第6話 『まさかのペア』
校内選抜・本選当日。
予選を突破した三名――
ルイ、ルナ、そして小春。
実習室の中央には、大きなホワイトボードが立てられている。
龍星先生が静かに告げる。
「本選は個人戦ではない」
ざわつく空気。
「テーマは“二人で作る、ひとつの感情”」
ペア戦。
小春の胸がどくんと鳴る。
(誰と……?)
龍星先生が続ける。
「組み合わせは、こちらで決めた」
ホワイトボードに貼られる紙。
その瞬間、空気が止まった。
――ルイ × 一ヶ原小春
――ルナ × 上級生代表
小春の視界が、一瞬真っ白になる。
「え……?」
ルナが目を見開く。
「は? なんでその組み合わせなん」
ルイは表情を変えないが、わずかに視線を動かした。
龍星先生は淡々と告げる。
「相性を見るためだ」
「本気で世界を目指すなら、誰とでも組めなければならない」
小春の心臓がうるさい。
(ルイくんと、ペア……?)
◇
放課後。
ペア練習のため、二人は実習室に残る。
沈黙。
重い空気。
「……テーマは?」
小春が恐る恐る聞く。
「まだ決めてない」
ルイは短く答える。
「一つの感情、か」
少し考え込む。
小春は静かに言う。
「“再生”ってどうでしょう」
ルイが視線を向ける。
「再生?」
「壊れても、もう一度作れる。失敗しても、やり直せる」
自分でも、少し大胆だと思う。
でも——
ルイの“後悔”を思い出していた。
「……甘いな」
小さな呟き。
でも今回は、否定の響きがない。
「具体的には」
小春はスケッチブックを広げる。
白と黒のコントラスト。
ビターなガナッシュと、軽いメレンゲ。
中心に、温かいソース。
「苦味のあとに、温かさが来る構成にしたいです」
ルイはしばらく黙って見ていた。
やがて。
「悪くない」
短い一言。
でもそれは、ほぼ“肯定”だった。
◇
作業開始。
しかし、すぐに問題が起きる。
「そこはもっと攻めろ」
ルイが言う。
「でも、優しさも残したくて……」
「中途半端になる」
意見がぶつかる。
空気が少し張る。
小春は唇をきゅっと結ぶ。
(逃げない)
「ルイくんは、苦味を強くしたいんですよね」
「……ああ」
「でも、全部苦いと“再生”にならない」
静かな声。でも、はっきり。
ルイは少しだけ驚いた顔をする。
強く反論されることに、慣れていない。
「じゃあどうする」
「半分ずつ作りませんか」
「半分?」
「前半はルイくんの世界。後半はわたしの世界」
一皿で、物語を作る。
ルイは、ゆっくり息を吐く。
「……面白い」
その目に、わずかな光。
◇
離れた場所で、それを見ているルナ。
「ほんまに組んだんやな……」
悔しさと、焦り。
でも同時に——
「負けへん」
ぎゅっと拳を握る。
◇
夜。
最後の試作。
ソースをかけた瞬間、温かい香りが立ち上る。
ビターな層が、ゆっくり溶ける。
小春が呟く。
「きっと、誰かの心にも届きます」
ルイは、皿を見つめたまま言う。
「……お前は」
小さな間。
「どうして、そこまで信じられる」
小春は少し考えてから答える。
「信じないと、作れないからです」
その横顔は、静かで、強い。
ルイは気づく。
自分はずっと、“壊さないように”作ってきた。
でも小春は——
“壊れても大丈夫”と、作っている。
その違いが、胸を揺らす。
◇
本選まで、あと一日。
ペアはまだ不完全。
でも確実に、歯車は噛み合い始めている。
甘さと苦味。
過去と未来。
そして——
二人の距離も、ほんの少し。
近づいていた。
――つづく




