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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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第5話 『震える手、揺れない心』

校内選抜予選当日。

実習室の空気は、ぴんと張りつめていた。

ステンレス台が整然と並び、材料はすでに用意されている。

テーマは――

「感情を表現する皿盛りデザート」

制限時間、二時間。

審査員は龍星先生を含む三名。

「始め」

その一言で、すべてが動き出す。

小春の手は、ほんの少し震えていた。

(大丈夫……大丈夫)

選んだ感情は――“希望”。

何度失敗しても、また立ち上がる気持ち。

ベースはホワイトチョコのムース。

そこに柑橘の爽やかな酸味。

中心には、黄金色のパッションフルーツジュレ。

光を閉じ込めるイメージ。

隣ではルナが大胆にフランベをしている。

炎が上がる。

「攻めるな……」

誰かが小さく呟く。

さらにその奥。

ルイは静かにキャラメルを煮詰めていた。

焦がす寸前。

“後悔”。

甘さと苦味の境界線。

彼の動きに迷いはない。

順調だった。

……はずだった。

「っ……!」

小春の手が、わずかに滑る。

ジュレの型が崩れた。

(うそ……)

中心が歪む。

時間は、残り三十分。

心臓が早くなる。

(落ち着いて……)

でも、視界が少し滲む。

そのとき。

「止まるな」

低い声。

ルイ。

「直せる」

短い一言。

責めない。焦らせない。

ただ、事実だけ。

小春は深呼吸する。

(まだ終わってない)

崩れた部分を削り、再構成する。

完全じゃない。

でも——

“立て直した跡”が、逆に意味を持つ。

(これが、希望)

完成。

皿の中央に白いムース。

その中に、光るジュレ。

割った断面から、黄金が覗く。

——壊れても、光は消えない。

審査。

まずはルナ。

刺激的なスパイスと炎の香り。

「情熱と怒りが明確だ」

高評価。

次にルイ。

キャラメルの苦味が、最後に優しく溶ける。

「完成度が高い。“後悔”が伝わる」

静かな拍手。

そして、小春。

スプーンが入る。

断面が現れる。

ひとくち。

沈黙。

小春の手は、もう震えていなかった。

龍星先生が口を開く。

「……未完成だな」

胸が締まる。

「だが」

顔を上げる。

「立て直したな」

見抜かれている。

「崩れた跡が、逆にテーマを強くしている」

小春の目が潤む。

「技術はまだ荒い。だが、心は折れていない」

一拍。

「評価する」

結果発表。

静まり返る教室。

「本選進出者は三名」

名前が読み上げられる。

「ルナ」

ルナが小さく拳を握る。

「ルイ」

彼は表情を変えない。

そして。

「一ヶ原小春」

一瞬、時間が止まる。

「……はい」

声は小さい。でも、はっきり。

教室がざわつく。

ルナがちらりと見る。

「ちゃんと来たな」

ルイは小さく言う。

「泣かなかったな」

小春は、少しだけ笑う。

「はい。強くなりますから」

予選は終わった。

でも、これは通過点。

本選は、もっと厳しい。

それでも——

小春の中の光は、消えていない。

そしてルイは、気づき始めていた。

この少女は、自分とは違う。

苦味を否定しない。

でも、必ず甘さを探す。

その強さが、少しだけ羨ましかった。

夢は、まだ遠い。

でも、隣に立つ距離は。

ほんの少しだけ、近づいた。

――つづく

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