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スイーツアカデミー恋愛物語~世界へ駆けろ!目指すは、世界一!  作者: 優貴(Yukky)


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第4話 『甘くない記憶』

校内選抜予選まで、あと三日。

実習室はいつも以上に張りつめていた。

泡立て器の音。

オーブンの開閉音。

誰もが、黙々と自分の“感情”と向き合っている。

小春はノートを広げていた。

(喜び……悲しみ……怒り……)

テーマは「感情を表現する皿盛りデザート」。

でも、小春の中にあるのは——

“迷い”。

(わたしのスイーツ、ちゃんと届くのかな……)

そのとき。

「止まってる」

低い声。

顔を上げると、ルイが立っていた。

「考えすぎると、味も鈍る」

「……はい」

図星だった。

「ルイくんは、もう決まってるんですか?」

思い切って聞いてみる。

彼は少しだけ間を置いて言った。

「決まってる」

「どんな感情ですか?」

沈黙。

それから。

「後悔」

短い言葉。

小春は瞬きをする。

「……後悔?」

「甘さは、取り戻せない時間だ」

視線は作業台のまま。

その横顔は、どこか遠い。

ルイの手元には、焦がし砂糖。

キャラメリゼ。

わざと少しだけ焦がす。

「苦味は、消えない」

その声は、冷たくも聞こえた。

小春は、そっと言う。

「でも……」

ルイが視線を向ける。

「苦いあとに甘いものを食べると、もっと甘く感じますよね」

「……」

「だから、後悔があるなら……きっと、その先に甘さもあります」

自分でも大胆だと思った。

でも、言わずにいられなかった。

ルイはしばらく何も言わない。

やがて、小さく笑う。

「甘いな」

「すみません……」

「悪くない」

その言葉に、胸が少しだけ温かくなる。

その日の夜。

寮の屋上。

ルイは一人、空を見ていた。

思い出すのは、昔の厨房。

「もっと甘くしろ」

厳しい声。

完璧を求められた日々。

そして、失敗したあの日。

大会で、砂糖の温度を一度だけ誤った。

たった一度。

それで全てが崩れた。

「期待してたのに」

その言葉が、今も残っている。

(甘さは、簡単に壊れる)

翌日。

実習室で小春が試作をしていると、ルイが隣に立った。

「何作る」

「……“希望”にしようかなって」

「希望?」

「失敗しても、また立ち上がれる気持ち」

ルイは静かに見る。

小春の手は、少し震えている。

でも、止まらない。

「わたし、怖いです」

ぽつり。

「負けるのも、否定されるのも」

でも顔を上げる。

「でも、それでも作りたい」

その目は、まっすぐ。

ルイはふと気づく。

この子は——逃げない。

「……お前」

珍しく、少し柔らかい声。

「泣くなよ」

「え?」

「予選で」

一瞬の沈黙。

「隣に立つなら、強いほうがいい」

小春の心臓が跳ねる。

隣。

その言葉の意味を、考えてしまう。

「……はい。強くなります」

小さく、でも確かな返事。

遠くからそれを見ていたルナが、腕を組む。

「ほんま、ややこしい空気やな……」

でも、その目は真剣。

「負けへんけどな」

予選まで、あと二日。

甘くない過去。

まだ癒えていない傷。

それでも——

甘さを信じる少女がいる。

その存在が、少しずつ。

凍っていた何かを溶かし始めていた。

――つづく

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