第17話 『数字と温度差』
ニューヨーク。
SweetS本社オフィス。
巨大スクリーンに映る売上推移。
右肩上がり。
投資家向け資料には、次の文字。
NASDAQ上場準備開始
会議室には緊張と高揚が混ざる。
優ちゃんがプレゼンする。
「来年Q4上場を目指す」
企業価値は今がピーク。
攻めるなら今。
資本を一気に集め、世界同時展開。
ロンドン、ドバイ、ソウル。
一気呵成。
◇
小春は黙って聞いている。
資料をめくる指が止まる。
「……店舗数、倍?」
「3年で」
優ちゃんは迷いなく言う。
「ブランドは“規模”で価値が決まる時代だ」
正論。
でも。
小春は小さく息を吐く。
「味の管理は?」
「標準化チームを作る」
「現場の温度は?」
優ちゃんが一瞬黙る。
◇
夜。
オフィスの窓際。
マンハッタンの夜景。
「不安か?」
優ちゃんが聞く。
小春は正直に答える。
「うん」
「大きくなるのが怖い?」
「違う」
間。
「SweetSが“ただの会社”になるのが怖い」
優ちゃんの目が揺れる。
「会社だよ、もう」
「分かってる」
でも。
小春の中では、SweetSはまだ“工房の延長”。
人の心を救うスイーツ。
量産される商品じゃない。
◇
メキシコ。
ルイは現地スタッフと笑っている。
厨房の温度。
笑い声。
焦げるキャラメルの匂い。
ニュースを見る。
《SweetS 上場準備》
小さく呟く。
「遠くなったな」
でも、どこか違和感も感じる。
◇
ニューヨーク。
上場準備ミーティング。
外部コンサルが言う。
「創業者の物語は“感情”を打ち出すべきです」
「離婚、再起、元夫との再共闘…非常にドラマ性がある」
小春の顔が曇る。
優ちゃんは即答。
「プライベートは出さない」
だが投資家は違う。
「ストーリーは株価を上げる」
空気が冷える。
◇
会議後。
小春が言う。
「利用されたくない」
優ちゃんは静かに返す。
「利用じゃない。戦略だ」
正論と感情。
すれ違いが、はっきり形になる。
◇
その夜。
小春は一人、試作室にこもる。
久しぶりに、一皿だけ作る。
シンプルなショートケーキ。
派手さゼロ。
一口食べる。
涙が出る。
(これが原点)
◇
ラスト。
SweetSは巨大企業へ進む。
でも。
小春の心に、小さな違和感。
優ちゃんは未来を見ている。
小春は“温度”を守りたい。
そして――
メキシコから一本の連絡。
ルイがニューヨークに来る。
理由は、まだ分からない。




