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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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第7話 『前夜の温度』

本選前夜。

校舎の灯りはほとんど消えている。

実習室に残っているのは、二人だけ。

小春と、ルイ。

仕上げの確認。

味の最終調整。

テーマは――“再生”。

ビターなガナッシュ。

軽やかなメレンゲ。

そして最後にかける、温かいオレンジソース。

「ソース、もう少し酸味を立たせる」

ルイが言う。

「はい」

小春は素直に頷く。

もう、言い合いにはならない。

互いの“譲らない部分”が分かってきたから。

静かな空気。

ふと、ルイが手を止める。

「……怖くないのか」

突然の問い。

「本選」

小春は少し考える。

「怖いです」

正直な答え。

「でも、楽しみでもあります」

「失敗するかもしれない」

「はい」

「全部崩れるかもしれない」

小春は、ゆっくり頷く。

「でも、それでも」

彼女はルイを見る。

「崩れたら、また作れます」

ルイの視線が揺れる。

「簡単に言うな」

声は低い。でも、怒ってはいない。

「簡単じゃないです」

小春は小さく笑う。

「泣くかもしれないし、落ち込むかもしれません。でも」

一呼吸。

「それでも、作りたいんです」

その言葉は、まっすぐだった。

ルイはしばらく黙っていた。

やがて、ぽつりと零す。

「昔、大会で失敗した」

小春は黙って聞く。

「砂糖の温度を一度、誤った。それだけで全部崩れた」

静かな声。

「期待されてた。完璧だって言われてた」

拳が、わずかに強く握られる。

「だから今は、壊れないものしか作らない」

その横顔は、少しだけ寂しい。

小春はそっと言う。

「でも今回、壊れてもいい構成にしましたよね」

ルイが目を向ける。

「“再生”だから」

小春は続ける。

「壊れる前提で作るの、勇気がいりますよね」

沈黙。

やがて、ルイが小さく笑う。

「……お前のせいだ」

「え?」

「そんな構成にしたの」

責める口調じゃない。

どこか、柔らかい。

試作の皿を二人で見つめる。

ビターと白のコントラスト。

温かいソースをかけると、層がゆっくり溶け合う。

「きれいですね」

小春が呟く。

「まだ未完成だ」

「でも、好きです」

ルイが一瞬、息を止める。

何気ない言葉。

でも胸に残る。

帰り道。

校門の前で、二人並んで立ち止まる。

夜風が、少し冷たい。

「明日」

ルイが言う。

「泣くなよ」

小春は、くすっと笑う。

「はい」

一歩、踏み出す。

そして、振り返る。

「ルイくん」

「なんだ」

「隣に立てて、嬉しいです」

真っ直ぐな言葉。

ルイは、返事が少し遅れる。

「……そうか」

それだけ。

でも、心臓は少しだけ早い。

離れた場所。

ルナが夜空を見上げている。

「再生、か……」

小さく息を吐く。

「上等やん」

彼女もまた、本気。

本選は、明日。

壊れるかもしれない。

でも、二人はもう知っている。

壊れても、また作れる。

そして——

この気持ちも。

甘くて、少しだけ苦い。

静かに、形になり始めている。

――つづく

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