第3話 『新しい鼓動』
結婚式から一ヶ月。
ニューヨーク本社。
朝の会議中、小春はふと手を止めた。
視界が揺れる。
「小春?」
優ちゃんがすぐに立ち上がる。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと立ちくらみ……」
だが、その日。
厨房で試作中も、妙な違和感。
甘い香りが、強く感じる。
胸の奥が、静かにざわつく。
◇
夕方。
小春は一人で病院へ向かった。
結果を待つ時間。
やけに長く感じる。
医師が微笑んだ。
「おめでとうございます」
「妊娠されていますよ」
一瞬、音が消える。
そして。
心臓の音だけが響く。
新しい命。
◇
夜。
自宅。
優ちゃんが帰宅する。
小春はソファに座り、小さな封筒を握っている。
「どうした?」
小春は黙ってエコー写真を差し出す。
優ちゃんの動きが止まる。
「……え?」
数秒後。
理解。
「まじか」
目が潤む。
「俺……父親?」
小春が頷く。
次の瞬間、優ちゃんは小春を強く抱きしめる。
「ありがとう」
何よりも先に出た言葉。
◇
翌日。
ごく一部の幹部にだけ報告。
SweetS本社はざわつくが、外部発表はまだ。
Butterflyでは、ルイが若手たちを指導中。
優ちゃんが呼び出す。
「何だ?」
ルイは腕を組む。
優ちゃんは静かに言う。
「小春、妊娠した」
沈黙。
ルイの表情が一瞬止まる。
だがすぐに、穏やかな笑み。
「そうか」
短い言葉。
でもその声には、本物の祝福。
「守れよ」
「当然だ」
男同士の視線。
過去を超えた瞬間。
◇
しかし。
問題もある。
SweetSは再建途中。
Butterflyは世界若手大会準備。
Memoriesは大型買収交渉中。
小春は会長兼社長。
休める立場ではない。
夜。
小春が不安を漏らす。
「ちゃんと両立できるかな」
優ちゃんは即答。
「できなくていい」
小春が驚く。
「全部完璧にやらなくていい」
「俺がいる」
「ルイもいる」
「会社はチームだ」
小春の目から涙が零れる。
ずっと一人で背負ってきた癖。
今は違う。
◇
数日後。
Butterfly会議。
ルイが宣言する。
「世界若手大会、開催前倒しする」
ざわつく若手。
「なぜですか?」
ルイは言う。
「時間は有限だ」
その言葉の裏にある理由を、誰もまだ知らない。
Butterflyを早く軌道に乗せる。
小春が安心して休めるように。
彼なりの、静かな支え。
◇
ラスト。
夜景を見ながら、小春はお腹に手を当てる。
「あなたは、どんな夢を見るのかな」
世界企業の跡継ぎ?
それとも、ただの一人の幸せな子?
風が優しく吹く。
SweetSの未来。
Butterflyの飛躍。
そして、新しい命。
物語はさらに大きく動き出す。




