第3話 『ツンデレと宣戦布告』
翌日。
実習室はいつもより空気が張りつめていた。
「来週、校内選抜の予選を行う」
龍星先生の一言で、ざわめきが広がる。
「上位三名のみ、本選へ進出。テーマは“感情を表現する皿盛りデザート”だ」
感情。
甘さだけじゃない。
怒り、悲しみ、喜び、切なさ。
表現力が問われる戦い。
小春は静かに拳を握る。
(挑戦したい)
そのとき。
「当然、あたしは出るけど」
前に立ったのは、ポニーテールを揺らす少女。
ルナ。
勝気な瞳。まっすぐな姿勢。
「転校生も出るん?」
突然向けられる視線。
教室が静まる。
小春は一瞬だけ息を止める。
でも、逃げない。
「……はい。出たいです」
ルナの眉がぴくりと動く。
「ふーん。大人しそうやのに、言うやん」
くるりと背を向ける。
「けどな、世界目指す言うたんは本気やろ?」
振り向きざま、鋭い視線。
「中途半端なら、邪魔やで」
空気がピリッとする。
◇
放課後。
小春は練習のために厨房へ向かう。
そこに、先に立っていたのはルナだった。
「……来たんや」
「はい。練習、したくて」
「同じこと考えとるやん」
ルナはにやりと笑う。
「なら勝負しよか」
「勝負……?」
「今から同じテーマで作る。“怒り”」
小春は目を瞬かせる。
怒り。
あまり得意じゃない感情。
「逃げてもええよ?」
挑発的な笑み。
小春は、首を横に振る。
「逃げません」
その目は、静かに燃えていた。
◇
二人並んで作業台に立つ。
ルナは迷いなくビターチョコを刻む。
「怒りは強さや。苦味や。刺激や」
唐辛子パウダーをひと振り。
大胆で、攻めた構成。
一方、小春は悩む。
(怒り……わたしの中の怒りって)
思い出す。
「無理だよ」と言われた日。
笑われた日。
諦めたほうが楽だと、囁かれた夜。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
(あのとき、悔しかった)
小春はラズベリーを選ぶ。
甘酸っぱさ。
そこに、少し強めのレモンピール。
「怒りって、傷ついた証拠だと思うんです」
ぽつりと呟く。
ルナがちらりと見る。
「強いだけじゃなくて……悲しさも、あるから」
◇
完成。
ルナの皿は、黒と赤のコントラスト。
刺激的で挑発的。
小春の皿は、鮮やかな赤に透明なジュレ。
優しい見た目。でも中に強い酸味。
そこへ、声。
「何してる」
龍星先生。
二人は同時に姿勢を正す。
「勝負です」
ルナが堂々と言う。
「ほう」
試食。
まずはルナ。
「攻めているな。刺激は強いが、表現は明確だ」
次に小春。
ひとくち。
沈黙。
「……面白い」
小春の胸が跳ねる。
「怒りを“悔しさ”で表現したか。繊細だが、芯がある」
ルナが目を見開く。
「……やるやん」
小さく呟く。
◇
帰り道。
ルナが横に並ぶ。
「勘違いせんといてな」
腕を組みながら言う。
「あたしはあんたを認めたわけやない」
でも。
「でも、ライバルにはなるかもしれへん」
少しだけ照れたように視線を逸らす。
小春はふわっと笑う。
「ありがとうございます」
「礼いらんわ!」
思わず声を荒げるルナ。
その様子を、少し離れた場所でルイが見ていた。
「……面白くなってきた」
静かな呟き。
◇
友情か、ライバルか。
甘くない世界で、火花が散る。
でもその火は、小春の心を強くしていく。
そして――
気づかぬうちに。
ルイの視線も、少しずつ変わり始めていた。
――つづく




