第8話 『守りたい命』
ニューヨーク・自宅。
小春は腹部を押さえ、ソファにもたれかかる。
痛みは強くない。
でも、嫌な予感。
「優……ちゃん……」
声が震える。
すぐに優ちゃんが駆け寄る。
「どうした!?」
顔色の悪さで察する。
「病院行こう」
迷いはない。
◇
救急外来。
白い天井。
検査の時間が永遠に感じる。
優ちゃんは拳を握りしめる。
「頼む……」
医師が戻る。
表情は穏やか。
「大きな異常はありません」
安堵の空気。
「ただし、過労とストレスです」
小春は目を伏せる。
会社のこと。
パリのニュース。
責任。
全部、抱え込んでいた。
「安静にしてください」
「仕事は極力控えて」
優ちゃんが即答。
「休ませます」
強い声。
◇
その頃、パリ。
ルイのスマホに連絡。
優ちゃんからの短いメッセージ。
“体調崩した。大事ないが安静”
ルイの目が細くなる。
「帰る」
即決。
雅が驚く。
「でもイベントは――」
「責任者はお前だ」
静かな言葉。
雅の胸が跳ねる。
「できる」
自分に言い聞かせるように。
◇
ニューヨーク。
病室。
小春が目を開けると、ルイが立っていた。
「……早い」
「うるさい」
ぶっきらぼう。
でも、目は優しい。
「無理するな」
短い言葉。
小春は微笑む。
「ありがとう」
かつての夫婦。
今は仲間。
その距離が、穏やか。
◇
数日後。
小春は正式に産休強化。
会長職は一時休止。
経営権限はルイへ委任。
優ちゃんはMemoriesから全面バックアップ。
社内発表。
「命を最優先に」
社員から温かいメッセージが届く。
◇
夜。
自宅ベランダ。
優ちゃんとルイ、二人。
「守れよ」
ルイが言う。
「命も、会社も」
優ちゃんは真っ直ぐ見る。
「お前もな」
二人の間に、奇妙な信頼。
ライバルでもなく。
敵でもなく。
戦友。
◇
パリでは。
雅が単独で記者会見。
「Butterflyは未完成です」
「だからこそ挑戦する」
堂々とした姿。
兄の影は、もうない。
◇
ラスト。
小春はベッドでお腹に手を当てる。
「みんな、頑張ってるよ」
小さな鼓動。
確かな未来。
だが――
ニュース速報。
《欧州最大スイーツ企業、SweetSへの敵対的買収を検討》
優ちゃんの顔が変わる。
ルイの目が鋭くなる。
守るべきものは増えた。
戦いもまた、始まる。




