、静かに言う。

「お前が使うって言ったんだ」

焦げたソース。

失敗しかけた瞬間。

「逃げなかったな」

その言葉に、小春の目が潤む。

「泣くな」

でも今回は、声が少し優しい。

舞台袖。

二人だけの空間。

小春が小さく言う。

「ありがとうございました」

「礼は早い」

「え?」

「これは通過点だ」

視線は前へ。

「世界、目指すんだろ」

小春は、力強く頷く。

「はい!」

その横顔を見て、ルイはほんの少しだけ笑う。

壊れてもいい。

溶けてもいい。

そこから、また作ればいい。

二人の距離は、もう“ペア”以上に近づき始めていた。

でも——

全国大会は、もっと過酷。

そして、ルイの過去が

本格的に二人の前に立ちはだかる。

甘さの裏に潜む、苦い記憶。

物語は、次のステージへ。

――つづく

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