第5話 『血より熱いもの』
SweetS Butterfly
世界若手パティシエ大会・最終選考日。
ニューヨーク本社の特設キッチン。
応募総数、3,000名。
その中から、最終選考に残ったのは10名。
審査員は――
責任者・龍星ルイ。
Memories会長・優ちゃん。
そしてオンライン参加の小春。
◇
受付がざわつく。
「え……?」
現れたのは、一人の青年。
黒髪。鋭い目元。
どこか優ちゃんに似ている。
スタッフが名札を確認する。
―― 神宮寺 雅
優ちゃんの、実の弟。
◇
控室。
優ちゃんは腕を組む。
「聞いてないぞ」
ルイが淡々と返す。
「応募条件は年齢と実力だけだ」
「血縁は関係ない」
優ちゃんは小さく息を吐く。
「……本気か、雅」
◇
競技開始。
テーマは――
「再生」
制限時間90分。
雅は無駄な動きをしない。
静かで、正確。
だが作品は意外だった。
派手さはない。
白いムースケーキ。
中央に、割れ目。
そこから覗く鮮やかな赤。
「壊れた関係でも、修復できる」
プレゼンが始まる。
「兄と、距離があった」
会場が静まる。
優ちゃんの目が揺れる。
「でも、SweetSとMemoriesのニュースを見て思った」
「挑戦し続ける家族に、俺も追いつきたいって」
甘さは控えめ。
だが後味に深いコク。
ルイが一口食べる。
目が変わる。
「……面白い」
技術はトップクラスではない。
だが、伸びしろがある。
そして何より――覚悟。
◇
全員終了。
審査会議。
幹部が言う。
「コネ採用と疑われます」
優ちゃんは即答。
「特別扱いはしない」
「落とすなら、実力で落とせ」
ルイが静かに言う。
「俺は推す」
視線が集まる。
「未完成だが、伸びる」
「Butterflyは完成品を集める場所じゃない」
小春の声がオンライン越しに響く。
「挑戦するブランド」
沈黙の後。
結果発表。
◇
ステージ。
「合格者――三名」
最後に名前が呼ばれる。
「神宮寺 雅」
会場がどよめく。
雅は驚いた顔。
そして、深く一礼。
◇
終了後。
廊下。
優ちゃんと雅、二人きり。
数年ぶりの、まともな会話。
「どうして言わなかった」
優ちゃん。
「兄貴の名前で入りたくなかった」
雅。
一瞬の沈黙。
優ちゃんは微笑む。
「Butterflyは甘くないぞ」
雅は真っ直ぐ見る。
「望むところ」
◇
その様子を遠くから見るルイ。
小さく笑う。
「血より熱いもの、か」
Butterflyに新しい風。
若手天才候補、雅。
兄の影を越えられるのか。
そして――
兄弟の関係は修復できるのか。
◇
ラスト。
小春が自宅でつぶやく。
「面白くなってきたね」
お腹に手を当てながら。
Butterflyは羽ばたき始めた。




