第4話 『託された炎』
ニューヨーク・SweetS本社。
緊急役員会。
議題はひとつ。
――小春の産休。
妊娠三ヶ月。
医師からは安静気味の指示。
小春は会議室の中央で立ち上がる。
「しばらく現場から離れます」
ざわめき。
世界展開の中心人物。
SweetSの“顔”。
その不在は大きい。
幹部の一人が口を開く。
「代理は……?」
空気が重くなる。
その時。
優ちゃんが静かに言う。
「決めてある」
視線が集まる。
「SweetS本社 会長兼任社長代理――」
一拍。
「龍星ルイ」
会議室が凍る。
◇
「……俺?」
ルイは目を細める。
Butterfly責任者。
だがSweetS本社は別会社。
しかもトップ代理。
幹部たちは動揺する。
「元世界王者とはいえ、彼はMemories側の人間では?」
「社内外の印象が――」
優ちゃんは淡々と言う。
「今、SweetSに必要なのは“数字屋”でも“広告塔”でもない」
「現場を知る人間だ」
小春が続ける。
「私が一番信頼できる職人」
ルイと目が合う。
そこに元夫婦の曖昧さはない。
ただの信頼。
◇
会議後。
屋上。
ルイは小春に言う。
「本気か?」
「本気」
「俺はお前を支える側だ」
小春は笑う。
「今は任せたいの」
「私が守るべきものは、もう一つ増えたから」
お腹にそっと手を当てる。
ルイは静かに息を吐く。
「……わかった」
「代理だろ?」
「なら、完璧以上をやる」
◇
社内正式発表。
《龍星ルイ
SweetS本社 会長兼任社長代理 就任》
株価は一瞬揺れる。
だがニュースは世界を駆け巡る。
“元世界王者、元CEOの元夫が経営トップに”
話題性は抜群。
◇
初出社の日。
ルイはスーツ姿で現れる。
だが挨拶は短い。
「俺は経営者じゃない」
社員がざわつく。
「職人だ」
「だから現場から見る」
翌日から。
彼は各国店舗を回る。
厨房に立ち、試食し、スタッフと議論。
デスクワークは夜中。
鬼のような働き方。
◇
一方、小春。
自宅で静養。
窓辺で紅茶を飲む。
少し不安な顔。
「会社、大丈夫かな」
優ちゃんが隣に座る。
「大丈夫」
「ルイは、ああ見えて責任に強い」
小春は微笑む。
三人で支える会社。
形は変わった。
でも絆は、強くなっている。
◇
数週間後。
売上報告。
改善傾向。
品質評価アップ。
現場満足度上昇。
幹部が驚く。
「代理就任後、現場の離職率が減っています」
理由は単純。
トップが厨房に立つから。
◇
夜。
ルイは一人、本社オフィスで窓を見つめる。
「俺は、守る側か」
かつて奪う側だった男。
今は支える立場。
それも悪くない。
スマホにメッセージ。
小春から。
“ありがとう”
短い一言。
ルイは小さく笑う。
「早く戻ってこい、会長」
◇
ラスト。
小春、安定期へ。
ルイ、経営の才能を見せ始める。
優ちゃん、Memoriesで巨大買収交渉中。
三人のバランスは、奇跡的に保たれている。
だが――
世界は静かに動いている。




